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地方政府の融資プラットホーム問題

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2010年6月9日

記事概要

今年に入り、地方政府が資金調達のために設立した会社である「融資プラットホーム」が、償還財源の目処があいまいなまま巨額の借入れを行っていることが問題となり、潜在的財政リスク・金融リスクの問題として、注目をあびている。このため、人民日報海外版2010年5月21日は、海外で中国財政・金融への懸念が拡大することを防止するため、「社会科学院の専門家は地方政府の負債総額はなおコントロール可能な範囲であると述べている」と題する記事を発表した。この記事は、融資プラットホームに関する論点がよくまとまっており、以下概要を紹介することとしたい。【3,078字】

はじめに
 今年に入り、地方政府が資金調達のために設立した会社である「融資プラットホーム」が、償還財源の目処があいまいなまま巨額の借入れを行っていることが問題となり、潜在的財政リスク・金融リスクの問題として、注目をあびている。このため、人民日報海外版2010年5月21日は、海外で中国財政・金融への懸念が拡大することを防止するため、「社会科学院の専門家は地方政府の負債総額はなおコントロール可能な範囲であると述べている」と題する記事を発表した。この記事は、融資プラットホームに関する論点がよくまとまっており、以下概要を紹介することとしたい。

 不動産業と密接な関係をもつ地方政府融資プラットホームが、今回の不動産コントロールの嵐の中で関心の焦点となっている。不動産コントロールは、土地譲渡収入を減少させ、地方政府の財政収入の減少を直接にもたらし、地方政府融資プラットホームの債務の償還能力を引き下げることになるのであろうか?

 関係リスクを防止するため、中国銀行業監督管理委員会はすでに明確に商業銀行が6月末までに地方融資プラットホームに対する整理を全面的に完成するよう要求しており、6月末までに全ての地方融資プラットホームがプロジェクトの資産の内容を明らかにし、銀行が徹底精査を進めるよう要求している。

1.地方融資プラットホームの負債の伸びは減速していない

 中国銀行業監督管理委員会の劉明康主席は先日、2009年末までに地方政府融資プラットホームへの融資残高が7.38兆元、前年比70.4%増となっていることを明らかにした。
 地方政府融資プラットホームの負債規模は、今年も激増の勢いにブレーキがかかっていない。国務院発展研究センターマクロ部の魏加寧副部長は、今年に入って数ヶ月の新規貸出増のうち、約40%が地方政府融資プラットホームに流れ込んでいると指摘している。

 ある調査によれば、地方政府の借入依存度・債務比率は高止まりとなっており、一般にGDPの水準を超え、深刻な地方では現地の財政収入の数倍を超えているものもある。
 しかも、地方財政の償還能力は十分人を心配させるものである。「現在、全国に数千社ある地方融資プラットホームの投資プロジェクトは、その10%のみがプロジェクトの生み出す現金を借金の償還に用いることができ、大部分のプロジェクトは土地開発の後売却したキャピタルゲインを用いて償還しなければならない。また一部のプロジェクトは全て現地政府の財政補助により償還するものである」と中国社会科学院地域金融生態環境評価課題グループの劉煜輝責任者は述べる。この課題グループは、今年初めに関係部門の支援の下、全国の範囲で大規模に地方政府の債務比率と融資プラットホームのリスクの程度の調査を進めてきた。

 不動産コントロール政策の影響の下、住宅価格の下降傾向の出現が始まったばかりでなく、地方財政がずっと依存してきた土地譲渡収入も下降する可能性がある。昨年、全国土地譲渡収入は1兆4239.7億元に達した。専門家の推計では、この不動産コントロールが経過すると、今年の全国土地譲渡収入は4000億元前後減少する可能性があり、最近頻繁に出現する土地の応札者ゼロ現象がこの傾向の証左となっているように見える。

