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ログイン2002年10月1日
はじめに 昨年来日本では、中国はすでに「世界の工場」となり、日本製造業にとって脅威となっている、という議論が盛んに提起された。中国においても、「世界の工場」論がこの夏議論となったが、こちらは日本よりはるかに冷静な議論が多い。それは、「中国脅威論」に対する弁明というよりも、外からの高い評価に自分自身を見失わないための、自己再点検のように見える。これらは、あまり日本では紹介されていないので、その主要な論調を紹介しておきたい。
1)企業規模の面:中国最大の冷蔵庫・洗濯機メーカーの年生産規模は200万台前後に過ぎないが、1999年の世界大手1メーカーの洗濯機世界生産量は740万台である(その米国の1工場だけで、全自動洗濯機を年300万台生産)。
2)販売面:多国籍企業の年販売額が数百億米ドルに達するのに対し、中国最大の家電メーカー・ハイアールの販売額は、数百億人民元にすぎない。
3)技術面:電子レンジにしても、その核心部品は依然輸入に頼っている。中国メーカーは、多くが組み立て・製造段階にあり、核心的な技術を未だ手にしていない。
4)労働力面:労働力コストの低さは、決して生産性の高さを意味しない。1998年を例にとると、米国の平均賃金は中国の47.8倍であるが、生産性を考慮すると、同じ額の製造業付加価値を生み出すのに必要な米国の労働コストは中国の1.3倍にすぎず、日本は中国の1.2倍にすぎない。
1)政府の行政管理体制の改革の深化
政府は、主として体制環境・政策環境を整備することに役割を果たし、生産・経営に直接関与しない。
2)所有制構造の調整と改善
著名なブランド・自主的な知的所有権をもつ大企業・企業集団を育成するだけでなく、民営・個人企業の発展を奨励し、中小企業のイノベーションにおける優位を発揮させる。
3)外資の投資環境を改善し、投資構造を向上させる
我が国は外資企業の生産現場であるのみならず、多国籍企業の研究開発センター、生産製造基地、地域総本部とならねばならない。
4)公正で独立した社会仲介組織の速やかな育成
業種協会、商会、会計士、弁護士等の現代仲介サービス業の機能を十分に発揮させる。
5)科学技術の進歩とイノベーションを推進
科学技術の発展を「世界の工場」発展のための強力な支え・保障としなければならない。
6)教育構造の一層の向上
高等教育を発展させるとともに、現代職業教育の体系を確立する。
7)公平・公正な法律環境を引続き創造
内外を問わず、国有・民営企業を問わず、合法な権益に有力な法的保障を行う。
1)中国製造業生産値の世界シェアは、1980年から1997年の17年間で1.4%から5.9%に達したが、北米の27%・日本の15.8%に比べれば差は非常に明白だ。現在の速度からすれば、中国が日本に追いつくのに20年、米国に追いつくのには40年かかることになる。
2)企業規模が小さい。前述の洗濯機の例に加え、中国最大のコンプレッサー工場の生産規模が250万台にすぎないのに対し、世界大手集団の年生産能力は2300万台に達する。
3)技術水準が低い。
4)我が国の企業を主体とした技術革新体系が初歩段階にあり、イノベーションの成果の産業化が遅れている。技術開発・革新のための資金投入が低く、技術革新能力の向上を大きく制約している。1999年の我が国大中型工業企業の研究開発経費は、売上収入の0.6%にすぎない。化学工業・医薬品の大部分は自主的な知識所有権が無く、機械工業の主要産品の技術も57%が外国技術を使用している。
以上からして、趙博士は「中国の製造業方面における優位は、現在のところ一部の製造業産品特に非イノベーション型産品における優位にすぎない。鋼・石炭・カラーテレビ・洗濯機・冷蔵庫・エアコン・電子レンジ・バイク・セメント等では、すでに中国製が世界のシェアのトップに立っているが、これらの産品であっても、中国メーカーは多くが組立て・製造段階に位置しており、核となる技術は手にしておらず、カギとなる部品・技術は主として輸入に頼っているのである」と結論づけている。
・北京大学経済学院 劉偉院長:中国は、世界製造業の中心になる可能性を完全に有している。しかし、それは今後数十年の中国経済の成長が世界経済成長の中で占める地位にかかっている。現在中国経済は高成長を維持しているが、中国製造業の発展が順風満帆とは限らない。もし、中国の経済成長が7%の水準を維持できるならば、経済成長の総量からすれば、中国は2030年前後に工業化を完全に実現することができる。
・北京天則経済研究所 張曙光所長:中国は、世界製造業の中心への路線上にあるが、依然持久戦をしっかり行う必要があり、この目標の実現は、漸進的なプロセスである。
・国務院発展研究センター産業経済部 馮飛副部長:中国製造業は、現在世界第4位であり、しかも明らかに比較優位を持っており、国際競争における中国の独特な優勢を作り、国際分業で比較的有利な地位を勝ち取っている。中国製造業は米国に次ぐが、中国製造業は先進国と比べると、なお大きな違いがある。先進国の製造業と比較すると、中国の製造業は4つの面で差がある。
1)造業の技術基盤が先進国にひどく依存している。
2)中国製造業の付加価値率が低い。中国製造業の輸出の中で、51%が加工貿易である。
3)資源が欠乏している。現在、中国では一部のカギとなる原材料の輸入依存が非常に深刻になっている。なかでも、光ファイバー製造は100%輸入であるし、集積回路、石油・石油加工工業は80%輸入に頼っており、機械製品も57%輸入である。
4)中国には現在国際クラスの大企業が足りない。
・中欧国際工商管理学院 リンダ・スプラン教授:中国が21世紀の世界製造業の中心になることを希望しているが、安価な労働力にのみ依存していては、短期間の成功が可能となるだけである。より安価な労働力があれば、中国の比較優位はもはや存在しないからだ。製造業成功の物差しは、労働力価格ではなく、品質、配送、完全な製品が客の手に渡り客を満足させるためのコスト、販売前・中・後のサービスである。
まとめ 以上の論調を見ても、現段階で中国が「世界の工場」とであると主張する者は、企業経営者を除けば中国では少数であることが分かる。その背景には、企業規模の小ささ、先端技術水準の低さ、核となる技術の輸入への依存、研究開発費の少なさにより、中国企業は世界製造業の生産プロセスの最終組立て段階、末端レベルに組み込まれているにすぎない、という認識がある。この点、日本における中国脅威論・中国経済礼賛論者に比べ、中国人自身ははるかにクールといえよう。しかし、注意すべきは、彼らが日本等のおだてに乗ることなく、自国製造業の問題点を正確に見据え、その改善を真剣に摸索していることであり、20−30年後には中国が名実ともに「世界の工場」となることに、強い意欲を燃やしていることである。景気の良いときは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と驕り昂ぶり、経済が落ち込むと一斉に米国のニュー・エコノミーを手放しで礼賛する日本人との大きな違いであり、この点にこそ中国の将来における「脅威」の本質があるといえるのではなかろうか
(10月1日記)
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