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中国は「世界の工場」か

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2002年10月1日

はじめに 昨年来日本では、中国はすでに「世界の工場」となり、日本製造業にとって脅威となっている、という議論が盛んに提起された。中国においても、「世界の工場」論がこの夏議論となったが、こちらは日本よりはるかに冷静な議論が多い。それは、「中国脅威論」に対する弁明というよりも、外からの高い評価に自分自身を見失わないための、自己再点検のように見える。これらは、あまり日本では紹介されていないので、その主要な論調を紹介しておきたい。

  1. 「中国は製造業の中心か? 製造業の数字には心配が隠されている」(7月29日付け北京青年報)
     深セン総合研究開発院 李羅力副理事長は、「世界製造業発展・中国経済展望フォーラム」において次のような報告を行った。
     「中国の工業生産値は世界の5%前後を占めるにすぎず、現在世界の先頭にある製造業企業家はまだ非常に少ない。2001年の世界500強企業ランク中、中国は11企業であり、その中には製造業は無い。多くの大型輸出企業は、現在未だ加工製造工場であり、多国籍企業の生産ラインの末端に属しているにすぎないものもある」
     続いて李氏は、中国製造業の弱点を次のように分析する。

    1)企業規模の面:中国最大の冷蔵庫・洗濯機メーカーの年生産規模は200万台前後に過ぎないが、1999年の世界大手1メーカーの洗濯機世界生産量は740万台である(その米国の1工場だけで、全自動洗濯機を年300万台生産)。

    2)販売面:多国籍企業の年販売額が数百億米ドルに達するのに対し、中国最大の家電メーカー・ハイアールの販売額は、数百億人民元にすぎない。

    3)技術面:電子レンジにしても、その核心部品は依然輸入に頼っている。中国メーカーは、多くが組み立て・製造段階にあり、核心的な技術を未だ手にしていない。

    4)労働力面:労働力コストの低さは、決して生産性の高さを意味しない。1998年を例にとると、米国の平均賃金は中国の47.8倍であるが、生産性を考慮すると、同じ額の製造業付加価値を生み出すのに必要な米国の労働コストは中国の1.3倍にすぎず、日本は中国の1.2倍にすぎない。

  2. 国務院経済体制改革弁公室 潘岳副主任「中国は世界の工場にはまだかなり大きな距離がある」(新華社7月28日電)
     潘岳副主任は、上述のフォーラムにおいて、「現在の我が国の加工製造業は、世界のシェアが比較的小さく、加工製造の体系もまだ不完全である。特に、自主的なイノベーション能力が弱く、専業化水準も低い。真の世界の工場にはまだかなり大きな距離がある」と指摘し、「我が国が世界の工場となるカギは、自身の比較優位に依拠し、独立・完全・多階層で発展した加工製造体系を作り上げることであり、一方で更に多くの外資企業をこの体系に溶け込ませ、他方で、先進的製造技術を開発し、自国ブランドと自主的な知識所有権を生み出すことである」とする。そして、今後体制環境を改善するには、次の7方面の努力が必要だとする。

    1)政府の行政管理体制の改革の深化
     政府は、主として体制環境・政策環境を整備することに役割を果たし、生産・経営に直接関与しない。

    2)所有制構造の調整と改善
     著名なブランド・自主的な知的所有権をもつ大企業・企業集団を育成するだけでなく、民営・個人企業の発展を奨励し、中小企業のイノベーションにおける優位を発揮させる。

    3)外資の投資環境を改善し、投資構造を向上させる
     我が国は外資企業の生産現場であるのみならず、多国籍企業の研究開発センター、生産製造基地、地域総本部とならねばならない。

    4)公正で独立した社会仲介組織の速やかな育成
     業種協会、商会、会計士、弁護士等の現代仲介サービス業の機能を十分に発揮させる。

    5)科学技術の進歩とイノベーションを推進
     科学技術の発展を「世界の工場」発展のための強力な支え・保障としなければならない。

    6)教育構造の一層の向上
     高等教育を発展させるとともに、現代職業教育の体系を確立する。

    7)公平・公正な法律環境を引続き創造
     内外を問わず、国有・民営企業を問わず、合法な権益に有力な法的保障を行う。

  3. 北京大学中国経済研究センター 趙暁博士「中国は世界の工場には程遠い」(8月16日付け南方日報)
     その理由として、趙博士は次の4点を指摘している。

    1)中国製造業生産値の世界シェアは、1980年から1997年の17年間で1.4%から5.9%に達したが、北米の27%・日本の15.8%に比べれば差は非常に明白だ。現在の速度からすれば、中国が日本に追いつくのに20年、米国に追いつくのには40年かかることになる。

    2)企業規模が小さい。前述の洗濯機の例に加え、中国最大のコンプレッサー工場の生産規模が250万台にすぎないのに対し、世界大手集団の年生産能力は2300万台に達する。

    3)技術水準が低い。

    • 我が国の鉄鋼・非鉄金属・電力・機械・石油化学工業・石炭・建材等の伝統工業の技術水準は、世界の先進水準と大きく開いている。
    • 多数の大中型企業の核となる技術の開発・応用能力が相対的に不足しており、世界の先進技術を装備しているのは10分の1にすぎず、機械産品が国際水準に達しているのは5%に及ばない。
    • 産品構造が不合理であり、国際的に優秀な産品は10分の1にすぎず、多くのハイテク産品と一部の高付加価値産品はなお輸入が必要である。2000年のハイテク産品の貿易赤字は155億米ドルである。
    • 主要工業産品のエネルギー消耗率は先進国よりはるかに高い。
    • 伝統産業の労働生産性は世界平均水準の3分の1にすぎず、先進国の10分の1である。
    • ハイテク産業はまだ初歩段階で、規模が小さく、技術基盤が薄弱である。ハイテク産業の付加価値はGDPの4%にすぎず、製品設計・核となる部品・技術の高い装備は輸入に頼っている。自主開発による商品化率は20%、産業化率は5−7%程度にすぎない。
    • 中国のハイテク技術は、波及度が低く、他の産業との関連が低く、伝統産業の改善効果がはっきりしない、という問題がある。

