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公務員ではないのに贈収賄?-商業賄賂のリスク

中国ビジネスレポート 法務
劉 新宇

劉 新宇

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2009年12月28日

記事概要

近年、中国では、経済発展に伴って蔓延した商業賄賂が大きな社会的問題となっている。市場競争が厳しさを増すなか、取引の機会を得るため取引相手に何らかの賄賂を供与することは、いわば「潜規則」(暗黙のルール)となっている感があるといっても過言ではないだろう。しかし、商業賄賂は、贈賄・収賄のいずれも立派な違法行為であり、行政責任、刑事責任が問われることとなる。【2,563字】

近年、中国では、経済発展に伴って蔓延した商業賄賂が大きな社会的問題となっている。市場競争が厳しさを増すなか、取引の機会を得るため取引相手に何らかの賄賂を供与することは、いわば「潜規則」(暗黙のルール)となっている感があるといっても過言ではないだろう。

賄賂と聞くと、従来においては、現金や高級な煙草・酒、貴金属などを贈る‥‥というイメージであった。しかし、現在では、各種リベート、宣伝費、協賛費、労役費、コンサルタント費用といった名目での金銭供与のほか、視察を口実とした海外旅行費用の負担、市場価格を遥かに下回る価格での住宅提供、子女の外国留学に対する援助など、その手口が多様化している。しかし、商業賄賂は、贈賄・収賄のいずれも立派な違法行為であり、行政責任、刑事責任が問われることとなる。

まず、中国の不正競争防止法は、「事業者は、財産又はその他の手段で贈収賄を行うことにより商品の販売又は購入をしてはならない。帳簿に記帳することなく密かに相手方単位[1]又は個人に割戻金を供与した者は、贈賄として論ずる。帳簿に記帳することなく密かに相手方単位又は個人から割戻金を収受した者は、収賄として論ずる。」と定めている。これに違反すると、1万人民元以上20万人民元以下の過料、違法所得の没収に処せられる。

他方、贈収賄の刑事責任は、収賄側が国家公務員[2]であるか否かによって異なる。不正な利益の取得を目的として非国家公務員に対して贈賄を行った者は、3年以下の懲役に処せられ、その賄賂が高額であるときは、3年以上10年以下の懲役・罰金へと刑が加重される。また、単位がこの罪を犯したときは、その単位自体に対する罰金のほか、その責任者や担当者個人も罰せられる。

これに対し、不正な利益の取得を目的として国家公務員に対し贈賄を行った者に対しては、最も軽い場合で5年以下の懲役、最も重い場合で無期懲役の刑が定められている。なお、最高人民法院(最高裁)と最高人民検察院(最高検)が2008年11月20日に発した「商業賄賂刑事事件の処理における法適用の若干の問題に関する意見」により、まず、非国家公務員贈収賄の主体について、常設組織だけでなく、組織委員会、準備委員会、工事請負チーム等の臨時組織もこれに含まれることが明確化された。また、社会一般から強く批判されていた医療、教育、入札、政府調達などの領域における賄賂に対しても、商業賄賂の規定を適用する方向性が明示され、医師が薬品・医療器械の販売会社から、教師が教材の販売会社から財物を収受すると、非国家公務員収賄罪が成立することとなった。さらに、賄賂の対象物について、金銭と品物のほか、住宅の内装、支払用会員カード、商品券、旅行費用の負担など、金銭に換算可能な財産的利益は全てこれに含まれることが明確化された。

このほかにも、2009年9月1日施行の「贈賄罪記録照会に関する最高人民検察院の規定」により、従来、贈賄罪に関する検察機関の記録、いわば「贈賄ブラックリスト」への記載対象は建設、金融、医薬衛生、教育、政府調達の5分野に限定されていたが、この制限が撤廃された。そして、あらゆる単位・個人について、検察機関に対する贈賄犯罪記録開示を請求することができるようになったのである。

ところで、最高人民検察院反汚職賄賂総局の統計によると、2009年上半期において中国の検察機関が捜査した商業賄賂事件は6277件、関与者は6842人、賄賂額は9.18億人民元となっている。建設分野に限っても、2495件・2724人に上り、事件総数の39.75%を占める。

最近の中国では、多国籍企業による贈賄事件がしばしばクローズアップされている。統計によると、中国においてこの10年間に調査対象となった汚職事件50万件のうち、国際貿易や外資企業と関連する事件は、その64%を占めるとのことである。例えば、ドイツの総合電機メーカー・シーメンス社の子会社である医療機器メーカーは、中国で医療設備を売り込むため、2003年から2007年までに1440万米ドルに上る賄賂を5つの病院に供与していた。また、中国との鉄鉱石価格交渉をめぐる営業秘密侵害と贈賄の疑いで、オーストラリアのエネルギー大手リオ・ティント社の従業員が上海市の検察当局により逮捕された一件も記憶に新しい。この他にも、中国におけるこれまでの贈収賄事件では、ウォルマート、カルフール、IBM 、コカコーラ、GE、フィリップス等の有名企業の名が挙がったという報道もあった。多国籍企業が中国で行う贈収賄事件は、ますます増加傾向にあるようだ。

中国でビジネスを展開する日系企業にとっても、商業賄賂の問題は、決して他人事ではない。現に、日系企業の従業員が贈収賄の嫌疑で逮捕・起訴された事例も存在する。こういったリスクには、特に気をつけなければならないだろう。

例えば、中国の関連法令において贈賄が訴追される最低額が1万人民元とされている場合を想定してみると、顧客に供与する1回あたりの金額が500人民元以下であれば、その基準を満たさないものと考えられがちだが、この贈賄額は、累積で計算される。したがって、同様の行為を20回行えば、訴追される可能性があるのである。

また、会社が顧客に対して直接に金品を供与するのではなく、従業員がこれを行った場合、同人の行為は会社とは無関係と考えられがちだが、従業員の贈賄行為は会社の行為とみなされ、法人犯罪が成立する恐れもある。

いずれにしても、商業賄賂は、正常な市場秩序を損うものであり、中国当局もこのことを十分に認識して汚職腐敗の防止・撲滅に尽力している。日本企業も、「他もやっているから大丈夫だろう」という考え方をされているのであれば、これを改め、コンプライアンスの観点から、従業員を徹底的に啓蒙・教育し、自社が商業賄賂の問題と無縁でいられるよう努力しなければならないだろう。

(2009年12月2,563字)

[1]ここにいう「単位」とは、政府機関、民間企業、社会団体を含む全ての組織を意味する。

[2]日本の「国家公務員」概念とは異なり、中国刑法に定める「国家公務員」(国家工作人員)には、(中央・地方を問わず)国家機関において公務に従事する者のほか、国有の会社・企業?事業単位、社会団体において公務に従事する者、その他法に基づき公務に従事する者が含まれる。

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