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ログイン2003年9月5日
<政治・政策、マクロ経済>
はじめに
5月における経済界の話題は、専らSARSの中国経済に及ぼす影響はどの程度か、というものであった。ところが、SARSの感染拡大の可能性がほぼなくなった6月下旬以降は、現在の経済の好調を新たな経済発展と見るべきか、景気過熱が始まっていると見るべきか、でエコノミストの見解の対立が先鋭化している。一方で、政府はすでに景気過熱の危険な芽については着々と対策を打ちつつあるのである。本稿では、その代表的な見解と政府の動きを解説することとしたい。
1.景気過熱論
(1)経緯
景気に関する警戒的な見解は、年初、国家情報センター予測部の人間が上層部に報告を提出し、現在の経済情勢には変化が現れ、一部の業種では過剰な投資が行われていることに注意を喚起したことに始まる。しかし、最も注目されたのは、中国改革基金会国民経済研究所の樊綱所長が6月頃から中国経済には過熱の萌芽が出現していると主張し始めたことであった。人民銀行もこれに呼応し、個別業種に投資過熱が発生していると警告したのである。
これに対し、国家統計局は「全局からみて、経済過熱問題を討論する必要はない」との見解を発表し、景気過熱論を封じ込めようとした。しかし、この論争は政府上層部を動かし、6月24日、温家宝総理は社会科学院・国務院発展研究センター・商務部・国家発展改革委等の専門部局の官員とエコノミストを招集し、景気座談会を開催し、下半期の経済政策について意見を聴取したのである。この場で誰が何を発言したかは、必ずしも明らかになっていないが、樊綱はここでも景気過熱について懸念を表明したようである。しかし、座談会終了後、国家統計局のチーフ・エコノミストである姚景源は、「現在の高成長は、速度と構造・質・効率が統一された成長である。個別地域・業種の盲目投資・重複建設は、なお高度に重視する必要があるが、全局から見れば過熱問題を討論する必要はない」と総括し、これ以上の議論の展開を抑えようとした。だが、国家統計局の意向とは裏腹に、その後論争は一層過熱し、今日に至っているのである(8月8日付け「商務週刊」)。
(2)樊綱の議論
彼の立論を要約すると、以下のとおりである(7月31日付け国際金融報)。
中国経済は既に過熱の萌芽が出現している。昨年下半期、投資は増加を加速し始めたが、今年SARSが発生したにもかかわらず、投資は依然加速している。6月末の投資の増加率は31%に達したが、この速度は実質ベースでは歴史上最高レベルであり、当然十分な注意を要する。
現在必要なのは、マクロ政策による「微調整」という手段によって、経済を過熱へと歩ませず、経済の乱高下を防ぐことである。需要不足という長期的問題の背景下においても、一時的な需要超過や経済過熱といった波動を否定することはできない。現在の情勢が継続し、経済成長率が10%以上に達し、生産財のボトルネックが悪化すればインフレが発生しうる。
中国の潜在成長率は8−9%であり、持続的な発展は可能であるが、今年の第1四半期は既に10%の成長であり、もしSARSがなかったら更に加速していたであろう。もし、10%を超えた場合、それでも潜在成長率といえるだろうか?10%成長を1・2年維持するのは問題ないとしても、さらに成長が加速すれば問題となるに違いない。
(3)人民銀行第2四半期貨幣政策執行報告
8月5日に公表された本報告は、これまで以上にメッセージ性の強い報告であり、人民銀行が今後経済運営に強い主導権を発揮する姿勢を示したものとして注目された。この報告では、産業分析の部分で次のような強い警告を行っている。
現在、わが国工業業種発展において存在する主要問題は、業種構造の不合理である。生産能力が過大ないくつかの業種がなお盲目的な拡張を行っており、新たな重複建設ブームは、必然的に構造不均衡を更に激化させている。業種の重複建設は、主として現在4方面に現れている。
(4)社会科学院数量・技術研究所 汪同三所長
マクロ経済が総体として過熱しているという表面的な現象の下で、構造問題が悪化しているとして、次の3点を指摘している(7月31日付け国際金融報)。
そして、汪所長は、このように投資と消費がアンバランスな状態では、長期的に国内消費需要を不足させ、マクロ経済の高成長の持続にも不利となる、と指摘する。さらに、過多な投資により形成された過剰生産能力が国内市場の有効需要を上回れば、必然的に輸出に振り向けられることになり、最終需要を外需に過度に依存するという経済体質に陥る危険を指摘しているのである。
