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2007年全国金融工作会議のポイント

中国ビジネスレポート 金融・貿易
田中 修

田中 修

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2007年2月12日

記事概要

2007年1月19-20日に、北京復興門外大街の京西賓館において全国金融工作会議が開催された。これは、今後数年間の金融体制改革の基本方針を決めるものであり、1997年、2002年に続き今回が3回目となる。本稿ではそのポイントにつき概説したい。

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 2007年1月19-20日に、北京復興門外大街の京西賓館において全国金融工作会議が開催された。これは、今後数年間の金融体制改革の基本方針を決めるものであり、1997年、2002年に続き今回が3回目となる。本稿ではそのポイントにつき概説したい。

1.過去の全国金融工作会議

 1997年11月17-19日の第1回会議は、アジア通貨危機の最中に開催され、中央は金融監督管理体制について大規模な手術を行うことを決定した。この会議を契機に、人民銀行に9つの大区行(ブロック支店) が設置され、証券業・保険業の監督管理機能が中央銀行から分離され、「1行2会」の新監督管理システムが形成された。同時に、4大資産管理公司が設立され、国有銀行への第1次資本注入と不良債権の分離が実施された。
 2002年2月5-7日の第2回会議は、WTO加盟に対応し、中国の金融管理体制の再度調整を加えたものである。この会議を契機に中央金融工作委員会 は廃止され、銀行業監督管理委員会が設立された 。また、中央銀行は国有銀行改革領導小組を組織し、後に中央匯金投資有限公司 の設立、中国銀行業の再編制・上場へと直接つながった(財経2007年1月23日)。

 第3回会議については、2006年初から準備が開始され、10の専門課題調査研究小組が設置された 。農村金融改革は人民銀行の呉暁霊副行長が責任者となり、金融企業公司のコーポレート・ガバナンスは銀行業監督管理委員会の指導部が責任者となり、保険監督管理委と証券監督管理委もそれぞれ保険・証券改革を担当した。2006年6月以降、国務院指導部は、これらの専門課題調査研究小組及び財政部、国家発展・改革委、中央銀行、銀行業監督管理委、証券監督管理委、保険監督管理委から報告を受けたが、全国金融工作会議の日程はなかなか決まらなかった(中国金融網2006年12月6日)。もともと会議は2006年11月招集を予定していたが、戦略構想・具体的施策について調整が難航し、2008年初に開催すればいいという意見すら出ていたという(財経2007年1月23日)。

 第3回会議では、政策性銀行改革、農村金融体制の設計、国有銀行改革の深化、預金保険制度、多層次の資本市場の建設、外貨投資管理体制改革等の多くの具体的な領域である程度の突破があったとされるが(財経2007年1月23日)、その内容はまだ明らかになっていない 。第一財経日報2007年1月24日は、「綱領的文件」の発出により、今後5年間の金融改革の具体的措置が明らかにされるだろうとしている。

2.温家宝総理の重要講話

 会議に主席した指導者は温家宝総理、呉儀副総理、曾培炎副総理、回良玉副総理、周永康国務委員、曹剛川国務委員、唐家璇国務委員、華建敏国務委員、陳至立国務委員であり、温家宝総理が重要講話を述べ、華建敏国務委員が総括講話を行っている。もともと金融担当であった黄菊副総理は会議に出席していない。このことから、黄菊は少なくとも金融担当の職務からは完全にはずされたことが分かる 。

