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中国経済の光と影 (1)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2005年6月20日

<マクロ経済>
中国経済の光と影 (1)

田中修

はじめに

 中国経済は、2003年に9.5%の高成長を達成し、2004年に入っても第1四半期(1−3月)9.8%、第2四半期(4−6月)9.6%、第3四半期(7−9月)9.1%、第4四半期(10−12月)9.5%、通年では9.5%と高水準を保っている。

 また、外貨準備は2003年に4000億ドルを突破し、1人当たりGDPは1000ドルを突破した。2004年の外貨準備は更に増加し、6099億ドルに及んでいる。胡錦涛―温家宝体制は、2020年に2000年のGDPを4倍にする目標を立てており、この場合1人当たりGDPは3000ドルを超えることが予想されている。

 中国は今世紀半ばまでに「中華民族の偉大な復興」を成し遂げるとしており、そのときにはGDPでは日本を上回り、世界2位の大国へと飛躍することを目指している。まさに世界銀行が90年代初に言及したように、「21世紀は中国の時代」であるかのように見える。

 しかし、好調に見える中国経済に落とし穴はないのだろうか。本稿では、中国が抱える諸課題とこれに対する胡―温体制の対応について、多角的に論じてみたい。

1.3つの格差問題

(1)都市と農村の格差

 2004年の都市住民平均可処分所得が9422元であるのに対し、農村住民平均現金収入は2936元に過ぎず、その格差は3倍以上になっている。

 しかも、都市住民は政府や勤め先から様々な便宜を受けているのに対し、農民は現金収入の約3分の1を次年度の耕作のための種・肥料等の購入に充てており、政府からの便益も乏しい。したがって、社会科学院の調査では、実質的な所得格差は6倍にも及ぶのではないかとされている。

 さらに、収入の伸びを比較すると、前者が対前年比実質7.7%増の高率で伸びているのに対し、後者は実質6.8%増である。国務院発展研究センター王夢奎主任の「都市・農村格差と地域格差」レポートによれば、都市・農村の所得格差は、80年代中期1.8倍、90年代中後期2.5倍、2003年3.2倍と拡大を続けた。都市・農村の所得格差は開く一方なのである。

(2)東部と中西部の格差

 2002年の西部・中部・東部のGDPを見ると、2兆81億元、2兆9651億元、6兆8289億元となっており、経済成長率でみても、1998年〜2002年の平均では8.7%、8.8%、10.3%となっている。

 東部と中西部の格差は歴然としており、しかも東部の方が依然成長率が高いので、この格差は拡大している。前述の王夢奎主任のレポートによれば、1980〜2003年において、東部地域の全国経済総量に占める比率は50%から59%に上昇し、中西部地域の比率は下降した。

 この傾向は90年代以降激化した。また、1人当たりGDP格差は、1980〜2002年において、西部と東部の格差は1.92倍から2.59倍に拡大し、中部と東部の格差は1.53倍から2.03倍に拡大し、西部と中部の格差は1.25倍から1.27倍に拡大した。

(3)都市における貧富の格差

 改革開放の進展により、沿海都市では富豪が次々に誕生しているが、税の徴収体制の不備もあり、彼らはほとんど個人所得税を納めていない。

 他方、都市には最低生活を営む者が2000万人ほど存在し、その格差は開く一方である。社会科学院の調べでも、ジニ係数は、81年0.281、88年0.382、98年0.456、2002年0.458と大きくなっている。

 また、都市の所得集団別の格差を見ると、最高位20%の集団の総収入と最下位20%の集団の総収入との格差は90年の4倍から2000年には12倍に拡大している。この結果都市の最高位20%の集団は金融資産の55.4%を占めているのに対し、最下位20%の集団は1.5%を占めているにすぎず、その格差は36.9倍にも達している。

 また王夢奎主任のレポートによれば、省・自治区内の異なる市・県の経済格差は、東部・中部の格差よりはるかに大きく、経済が発達している地域の市・県の経済格差は、遅れた地域の市・県の経済格差より一般的に大きいことが指摘されている。1つの省・自治区内の経済格差も深刻化しているのである。

(4)格差拡大の要因

 江沢民の時代、都市と農村、東部と中西部、都市内の貧富の格差は縮小するどころか、かえって拡大したのである。これには、いくつかの理由が考えられよう。まず都市と農村の格差拡大については、次の点が指摘できる。

  1. 96年以降豊作が続き、97年から農産物の価格が低下し、農業収入が減少した。くわえて、副収入源であった郷鎮企業の経営が悪化した。このため、1978年以来、年平均15.2%で伸びていた農民の収入は97年では4.6%、98年4.3%、99年3.8%、2000年2.1%と伸びの低下が続き、2001年にようやく4.2%と持ち直した。最近数年は実質4%前後で低迷している。

