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四川大地震と中国経済(4)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年7月4日

記事概要

本稿では、地震の中国経済に与える影響につき、国家情報センターの分析を中心に主要な論調を紹介することとしたい。

はじめに

 本稿では、地震の中国経済に与える影響につき、国家情報センターの分析を中心に主要な論調を紹介することとしたい(脚注は筆者のコメント)。

 

1.国家情報センター経済分析・予測課題グループの分析

 範剣平がグループのリーダーとなって分析が行われた(中国証券報2008618日)。その概要は以下のとおりである。

 

 1.1 要旨

 地震による直接経済損失は40005000億元の間である。フロー面では、地震が1年の経済成長に及ぼす影響は0.1ポイント前後の減速であるが、災害復興が社会総需要に対する牽引作用は、現地の生産停止・減産が経済成長に及ぼす影響より大きく、全国の経済成長は0.4ポイント前後加速する可能性がある。

 災害復興は社会の総需要の構造をある程度改善し、内需の経済成長への牽引作用は増強される。このほか、地震は消費者物価・投資財価格等の物価上昇圧力を大きくし、国内の出稼ぎ農民の需給逼迫状況がある程度激化する可能性がある。地震は全国の経済成長に一定の牽引作用を生み出すものの、全国の経済資源の総体配分の効率に対する影響は巨大であり、人民の生命・財産・福利に対する損失も巨大である。

 

 1.2 汶川大地震は巨大な生命・財産の損失をもたらした

(1)各部門の公表したデータ推計結果

①学校・病院・政府・事業単位の事務用ビル・工場・住宅

 家屋の損失は1200億元以上

②公用道路・道路・橋等の交通インフラ

 四川の交通インフラの損失は560億元(52818:00現在)

③水利・電力・通信施設

 水利施設の修復・再建は応急措置も含め、360億元

 国家電力網の直接経済損失は120億元を超える

 通信業種の直接損失は30億元近く

④農業  直接損失は50億元前後

⑤工業  経済損失は2040.1億元

⑥商業機関・個人の商業施設  直接損失は200億元を超える

⑦観光業  初歩的な統計による損失は600億元を超える

 これらを合計すると、地震が四川にもたらした直接経済損失は5140億元前後となる。工業部門・商務部門・観光業に所属する企業の損失のうち、工場の損失と家屋の損失には一定の重複があることを考慮すると、これを差し引けば直接経済損失はこの額よりは低くなるはずである。

(2)その他機関・学者の推計結果

①リスク評価会社AIR Worldwide  約1500億元

②西南証券  10501900億元

③四川省社会科学院マクロ経済・工業経済研究所 盛毅所長  2000億元以上

④中国土地雑誌社主筆 劉正山  約5252億元

(3)我々の推計の結果

 我々が採用した方法は、四川地域の資本ストック量をまず推計し、各地域の被災程度に基づき資本ストックの受けた損失を推計するというものである。

 我々が改革開放以降の四川省の歴年の固定資産減耗と資本形成(重慶市を除く)に基づき、2007年の四川省の資本ストック量を推計すると、おおよそ19983億元である。四川省の各地域の資本産出比率が等しいと仮定し、重度被災地域と軽度被災地域のGDPの全省に占める比率に基づき2007年の被災地域の資本ストックの規模を推計した。これによると、重度被災地域は1632.6億元であり、軽度被災地域は8186.8億元である。重度被災地域の損失を70%、軽度被災地域の損失を20%として推計すると、四川の地震による資産損失は2780億元前後となる。住民の耐久消費財等の損失を考慮すると、地震がもたらした直接財産損失はおおよそ3000億元前後となる。

 フローからすると、地震により多くの企業が生産停止となり、企業に経済損失をもたらしている。2007年の四川省工業付加価値は3868.6億元であり、このうち重度被災地域は320億元、軽度被災地域は1590億元である。重度被災地域の生産停止が3ヶ月、軽度被災地域の生産停止が1ヶ月として推計すると、工業部門の生産停止による工業付加価値の損失は約240億元である。観光業については、重度被災地域の業務停止が半年、軽度被災地域の業務停止が3ヶ月、四川のその他地域の業務が2ヶ月(四川省の被災地域以外の観光スポットは地震後1ヶ月で営業再開を宣言しているものの、我々はこれらの地域の観光収入が地震の影響を受け減少する額を2ヶ月分として推計している)として推計すると、観光収入の減少は350億元前後となる。