 現在、会議の内容を類推する文書は、報道された温家宝総理の重要講話概要(人民日報2007年1月21日)だけであるので、まずこの要点を紹介したい。
(1)金融領域の矛盾・問題
 「主として、金融システムが不健全であり、金融構造が不合理であり、金融企業公司のコーポレート・ガバナンスと経営メカニズムが不完全であり、国際収支の不均衡が激化しており、金融の潜在的リスクがまだ少なくないことである」とする。
(2)状況認識
 「わが国金融の改革・発展は新たな情勢に直面しており、金融業は重要な転換期と重要な発展期にある。金融工作をしっかり行うことへの緊迫感・責任感を更に強化し、金融の改革・発展を新たな段階に推し進めるよう努力し、金融改革を全面的に深化させ、金融業の持続的かつ健全な発展を促進し、国民経済の良好かつ速い発展の実現と社会主義の調和のとれた社会構築に、更に大きな貢献をしなければならない」とする。
(3)重点施策
 「現在及び今後一時期の金融改革の任務は、十分繁雑で荷が重い」とし、以下の6項目に重点を置くよう指示している。
A国有銀行改革を引き続き深化させ、現代的な銀行制度の建設を加速する
 改革が先行している工商銀行、中国銀行、建設銀行、交通銀行については、「カギはコーポレート・ガバナンスの整備、経営メカニズムの転換の加速、支店機構・基層の改革の深化である」とする。
 改革が遅れている農業銀行については、「株式制改革を穏当かつ秩序立てて推進し、『三農』へのサービスの市場における位置づけと責任を強化し、全体での制度改正を実行し、県域における資金・ネットワーク・専業面での優位性を十分に利用して、『三農』及び県域経済へのサービスを更にしっかり行う」とする。
 政策性銀行改革については、分類指導・「1行1政策」の原則に従い、「まずは国家開発銀行の改革を推進し、商業化を全面的に推進し、主として中長期の業務に従事させる」とする。また、政策的業務について透明な公開入札を行うとしている。
 その他の商業銀行、金融資産管理公司の改革については、「時機を失することなく推進する」としている。
B農村金融の改革・発展を加速し、農村金融システムを整備する
 「『三農』の特徴に適応した、多層次で広範囲をカバーする、持続可能な農村金融システムを早急に確立する」とする。
 農村金融システムの健全化については、「商業性金融、政策性金融、合作性金融、その他の金融組織の役割を十分に発揮させる」とする。
 農村金融組織の革新については、「農村地区への金融機関の参入を適度に調整・緩和し、参入許可のハードルを引き下げ、農村の需要に適合した多様な所有制の金融組織の発展を奨励・支援し、多様な形式の小口貸付組織を積極的に育成する」とする。
 また、「農村金融産品・サービスの革新の推進に力を入れ、農業保険を積極的に発展させる」としている。
C資本市場と保険市場の発展に力を入れ、多層次の金融市場システムを構築する
 資本市場については、「直接金融の規模・比重を拡大する」とし、資本市場のインフラ建設強化、上場企業の質の向上、情報開示の厳格化と透明度の強化、債券市場の発展加速、企業債券の発行拡大等を挙げている。
 保険市場については、保険業の改革・発展の一層の推進、保険サービス領域の拡大、保険サービス水準の向上、リスク回避への意識・能力の増強を挙げている。
D金融サービスとコントロール機能を全面的に発揮させ、経済・社会の調和のとれた発展を促進する
 金融コントロールについては、「予見性・科学性・有効性を更に高め、貸出総量を合理的にコントロールし、貸出構造を改善し、経済の平穏で速い発展を促進する」とする。
 金融サービスについては、「中小企業、自主的な創造・革新、社会事業、未発達地域への金融支援を更に整備する」とする。
 金利改革については、「金利の市場化改革を着実に推進する」とする。
 為替レート改革については、「人民元レート形成メカニズムを更に整備し、外貨準備の経営管理を強化し、外貨準備の使用ルート及び方式を積極的に模索・展開する」とし、併せて「総合的な措置を採用し、国際収支の基本的な均衡を促進する」としている。
E金融業の対外開放を積極かつ穏当に推進する
 「金融業の開放構造の改善に力を入れ、資本市場の対外開放を着実に推進する」とする。
 また、「内外資本金融企業の公平な競争の促進」、「内地と香港・マカオとの金融協力を引き続き推進する」ことについても言及している。
F金融への監督管理能力を高め、金融企業のコーポレート・ガバナンスを強化し、金融の安定・安全を保障する
 「金融の分業監督管理体制メカニズムを整備し、監督管理の協調・組合せを強化する」とする。
 また、「金融の監督管理手段を強化し、金融法制を健全化し、短期資本の越境流動とりわけ投機資金に対する有効な監督規制を強化し、反マネー・ロンダリング工作を強化し、引き続き金融秩序を深く整理・規範化する」としている。

(4)むすび
 最後に次の諸点を強調している。
A党・政府の金融工作に対する指導を強化・改善しなければならない
B政府・企業の分離を堅持し、経済・金融・市場ルールに自覚的に従って処理し、金融企業の経営自主権を十分に保障しなければならない
C従業員の思想政治・業務・職業道徳の素質を高めることに力を入れ、高素質の金融隊伍を建設しなければならない
D各種の腐敗・犯罪行為を厳格に懲罰・処理しなければならない
E各地域・各部門は金融部門の工作を積極的に支援しなければならない

