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預金準備率の引上げ

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2010年5月17日

記事概要

人民銀行は5月2日、5月10日から預金準備率を0.5ポイント引き上げることを発表した。今年に入って3回目の引上げである。これにより、大型商業銀行の預金準備率は17%(過去最高は17.5%)、中型は15%となる。今回の引上げにおる資金凍結効果は2500-3000億元と予想されている。農村信用社・村鎮銀行は暫定的に13.5%に止めおくこととされた。本稿では、この引上げに対する各界の反応を紹介する。【6,609字】

預金準備率の引上げ

田中 修

はじめに
 人民銀行は5月2日、5月10日から預金準備率を0.5ポイント引き上げることを発表した。今年に入って3回目の引上げである。これにより、大型商業銀行の預金準備率は17%(過去最高は17.5%)、中型は15%となる。今回の引上げにおる資金凍結効果は2500-3000億元と予想されている。農村信用社・村鎮銀行は暫定的に13.5%に止めおくこととされた。本稿では、この引上げに対する各界の反応を紹介する。

1.人民銀行2010年第1四半期中国マクロ経済情勢分析(4月23日)
 人民銀行調査統計司が発表した。主要な注目点は以下のとおりである。

(1)経済成長率
 前期比でみた1-3月期のGDP実質成長率を12.2%と試算している(国家統計局発表の前年同期比は11.9%)。

(2)消費・投資
 1-3月期の社会消費品小売総額は前年同期比実質15.4%増である(名目は17.9%)。
 1-3月期の全社会固定資産投資は前年同期比実質24.7%増である(名目は25.6%)。また、都市固定資産投資は実質25.5%増である(名目は26.4%)。
 所有形態別では、1-3月期の民間投資は前年同期比30.4%増、国有及び国有株支配企業の投資は同21.1%であり、2009年以降初めて民間投資が国有及び国有株支配企業の投資を上回った。

(3)消費者物価
 1-3月期の消費者物価上昇率は2.2%であったが、食品価格の上昇が5.1%であり、これが消費者物価を1.7ポイント押し上げた。うち穀物価格の上昇は9.5%であり、消費者物価を0.3ポイント押し上げている。このほか、居住価格の上昇は2.9%であり、消費者物価を0.4ポイント押し上げた。

(4)当面の金融政策
 引き続き流動性管理を強化し、マネー・貸出の適度な伸びを維持し、物価総水準の安定化に努力し、経済の平穏で比較的速い発展の維持・経済構造の調整・インフレ期待の管理の関係を正しく処理しなければならない。

2.公開市場操作

中央銀行手形が5月4日に200億元(1年物)、5月5日に1240億元発行された(3ヶ月物140億元、3年物1100億元)。この週の満期到来資金は1220億元であるので、資金の純回収は220億元となる。人民銀行は5月2日の週を含め、連続11週資金の純回収を行っている。また、中央銀行手形の満期は長期化の傾向にある(新京報2010年5月6日)。
4-6月期、公開市場操作の満期到来は1兆9040億元であり、うち4月が7010億元、5月が4230億元、6月が7800億元である。これらの規模は1-3月期よりは低いが、中央銀行は日常的に公開市場で資金回収を行うことになる。4月の資金回収は1兆1380億元であり、純資金回収は4370億元であった(経済参考報2010年5月4日)。

3.預金準備率引上げへの反応

(1)中央財経大学中国銀行業研究センター 郭田勇主任
 これは適度に緩和した金融政策が引き続き常態に回帰しているのである。去年、銀行貸出が多すぎ、流動性管理の強化が中央銀行の1年を貫く政策である。CPIは国際上の警戒ライン3%より低いが、PPIの上昇は比較的速く警戒に値する(新華網北京電2010年5月2日)。
PPIがCPIに波及する時間は一般に3-6ヶ月であり、金融政策は数ヶ月後の経済情勢に対してあらかじめ対応する必要がある(人民日報海外版2010年5月5日)。

(2)中国発展研究基金会 湯敏副秘書長
 中央銀行が再度預金準備率を引き上げたのは、主として資産バブル・インフレ・経済過熱のリスクを防止するためである(新華網北京電2010年5月2日)。

