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住宅市場のテコ入れ

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2015年4月8日

記事概要

人民銀行、住宅・都市農村建設部、銀行業監督管理委員会、財政部、国家税務総局、国土資源部は、住宅市場へのテコ入れ策を次々に打ち出している。本稿では政策の概要と識者のコメントを紹介する。

はじめに
人民銀行、住宅・都市農村建設部、銀行業監督管理委員会、財政部、国家税務総局、国土資源部は、住宅市場へのテコ入れ策を次々に打ち出している。本稿では政策の概要と識者のコメントを紹介する。

1.政策の概要
(1)人民銀行、住宅・都市農村建設部、銀行業監督管理委員会「個人住宅ローン政策問題に関する通知」(3月30日)
個人住宅ローン政策を更に整備し、個人が自ら住む・改善型の住宅需要を支援し、不動産市場の平穏で健全な発展を促進するため、国務院の批准を経て、以下のように通知する。
①引き続き住宅金融サービスをしっかり行い、個人・家庭が購入する改善型住宅需要を満足させる。
銀行が引き続き商業性個人住宅ローンと住宅公的積立金委託貸出を組み合わせた貸出を行うことを奨励し、個人・家庭が自ら住む一般住宅を購入することを支援する。

住宅を1軒所有し、かつそれに関する住宅ローンが未清算の個人・家庭に対して、居住条件を改善するため商業性個人住宅ローンを再び申請し、自ら住む一般住宅を購入する場合、最低頭金比率が40%を下回らないよう調整する。具体的な頭金比率と金利水準は、銀行が借入者の信用状況・償還能力等に応じて合理的に確定する。
(注)従来の最低頭金比率は60%(北京・上海・広州・深?は70%であった)[1]

②合理的な住宅消費に対する住宅公的積立金の支援の役割を更に発揮させる。
積立のある従業員・家庭が住宅公的積立金委託貸付を使用して自ら住む最初の一般住宅を購入する場合、最適頭金比率を20%とする。
1軒の住宅を所有し、かつ既に住宅ローンの清算が終了している積立のある従業員・家庭が、居住条件改善のため住宅公的積立金委託貸付を再び申請して自ら住む一般住宅を購入する場合、最低頭金比率を30%とする。
(注)従来の頭金比率は、自ら住む最初の一般住宅ローンは、90㎡以下は最低頭金比率20%、90㎡以上は30%であった[2]

③政策指導を強化し、貫徹実施・監督・政策評価をしっかり行う。
人民銀行・銀行業監督管理委員会各レベル出先機関は、「土地の事情に応じた施策、分類した指導」の原則に基づき、地方政府としっかり意思疎通を図り、銀行の差別化した住宅ローン政策の執行情況に対する監督を強化する。
国家によるローン政策統一の基礎の上に、銀行が管轄内の商業性個人住宅ローンの最低頭金比率と金利水準を合理的に確定するよう指導する。
住宅ローン政策の執行情況と実施効果を密接にフォロー・評価し、リスクを有効に防止し、現地の不動産市場の平穏で健全な発展を促進する。

(2)財政部、国家税務総局「個人の住宅転売に係る営業税政策調整に関する通知」(3月30日)
不動産市場の健全な発展を促進するため、国務院の批准を経て、個人の住宅転売に係る営業税政策を以下のように通知する(施行は3月31日)。
①個人が購入して2年に満たない住宅を対外販売する場合には、全額に営業税を課税する。
②個人が購入して2年以上(2年を含む)の非一般住宅を対外販売する場合には、その販売
収入から家屋購入代金を差し引いた差額に営業税を課税する。
③個人が購入して2年以上(2年を含む)の一般住宅を対外販売する場合には、営業税を免税する。
(注)従来は購入して5年が境であった。

(3)国土資源部鵜、住宅・都市農村建設部「2015年の住宅及び用地供給構造の最適化・不動産市場の平穏で健全な発展促進に関する通知」(3月25日)
全体は長文であるが、この中に次のような記述がある。
一、住宅及びその用地の供給規模を合理的に按排する
(二)住宅用地年度供給計画編制を強化する。
(中略)住宅供給が顕著に多い市・県、あるいは建設中の住宅用地が過大な市・県は、住宅用地の供給量を顕著に減らし、ないし供給計画を暫時停止しなければならない。住宅需給の矛盾が比較的際立ったホットスポットの都市は、市場の実際情況に基づき住宅用地の供給規模を有効に増やさなければならない。
二、住宅及び用地供給構造を最適化する
(五)不動産用地の構造調整を促進する。
不動産供給が顕著に多い、あるいは不動産建設用地が過大な市・県について、国土資源主幹部門、住宅・都市農村建設、都市・農村計画主管部門は、市場の状況に応じて、未開発不動産用地の用途転換案を検討・制定し、土地用途・計画条件の調整を通じて、未開発不動産用地の転換・利用を誘導し、国家の支援する新興産業・養老産業・文化産業・スポーツ産業等のプロジェクト用途の開発建設に用い、その他産業投資を促進する。新たな用途あるいは新たな計画条件に基づく開発・建設プロジェクトについては、関連する用地手続き処理を改め、相応の土地代金を改めて査定しなければならない。

2.識者のコメント
(1)全国不動産商会連盟顧雲昌執行主席(新華網北京電2015年3月30日)
国土資源部と住宅・都市農村建設部の通知は、不動産市場の消費を安定させようという中央の意図を示したものであり、今回の貸出、財政・租税政策は疑いなく不動産市場により多くの実質的な優遇をもたらすものである。