    4)我が国の企業を主体とした技術革新体系が初歩段階にあり、イノベーションの成果の産業化が遅れている。技術開発・革新のための資金投入が低く、技術革新能力の向上を大きく制約している。1999年の我が国大中型工業企業の研究開発経費は、売上収入の0.6%にすぎない。化学工業・医薬品の大部分は自主的な知識所有権が無く、機械工業の主要産品の技術も57%が外国技術を使用している。

    以上からして、趙博士は「中国の製造業方面における優位は、現在のところ一部の製造業産品特に非イノベーション型産品における優位にすぎない。鋼・石炭・カラーテレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコン・電子レンジ・バイク・セメント等では、すでに中国製が世界のシェアのトップに立っているが、これらの産品であっても、中国メーカーは多くが組立て・製造段階に位置しており、核となる技術は手にしておらず、カギとなる部品・技術は主として輸入に頼っているのである」と結論づけている。

  4. 「中国の500強の3分の1は利潤がしぼんでおり、世界500強から益々遠ざかっている」(8月30日付け証券時報)
     中国企業連合会、中国企業家協会が最近発表した「中国企業発展報告(2002)」によれば、中国企業500強の2001年における各種指標は概ね伸びているが、少数企業は損失が甚大で、約3分の1の企業の利潤がしぼんでおり、世界企業500強との格差が更にはっきりしてきた。
     中国企業の規模は一般にかなり小さく、2002年中国企業500強の平均資産規模は2002年世界企業500強の6.46%にすぎず、平均営業収入は世界企業500強の5.26%にすぎない。労働生産性水準は低く、中国企業500強の1人当り平均営業収入、平均利潤、平均資産は、世界企業500強のそれぞれ12.95%、29.62%、1.57%にすぎない。
     営利能力からみると、中国企業500強の平均利潤の水準は、世界企業500強の12.06%にすぎない。イノベーション能力もかなり低く、我が国多数の大企業の核となる技術の開発・応用水準は、国際先進水準と大きな差があり、研究開発費の投入が少ない。
  5. 「内外の専門家は、中国が世界製造の中心となるには、あと30年かかるとしている」(9月2日付け国際金融報)

    ・北京大学経済学院 劉偉院長:中国は、世界製造業の中心になる可能性を完全に有している。しかし、それは今後数十年の中国経済の成長が世界経済成長の中で占める地位にかかっている。現在中国経済は高成長を維持しているが、中国製造業の発展が順風満帆とは限らない。もし、中国の経済成長が7%の水準を維持できるならば、経済成長の総量からすれば、中国は2030年前後に工業化を完全に実現することができる。

    ・北京天則経済研究所 張曙光所長:中国は、世界製造業の中心への路線上にあるが、依然持久戦をしっかり行う必要があり、この目標の実現は、漸進的なプロセスである。

    ・国務院発展研究センター産業経済部 馮飛副部長:中国製造業は、現在世界第4位であり、しかも明らかに比較優位を持っており、国際競争における中国の独特な優勢を作り、国際分業で比較的有利な地位を勝ち取っている。中国製造業は米国に次ぐが、中国製造業は先進国と比べると、なお大きな違いがある。先進国の製造業と比較すると、中国の製造業は4つの面で差がある。
    1)造業の技術基盤が先進国にひどく依存している。
    2)中国製造業の付加価値率が低い。中国製造業の輸出の中で、51%が加工貿易である。
    3)資源が欠乏している。現在、中国では一部のカギとなる原材料の輸入依存が非常に深刻になっている。なかでも、光ファイバー製造は100%輸入であるし、集積回路、石油・石油加工工業は80%輸入に頼っており、機械製品も57%輸入である。
    4)中国には現在国際クラスの大企業が足りない。

    ・中欧国際工商管理学院 リンダ・スプラン教授:中国が21世紀の世界製造業の中心になることを希望しているが、安価な労働力にのみ依存していては、短期間の成功が可能となるだけである。より安価な労働力があれば、中国の比較優位はもはや存在しないからだ。製造業成功の物差しは、労働力価格ではなく、品質、配送、完全な製品が客の手に渡り客を満足させるためのコスト、販売前・中・後のサービスである。

まとめ 以上の論調を見ても、現段階で中国が「世界の工場」とであると主張する者は、企業経営者を除けば中国では少数であることが分かる。その背景には、企業規模の小ささ、先端技術水準の低さ、核となる技術の輸入への依存、研究開発費の少なさにより、中国企業は世界製造業の生産プロセスの最終組立て段階、末端レベルに組み込まれているにすぎない、という認識がある。この点、日本における中国脅威論・中国経済礼賛論者に比べ、中国人自身ははるかにクールといえよう。しかし、注意すべきは、彼らが日本等のおだてに乗ることなく、自国製造業の問題点を正確に見据え、その改善を真剣に摸索していることであり、20−30年後には中国が名実ともに「世界の工場」となることに、強い意欲を燃やしていることである。景気の良いときは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と驕り昂ぶり、経済が落ち込むと一斉に米国のニュー・エコノミーを手放しで礼賛する日本人との大きな違いであり、この点にこそ中国の将来における「脅威」の本質があるといえるのではなかろうか

(10月1日記)

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