(3)社会科学院金融研究所中国経済評価センター 劉煜輝主任
 第1四半期の後、経済は熱気を帯びており、経済の実質成長率は既に潜在成長率を上回っている。同時に、資産バブルが累積している。CPIの上昇率はなお穏やかであるが、中央銀行が公布した企業商品価格等のデータからすると、上昇幅はすでにかなり大きくなっている。以上の背景の下、金融政策を早急に常態へと回帰させることが必要である(新華網北京電2010年5月2日)。
 中央銀行手形により流動性を回収するよりは、預金準備率を引き上げる方がコストがもっと低い。中央銀行が預金準備率引上げを選択し、預金準備率引上げを選択しなかったのは、経済体制と関係がある。現在、地方政府は負債が大きく、自ずと利上げを望まない。銀行も預金金利引上げを望まない。このため、このような形でコストが引き上げられたのである(南方日報2010年5月4日)。

(4)交通銀行チーフエコノミスト 連平
 中央銀行が再度預金準備率を引き上げたのは、主として2方面の考慮に基づくものである(人民日報海外版2010年5月5日)。
①当面市場は、内部における中央銀行手形の満期到来・外部におけるホットマネーという二重の要因から流動性の過剰な圧力に直面している。預金準備率の引上げは、この圧力への対抗手段である。
②預金準備率の引上げは、銀行貸出を更に抑制することにもなる。
 利上げには物価・資産価格・人民元切上げ等の多重要因を考慮することが必要であり、現在不動産市場・株式市場が揺れ動き瀬戸際にある状況で、近いうちに利上げが行われる可能性は大きくない(上海証券報2010年5月4日)。

(5)モルガンスタンレー中華地域チーフエコノミスト 王慶
 過去10週間の中央銀行の公開市場操作はおおよそ預金準備率0.5ポイント3回引上げの効果に相当する。しかし、最近外貨準備の持続的増大により中央銀行がドルペッグを維持する戦略の負担が増している。同時に、最近度重なる中米対話による人民元切上げ期待が外貨の流入を更に刺激している。公開市場操作では、持続的に増加する流動性管理の負担に対応するには不十分の可能性があり、預金準備率の引上げはもっと有効な手段である(人民日報海外版2010年5月5日)。

(6)興業銀行顧問エコノミスト 魯政委
 今回の預金準備率引上げは、人民元切上げ期待が生み出す外貨占款(中央銀行の外貨購入に伴う人民元放出)増がもたらした流動性に対抗するものである可能性がある。もし、今年の前2回の預金準備率調整が主として貸出の速すぎる伸びに対するものだとしたならば、今回の預金準備率の調整はむしろ人民元切り上げ期待が生み出した外貨占款を3000億元前後再回収するためのものだった可能性がある(人民日報海外版2010年5月5日)。
 今回の引上げは、経済の回復に対する中央銀行の楽観的態度を示すものであり、明らかにインフレ予防をより多く考慮している(経済参考報2010年5月4日)。
 今後の調整の余地は更に縮小した。今回の引上げは中央銀行が引締めの意図を明確に表明したものである(南方日報2010年5月4日)。
 4月の新規貸出は約7000億元であり、この水準は監督管理層の許容の範囲内である(上海証券報2010年5月4日)。

(7)申銀万国証券研究所チーフマクロアナリスト 李慧勇
 外貨占款は、今回の預金準備率調整の重要要因である。2009年下半期以降、外貨占款の伸びは加速の勢いを示しており、輸出超の期待の増大と人民元切上げの期待が徐々に強まる背景の下、外貨占款の見込みが継続的に増大している。最近大量の中央銀行手形が満期を迎え、中央銀行の公開市場操作で満期到来資金に対応するには規模的に限りがあり、預金準備率引上げにより銀行の貸出可能な資金を有効に減少させることができるのである(人民日報海外版2010年5月5日)。
 GDP、投資、CPI、貸出、マネーサプライ等5大要因から試算すると、利上げは必ず実行しなければならない段階に達した(南方日報2010年5月4日)。

(8)財政部 李勇副部長
 預金準備率引上げの趣旨は、流動性の管理と市場の期待の誘導にある。銀行の過度な貸出はインフレと資産価格上昇圧力をもたらし、中国はこれに対し柔軟な手段を使用したのである。インフレ期待とインフレに関し、我々は特に今年は適切な管理の実現に努力している(人民日報海外版2010年5月5日)。

