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迫り来る不動産バブルの危険

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2002年11月12日

はじめに

 中国第3四半期の経済成長率は8.1%を達成し、1−9月の経済成長率は7.9%となった。四半期ごとに見ても、7.6%、8%、8.1%と成長率は加速しており、中国経済は自律的回復過程に入ったように見える。

 だが、これは第16回党大会を控えた祝儀相場であることにも注意する必要がある。江沢民体制の政治・経済政策の成果を総括する本大会において、足元の経済が悪化することはありえない。特に、江沢民が総書記を退くことが決まっていれば、なおさらである。

 前回、第2四半期の経済成長について、様々なコメントを示したエコノミスト達も、今回は揃って経済政策の成果を賞賛している。典型的なのは、北京天則経済研究所の張曙光である。彼は、第2四半期の経済統計が発表された直後に、経済運営に「常識では解釈できない」怪現象が出現したとし、経済統計の矛盾を鋭く指摘した。しかし、今回は彼は真っ先に手放しで第3四半期の成果を賞賛している(10月21日付け上海証券報、同23日付け中国証券報)。おそらく、彼の論調は、これまで「中国の経済統計は概ね正確である」としてトーマス・G・ロウスキーをはじめとする欧米のエコノミスト達の疑念に激しく反論を加えてきた経済当局をいたく刺激したのであろう。特に16回党大会を目前に控えた時期にそのような指摘を行うことは、「反党行為」にも等しい。

 このため、今回の経済論調は画一的で面白みに欠けるが、優れた指摘も見られる。固定資産投資の動向を中心にそのいくつかを紹介しておこう。

1.積極的財政政策の効果は薄れたか

 今回の多くのエコノミストの論調は、2002年度は2001年度同様1500億元の建設国債を発行しているにも拘らず、高成長が実現したということは、民需主導の経済成長が始まったとしている(上記北京天則経済研究所報告等)。しかし、事実はそうではないようである。

 国家発展計画委経済研究所「経済情勢・政策動向」研究グループ(10月30日付け中国証券報)及び国家情報センター経済予測部(11月5日付け中国証券報)の指摘によれば、昨年は1500億元の国債資金は完全に配布されておらず、300億元以上が今年に回っているという。また、昨年は10−12月に資金が集中配布されており、その経済効果は実際には今年の1−3月に現れている。しかも、今年は国家発展計画委が国債資金を今年中に使い切るよう指示しているので、実際には1800億元をはるかに上回る国債投資が行われることになり、既に8月までに1000億を超える国債資金がばら撒かれているのである。これは、かなりの経済効果を生んでいると考えられる。

 社会科学院「中国経済情勢分析・予測 2002年秋季報告」によれば、2002年上半期における固定資産投資のGDP成長率への貢献率は65%という高水準に及んでいる(10月21日付け経済日報)。1−9月の全社会固定資産投資は対前年度21.8%増であるが、国債投資が牽引する基本建設投資は24.6%増であり、前年同期より12.9ポイントもハイピッチとなっている。国家発展計画委マクロ経済研究院によれば、1−8月の国家予算支出のうち固定資産投資向けの資金は対前年度比57.4%増、基本建設投資向けの資金は同62.1%増という大変な伸びを示しているのである(10月9日付け中国証券報)。この影響を無視するわけにはいかないであろう。

 この国債投資の役割の見方によって、積極的財政政策を来年以降フェイドアウト(淡出)するべきか否かについても、シンクタンクの見方は分かれている。民間投資の役割を評価する北京天則経済研究所・中国社会科学院は段階的淡出に前向きであるのに対し、国債投資の役割を重視する国家発展計画委・国家情報センターは、来年も同規模の積極的財政政策の継続が必要だとしているのである。

2.過熱する不動産開発投資

 もう1つ、固定資産投資の中で急増しているのが不動産開発投資であり、1−9月対前年度29.4%増という高い伸びを示している。1−4月は38.8%増と異常な高率を示していたが、その後緩やかに伸びは減少している。これは、不動産バブルの再来を恐れる人民銀行がきつめ調節を始めたためという指摘もある(11月1日付け日経金融新聞)。

 しかし、既に不動産開発投資は過熱している。10月18日付け中国経済時報によれば、1−8月で、全国商品アパートの空室面積は対前年度14.1%増となっており、前年同期より13.2ポイント増加した。しかも、1年以上の空室面積は4397万平方メートルであり、対前年度11.5%増となっている。このため、7月までに2500億元の不良資産が発生している。中国不動産協会によれば、特に不良資産が深刻なのは、北京・上海・広東・杭州・武漢・山東であるという。同紙によれば特に杭州は非常に深刻で、記者がサンプル調査をしたところ、空室率は70%にも及び、これを保有しているのは、政府関係者・不動産業者を除くと、温州・台州の事業で資金を蓄積した個人オーナーである。しかも、初期に不動産開発に投資した者はリスクを恐れ、既に撤退を始めているというのである。

 また、北京においても、70%近くの住宅購入希望者が30万元以下の住宅を希望し、90%以上の者が100平方メートル以下のエコノミーな住宅を希望しているのに対し、実際に供給されているものの60%以上が30万元以上の「エコノミー」住宅で、その広さも甚だしきは300平方メートルに達しており、エコノミー住宅の貴族化傾向を警戒すべきだと指摘されている(11月2日付け市場報)。需給のミスマッチが広がっているのである。

 この不動産バブルが崩壊すれば、投資者は大損害を被ることになろう。国家発展計画委・国家統計局によれば、7−9月に全国経済成長率8.1%以上に不動産価格が高騰しているのは、上海(10.0%)、杭州(16.9%)、南昌(45.3%)、南寧(8.2%)である(人民網北京10月21日電)。このあたりは、かなりの危険水準といえるのではなかろうか。

 また、10月23日付け中華工商時報は、9月までに国家銀行の貸出しの伸びが急増しており、このかなりの部分が不動産開発に流れたのではないか、と指摘している。さらに、10月25日付け北京晨報は、人民銀行が不動産バブルの出現を警戒し、商業銀行の住宅開発貸出しの条件を厳格化するとともに、頭金なしの個人住宅貸付を再度厳禁したと報じている。この禁止令は1年前に既に発出されていたものであり、これが再度出されたということは、担保なしの個人住宅ローンが横行しているのであろう。空室のままよりは、誰かに入居してもらった方がわずかでも資金が月々回収できるという、ディベロッパー・金融機関の苦肉の策と思われる。

 しかし、このような不動産関連融資が、新たな金融機関の不良債権を生み出している恐れがある。

3.もう1つのバブル

 固定資産投資の中で伸びが低迷しているのは、更新改造投資(1−9月対前年度比16.3%増)である。インフラ建設・不動産開発投資が急進している一方で生産性向上に向けた投資が伸び悩んでいることは要注意であろう。

 そういうなかで、最近家電メーカーのプラズマ・カラーテレビ生産における技術バブルを懸念する声もある(10月18日付け経済参考報)。プラズマ・カラーテレビの核心技術を有しているのは、松下・パイオニア・NEC・富士通等の外国企業であり、中国企業はこれを有していない。核心部分の技術を持たないままの盲目的生産拡大は、これらの外国企業を利するだけであり、最終的に安売り合戦により中国家電メーカーに損失をもたらす可能性が高い。にも拘らず、各企業が一斉に生産基地の拡大に走っており、90年代中期にソニーが中国市場にフラット画面カラーテレビを持ち込んだ時の、盲目的生産拡大と大損失を再現する恐れがあると指摘しているのである。

 このように、一見好調に見える中国経済にも、様々な問題が隠れていることを見逃してはならない。

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