不動産業に対する金融システムの支えの役割は容易に見てとることができ、これまでの誘導的政策から実質的な政策が打ち出されるに至ったことにより、市場の住宅購入期待は徐々に上昇するだろう。
2軒目の住宅の頭金比率が4割に引き下げられ、2年以上の一般住宅販売には営業税を免ずるという2軒目住宅政策が打ち出されたことも、今回の政策が改善型住宅需要を重視し、改善型住宅消費の期待を高めようとしていることを体現している。

今後は、頭金比率の引下げ・住宅ローン金利の引下げ方面で政策コントロールの余地がまだある。現在購入制限をまだ緩和していない都市のうち、北京・上海以外は購入制限を取り消しても不動産市場での消費上昇はあまり期待できない。

不動産市場が回復するかどうかは、過度に楽観はできない。現在在庫は依然かなり大きく、三・四線都市でこの問題が深刻であり、在庫の段階的消化には時間が必要である[3]。政策と与論が冷静さを維持することが必要であり、そうしてはじめて住宅消費は長期に安定化する。

(2)「偉業我愛我家」胡景暉副総経理(中国青年報2015年3月31日)
今回5部門が打ち出した新政策は、不動産コントロールが初回の不動産購入奨励から改善型不動産購入に転換したことを意味する。ここ数年、政府は初回の不動産購入を奨励してきたが、現在では、初回の不動産購入の購買力は既に消耗しているといってよい。しかも、現在の政府は若者の起業を奨励するが、住宅購入を奨励しているわけではない。

新政策はまず改善型住宅購入需要を刺激し前倒しで顕在化させ、大型・高価な住宅の販売を促進しようとするものだが、新たな需要を創造することはない。なぜなら、頭金比率が引き下げられた後は借入が増加し、住宅ローンの圧力はむしろ増大するからであり、作用には限りがある。同時に、改善型住宅購入者は都市の中小タイプの住宅を売却するので、郊外で住宅を買いたくない初回の住宅購入者には朗報である。

改善型住宅購入者は今回の新政策の受益者であるが、新政策は不動産市場の量・価格の同時上昇をもたらしはしない。なぜなら、営業税が免除されれば住宅購入者の負担が減少し、契約が容易になるので、税・費用の引下げは改善型住宅購入者が従来の住宅を売却するのに有利となるだけだからである。

(3)中原不動産市場張大偉研究総監(中国青年報2015年3月31日)
今回の政策は市場の予想をはるかに超えている。2軒目の住宅の頭金を6・7割から4割に引き下げたことにより、直接的に10%の有効購入需要が増加する。このため、一・二線都市の4-6月期の成約量は1-3月期より30%上昇する可能性があり、2015年の全国重点都市の販売量は2014年より良くなるだろう。

(4)華夏銀行発展研究部楊馳研究員(経済参考報2015年3月31日)
今回の不動産コントロールの明白な特徴は、人民銀行と財政部が貸出政策と財政・租税政策の緩和を通じて需要を刺激することにより、住宅消費を安定させ、内需を牽引しようとするものである。住宅・都市農村建設部は供給サイドから着手し、既に住宅及び用地供給構造を最適化する政策を打ち出し、二・三線都市の住宅・土地の深刻な供給過剰状況をコントロールしようとしている。

銀行が住宅ローン戦略をいかに調整するかが今回の不動産政策が真に効果を発揮するかのカギとなる。収益とリスク両面の要因を考慮すると、銀行は住宅分野において貸出資源の配分を大幅に増やすことは不可能である。収益の観点からすれば、金利市場化の背景の下、銀行の負債コストは顕著な上昇傾向にあり、住宅ローンの資産収益率はかなり低いので、銀行貸出の重点分野とは決してなり得ず、長期の貸出額にも限りがある。リスクの観点からすれば、銀行の不良債権の残高・比率がいずれも持続的に上昇しており、2014年末のわが国商業銀行の不良債権比率は既に1%を突破し、近年では高いレベルの1.25%に達している。不動産分野では広範囲でのリスク事件は発生していないが、潜在的な信用リスクは軽視できない。

(5)中央財経大学郭田勇教授(新京報2015年3月31日、新華網北京電3月30日)
今回の2軒目の頭金引下げは、住宅ローン政策が非常態から常態に回帰したものと言ってよく、自ら住むタイプ・改善型の住宅購入需要の顕在化に資するものであり、これにより民生が改善され経済が安定する。北京・上海・深?等の住宅購入需要が旺盛ないし不動産が持続的に過熱している都市は頭金比率を引き下げないことを考慮すべきである。同時に、銀行も自身の経営状況に応じ柔軟に調整すべきである。

中国は広大であり、地域・都市によって情況は異なる。各地の不動産市場のサイクルも一致せず、地域の分化は今後かなり長期間、不動産市場運営の新常態となろう。今後住宅ローン政策は地域化・差別化した調整を整備し、一刀両断式の調整を避けるべきである。同時に、市場の自律的メカニズムにより多く依拠し、市場主体の意見を更に尊重し、市場化の役割を十分発揮させ、市場の無秩序競争を回避し、地域的な住宅ローン政策の長期に有効なメカニズムを実現しなければならない。

(4月1日記 4,289字)

[1]中国青年報2015年3月31日。
[2]中国青年報2015年3月31日。
[3]経済参考報2015年3月31日によれば、三・四線都市の在庫は60ヵ月分を超える。

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