(9)人民大学財政金融学院 趙錫軍副院長
 今回の預金準備率引上げは3つの角度から見ることができる(人民日報海外版2010年5月5日)。
①現在、金融機関の流動性は充足しており、経済成長が必要とする流動性需要を超えている。このため、中央銀行は金融機関の流動性を更に引き締めている。
②新規貸出の伸びが比較的速く、預金準備率の引上げでおおよそ2500億元の銀行資金を凍結する。これは一定程度、貸出の伸びを更に抑制する目的に資する。
③第1四半期のマネーの伸びが比較的速く、M2の伸びは25%であったが、正常なM2の伸びは17%前後である。預金準備率の調整は、マネーサプライを更に引き締め、インフレ圧力を軽減するものである。

(10)国家情報センター経済予測部発展戦略処 高輝清処長
 現在の経済状況はデータが示すほどには良くない。将来の経済成長は比較的大きなインフレ圧力に直面しており、四半期の経済成長に下振れリスクがあることを排除できない。現在預金準備率を引き上げているのも、将来のマクロコントロールの緩和方向への操作に余地を残しておくためのものである(人民日報海外版2010年5月5日)。

(11)国務院発展研究センター金融研究所 巴曙松副所長
 預金準備率引上げは利上げと代替性を有するので、短期間における利上げの可能性が弱まった(中国証券報2010年5月4日)。
 今年に入って以降、中央銀行は金融政策の操作において一貫した態度を続けている。すなわち、貸出の窓口指導・預金準備率調整といった数量手段を比較的多く段階的に使用し、金利・為替レート調整といった価格手段を用いることには比較的慎重である(南方日報2010年5月4日)。

(12)興業証券チーフマクロアナリスト 董先安
 その他の金融政策手段と比較して、中央銀行は明らかに数量型貨幣手段を偏愛しており、金利政策が緊縮作用を発揮できないことを心配している可能性がある。5月2日中央銀行が預金準備率引上げを決定したことは、利上げの時点を遅らせることを意味する。
 中国では、貸出金利を引き上げても銀行は貸出を圧縮せず、更に貸出を増やすことになる。普通の貸出市場の需要は供給より大きいので、もし銀行が更に高いリスクを甘受するならば、現在ないし今よりやや高い金利で更に多く貸し出すことができる。貸出金利の上昇はリスクに補償を提供するからである。利上げ後の貸出は拡張する可能性があり、有効に引締めることはできない。
このため、中国の現在の環境下では、準備金や貸出額のコントロールが金利に比べ直接的に有効な手段である。しかし、余りに頻繁に準備率を調節する代償は大きい。就業の解決・所得分配・内需始動に不利となるからである。準備金の上限は18%前後であり、現在すでに17%に達しているので、将来の引上げの余地は1-2回である(経済参考報2010年5月4日)。

(13)国泰君安証券研究所チーフエコノミスト 李迅雷
 第1四半期以来の政策執行状況からすると、中央銀行は数量型の手段を運用している。中央銀行は3月に資金を6020億元純回収し、4月に4370億元純回収し、3度の預金準備率引上げで8500億元を凍結した。商業銀行の貸出能力には疑いもなく一定の歯止めがかかっている(上海証券報2010年5月4日)。

(14)中央銀行貨幣政策委員会委員、清華大学経営管理学院金融系主任 李稲葵
 第1四半期の経済データは、現在わが国の経済発展の速度が速く、やや熱を帯びている。マクロの観点からすると、流動性過剰の抑制・経済過熱の抑制が主要な目標となっており、成長の維持は第2次的目標に下がった(南方日報2010年5月4日)。

(15)その他
①多くの機関は、超過預金準備率がなお2%前後あるので、この措置の銀行の貸出能力に対する影響には限りがある。しかし、市場に対して政策の立場が更に引締めであるというシグナルを出すことにはなった(経済参考報2010年5月4日)。
②エコノミストの主流は、今回の調整は現在の経済情勢と関係があると考えている。第1に不動産バブルが深刻であること、第2に現在のインフレの速度が速くなっていること、第3に過熱の萌芽があること、である(経済参考報2010年5月4日)。
③これは年内に中央銀行が利上げを行わないことを意味するものではない。準備率の引上げは決して利上げの可能性を排除しない。しかし、不動産市場のコントロールにはなおより多くの財政税制手段・行政措置を使用できることを考慮すると、利上げの時点を決めるのは経済が過熱しているかどうかである(経済参考報2010年5月4日)。
④多くのアナリストは、もともと4月に発生するはずだった利上げが、少なくとも7月まで延びた可能性があると予測している(南方日報2010年5月4日)。