2.負債総額を過度に心配する必要はない

 土地譲渡収入の下降は地方政府融資プラットホームの債務償還リスクの増大をもたらす可能性があるが、多くの専門家は記者に対し、地方政府融資プラットホームの負債総額は現在なおコントロール可能な範囲内であり、過度に心配する必要はないと述べている。
 財政部財政科学研究所の賈康所長は、「地方政府の負債は総量として大きな脅威ではない。問題は起債の不規範性にあり、例えば、一部地域の起債と元利償還能力は釣り合っておらず、深刻なアンバランスが出現している」と述べている。

 「リスクは確かにあるが、コントロール可能な範囲内である。ミクロ面から見ると、地方政府は不良資産処理等の方面に豊富な経験を有すると信じている」と劉煜輝は述べる。
 国務院発展研究センター金融研究所の巴曙松副所長は記者に対し、「地方政府融資プラットホームのリスクを過度に誇大視するのも客観的ではない。なぜなら、これらのプラットホームの70%を占める県レベル政府の融資プラットホームに対して、商業銀行はずっと慎重な態度をとっていたからである。融資構造を分析すると、財政償還能力が比較的強い省市レベルの投融資プラットホームが主要な比重を占めていることが分かる。このほか、土地収入が地方政府の収入の50%を超過している都市は、実際には指折り数えるほどしかなく、大部分の都市の財政収入構造は多元化しており、土地収入への依存度は相対的に限りがある」と述べる。

 巴曙松はまた、中国で都市化を推進するプロセスにおいて、地方政府が各自の投融資プラットホームを通じて資金調達を行うことには、内在的な必然性があると考えている。一般的意義からして、地方政府が融資プラットホームを設立するのは、主として中国の分税制体制の下では、地方政府の権限と財源が対等でないからである。同時に、中国の移転支出制度はなお不完全である。このため、中国の都市化が急速に発展する段階においては、地方のインフラ建設投入がかなり大きく、しかも大部分の地方政府の支配可能な財政力では膨大な資金需要を到底充足することはできず、外部に資金を求めるしかないのである。更に言えば、現在地方政府が適切な資金調達ルートを欠いていることが、現在の困窮の主要原因である。地方政府が都市投資企業を通じて借金し、中央投資プロジェクト・地方投資プロジェクトのために資金を提供することはやむを得ないことなのである。

3.地方政府に起債権限を与えることを建議する

 中央銀行の周小川行長は、もし地方政府債・市政債の発行を地方政府の資金調達の「前門を開く」ことと見なし、現在地方政府が行っている融資プラットホームを「後門を開く」ことと見なすならば、「やはり前門を開くほうがよい」と考えている。
 いわゆる「前門を開く」とは、地方政府が直接債券・市政債を発行する等の方式を通じて資金調達を行うことを指す。これに対し「後門から出る」「窓から飛び降りる」とは、現在地方政府が行っている大量の地方投融資プラットホーム・各種投資会社等の形式を形容するものであり、これには地方政府が各種借金に形を変えた保証を行うことも含まれる。
 財政部の謝旭人部長はかつて、地方政府の融資プラットホームを規範化する面においては、
①地方の財政力状況・受容能力の総合的分析を通じて規範化・コントロールを行わなければならない
②現在の融資プラットホームの資金調達状況の更なる整理・事実確認については、異なる状況を区別してそれぞれ処理を行わなければならない
③融資プラットホームを含む地方政府債に対する規範化・管理を強化し、リスクを事前警報するメカニズムを確立し、地方財政の債務償還メカニズムを確立しなければならない
と述べたことがある。

 劉煜輝は、「地方政府の機能の真の転換を推進し、地方政府の債務を数量化しかつ予算計画を公開することによりその透明度を高め、ブラックボックス操作を減らし、リスクを白日のもとに晒して消毒すべきである」と建議する。また彼は、「地方政府の資金調達ルートを増やさなければならない。とりわけ税収・財政収入の安定している沿海地域については、中央政府は地方政府に政府債券を発行させることを考慮してよい」と建議している。

(2010年6月3,078字)

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