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中国経済の光と影 (2)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2005年6月21日

<マクロ経済>
中国経済の光と影 (2)

田中修

2.経済のアンバランス

さらに、一見好調に見える経済成長にも様々なアンバランスが発生している。

(1)投資と消費のアンバランス

 2004年の全社会固定資産投資の伸びが対前年比25.8%増(都市部は27.6%増)であるのに対し、社会消費品小売総額の伸びは実質10.2%(名目では13.3%)増にすぎない(2003年派投資27.7%増、消費名目9.1%増)。

 また、額でみても2004年のGDPが13兆6515億元であるのに対し、投資は7兆73億元、消費は5兆3950億元である。これは投資拡大によって将来大量に市場に放出される製品の買い手がいないことを意味する。

 2003年以降、不動産開発(2004年は対前年比28.1%増、2003年は29.7%増)・鉄鋼(500万元以上の投資プロジェクトにつき2004年32.3%増、2003年96.2%増)・自動車(同2004年53.5%増、2003年77.8%増)・アルミ(同2004年1.8%減、2003年は86.6%増)・セメント(同2004年43.3%増、2003年113.4%増)・紡績(同2004年30.3%増、2003年86.7%増)といった一部の業種において盲目的投資・低水準の重複建設が発生しており、これらの分野では投資過熱が問題となっているのである。

 中国において消費の伸びが減速したのは98年以降であるが、この理由については、以下の点が指摘できよう。

  1. 98年に誕生した朱鎔基内閣は、様々な経済体制改革を打ち出した。その中には、国有企業の住宅保障制度の廃止や、国有企業から社会保障機能を分離することも含まれていたが、これに代替する社会保障制度の整備は十分ではなかった。このため、国民の将来不安が高まり、貯蓄が増加することとなった。

  2. 97年以降農村における収入の低迷が発生し、これが農村部における消費を減退させた。

  3. 都市部においても国有企業のリストラの進展により、一時帰休・失業者といった貧困層が発生しており、彼らの購買力は低い。

  4. 都市における中産階層以上の消費は飽和状態にあり、新規消費需要は自動車・住宅・IT関連といった特定のものに限定されている。商務部の2005年上半期主要商品需給分析報告によれば、600主要品目のうち需給均衡が161品目で全体の26.8%、供給超過が439品目で全体の73.2%を占めており工業製品507品目に絞ると83%が供給過剰である。供給不足は存在しない(2005年3月27日共同北京電、江南時報)。
 現在胡―温体制は農民の収入増加に取り組んでいるが、これは消費振興策でもある。この成果もあってか、2004年の消費は名目13.3%増と2003年の名目9.1%増より持ち直した。しかし、これは物価上昇要因もかなり大きいものと考えられる。

 また、投資が過大になる原因については、次の点が指摘できよう。

A計画経済の遺制(予算制約のソフト化)

 もともと計画経済においては、投資が過大になる傾向が指摘されている。いわゆる「予算制約のソフト化」であり、企業は投資行動の結果、より一般的には企業経営活動の結果生じた財政状態に応じて、国家から補助金、新規信用供与、免税など諸種の援助を受け、財務状態の悪化が阻止あるいは改善されるために事実上投資に対する制約が欠如することが指摘されている。

 中国でも朱鎔基総理が98年から2000年にかけて、国有大中企業の経営梃入れを行っており、これは国有企業の国に対する依存体質を深めることになった。

 また、企業倒産・失業大量発生に伴う共産党の政権基盤の弱体化は、中国共産党も恐れるところである。事実、中国においては破産法制が未整備であるのみならず、国有中小企業はともかく、大中型企業の破産には制限がかかっている。

 例えば、2002年9月12日に開催された全国再就職工作会議を受け、労働・社会保障部は、「党中央・国務院の一時帰休・失業者の再就職工作を更にしっかり行うことに関する通知」を発出しているが、その狙いは、国有企業の大規模集中リストラを防ぎ、失業圧力を軽減することにあった。具体的には、

  1. 政策的に企業を閉鎖・破産させる場合には、労働者の処遇案について従業員代表大会の討論を経て、当該地の政府関係機関の審査・批准を得ること。労働者の処遇案・社会保障の手段が不明確で、資金不足の場合には閉鎖・破産手続に移行させない。