 財産・収入面の損失を合計すると、四川が受けた直接経済損失は計4000億元前後となる。再建コストは固定資産の取得価格より明らかに高くなること、各部門の報告の総計には一定の重複計算があることを考慮しても、各部門の報告数値の総計と我々の推計結果の差異は表面的にはさほど大きくはない。初歩的に判断すると、地震がもたらした直接経済損失は40005000億元の間となる。

 説明しておかなければならないことは、現在掌握している各資料には非常に限りがあり、上述の各種推計は非常に粗略であるということである。しかし、ともかくも地震がもたらした直接経済損失は雪害よりは大きく、災害復興はかなりの長期間を必要とする。

 

 1.2 災害復興は社会の総需要の成長を牽引する

(1)地震は現地の住民消費に重大な影響をもたらすが、全国の消費財市場の趨勢に対する影響は大きくない

 2007年の四川省の社会消費品小売額の全国に占める比率は4.48%である。重度被災の13県区が四川省に占める比率は2006年で6.39%であり、全国に占める比率は0.3%に満たない。このため、重度被災地域の社会消費品小売額がゼロとなっても、全国への影響は非常に限定的である。

 他方、被災地域の多数は辺鄙な山間地域にあり、商品経済が未発達である。地震発生後、現地住民の消費のうち、もともと商品ではなかった消費部分も全部救済に依存しており、救援物資の相当部分は現地政府の配給か、その対地域政府・企業・住民が物資を購入して義捐している。このため、その一部はその他の地域の消費品小売額に転化しており、被災地域の消費品小売額の減少の影響を相殺している。重度被災の13県区の2006年の社会消費品小売額は218.7億元であり、2007年も250億元を超えないと考えられる。528日までに贈られた支援物資は、正常な状況での現地の社会消費品小売の規模をすでに上回っているはずである。同時に、現在全国各地からの義捐金の個人貯蓄残高に占める比率は小さく、義捐金が被災地域以外の個人消費に影響を与えることはない。

 初歩的に推計すると、地震が全国消費品小売額の成長に与える影響は小さく、消費品小売額の速い伸びはこれまでの趨勢を基本的に維持する。

(2)災害復興は投資の伸びを牽引する

 重度被災地域13県区の2006年の固定資産投資額は311.77億元であり、四川省の6.89%を占める。2007年の四川省の固定資産投資額は全国の4.11%を占める。重度被災地域は全国の0.28%を占めることになる。現地の固定資産投資の年間の伸びが20%の速度であることから推計すると、現地のこれまでの投資の伸びの全国に対する影響は非常に小さく、おおよそ0.06ポイントである。2008年はすでに3分の1を経過しており、地震災害がこれらの地域で2008年に今後本来行うべき投資を消失させてしまったとすると、2008年の全国投資の伸び率は0.18ポイント減速する。

 地震発生後は、大規模な復興活動を進めることが必要となる。現在、国家発展・改革委は3年かけて復興活動を基本的に達成することを提起している。四川の固定資産の損害規模から推計し、災害復興の基準を現地の従来の建設基準より高くしなければならないこと、加えて投資財価格が上昇していることを考慮すると、毎年の投入規模は1700億元前後となる。これは2007年の重度被災地域の投資規模の3倍前後であり、災害復興は全国固定資産投資の伸びを1.25ポイント前後引き上げることになる。被災地域の復興には大量の建築資材を消費しなければならないので、その他地域の投資にも一定の影響を及ぼす可能性がある。被災地域でもともと行う予定だった投資と災害復興が他の地域に及ぼす影響を割り引いても、災害復興は全国の固定資産投資を1.1ポイント前後加速させる可能性がある。