4.株式市場・不動産市場への影響

(1)国金証券チーフエコノミスト 金岩石
 預金準備率の再引上げは株式市場にとって悪材料であり、直接利上げが行われた場合のマイナスの衝撃と比べても更に大きい。今まで市場は利上げを静観して待っていたのであり、預金準備率が引き上げられたからといって、利上げの期待が打ち消されたことにはならない。預金準備率が引き上げられた後は利上げはなく、悪材料が出尽くしたという考え方は、明らかに楽観に過ぎる。
 預金準備率引上げは、第1四半期の鉄道・公道・インフラ建設、固定資産投資の構造的過熱に対する中央銀行のタイムリーな反応であり、不動産市場のコンロトールに対するマクロ政策の手配である。現在の情勢では、株式市場と不動産市場の間でシーソーゲームはありえない。不動産市場の投機資金が大挙して撤退しても、株式市場の投機に流入する可能性は大きくない。投資家は続いて更に引き締め政策が打ち出されることをあまねく心配しており、A株市場は引き続き下落し、底を探ることになろう(上海証券報2010年5月4日)。

(2)国泰君安証券研究所チーフエコノミスト 李迅雷
 預金準備率の引上げは、中央銀行がマネーの狂気じみた拡張を断固として抑え込むという決意の表明であり、これは株式市場に一定の圧力をもたらす(上海証券報2010年5月4日)。

(3)中央銀行貨幣政策委員会委員、清華大学経営管理学院金融系主任 李稲葵
 預金準備率の引上げは主として銀行貸出に影響する。株式市場の主たる資金は銀行からではないので、株式市場への影響は限りがある。不動産市場の発展に対しては一定の抑制効果がある(京華時報2010年5月3日)。

(4)人民大学財政金融学院 趙錫軍副院長
 預金準備率の引上げは、商業銀行の貸出能力に直接影響し、銀行は貸出先を調整し、不動産分野への貸出を減少する可能性がある。明らかに、これまで不動産市場に対する銀行貸出は何回かの緊縮政策を経て、すでに引き締まっており、今回の調整により銀行の貸出の余地は更に小さくなり、ディベロッパーの借入は更に減少することになる(南方日報2010年5月4日)。

(5)北京大学不動産研究所 陳国強所長
 不動産の融資依存度は比較的高く、切っても切れないと言ってよい。切上げの後、一部の流動資金が凍結されると同時に、貸出も影響を受けよう。不動産業に対する銀行貸出引締めのマイナスの影響は容易に見てとれる。影響の程度がさほど大きくなくても、心理・期待における影響は非常に大きい(南方日報2010年5月4日)。

(6)その他
①広東省の1-3月期不動産開発資金は1356.45億元に達したが、うち373.15億元は国内借入であり、27.51%を占める。この割合は2002年以来最高となっており、前年同期比で42.4%増加した。外資利用と自己調達資金の比重が大幅に低下する状況下、ディベロッパーの国内借入への依存は加重されている(南方日報2010年5月4日)。
②4月に不動産市場への貸出コントロールの政策が重ねて打ち出された後、不動産市場の取引量は減少した。中国指数研究院のデータによれば、4月最後の1週間、35都市のうち21で成約面積が前週から減少し、なかでも杭州は-73%と下げ幅が最も大きく、深?-64%、北京-45%、上海-38%、広州-2%となっている。5月1、2日の広州・深?の成約量はいずれも歴史的最低点に接近している(南方日報2010年5月4日)。
③不動産業者は、「政策の効果はまだ不動産市場に完全には現れていないが、大部分の住宅購入者の心理・期待に影響を与えており、これが市場が模様眺めに陥り、ディベロッパーが販売を促進できない主要原因となっている。しかも、中央銀行の再度の預金準備率引上げが住宅購入者を更に強気にしており、一連の政策コントロールの下、今年は不動産市場の転換点が早期に出現するだろう」と指摘している(南方日報2010年5月4日)。

(2010年5月6,609字)

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