3.党中央政治局会議(2007年1月23日)

 胡錦涛総書記が主催し、この会議で金融の改革・発展工作について検討・手配が行われた。会議では、次の5点について認識が示されている(新華社北京電2007年1月23日)。
(1)我々は、金融の改革・発展において累積された成功経験を真剣に総括しなければならないが、同時に、現在金融領域に存在する矛盾・問題に冷静に目を向け、金融の改革・発展という任務の重要性・困難性を十分に認識し、各種金融工作をたゆまずしっかりと行わなければならない。
(2)わが国の金融領域は新たな状況・問題に直面しており、国際金融の発展にも新たな傾向が出現した。新情勢下における金融工作を適切にしっかりと行い、金融改革を全面的に推進し、金融業の持続的で健全な発展を促進することは、国民経済の良好かつ速い発展を実現し、社会主義の調和のとれた社会を構築するうえで、重要な意義を有するものである。
(3)今後一時期、a現代的な金融システム・制度の建設推進、b金融の革新能力とサービス水準の向上、c金融の運営効率と企業経営収益の引上げ、d金融コントロールと監督管理の強化、e金融の安定・安全の維持に力を入れ、わが国金融業の総合実力・競争力・リスク抵抗能力を顕著に増強させなければならない。
(4)今後一時期の金融工作の主要任務は以下のとおりである。
A金融業の持続的かつ健全な発展を更に推進する
 経済・社会の日増しに増加する多様な金融需要を、不断に満足させる。
B金融構造を更に改善する
 多層次の金融市場システムと都市・農村、地域間の金融配置を整備する。
 「三農」、中小企業、未発達地域への金融支援を強化する。
C各種金融企業の改革を更に深化させる
 コーポレート・ガバナンスを整備し、内部管理を強化し、経営メカニズムの転換を加速する。
D金融のサービス機能とコントロール・メカニズムを更に整備する
 国民経済の平穏でかなり速い発展を促進する。
E金融業の対外開放を更に推進する
 国外の先進的な金融管理経験と技術を学び、手本として、開放拡大の条件下におけるわが国金融業の発展能力と競争能力を増強する。
F金融法制を更に健全化する
 法に基づき金融の監督管理を強化し、金融の安全で効率の高い平穏な運営を促進する。
(5)各クラスの党委員会及び政府は、経済・社会の発展の全局と戦略的な高みから、新情勢下の金融工作をしっかり行うことの重要性を十分認識し、金融工作への指導を強化・改善し、中央の金融工作に対する大きな政策方針と戦略手配を真剣に貫徹し、思想を統一し、任務を明確にし、確実に実施しなければならない。

4.党外人士座談会(2007年1月23日)

 温家宝総理が中南海に民主諸党派中央、全国工商連指導部、無党派人士を集め開催した。出席者からの意見聴取後、温総理は「新情勢下において、金融工作の任務は相当に困難である」と強調したうえで、次の3点を指摘した(人民日報2007年1月24日)。
(1)経済の平穏でかなり速い発展を保持し、大きな振れの出現を防止することが、経済工作の第一の任務である。
 このことは即ち、正確な金融政策を実行し、更に金融手段を有効に運用してマクロ・コントロールをうまく行い、貸出規模を合理的に抑制し、貸出構造を調整し、現在の経済運営中の際立った矛盾・問題をしっかり解決することを要求するものである。
(2)経済構造調整と成長方式の転換を加速し、社会主義の調和のとれた社会を構築するためには、「5つの統一的企画」 の要求に基づき、金融構造を改善し、金融サービス水準を引き上げ、経済・社会の全面的に調和のとれた持続可能な発展を促進することが必要である。
(3)金融の安全は、国民経済の全局に直接関わるものであり、各業種の発展と庶民の切実な利益に関わるものである。
 金融監督管理を強化し、金融リスクを防止し、金融の安定的な運営と安全な発展を確保しなければならない。

