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第12次5ヵ年計画案からみた中国経済の動向~外国企業への影響を中心に

中国ビジネスレポート マクロ経済
劉 新宇

劉 新宇

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2011年2月4日

記事概要

2010年10月18日、第12次5ヵ年計画案が可決された。中国政府が中国経済をどのように認識し、どの方向に舵を切っていくかを示す重要な手がかりであり、外国企業の中国事業にも大きな影響をもたらすといえよう。【2,880字】

2010年10月18日、中国共産党第17期中央委員会第5回全体会議において、2011年から2015年までの第12次5ヵ年計画案が可決された。これは、2011年3月の全国人民代表大会で正式に採択される見込みであるが、中国政府がこの期間における中国経済をどのように認識し、どの方向に舵を切っていくかを示す重要な手がかりであり、外国企業の中国事業にも大きな影響をもたらすといえよう。

同計画案は、経済発展の方向性の転換、各領域の改革の全面的な推進、内需拡大、経済格差是正を重要課題として掲げ、他にも、農業の近代化、産業構造の近代化と競争力の強化、省エネ・環境保護社会の構築、科学技術・教育・人材育成の強化、社会保障・福祉の健全化、文化発展の促進、社会主義市場経済制度の整備、対外開放・国際化の促進等の項目が挙げられている。このように、今回の第12次5ヵ年計画案の内容は多岐にわたるが、本稿は、そのうち特に外国企業への影響が大きいものについて概説・検討するものとしたい。

1.内需拡大と経済格差是正

本計画案は、消費需要の拡大を内需拡大の重要戦略として位置づけ、輸出への依存度を減らし内需を拡大することで、中国国内市場を世界的な大規模市場へと発展させることを目標としている。そのため、サービス産業や運送業などが強化されることになるが、中国の内需が拡大すれば、日本など外国企業にとっては、特にこれらの業界を中心として対中輸出の増加が期待され、ビジネスチャンスも広がるであろう。これまで、日本企業は中国を組立加工の拠点と位置づけてきたが、内需拡大に伴う市場価値の上昇により、食品など生活必需品の製造企業の重要性が増大していくものと予想される。

他方、経済格差が是正され実際に購買可能な人口が増えれば、中国はさらに巨大なマーケットとなることから、このことは、外国企業にとってもますます商機が高まる望ましい変革といえよう。しかし、13億の人口を抱える中国においてこれを実現するのは、容易なことではない。そこで、本計画案は、社会的な利益分配の是正策として、特に低所得者の収入増、社会保障制度の整備について言及している。

改革開放から30年、中国は、国家としては飛躍的な経済成長を遂げたが、地域、個人に目を転じると、貧富の格差が拡大する一方であった。高度な購買力を有する富裕層はごく一部に限られ、多くが低所得者層に属し、経済成長を牽引してきた原動力は、国内消費ではなく、投資と輸出であった。これを受けて、今回の計画案は、サービス業と中小企業を支援し、雇用機会を増加させるといった全人民の購買力向上策とともに、新たな消費需要の開拓、消費環境の改善、消費者保護の強化によって中国人の消費意欲を刺激するとの意見を反映した施策も提案している。

しかしながら、人民の所得上昇は、中国の内需拡大、市場としての価値増大という点では外国企業にとって有利に作用するが、賃上げによる外国企業のコスト増という面では不利益となることが懸念され、生産拠点の見直しを迫られる企業も出てくるであろう。

2.省エネ・環境保護

本計画案の経済面におけるもう1つの重点は、エネルギー・資源の節約、環境の保護であり、地球温暖化への対策として、二酸化炭素の排出量削減、資源リサイクル産業に対する支援、資源の計画的な利用、公害防止の強化といった目標が提案された。

過去の先進国と同じく、中国も、経済発展を享受するとともに環境悪化に悩まされている。2008年北京五輪の際に北京の公害問題は世界に大きく報道されたが、そればかりでなく、工業廃水による河川の汚染、砂漠化、大気汚染、酸性雨など、その影響は中国国内にとどまらず、日本、韓国等の隣国にまで及んでいる。しかし、経済成長を追求するあまり、中国の地方政府、民間企業、社会一般人においては、まだまだ環境保護の認識が低いのが現状であり、本計画案の掲げる環境保護策が具体的にどのように実現され、外国企業にどのような商機が訪れ、その逆に外国企業がどのような制限を受けるのか、このことが大きな関心事となるであろう。

ここで特に、環境税導入の方向性について触れておきたい。最近、中国政府が環境税の導入を検討しているとの報道がなされている。これは、「人と自然との調和的発展」を目的とする措置として評価しうる一方、当然ながら、新たな税目が加わることで中国国内企業のみならず外国企業にとっても負担増となることが懸念される。

3.対外開放

近年の中国においては、中国労働契約法の施行に伴う人件費の増加、外資優遇税制の廃止・内外資企業所得税の一本化、外貨管理規制の強化など、外国企業の経営コスト増加をもたらす立法・政策の動きがある。また、昨今の外国為替事情、金融危機などの影響も相俟って、外国企業が経営不振に陥り、日本企業も含め外国投資者が対中投資から撤退するケースが徐々に目立ち始めている。

このような状況の中、中国の投資環境は悪化しているか否かという点が議論となっている。2010年7月、温家宝首相がドイツのメルケル首相と会談した際、外商投資企業に対する中国の政策について、バスフ社やシーメンス社の社長から批判的発言がなされたことに象徴されるように、外国企業とりわけ国外多国籍企業は、中国の投資環境が悪化しているとの認識をしているようである。

しかしながら、中国は依然として外資を必要としており、その導入促進は重要な国策の1つである。少なくとも、中国が外資導入を放棄してよい時期に入ったとは到底いえず、現に最近の中国政府は、外資誘致・利用を促進する諸策を次々と打ち出している。それゆえ、外国企業は、外資優遇税制の廃止などの不利な要素だけでなく、中国への外資誘致を促進する自己に有利となる政策や、新たな商機となる分野を見落とすことのないよう注意することが重要となってくる。

今回の計画案も、対外開放の方針を維持するだけでなく、新たな領域を開拓するべきとの意見を反映した種々の施策を提案している。貿易に関しては、競争力ある現在の輸出力を保持すると同時に、付加価値の高い製品の輸出強化という方向性も示された。また、外資の積極的な導入策として、金融、物流、教育、医療、スポーツ等のサービス業の国際化を図り、さらに、中国語で「走出去」といわれる国外進出戦略の一環として、特に建設請負、農業、エネルギー・資源の分野における国際協力、中国の企業・金融機関の国際化を促進するとの考えが提唱された。

本計画案にかかる以上の内容は、中国事業を展開する日本企業にとって重要な意味をもつものと思われる。日本は、少子化により国内市場が縮小していくと予測されており、これに悩む日本企業には、特にサービス業の分野につき中国市場で多大な利益を上げる可能性が示された。その一方で、映画「ハゲタカ」でも描かれたように、国外進出に挑む巨大な中国マネーにどのように対応していくか、この点も、今後の日本政府、日本企業にとって大きな課題となるであろう。

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