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不動産税をめぐる議論

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2010年6月2日

記事概要

上海市政府が不動産税を近々導入するという噂から、有識者・政府関係者の間で不動産税をめぐる議論が活発化している。その概要を紹介しておきたい。【4,674字】

はじめに
 上海市政府が不動産税を近々導入するという噂[1]から、有識者・政府関係者の間で不動産税をめぐる議論が活発化している。その概要を紹介しておきたい。

1.上海市の対策の噂
 5月12日、上海市政府近々不動産市場をコントロールする細則を打ち出し、かつ不動産税の徴収を開始するという噂が流れた。さらに、最終的に選ばれた案は現行の不動産税の概念を応用し、原案では1家庭当たりの平均面積を不動産税を徴収するか否かの重要な根拠とし、課税条件に合致すれば、毎年不動産価値の0.8%の不動産税を支払わせる。課税ベースは評価価格であり、取引価格ではない、という情報も流れている(中国経済週間2010年5月18日)。

もしそうであれば、ある家庭が所有する住宅面積が免税面積の限度を超えていれば、その限度を超えた面積部分のうち非営業用が新たな課税負担となるだけなので、大衆はパニックになる必要はない、との報道もある(証券時報2010年5月19日)

2.現行の課税の状況

(1)概観
 現行の不動産税制は、1994年の税制改革を基礎として徐々に形成されたものである。現行の税制のうち、不動産業分野に係る税目は、主として営業税・土地増値税・不動産税・耕地占用税・企業所得税・個人所得税・印紙税・都市土地使用税・都市維持建設税・固定資産方向調節税等10余りである。現行の税制では、行政機関・人民団体(各種の協会・研究会・学会等の団体)・軍隊が自ら使用するもの・事業費を財政が支出している機関・個人の居住用住宅等の不動産は免税対象となっている(中国経済週間2010年5月18日)。

(2)不動産税
 1986年10月公布の「不動産税暫定条例」の規定では、個人の所有する非営業性不動産は免税である。賃貸しない不動産については、不動産取得価格から10-30%控除した額を課税ベースとし、もし取得価格に依拠しない場合には、不動産の所在する税務機関が同種の不動産を参考にして課税ベースを算定する。税率は1.2%である。賃貸不動産については、賃料収入を課税ベースとし、税率は1.2%である(中国経済週間2010年5月18日)。
 伏見俊之・楊華によれば[2]、この税は納税義務者が納付困難であれば各省レベルの人民政府の許可により一定期間の減税または免税ができることとなっており、これを根拠にこの税は実際上余り機能していなかったのであろう。それが本格徴収との噂がたったため、今回の騒ぎになったものと思われる。

(3)物業税
 2003年10月の党16期3中全会の決議に盛り込まれ、2003年から全国でモデル試験が開始された。2009年末には北京・江蘇・深?・重慶・遼寧・寧夏・河南・安徽・福建・天津の10省市でテストが行われ、今年からはテストが全国に拡大され、各省は1つの都市を選定しテストを行うこととされている(中国経済週間2010年5月18日)。

3.政府関係者の意見
 意見はバラバラで混乱している。

(1)国務院法制弁公室財政金融司 季懐銀副司長(5月4日)
 住宅保有に係る課税は、住宅市場の健全な発展を保証する根本策であり、当面わが国が直面する手に負えない問題を解決する根本策でもある。課税するなら遅いより早い方が良いが、段階的に実施し、一遍にやるべきではない(中国経済週間2010年5月18日)。

(2)国家税務総局の一官員(5月11日)
 これまでに皆が噂している住宅保有税・不動産消費税は、全て誤りであり、このような税目は存在しない。現行法では不動産税と物業税が始動可能であるが、余り可能性がないのが物業税で、不動産税は可能性がある。もし、不動産税を徴収開始するなら、コントロール力は決して大きくないので、パニックになる必要はない(中国経済週間2010年5月18日)。

(3)国家発展・改革委員会経済体制総合改革司責任者(最近の発言)
 (国家発展・改革委は更に厳しいコントロール政策を準備しているとの噂に関して)発展・改革委は確かに不動産計画を制定中であるが、これは第12次5ヵ年計画における通常の1計画にすぎない(京華時報2010年5月24日)。

(4)国家発展・改革委員会産業研究所 黄漢所長助理(5月23日)
 今後3年間、不動産税の議論をすることはない(京華時報2010年5月24日)。

4.財政部財政科学研究所 賈康所長(人民網2010年5月24日)

(1)不動産税について
 「3年議論しない」というのは、研究者が言っていることであって、官を代表するものではない。1986年公布の「不動産暫定条例」の修正が行われる可能性はある。課税ベースが拡大される可能性については、注意して見守るだけである。

(2)現行税制について
 現在制度上重要なことは、住宅保有についてあるべき税制が欠けており、これだけ多くのコントロール政策があっても、今日に至るまで取引に係るものだけだということである。しかし、実際のところ、最も合理的な経済手段は保有への課税である。だが、今までこの基本形態が形成されてこなかったのである。
 市場経済の運営は、合理的な税制がなければ全く不可能である。もし不動産税のような税がなければ、住宅価格はさらにやりたい放題の投機の狂乱の特徴を呈することになろう。
 すでに10省市で物業税の実験を行っており、不動産税の課税ベース評価については技術上問題は存在しない。

(3)不動産税課税の住宅価格への歯止め効果について
 米国等の市場先進国での実施状況からして、住宅価格は決して明白には下降していない。これは、都市化発展のプロセスにおいては、各国は住宅価格の長期的上昇傾向を免れることはできないからであり、中国においては一層然りである。この都市化プロセスにおいては、住宅価格の上昇を長期的な趨勢のなかで改めていくしかない。今後5億余りの人口が農村から都市に移転することになり、住宅価格の上昇はおそらくいかなるパワーをもってしても改めることはできないだろう。