5.主な論点

 以上公表された資料から見ても、金融改革への基本姿勢が繰り返されるのみで、具体的決定の中身は明らかではない。前回の第2回会議は必ずしも意見が集約できず、今回の会議についても一時延期論が出ていたことからしても、金融改革に関しては関係者の利害調整がかなり困難になっている事情が窺える。
 また、会議の後で党中央政治局会議や党外人士座談会が開かれているが、本来であれば全国金融工作会議の前に党外人士の意見を求め、政治局会議で大方針について議論するのが通常である。このことからすると、今回の全国金融工作会議は事前に十分なコンセンサスを得られぬまま開催され、その結果具体的施策の確定にまで到らず、「綱領的文件」の発出に向け引き続き詰めの検討が必要とされたのであろう。このため、検討を急がせる目的で政治局会議・党外人士座談会が相次いで開催されたのではないか。
 とはいえ、これまでの報道で全国金融工作会議における論点はある程度明らかになっており、現時点でこれを整理しておきたい。

(1)金融監督管理機関の統合

 2003年の銀行業監督管理委員会設立後、中国の金融監督管理は「1行3会」体制 となっている。しかしながら、この分業監督体制については、
a既に中国内資企業による総合金融グループが形成されており、金融リスク防止の面で監督が不十分になるおそれがあること、
b今後外資が総合金融サービスを武器に中国に進出してきた場合、内資金融機関が競争に落伍するおそれがあること、
が指摘されており、このため、直ちに3委員会の統合ができないにしても、「金融監督管理協調委員会」を設置し、連携を図るべきとの意見があった。
 しかしながら今回の議論では、「今は、総合的な監督管理協調機関を設立するのに最も適した時機とはいえない」と判断されたもようである。温家宝重要講話でも、金融の分業監督管理体制メカニズムの整備と、監督管理の協調・組合せが述べられているに過ぎない。これは、現在の体制が成立してまだ日が浅く、それぞれの監督管理部門の内部ですら情報の共有がままならない状態であり、しかも統合は必然的にリストラを伴うことになるので抵抗が強く、再編制を議論するには時期尚早ということだったようである(財経2007年1月23日)。
 また、この「1行3会」体制以外にも、財政部が金融監督管理に関与しており 、実質的に5者監督体制となっていたが、これに加え国家発展・改革委員会が金融分野への関与を強める意向を示しており 、6者による監督管理協調枠組みの設立が議論されていたとされるが、これについては結論が明らかになっていない(第一財経日報2007年1月22日)。


(2)農業銀行の改革

 2003年末に建設銀行と中国銀行の株式制改革の動きが表面化して以降、農業銀行は国務院に対して少なくとも3回株式制改革案を提出したとされる。しかし2005年末に、農業銀行を分割し、多層次で競争的な農村金融システムを建設すべきか否かの討論が開始されると、農業銀行は直ちに強烈に反対した。このため、上層部は「分割せず、改革せず、資本注入せず」という「3つの『しない』」政策を宣言し、論争を沈静化させた。上層部が農業銀行の改革に悲観的でなくなったのは、他の3行の上場が成功した2006年半ば以降とされる(財経2007年1月23日)。
 今回の温家宝重要講話では、株式制を穏当かつ秩序立てて行うこと、「三農」に対する金融機関として位置付けること、全体での制度改正を行うことが確認されており、分割案は見送られたものと考えられるが、株式制化を早急に行う姿勢は感じられない。
 これは、農業銀行が未だ外部の会計検査による信頼に足る財務報告を発表していないことがあろう。2005年7月、普華永道会計士事務所が入札を経て農業銀行の4省の支店について会計検査を行ったが、余りにリスクが高いことが分かり、未だに会計検査報告書が提出できないでいるという(財経2007年1月23日)。財務の実態が分からないのでは、株式制化の案も作成できないであろう。
 また、農業銀行を再建するには少なくとも9000億元の資金が必要とも言われており、資本注入だけでも250-300億ドルが必要とも言われる。これを誰が負担するかで、財政部と人民銀行に対立があるという。財政部は、かつて農業銀行の株式制化後は自分が唯一の大株主となり、不良債権は人民銀行が負担する案を提起したが、人民銀行はこれに同意せず、交渉は暗礁に乗り上げたという(財経2007年1月23日)。
建設銀行と中国銀行は、外貨準備の注入の際に、財政部の出資分を全額使用して不良債権を償却したため、以後財政部は両行に対する株主としての発言権を失ってしまった。このため、工商銀行の株式制化に当たって財政部は、自分の出資分1240億元による不良債権償却を拒否し、かつ人民銀行には持ち株比率が財政部と同額となる150億ドルまでしか外貨準備の注入を認めなかった。その結果、2460億元の不良債権を別途財政部の負担で処理することになったのである。このような、国有商業銀行の監督権をめぐる財政部と人民銀行の権限争議が問題を複雑化させているのであろう。