  2. 正常に生産・経営を行っている企業がリストラを行う場合には、人員削減案を従業員代表大会の討論にかけ、法律に基づき経済補償金の支払い・労働者への債務の解決を行わなければ、リストラさせない。
  3. 国有大型企業の1回の人員削減が一定数・比率を超過する場合には、事前に当該地の人民政府に報告すること。
 このように、企業破産にできるだけ制限をかけ、失業の増加を防ぐ方針が明らかにされているのである。

 また、2004年3月9日の記者会見で、張小建労働・社会保障部副部長は企業破産問題について次のように回答している。

  「我々は、破産の方案について、まず従業員代表大会の討議を経て通過したのちでなければ実施できない、と言っている。また破産方案の内容についても、次の2つの条件が具備していなければ破産手続を正式に開始してはならない、としている。1.労働者の再配置を必ず行うこと 2.労働者への未払い賃金及び彼らの社会保険に係る資金の支払いの実施」

 このように、企業が破産することには大きな制約があり、国有資産監督管理委によれば現在1800余りの資源が枯渇した鉱山・国有大中型赤字企業が閉鎖・破産の順番を待っている。その従業員は281万人にも及ぶのである。同委としては、今後4年で政策的破産・閉鎖を終了させたいとしている(2005年3月26日新華社北京電)。これが事実上「予算制約のソフト化」をもたらしていると考えることができよう。

 以上からすると、計画経済における過大投資のメカニズムが中国ではまだ機能している可能性が大きい。とくに、地方では地方政府・国有企業・金融機関の癒着が強く、かなり指令性経済の遺制が残っていると考えられる。

B5年サイクル

 中国では、末尾に3ないし8がつく年に経済過熱が発生すると言われる。最近では、88年、93年、2003年がこれに相当する。

 過去の経済過熱の経緯をたどってみると、改革開放以前には、1958年「大躍進」運動、1966年「三線建設」があったが、これは経済過熱というより、毛沢東の大号令に基づく、特定産業・特定地域への非合理的な集中投資という性格をもっている。

 1978年以降でGDP成長率が10%を上回った時期をみると、次の4つの時期が挙げられる。

第1の時期:1978年

第2の時期:1983年〜1985年

第3の時期:1987年〜1988年

第4の時期:1992年〜1995年

 第1の時期は、華国鋒党主席のもとで、中国の潜在的な石油を元手に外国の設備・技術を大量に導入して経済発展を図るという「洋躍進」政策が取られた時期であり、基本建設が過度に拡大し、財政赤字・インフレが深刻化し、結局急ブレーキがかけられた。その結果、新日鉄との間で結ばれた「宝山鉄鋼所」の契約がキャンセルされ、大問題が発生したのである。

 第2の時期は、1982年の12回党大会で「計画経済を主とし、市場調節を従とする」という方針が打ち出され、84年の党12期3中全会では「計画的社会主義商品経済」が提起され「党中央の経済体制改革に関する決定」が行われる等胡耀邦総書記のもとで、市場原理の導入、沿海都市を中心とした対外開放が図られた時期である。

 しかし、このときも基本建設の膨張と、耐久消費財の急激な輸入増加などの経済過熱によりインフレが発生し、また海南島事件等の腐敗事件の発覚により、86年に至り改革は停滞気味となり、同年末から活発化した学生の民主化要求運動により胡耀邦総書記は失脚に追い込まれるのである。1984年及び1985年の投資の伸びは、それぞれ28.2%、36.8%に及んだ。

 第3の時期は、1987年の13回党大会で社会主義初級段階論や「国家が市場を調節し、市場が企業を導く」という方針が打ち出されたことをきっかけに改革・開放が再び加速した時期である。当時の趙紫陽総書記はこの党大会終了後上海及び東南沿海各省に赴いて沿海地域経済発展戦略を打ち出した。

 しかし、この市場重視の結果、政府機関・軍・病院・学校までがビジネスに乗り出し、88年前半になるとインフレが急激に進んだ。しかも、同年8月に開催された中央政治局拡大会議で「価格と賃金改革についての初歩的方策」が採択され、新聞に報道されたため、多くの大衆はインフレ予想を高め、預金の引出しと買いだめに走り、インフレはさらに激化することとなった。

 これが1つの要因となり、天安門事件が89年に勃発し、趙紫陽総書記も失脚に追い込まれたのである。1987年及び1988年の投資の伸びはそれぞれ21.5%、25.4%に及んだ。

 第4の時期は、1992年1月18―21日に

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