(3)輸出入は基本的に影響を受けない

 輸出面からすると、重度被災地域13県区の2006年の輸出額は2.93億ドルであり、四川省の4.42%である。2007年の四川省の輸出額は全国の0.68%である。重度被災地域は全国の0.03%しか占めていない。現地の輸出が年20%の速度で伸びていることから推計すると、2008年に被災地域の輸出の伸びが全国に与える影響は非常に小さく、0.1ポイントにも満たない。

 2007年の四川省の輸入額は全国の0.56%であるが、重度被災地域13県区が四川省に占める比率は調べようがなく、全国に占める比率も推計できない。四川省の輸入が全国に占める比率が輸出の比率より小さいことからすると、重度被災地域の輸入が全国に占める比率も輸出の比率0.03%より小さいものと考えられる。したがって、地震が全国の輸入に与える影響は非常に小さいはずである。

(4)社会総需要

 汶川大地震が短期内に経済動向にもたらすマイナス影響は大きくなく、総需要の伸びは災害復興の大量投資によりやや加速する。社会総需要の伸びは0.5ポイント前後加速する可能性があると見込まれ、総投資と資本形成額の差異を考慮すると、社会総需要伸びが加速することによるGDP成長への牽引作用は0.4ポイント前後と推計される。社会総需要の構造という観点からは、投資需要の伸びが加速し、純輸出が外部環境の悪化等の原因で鈍化するので、内外経済の不均衡状況はやや改善され、内需の成長に対する牽引作用が増強されることになる。

 

 1.3 地震災害は全国経済成長の基本的な傾向を変えない

 統計データからすると、汶川地震の全国第1次・第2次・第3次産業への直接影響は大きくない。2007年の四川省GDP1505億元である。うち第1次産業付加価値が2092億元で全省GDP20%を占め、全国平均より8.3ポイント高い。第2次産業付加価値は4595億元で全省の43.7%を占め、全国平均より5.5ポイント低い。第3次産業付加価値は3818億元で全省の36.3%を占め、全国平均より2.8ポイント低い。全国からみると、四川省GDPの比率は4.2%で、第1次産業付加価値は全国の7.2%を占めている。

 データからすると、

①重度被災地域13県区GDPが四川全省に占める比率は8.17%であり、四川に対する影響はかなり明白である。しかし、この地域が全国GDPに占める比率は0.34%であり、地震が短期間に経済発展に及ぼす影響は相当限定的である。

②地震は13県区の農業生産に大きな影響を与え、全国農業に対する影響は工業・サービス業への影響より大きいものの、影響は1%に満たない。

③全国からみれば、重度被災地域の第2次産業の比率は0.36%、第3次産業は0.26%であり、地震の第2次・第3次産業への影響は更に小さい。

(1)農業生産

 四川の食糧・豚生産は全国に占める比率がかなり大きく、豚の出荷は2割近くになる。地震災害は四川の豚肉生産・供給に明らかな影響を及ぼすが、四川省の農業生産は主として成都平原地帯に分布しており、地震災害の影響は相対的にかなり小さい。重度被災地域13県区の全国に占める比率は1.1%であり、影響はたいして大きくはない。

(2)工業生産

 工業生産が受ける影響は推計が比較的難しい。

成都市工業の生産回復目標は、半月以内に全市の一定規模以上の企業の再開率が95%を超過し、市内の被災が軽度の地区で安全評価のコンサルを経た企業については全部生産を回復させ、市内で被災が重度の地区については1ヶ月内に再開率が70%を超過し、2ヶ月内に90%を超過し、3ヶ月内に基本的に生産を回復するというものである。生産能力の目標は、全市一定規模以上の企業は1ヶ月内に地震前の90%以上を回復し、軽度の地区は1ヶ月内に地震前の水準を回復ないし超過し、重度の地区は1ヶ月内に50%以上回復するというものである。

 各地の被災程度は異なり、統一的な進度・手配によることはできないが、我々はおおよそこのような目標に基づき、国内生産が受ける直接的影響を推計することができる。

(3)結論

 あらあらで推計すると、第1次産業が全国の伸びに及ぼす影響は0.05ポイント、第2次産業が0.15ポイント、第3次産業が0.05ポイントであり、地震が全国の1年のGDP成長に与える直接的影響は0.1ポイント前後の減速である。

 