(3)中央匯金投資有限公司の改組

 温家宝重要講話は、外貨準備の経営管理の強化と外貨準備の使用ルート・方式の積極的な模索・展開を指示している。
中央匯金投資有限公司については、国務院に隷属する国家投資持ち株公司または国家外貨投資公司に改組する案が有力とされる。新公司は人民元建て債券を発行し、人民銀行から中長期の外貨準備を買い取り、対外投資を主として行うとされる(第一財経日報2007年1月24日)。
他方、財政部は金融国有資本の監督管理が不十分であるとして、金融国有資産監督管理委員会を設立し、中央匯金投資有限公司をこれに吸収する案を強く主張しているが、未だ上層部の支持を得ていないと言われる(財経2007年1月23日)。
ここでも中央官庁の権限争議が影を落としているのである。

(4)政策性銀行の改革

 温家宝重要講話は、「1行1政策」により、まずは国家開発銀行の商業化と、その業務の中長期への特化を挙げている。
 国家開発銀行は成立時点においては、国家のインフラ、基礎産業、支柱産業、ハイテク産業の発展と国家の重大プロジェクトの建設支援を主たる業務としていた。国家開発銀行専門家委員会の王大用副主任によれば、1998年以前は不良債権比率が30%以上にのぼり、以後政府の融資決定への関与が減少し、国家開発銀行の業務の独立性が強化され、融資対象についても自由度が高まった(東方早報2007年1月19日)。この結果、現在の財務内容はその他商業銀行をはるかに上回り、2006年9月末に不良債権比率は0.76%にすぎず、16四半期連続2%以内であり、6四半期連続1%以内を維持している(21世紀経済報道2006年12月6日)。
このこともあり、国家開発銀行は他の商業銀行から「民業圧迫」との批判を受けている。このため、大株主の財政部は、国家開発銀行の実態が政策性銀行から余りに乖離しているとの認識のもと、その業務拡張に反対してきた。また、学界も同行の業績・イノベーションを肯定しつつも、その政府の信用と地方政府の機能に過度に依存した経営手法に懸念を表明していたのである。この結果、まず国家開発銀行の改革について関係者の合意が得られたのであった(財経2007年1月23日)。
輸出入銀行については、その政策性業務の比重が相当高いこともあり、商業化転換は時期尚早と考えられている(財経2007年1月23日)。ただ、李若谷行長は、「2007年、輸出入銀行の発展モデルを転換し、単純な経営政策性業務から政策性業務と自営業務の兼営に転換する」意向を示している(東方早報2007年1月19日)。
これに対し、農村発展銀行改革は危機対処の性格が強く、農業発展銀行の今後の方向性は、農村長期貸付・インフラ貸付・財政による利子補給への業務範囲拡大が考慮されているという(財経2007年1月23日)。
(5)農村金融システムの健全化

 国務院発展研究センター農村経済研究部の陳剣波研究員は、連続3年中央「1号文件」が農村金融改革の必要性を不断に強調し、計13の政策を提起しているにも関わらず、金利の市場化と農村信用社改革を除き、他は実施されたものはわずかであると指摘する。
 陳の研究によれば、2005年、農村信用社、農業銀行、郵貯等は農村地域から預金10兆元を吸収しているが、役所の統計によると農業・農村関連の貸出はわずか4兆元前後にすぎず、農村から都市に巨額の資金が流れている。また、国家統計局の推計では、2020年までの新農村建設に新たに必要となる資金の総量は15兆元である。さらに、国務院発展研究センター農村経済研究部の韓俊介部長の報告によると、彼らが2005年に行った全国29省180村における農村金融サービス需要の調査では、調査対象の農村中小企業216社のうち、正規の金融機関から融資を受けているものは30%にすぎなかった(財経2007年1月23日)。
 北京大学の林毅夫教授も、「中国の現在の金融構造の農村金融システムへの支援は相対的に不足している。農村金融は、依然金融システム全体で最も脆弱な部分である。現在、農村金融システムに存在する際立った問題は、a農村信用社等の金融機関の経営がずさんであり、営利能力が劣っていること、b農村資金の外部流出が深刻であること、c農村金融の商品・サービスが単一であること、d農民の融資難問題が未解決であること、である」と指摘する。統計によれば、現在農村は1.2億戸が融資を必要としているが、60%が充足されているにすぎず、農村地域の1人当たり融資不足額は5000元となっている(新華社北京電2007年1月22日)。社会科学院農村発展研究所の杜暁山副所長は、農村の融資難の原因として、農村の各種産業の営利性が低く、農民・農村の小企業の経営リスクが比較的高く、担保手段が比較的少ない点を挙げている(中国経済網2007年1月22日)。
 温家宝重要講話は、農村金融システムの健全化について、「商業性金融、政策性金融、合作性金融、その他の金融組織の役割を十分に発揮させる」とする。
現在、農村金融の担い手は農業銀行、農業発展銀行、農村信用社であるが、農業銀行は「三農」等の弱体産業へのサービスを歴史的に担ってきた結果、改革・転換に重大なコストを要する結果となった。農業銀行の不良債権は930億ドルとも言われるが、その半分近くは政府の命令による融資とも言われる(財経2007年1月23日)。人民銀行研究局の焦瑾璞副局長は、農業銀行は60%の人員・機構・資産が農村地域・県以下の地域にあることを挙げ、農業銀行の業務を主として「三農」に位置づけることは、必要だし可能だとしている。また彼は、農村信用社は「三農」にサービスするコミュニティ的金融機関となるべきだとする。さらに農業発展銀行については、「食糧流通体制改革がまだ完成しないうちは、農業発展銀行は依然食糧・綿花購入の面で役割を発揮し、その後は小都市・町の建設、農地の基本的開発、農業科学技術・リーダー企業の支援業務で役割を発揮する必要がある」としている(新華社北京電2007年1月25日)。

