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判例・仲裁事案研究3~社内における従業員との内部経営請負契約の効力

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2003年1月13日

<法務>
社内における従業員との内部経営請負契約の効力

梶田幸雄

しばしば、中国人の契約意識は低いといわれる。しかし、中国企業との貿易経済取引や外資系企業内における労働契約などをしっかりと締結することは非常に重要である。この意味で、契約社会に十分に移行してきているのではないかと考える。とりわけ行政部門や司法部門では、当事者の自由意思による契約を重視する立場を示している。合弁会社内部において会社と従業員との間で締結された内部経営請負契約の有効性が争われた事案を紹介する。ここから中国における契約の重みが判断できる。日本企業としても、中国企業との取引上の契約や現地投資企業内における従業員との労働契約などについて、十分に検討することが必要である。

合弁企業内における内部経営請負契約の有効性が争われた事案(注1)

<仲 裁 廷>
南京市労働争議仲裁委員会

<当 事 者>
申 立 人:朱某ほか101名(X)
被申立人:南京××中外合弁タクシー有限公司(Y)

<主 文> (1990年6月20日判断)
原労働契約および経営請負契約は適法であり、有効である。双方当事者は労働契約および経営請負契約による履行をせよ。


(注1)劉国福・管建国編『民商法典型案例解評』法律出版社、1997年、291−295頁。


1 事案の概要

(1) 事実関係
1992年2月、南京××中外合弁タクシー有限公司(以下、「Y」という。)は、3年以上の運転歴のある従業員を正社員として採用する旨の一般公募をした。同年4月8日、101名の運転手(以下、「X」という。)が採用され、Yと「車両リース方式による経営請負契約」を締結した。当該契約は、以下のとおりの約定があった。すなわち、「Xは、Yに毎月1人当たり請負ノルマ5,400元を上納し、ノルマの超過達成分は税金を控除した後の額をYと逐年5対5、7対3、9対1の割合で分配する。YはXに毎月500元の支払いを保障し、Xはこれを給与、各種手当、医療費、燃料費、材料費および道路通行料などの支出に充てる。請負契約期間満了後は、Xが当該契約の継続を望む場合には、請負ノルマを25%減じ、超過達成部分の分割比率は不変とする。Yが原車両の売却処分を決定した場合には、Xに売却処分価格の10%を請負奨励金として支払う。」というものであった。

1993年5月にYは勝手にこの請負ノルマを7,000元に引き上げたところ、Xの反対により、7月に6000元に減じた。

1995年3月31日、YはXに請負わせている車の引き取りを決定した。そして、Xが継続してタクシー業を行いたいのであれば、各人に6万元で使用権を売却するが、個人タクシーとはせずに、Y系列タクシーとして経営するものとし、Xの当該車の使用権は2年間に限るとした。さらに、2年内にXはYに毎月3,000元を支払うことと定めた。Yは、Xがこの請負を拒否するならレイオフするものとするとした。

1995年4月6日、Xは、南京市中級人民法院(以下、「法院」という)にYの違約および経済損失賠償100万元を求める訴えを提起した。しかし、1995年5月15日、法院はXの提訴を却下した(注2)。却下理由は、XY間の紛争は労働紛争であり、関係労働部門の仲裁に付託されるべきであるからである。

そこで、Xは、南京市労働争議仲裁委員会に仲裁申立をした。

(2) 仲裁廷の判断
1995年6月20日、南京市労働争議仲裁委員会は、以下のとおりの労働仲裁判断をした(注3)。

Yが内部経営請負方式により従業員と車両リース経営請負契約を締結したことは不当ではない。Yの労働契約および経営請負契約の履行過程に法律の規定および約定に反するものはない。よって、原労働契約および経営請負契約は適法であり、有効である。双方当事者は労働契約および経営請負契約による履行をせよ。


(注2)法院の却下裁定において、事案受理費5,050元はXが負担せよとされた。
(注3)Xは労働仲裁判断に不服であるとして、7月1日に南京市中級人民法院に提訴した。本事案が紹介した劉=管(前掲注1、292頁)によれば、本件は法院において審理中であると述べられている。劉=管編著書の出版が1997年1月であるから、このときには南京市中級人民法院の判決がすでに下されているのではないかと考えるが、この点については言及されていない。また、筆者の知る限りでは、当該事案の結果に伝言及されている著書、論文も見られない。


2 判断の結論と法律構成

(1) 判断の結論
原労働契約および経営請負契約は適法であり、有効である。双方当事者は労働契約および請負契約による履行をせよ。

(2) 判断の法律構成
仲裁廷の判断は、4つの部分から構成されている。第一に、(1)Yが内部経営請負方式により従業員と車両リース経営請負契約を締結したことの適否の判断であり、第二に、(2)Yの労働契約および経営請負契約の履行過程に法律の規定および約定違反の有無であり、第三に、(3)原労働契約および経営請負契約の適法、有効性の可否であり、第四に、(4)以上に基づく結論である。

以上の仲裁廷の判断について、以下で整理し、争点を明らかにする。

3 判断の分析と検討

仲裁廷は、本件を審理するに際して、どのような争点を取り上げ、これをどのような判断基準に基づいて適用したのかを整理する。この整理により、仲裁廷の判断基準およびその適用過程の適否を検討する。以下、帰納的に整理する。

(1)仲裁廷は、双方当事者は労働契約および経営請負契約による履行をせよという。
(2)このようにいうのはなぜか。
(3)原労働契約および経営請負契約は有効であるからである。
(4)原労働契約および経営請負契約が有効といえるのはなぜか。
(5)原労働契約および経営請負契約は適法であるからである。
(6)原労働契約および経営請負契約は適法であるといえるのはなぜか。
(7)Yの労働契約および経営請負契約の履行過程に法律の規定および約定に反しないからである。
(8)Yの労働契約および経営請負契約の履行過程に法律の規定および約定に反しないといえるのはなぜか。
(9)Yが内部経営請負方式により従業員と車両リース経営請負契約を締結したことは不当ではないからである。

以上の仲裁廷の判断過程において、すべての争点が明らかにされていえるかというと否である。XとYとの契約関係について、労働契約と経営請負契約の2つがあるが、労働契約に関しては当事者の主張の中に詳しい言及はない。仲裁廷は、労働契約を有効と認定し、この有効性の認定基準として適法であることを述べている。

そこで、第一に、この点について検討する。労働契約は、労働者と雇用単位とが労働関係を確立し、双方の権利および義務を明確にするために、締結するものである。労働契約は、必ず労働者と雇用単位との間で締結しなければならない(労働法第16条)。「外国投資企業労働管理規定」(1994年8月11日発布、同日施行)においても、第8条1項前段において、「労働契約は、従業員個人と企業とが書面により締結する」と規定されている。そして、労働契約は、締結により直ちに法的拘束力を有する(労働法第17条)。締結の形式は、書面によらなければならず、以下の条項を設けなければならない(労働法第19条)。すなわち、

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