 1.4 地震災害は物価上昇圧力と全国出稼ぎ農民の需給逼迫状況を増大する

(1)物価上昇

 地震は短期内に供給の減少と需要の増加をもたらすため、地震災害はわが国の既にかなり高い物価を一層の上昇圧力に直面させることになる。

①今回の消費者物価上昇は主として食品が引き起こしたものであり、しかも四川省は全国的な農業大省で農業生産が全国に占める比率は7.2%である。地震は米・豚の生産に影響を与え、物価上昇圧力は増大する。

②大規模な災害復興は固定資産投資を増加させ、建築資材等の投資財価格指数を更に引き上げる可能性がある。

③被災地域に対する貸出規制が軽減され、貸出供給と流動性が増加することにより、地域的な物価上昇に一定の圧力をもたらす。

(2)労働力供給

 四川は全国的な労務輸出大省である。2006年のデータによれば、四川から外地で働いている出稼ぎ農民は900万人近くであり、主として経済の発達している珠江デルタ・長江デルタに輸出されている。2005年の人口サンプル調査によれば、四川がその他の省市区に輸出している人口は、当該省市区の輸入人口の11.8%を占めている。四川が広東省に輸出している人口は、広東省の輸入人口の12.9%を占めている。四川が上海・江蘇・浙江3省市に輸出している人口は、これらの輸入人口の12.4%を占めている。

 災害後大量の労働者が帰郷し、災害救助・災害復興へ参加しているものと思われ、これは必然的にその他地域の労働力不足を更に増大させ、全国の出稼ぎ農民の需給逼迫状況はさたに激化することになる。このほか、このことは企業の労働力コストを上昇させ、製品コストと物価上昇に一定の影響を与えることになる。

 

 1.5 結論

 地震は人民の生命・財産に損失を与え、大量の民間家屋・インフラ等が深刻に破壊され、災害復興の任務は異常なほど困難である。地震がもたらした直接経済損失は雪害よりも大きい。地震災害はわが国の第1次・第2次・第3次産業の成長にいずれも一定の影響を与えるが、地震の衝撃はわが国経済発展の趨勢を揺るがすものではない。

 災害復興はGDP成長を0.4ポイント加速させる可能性があり、災害復興は社会総需要の構造をいくらか改善し、内需の経済成長への牽引作用は増強される。

 地震は消費者物価・投資財等の物価上昇圧力を増大させ、国内出稼ぎ農民の需給逼迫状況をある程度激化させる可能性がある。

 特に指摘しておきたいのは、地震はわが国経済発展の基本的趨勢を変えないとはいえ、地震がもたらした直接損失以外にも、地震はわが国がもともとその他の方面の経済建設に用いることができた大量の人力・物力・財力を地震対策・災害救助に使用させることになり、これは第1次的な経済資源配分を受動的に調整させてしまうことになるということである。このため、地震は全国の経済成長に一定の牽引作用をもたらすものの、全国の経済資源の総体的な配分効率に与える影響は巨大であり、人民の生命・財産・福利に与える損失は巨大である。

 地震発生後、全国人民が動員され地震対策・災害救助に当たっており、党中央・国務院は地震対策・災害救助・災害復興について総体的な手配をしており、各部門は一連の政策措置を打ち出し、発展計画部門は被災地域に大量の物資を搬送するとともに、災害復興の計画に既に着手している。財政部門は特定資金を交付し、税部門は地方政府に被災地域の減免税優遇措置を授権している。金融管理部門は現地の金融企業に特殊政策を実行している。これらの政策の実施は、災害救助・災害復興にかなり良好な促進作用をもたらすだろう。我々は党中央・国務院の正確な指導と全国人民の共同努力の下、必ず地震災害に打ち勝ち、引き続き国民経済のかなり速い成長を維持すると確信している。

 

2.人民日報海外版

 

 対外向けのため、経済への影響が少ないことを強調している。

 2.1 200863日記事

復旦大学経済学院の孫立堅副院長の分析を紹介している。

 現在、地震災害の経済への影響について、客観的・正確な判断・予測を行うことは難しいが、過去の内外の災害が経済に与えた影響とその管理経験からすると、社会各界が災害救助に参加する行為は中国経済に主として5つの方面で影響を及ぼす。