(6)国有銀行株式制改革の深化

 建設・中国・工商の3行は株式制化・上場を果たしたが、人民銀行の周小川行長は、2006年末に全人代への報告で「国有商業銀行の株式制改革の成功は、なお初歩的、段階的であり、改革は長期性、複雑性、困難性を有する」と指摘する(第一財経日報2007年1月22日)。国有商業銀行のコーポレート・ガバナンスはなお不完全であり、内部規制が不健全であり、基礎の管理が依然比較的脆弱であり、現代銀行制度の要請及び国際先進水準とはかなり大きな格差があるとされている(新華社北京電2007年1月21日)。
 このため、人民銀行は2007年1月20日に終了した工作会議において、「企業法人のコーポレート・ガバナンスの整備と金融構造の改善を重点とし、さらに金融改革を深化させる。工・中・建の3銀行のコーポレート・ガバナンスを引き続き整備し、経営メカニズムの転換を加速する」としている(第一財経日報2007年1月22日)。
(7)直接金融の拡大

 現在、銀行・証券・保険業の発展は不均衡であり、資本市場と保険市場の発展が相対的に遅れている。株式市場・債券市場を通じた直接金融の比重が低い状況はまだ根本的に改善されていない(新華社北京電2007年1月21日)。
 このため、債券市場とりわけ企業債の発達が大きな課題となっている。ただ2006年の企業債発行額は1015億元であり、債券市場における比率は1%に満たないのが現状である(第一財経日報1月22日)。

(8)対外開放

 2006年9月末で、22の国家・地域の73の外資銀行が営業性機関を設立しており、13の国家・地域の30の金融機関が合資証券公司とファンド公司を設立し、15の国家・地域が115の外資保険公司の営業性機関を設立している(新華社北京電2007年1月21日)。
 北京師範大学の鐘偉教授は、「対外開放の拡大は、国外の先進金融管理経験・技術・人材を導入し、金融のイノベーションの歩みを加速し、金融システム運営の効率・競争能力を引き上げることに資するが、同時に国家の金融安全を適切に擁護しなければならない」と指摘する(新華社2007年1月21日)。外資政策の見直しに伴い、国家の経済安全が重視される傾向が強まっており、これに伴い温家宝重要講話も「金融の対外開放は積極かつ穏当に推進する」としているのである。

(9)預金保険制度の設立

 温家宝重要講話では明示されていないが、預金保険制度の設立も重要課題である。しかし、4大国有商業銀行は国有を理由に同制度への参加を拒んでいる。これに対し、中国経済週刊2007年1月15日は、「預金保険制度の建設は、正に4大国有商業銀行体制の優位を打破し、4大銀行の糧道を断つことにより根本的な体制転換を実現するためのものである。国家の信用は主権の信用であり、国有銀行の信用は一銀行の信用である。国家は国有銀行に対して無限責任を負うことはできない」と反発している。(1月31日記・10,501字)
 

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