(5)国家発展改革委 馬凱主任
馬凱主任は、8月25日、全人代常務委に経済社会情勢報告を行い、その中で現在中国の経済発展のなかで直面している困難として次の諸点を挙げている(8月25日新華網北京電)。
馬凱主任は、別の場において、産業構造の不合理について、更に詳述している(8月20日付け学習時報)。
2.楽観論
エコノミストには、楽観論の方が強い。
(1)国家統計局
この問題につき、議論の必要性すら否定する、前述の姚景源チーフ・エコノミストが典型的であるが、邱暁華副局長も、8月23日、企業高層管理者のフォーラムの席で、「全体としてみれば、中国経済について、過熱しているか否かという尺度を簡単に用いることはできない」とし、総体としては未だ過熱していないとした。彼が主張する過熱の判断指標は、総需要が過度に膨張しているか、インフレが激化しているか、の2つの指標であり、現在投資は急速に増大しているが消費は安定しているので、総需要は全体では過度に伸びてはいないとする。また現在物価上昇率も依然低いので、以上から過熱は生じていないという結論を導き出している。
(2)人民大学経済研究所 鄭超愚所長
2001−2005年は中国経済の拡張期であり、高齢化社会に備えるためにも経済成長率は8−9%の速度を保たねばならない、とする。この意味では、上半期8.2%成長は非常に正常であり、経済指標の伸び率を恐れる必要はなく、政府は積極的財政政策を実行し、国債を引き続き発行して公共投資を拡大すべきであると主張している(7月31日付け国際金融報)。
(3)国家発展研究センター金融研究所 夏斌所長
簡単に経済過熱と言うべきではない、とする。その理由として、現在貸出しが伸びているのは景気が回復したことによるものであり、銀行が経営姿勢を改め、積極的に貸出しを行うようになったからだとする。したがって、中央銀行が「芸術的に」貸出しの伸びを23%前後に抑制できれば問題ない、とする(8月12日付け国際金融報)。
(4)北京大学 蕭灼基教授
軽々しく経済過熱を口にしてはならない、とする。その理由としては、次の5点が挙げられている(8月18日付け金羊報・新快報)。
(5)国務院発展研究センター 張立群研究員
今年の経済は92年の経済過熱とは異なるとして、次の理由を挙げている(8月21日付け経済観察報)
張研究員は、中国経済は上向きの状況にあるが、繁栄にまでは至っていないとする。繁栄のメルクマールとして、彼は物価の急上昇と国際収支の悪化を挙げており、この2指標に問題がない以上、軽々に中国経済が過熱していると口にしてはならない、とする。
(6)その他
一々紹介しないが、北京大学宋国青教授、国家情報センター発展部・除宏源主任、国務院発展研究センターマクロ部・魏加寧研究員なども経済過熱論には慎重である。面白いのは、同じ国家情報センターの中で、人によって見方が分かれていることである。過熱論を上層部に最初に警告した予測部の人間は今でも匿名になっているので、センター自体の意見を必ずしも代表していたわけではなかったのかもしれない。
3.92年の論争
同様な論争は、実は92年にも存在した。91年の経済成長率は9.2%であったが、92年には成長率は14.2%、全社会固定資産投資の伸びは対前年比44.4%増となったのである。この年、特に生産が拡大したのは自動車産業であり、伸び率は50%増を超えた。また、海南の不動産開発会社は、92年初の372社から年末には1000社を超えるに至った。
このような状況を受け、92年12月下旬に開催された討論会で、エコノミスト達は現在の経済が過熱しているかどうかを検討したのである。参加者は、国家情報センター・社会科学院・国家統計局・国家体制改革委・人民銀行・国務院経貿弁公室・国務院発展研究センターの学者・官員であった。ところが、面白いことに、このときの絶対多数のエコノミストの結論も「過熱問題は存在しない」というものであった。当時、彼らは景気の現状を、天安門事件の引き金となった88年の景気過熱と比較している。その結果、今回の経済発展は88年と似ているところもあるが、本質的に異なり、92年の経済成長は3年の整理整頓を基礎として、経済が新たな発展期に入ったとしたのである。したがって、インフレなどは論外ということになった。
当時の論争では、経済は過熱しておらず、緊縮政策を取る必要なしとするエコノミストは「改革派」、経済は既に過熱しており、適時適切な調整が必要だとするエコノミストは「保守派」と見なされる傾向があったという(8月21日付け経済観察報)。このときの経済成長は、
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