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中国経済の現状評価(5)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2007年12月17日

記事概要

 本稿では、温家宝総理・周小川人民銀行行長の会見を中心に、林毅夫・易憲容らエコノミストの見解を併せて紹介する。

はじめに

 本稿では、温家宝総理・周小川人民銀行行長の会見を中心に、林毅夫・易憲容らエコノミストの見解を併せて紹介する。

 

1.温家宝総理

 

 11月15日、シンガポール国立大学で講演し、質疑応答の際に次のように語っている(新華社2007年11月20日)

(1)住宅問題

 人民の生活について取り上げるとすれば、最も関心があるのは住宅問題である。中国は改革開放30年で住宅条件が大きく改善し、現在都市・農村住民の1人当たり住宅面積は20㎡を超えている。しかし、分布は不均衡であり、特にここ数年住宅価格が急上昇しており、人民は大きな意見(不満)を持っている。

 この問題を解決するには次の4点を総合的に考慮しなければならない。

①政府の最も重要な職責は、低家賃の住宅を提供し、住宅の買えない者や出稼ぎ農民が低家賃で住宅に住めるようにすることである。

 このため、中国政府は今年49億元を投じて低家賃住宅を建設しており、地方財政も合わせると投入額は数百億元に達する。来年は低家賃住宅の建設を更に強化する。

②エコノミー型住宅を建設する。

 エコノミー型住宅は大多数が中産階層向けのものである。彼らの多くは賃金が高いとは言えない。中国は人口が多く土地が少ないので、エコノミー型住宅の平均面積は90㎡が比較的適当である。低家賃住宅とエコノミー型住宅については、政府はこれらを提供し、土地の需要を保障しなければならないが、当然これに用いる土地は節約し効率的に使用しなければならない。

③高級住宅は主として市場の調節に委ねる。

 しかし、国家のマクロ・コントロールは必要であり、不動産投機による市場の混乱を防止しなければならない。

④全国民に中国の国情を理解させなければならない。

 中国は13億の人口を抱えており、デッドラインである18億ムー(1ムーは666.7㎡)の耕地を死守してこそ中国人を養うことができるのである。中国では毎年1000万の新生児が誕生しており、毎年農村から都市に移転する1800万の人員の住宅を解決しなければならない。しかも、それ以外に2100万の流動する出稼ぎ農民についても居住条件を整えなければならない。

(2)株式市場

 政府はマクロ面において、企業の発展・改革を推進し、とりわけコーポレートガバナンスの改造を進め、企業が持続的に発展し利益を上げることができるようにしなければならない。これが株式市場の基礎を決定づけることになる。

 政府は監督管理を強化しなければならず、主として経済・法律の手段を通じて、株式市場をオープンで公正・透明なものにしなければならない。投資家にはリスクを教育しリスクを示さなければならず、株は儲かることもあれば損をすることもありうることを投資家に理解させなければならない。この道理は理論上は理解できても、感情的には得心がいかないものである。

 株式市場の発展は始まったばかりであり、我々は資本主義国家が100年以上かけて歩んだ道を十数年の時間で歩まなければならない。総じて見れば、我々にはまだ経験が不足している。

 私が総理に就任したばかりの頃の株式市場は指数が900にまで低下し、株式市場は罵声に満ちており、私は非常に沈鬱な気分であった。中国は大胆に流通・非流通株制度の改革を推進し、株式市場は急速に発展した。株価指数が高くなると、「資産バブルを防止しなければならない」「一旦バブルが破裂すると中国経済に危害を与えることになる」という声が出ている。私はこの意見はいずれも正しいと思う。

(3)省エネ・環境

 1-9月期のGDP単位当たりのエネルギー消費は1.8%減少し、汚染物質排出量は0.28%減少した。これは中国の発展における1つの転換点である。過去、これらの数字はいずれも上昇していたからだ。

 中国政府は第11次5ヵ年計画を制定した際、今後5年間でGDP単位当たりエネルギー消費を毎年4%減少させ、5年間で20%減少させる、二酸化硫黄・化学的酸素要求量を含む汚染物質排出総量を5年間で10%減少させるという目標を確定した。これは中国人が発展段階において自らに課した大きなプレッシャーである。総理として、私はこの目標を実現するには困難が非常に大きいと痛感している。

汚染問題は確かに存在しており、中国の発展が速い段階において高度に重視すべきことがらである。中国は環境問題の処理に一大決心している。過去5年間に廃棄した小型発電設備の発電能力は1400万kWであり、1万の小炭鉱を閉鎖した。中国はこのような方策を堅持することにより、発展しながら汚染を引き下げることが可能である。中国は必ず青い空に白い雲が浮かぶ中国となるだろう。