(4)不動産政策の調整について
 最新の一連の不動産コントロールは、政府の十分鮮明なシグナルを体現している。すなわち、各界があまねく住宅価格の上昇に関心をもつという巨大なプレッシャーのもと、政策決定上アクションを示さなければならず、今回のコントロールの程度は未曾有のものである。

 中長期に目をやれば、不動産の分野は全体として、保障の軌道と市場の軌道を統一的に企画協調させた発展戦略を必要としている。住宅価格については、政府は社会保障的性格をもつ住宅という1つの肝心な事柄をしっかり管理するだけでよく、分譲住宅の価格が高くてもそれは関係ない。それは市場自身が解決できることだからである。現在政府は往々にして、この市場に疑いなく税収を増加させる利点があると見ているが、(その一方で低所得層に対し)安住できる住宅を十分に提供するというまず肝心の問題をしっかり解決しておらず、中所得階層が尊厳ある生活を送り長期に住宅を借用できるようにするという問題をしっかり解決していないのである。

(5)税の名称について
 (不動産税、不動産特別消費税、物業税といった名称が飛び交っていることについて)これらの名称は実際のところ1つの事柄なのである。私は比較的合理的な表現は不動産税だと思っているが、具体的な操作面では別の言い方をしても関係ない。例えば、不動産保有税と言っても構わない。

5.中央財経大学税務学院 劉桓副院長(人民網2010年5月24日)

(1)新税の噂について
 重慶の不動産特別消費税は、最も筋が通らない。なぜなら不動産特別消費税は流通税であり、売買において課税することになる。これは、不動産税が財産税であるという基本的な性質に反するものであり、税理論上通用しない。しかも、これは住宅購入者の負担を増すものであり、運用が悪いと価格上昇要因となる可能性がある。

 上海が提起した(不動産)保有税は、住宅保有に対する不動産税の課税である。この言い方はメディアによって通俗化されているが、その実、不動産保有税は不動産税である。過去の不動産税は、商業用不動産にのみ課税されていたということに過ぎない。上海で不動産税を徴収するという噂は、上海がすでにテストの内諾を得たというシグナルかもしれない。とはいえ、国が不動産税の課税を行うならば、上海・北京・深?などの都市を先行的テスト地域とするだろう。だが、上海だけが不動産税の情報を流しており、北京は態度を表明していない。不動産税は地方税ではあるが、税法の立法権は中央にあり、上海がテストを開始できるかどうかは、中央の統一的手配を見る必要がある。

(2)物業税について
 物業税は、良い税目である。1つの住宅に土地使用税・不動産税を課すと比較的複雑になる。物業税を課せば、土地使用税と不動産税をひとまとめにすることができ、土地譲渡代を納めた後さらに使用税を納付する必要はなくなる。したがって、物業税の課税は費用・税の管理という点で新たな規範化を進めることになる。だが、不動産税では従来のベースによる課税にすぎず、総合的に更に改革を進めるという目標を達成できない。

 しかし、物業税の課税は利害関係が比較的多いので、物業税を打ち出すにはまず全人代が立法化しなければならない。物業税は長期的には良い税目であるが、緊急の用を足すものではないので、不動産税の課税が現実的である。

(3)不動産税の名称について
 不動産税というのは米国の呼称である。米国では不動産には土地所有権が含まれ、売買・転売の際には住宅と土地が一緒に譲渡される。しかし、中国においては土地は国有なので、不動産税という形で課税するのは適当ではない。物業税という概念が提起された根本は、土地所有権にからむ問題がある。建築物は所有しているが土地は所有していない場合、香港では物業と呼ぶ。このため、物業税の課税が提起されたのである。ただ、これをどのような名称で呼ぶかは決して重要ではなく、重要なことは課税できるか、課税の目的を達成できるかである。

6.その他の論調

(1)証券時報2010年5月19日
 もし、新たな不動産税の課税範囲を個人の所有する非営業性不動産にまで拡大するのであれば、もともと高価な住宅にいる住民は必然的に「泣きっ面に蜂」になり、人々の恨みをかうことになる。これは、明らかに時宜にかなったものではなく、民心・民意に沿うものではない。もし不動産税の課税範囲を拡大する必要があるのなら、限度面積を超えない部分については長期の免税措置を設定すべきである。そうすれば民意の強烈な反発を引き起こさずにすみ、新不動産税に対して大衆がパニックに陥ることを回避できる。

(2)京華時報2010年5月24日
 最近、1つの寓話が流布されており、これはおそらく不動産税をめぐる「神々の闘い」を反映したものと思われる。

 明け方、三蔵法師が夢の中で目覚めた。するとベッドの前に孫悟空がひざまずいているのに気がついた。そこで「悟空、どうしたのか?」と尋ねると、孫悟空は顔全体を涙でぬらしながら、「お師匠さま、御願いがございます。次に夢をみるときには、私の頭の輪を締め上げる呪文を唱えないようにしていただけますか。」

 つまり、一部の人からすれば、最近の不動産コントロールは(孫悟空=住宅価格の)頭の輪を締め上げる呪文を唱えているだけであり、(三蔵法師=規制当局が)夢の世界に入れば輪の締め上げは止まってしまうのである。しかし、残された問題は住宅価格=孫悟空が本当に誠実なのかどうか、それとも(規制を止めたとたん住宅価格が)あっという間にとんぼ返りをうって十万八千里の上方に跳ね上がってしまうか、ということなのだ。

[1]重慶市では、不動産特別消費税導入の噂が流れている。

[2]伏見俊之・楊華『中国 税の基礎知識』(税務研究会出版局2009年)

(2010年6月4,674字)

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