  2. 都市住民には個人所得税の課税最低限が設定されているのに対し、農業税・農業特産税にはそのようなものがなく、しかも地方政府が様々な費用を徴収するため、課税等の面で農村住民は著しく不利であった。2002年、純農家の平均1人当たり税・費用負担は115.7元であり、農業を主とした兼業農家は81.8元、非農業を主とした兼業農家は62.1元であるのに対し、収入の高い都市住民の税・費用は1人平均49.5元にすぎない。

  3. 江沢民―朱鎔基体制は、都市インフラや大型プロジェクトの建設には熱心であったが、農村インフラ建設には関心が乏しかった。このため、都市住民には積極的財政政策の恩恵が及んだのに対し、農村住民にはその恩恵が殆ど及ばなかった。

  4. 農民には政治的圧力団体が存在せず、WTO加盟交渉やFTA交渉において農業の利害は常に犠牲にされてきた。

  5. 社会保障整備は都市優先で進められ、農民は土地があるという理由だけで、社会保障政策の恩恵を被ることができなかった。

  6. 農村における義務教育は、財源難のため十分ではなく、農民は出稼ぎに都市へ出ても単純労働や3K仕事に就くしかない。このため、熟練度や教育程度の低い出稼ぎ農民は出稼ぎによる収入の伸びにも限界があり、しかもしばしば賃金の未払いやピンはねが発生した。

  7. 農村周辺における都市化の進展や、農村における2次産業・3次産業の発達が十分ではないため、農産品の付加価値が高まらず、多様な収入ルートも開けなかった。

  8. 農村金融が本来の役割を果さず、農民から集めた金を都市の企業に貸し付けていたため、資金が農村から都市に流出した。現在農村全体への貸付は金融機関総貸付残高の10%にすぎない。

  9. 地方政府が開発区建設のため、農民から不当に土地を取り上げた。しかし、開発区は濫立のため結局地元経済への貢献は少なく、耕地の消失と流民が発生することになった。

  10. 戸籍制度の改革が遅れ、都市における出稼ぎ農民の待遇が安定しないため、農村余剰労働力の都市への移転・定着化が進まず、耕地の集約化による生産性向上が進んでいない。
 また、東部・中西部の格差拡大については、次の点が指摘できる。
  1. 中西部の問題の本質は「三農」(農業・農村・農民)問題であるにもかかわらず、江沢民―朱鎔基体制は大型プロジェクトや都市プロジェクトを重視し、「三農」問題を軽視した。

  2. 大型プロジェクトの中身も、「西気東輸」(西部の天然ガスを東部に輸送)や「西電東送」(西部の電力を東部に輸送)のように、西部の資源・エネルギーを東部経済の発展に利用するためのものもあった。

  3. 東部から中西部に所得を再配分する財政移転支出制度が不完全であったため、東部地域により多く中央から税が還元される事態が生じた。

  4. 東部の企業は、中西部支援と称して、非効率な過剰生産設備や公害を多量に発生させる生産設備を中西部に移転した。

  5. 中西部においては、地方指導者の意識改革が遅れており、国有企業改革の進展が不十分であり、投資環境の改善も進んでいない。

 都市おける貧富格差の拡大については、次の点が指摘できる。
  1. 個人所得税には累進性が採用されているものの、税の執行が不十分なため、高額所得者に適切な課税がなされず、税の所得再配分機能がうまくはたらいていない。

  2. 江沢民が「3つの代表」論(注)により新興富裕層の取り込みに熱心であったため、彼らが敬遠する遺産税の導入が棚上げとされた。

  3. 高額所得者の収入ルートが多様であり、その全貌を把握することが困難である。

  4. 国有企業のリストラが進み、一時帰休・失業者が大量に発生した。

  5. 産業構造の重化学工業化・情報化が急速に進展する中、企業の労働者への技能・教育水準要求は高まる傾向にあるが、これに労働供給側が対応できずにいる。

  6. 都市における中小企業・サービス産業の育成が不十分であり、創業手続も煩雑であるため、一時帰休・失業者の吸収がうまく進まない。

  7. 農村出稼ぎ労働者による都市のスラム化が進行している。

  8. 都市における社会保障制度もまだ整備の途上にある。
(注)
共産党が中国を永久支配するための条件。共産党は、中国の先進的生産力という要請、中国の先進的文化前進の方向、中国の最も広範な人民の根本的利益を終始代表していなければならない、とする。

(5)胡―温体制の対応

 2004年は特に農民の収入増加に力を入れており、減税・公共投資・補助金等の施策を総動員した。この結果、2004年農村住民の収入の伸びは実質6.8%増と2003年の実質4.3%増を上回った。

 しかし、他方で政府は食糧増産に力を入れており、今後増産による食糧価格の低下や石油価格高騰による化学肥料等の農業生産財価格の上昇といった要因が収入の伸びを頭打ちにさせるおそれもある。

 また、これだけ農民の収入増に力を入れても、収入の伸びは依然都市住民の方が実質7.7%増と高く、都市・農村格差を解消するには、所得再分配政策の強化が必要である。

(2005年6月12日記・4.065字)
信州大学教授 田中修

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