 

2.周小川人民銀行行長

 

 南アフリカのケープタウンで開催されたBIS会議に出席した際、次のように語っている(中国証券報2007年11月20日、証券時報同日)。

①現在の金利水準には満足しているが、中央銀行は将来の統計数値になおも密接な関心を払う。中国は頻繁に金利水準を調整する必要はないが、引き続き調整を行う可能性を排除はしない。再利上げについて、長期的見通しを語るつもりはないが、少なくとも19日の週はあり得ない。中央銀行の金利水準は経済データの状況によって決まるものであり、我々は引き続き将来の経済データに密接に注意を払う。多くの経済データの分析はいずれも十分複雑である。

②インフレ率には明らかな季節的な波動の特徴が存在する。9・10月のインフレ率はある程度上昇しているものの、大多数のエコノミストは季節的要因を除けば2007年末の消費者物価上昇率は4.5%と予想している。中央銀行としては、来年のインフレ圧力は大きくないと予想している。中国は計画経済から市場経済に徐々に向かう過渡期にあり、中央銀行は以前の公共交通・インフラ等の多くの領域において、価格が実態を反映していないという問題を矯正する任務に直面している。このことは、インフレ率がある程度上昇することを意味する。

 またG20財務大臣・中央銀行総裁会議に出席した際に、周行長は「人民元レートの弾力性を高めるには多くのルートがある。現在人民元レートの変動区間は合理的であり、実際のレートが変動区間を超えるような状況は、まれである。しかし、もし必要があれば変動区間の拡大を考慮する。これは世界経済情勢によって決定する」と述べるとともに、「中国は力の限り強いドルを支援し、強いドルを見ることを希望している」としている。

 

3.国家発展改革委員会 解振華副主任

 

 「中国省エネ・汚染物質排出減フォーラム」に出席し、次のように発言している(中国青年報2007年11月19日)。

①相当部分の地域は、依然GDPの発展を絶対指標とし、省エネ・汚染物質排出減を緩い指標としている。警戒すべき状況は、最近少なからぬ地域で重工業建設の傾向が非常に強まっていることである。例えば、二酸化硫黄の排出量の70%を占める鉄鋼・電力等の6大業種は7-9月期に前年同期比20%の伸びを示しており、わが国産業の重厚長大化構造は、依然改変されていない。経済発展がかなり速い(状態)から過熱に発展する危険性はなお存在しており、一部地方の汚染物質排出総量は既に環境の容量を超過している。

②現在、省エネ・汚染物質排出減のプロセスで暴露された問題[1]はすでに中央政府の関心を集めており、今後一時期集中的に政策・法規を打ち出すだけでなく、資金面では中央財政の支出を引き続き強化する。とりわけ、中央財政は20億元の移転支出を用意し、落伍生産能力の淘汰に成果を挙げた地域を奨励する。

 

4.社会科学院 斉建国研究員

 

 前述の「中国省エネ・汚染物質排出減フォーラム」において、次のように発言している(中国青年報2007年11月19日)。

①中央の政策は「大を助け、小を抑える」というものであり、汚染が深刻で技術の落伍した小企業を淘汰するというものである。しかし、政策は先に大を助け、後から小を抑えており、しかも落伍した生産能力の退出メカニズムが不完全であるため、結果として大型の代替プロジェクトが着工されるものの、取締りの対象となるべき技術の落伍した汚染企業は、様々な理由から引き続き生存している可能性がある。あるものは地方政府の保護の名義下で存続し、あるものは経済の相対的に落伍した地域に移転されているのである。

②「大を助け、小を抑える」という中央の政策は、地方において執行が歪曲化されている可能性がある。この直接的結果として、国家は環境保護を引き続き強化しているにもかかわらず、重化学工業は成長速度を緩慢化することはなく、却って「大を助ける」ことにより生産能力を拡大し、経済全体の成長加速を推進しているのである。

 

5.北京大学中国経済研究センター 林毅夫主任

 

 11月17日、「北京大学校友上海フォーラム」において、次のように発言した(東方早報2007年11月19日)。

①資産価格の伸びが速すぎることに対しては、大胆に利上げを行うべきである。他国の経験からしても、レート引上げに依存するだけでは資産バブルの問題を解決できない。

②合理的な人民元切上げ幅は毎年3-4%であるべきだ。これは、輸出企業に一定のプレッシャーを与えるが、技術水準・産業付加価値を向上させ、企業管理を改善するエンジンとなる。

③レートの大幅な引上げは国内の就業・農業の発展等の面にマイナスの影響を与える。人民元切上げが速すぎれば、輸出の減少をもたらし、生産能力の過剰問題を有効に緩和できなくなるとともに、企業の雇用能力が低下し、企業業績の下降、甚だしきは銀行の不良債権比率の上昇をもたらす。また、人民元の切上げが速すぎれば輸入とりわけ農産品の輸入拡大をもたらすことになり、わが国の農村経済、甚だしきは国民経済全体に巨大なマイナスの影響をもたらすことになる。

④現在、わが国は内需の相対的不足と外需が強すぎるという局面に直面しており、所得に占める賃金の比重を増加させるべきである。レートを引き上げる方式では内需を改変することはできず、生産能力過剰問題を深刻化させるだけである。

 

6.社会科学院 易憲容研究員[2]

 

 広州日報2007年11月20日に「契約成立の低迷は、ビル市場が転換点に入ったことを説明している」との評論を掲載している。

①数年来、国内の住宅価格は持続的に上昇し続けた。しかし、市場から得た情報から見ると、少なからぬ地方で強気の住宅価格に緩みが現れており、北京・上海・深圳等の都市のビル市場の契約成立が低迷し、成約量が急激に収縮している。

②10月、深圳の住宅新規建設分は契約成立が1日平均60軒に満たず、9月より半分以上減少している。しかも11月上旬の成約は1日平均30軒前後であった。一部の住宅新規建設分は値引き戦略も既に採用されている。10月の広州の10の区の分譲住宅は成約量が4502軒であり、前月より14.77%減少した。中国指数研究所がモニターしたデータでは、11月5-11日の1週間の上海ビル市場の成約量は、前の週の5457棟から20.6%減少した。北京市の不動産取引管理ネットのデータによれば、11月5-11日の1週間の建築中の分譲住宅の1日平均成約量は、前の週より毎日100軒近く減少しており、9月の1日平均成約量は391軒、10月の1日平均成約量は404軒といずれも大きくはない[3]

③不動産市場の発展モデルについて言えば、最近政府が打ち出した一連の不動産市場への政策は、明確な態度が示されている。即ち、中国の不動産市場は消費者のための市場でなければならず、住民の基本的な居住条件を解決するための市場でなければならない、ということである。不動産市場の投資家からすれば、政府の政策は相反するものではないものの、投資をする場合市場メカニズムのリスクを引き受けなければならなくなる。このような政策条件下では、不動産市場への投資リスクが高すぎ投資収益が理想的でないと考えれば、自ずとこの市場に参入する人は減少するだろう。

④政府が貸出し政策を更に引締め、不動産税制を更に整備し、不動産投資への制限を更に増やしさえすれば、国内の不動産市場は健全な発展を持続することができる。

⑤現在、わが国の不動産市場の制度・ルールはまだ相当不完全である。最近メディアで露見した張家界の違法な土地譲渡問題は、最近の不動産市場の土地売却問題に対する全面的な整頓の新たなブームが始まったことを示唆するものである。(2007年11月記・5,163字)

 

⑥国内の住宅価格の暴騰はすでにかなりの時間が経過している。市場の価格は永遠に上下に波動するものであり、上がるだけで下がらないということはあり得ない。中国の不動産市場は市場の基本ルールを超越することができるとでもいうのか?最近打ち指された一連の不動産市場に対する政策を見ると、政府が既に不動産市場に対する認識を根本的に改めたことが分かる。とすれば、ビル市場の調整も間近に迫っているということだ。


 


[1]  数週間前、環境保護部門の会議において、重化学工業への地方の投資衝動が言及された。当時環境保護総局の関係幹部が指摘したケースによれば、内蒙古のオルドス1市だけでも4つの同じ機能をもつ石炭化学工業基地が建設されており、周辺の陝西・寧夏等にも完全に機能が重複した若干の石炭化学工業基地が建設中である。
[2]  易憲容は、中国の不動産市場にバブル的傾向があるという「根拠のない指摘をし、人民を誤った方向に誘導した」として金融研究所長の李揚から主任職を解任されたが、社会科学院の籍は保っている。だが、活動の中心が香港となったせいか、最近の言論は広東省のメディアに掲載されている。
[3]  経済参考報2007年11月19日も、9月の北京の分譲住宅の1日平均売却軒数は471軒、面積は6万2928㎡であり、前年同期よりそれぞれ15%、7%減少し、10月の建築中の分譲住宅の成約は9月に比べ1日平均17軒減少し、既存住宅の成約も1日平均16軒減少していると指摘している。

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