(1)政府の財政交付と復興計画は、被災地域の経済発展の方向に過小評価できぬ影響をもたらす

 政府の支援は、短期・暫時の政策ではなく、その目標は当面の急務である生存需要の解決にとどまるものではなく、災害復興と被災地域の産業転換・農村教育の強化・社会保障の整備等と結びつくものである。

(2)今回の民間の義捐規模は大きく、流動性過剰問題の緩和に資する可能性がある

 大量の資金が高所得層から被災地域の低所得層に流れ込み[1]、貯蓄・投機行為を主とした金融資産が実際の生活に必要な実物資産に転換することにより、政府主導の所得再分配の行政メカニズムに代替し、社会の協調コストを引き下げる。このため、一定程度コスト・プッシュ型物価上昇問題を緩和することができる[2]

(3)企業の義捐金

 企業の義捐金は、一定程度政府の財政圧力を緩和する[3]。しかも、企業の資金援助の形式が被災地域の将来の経済発展の生産力と緊密に連携一致すれば、企業の今の社会的責任感は、将来(企業自身を含む)各部門に良好な経済収益をもたらすことになる。

(4)金融機関の低利資金援助

 本質的には企業と似通っているが、中国の金利・為替レートといった金融資産の価格とサービスコストは未だ完全に市場化されていないため、コスト移転のメカニズムが相対的にかなり弱い。しかし、これは金融機関の今後の資産運用方式に影響を与える可能性がある。例えば、銀行はますますリスクのあるプロジェクトへの貸出に向かい、自身の資産収益を増加させようとするだろう。

この点、銀行業監督管理委は銀行自身の収益とリスクのバランスを十分に考慮し、窓口指導と所要の監督管理を強化しなければならない。さもなくば、これによって生み出された金融の安定性の一層の悪化は、政府のマクロ・コントロールの難度を悪化させることになろう。

(5)国際援助の中国経済への影響は、援助方式によって異なり、効果も同じでない可能性がある

 現在の中国の国情から出発すれば、物資方式の援助が最も好ましいといえる。それは、大地震が生み出した突発的な需要が市場供給にもたらす圧力を緩和し、物価安定作用をもたらすからである。しかし外貨の義捐金は、わが国のマネーサプライの問題に波及する。現在過剰流動性圧力が軽減されていない状況下、それは物価上昇により購買力補助を台無しにするという意図せざる結果をもたらす可能性がある。

 このため、わが国政府は資金使用の透明化と監督管理の強化を保証すると同時に、外資が海外において被災地域の建設に必要な緊急物資を購入することを奨励すべきである。こうすれば、外貨がマクロ経済の安定にもたらす影響を最大限減少させ、外資の義捐の積極的効果を十分に発揮させることができる。

 

 つまり、マクロ管理部門は大地震により中国の民心が1つに集まったこの絶好の時機を十分に利用し、農村の現代化建設を強化することを通じて、中国の産業構造の調整と自主的なイノベーション能力の発揮を促進させることにより、中国企業が劣悪な外部環境下でも高い効率で自己を発展させ大きくし、金融機関が健全な経済運行モデルの中で金融リスクを引き下げ、自己のサービスのイノベーション能力と収益を高めることを保証すべきである。

 中国政府も、このようなバランスのとれ安定した持続可能な発展を行う経済構造により、マクロ・コントロールの負担を軽減させ、監督管理及びそのモデルの透明度・効率・権威の問題に精力を集中させることにより、全社会が外部衝撃を制御する能力と、発展に一致協力する動力を高めることができるのである。

 

 2.2 200864日記事

(1)直接経済損失は雪害を上回る

 汶川大地震がもたらした巨大な生命・財産の損失は、同時に多方面で中国経済に影響を与えた。国内学者の初歩的な推計では、今回の地震がもたらした直接経済損失は年初の雪害を上回り、全国の労働力供給とマクロ・コントロール政策に影響をもたらし、GDP成長速度を引き下げる可能性がある。

 一部の経済研究機関の報告は、「地震の経済に対する最も直接的な影響は、交通運輸とエネルギー供給が阻まれたことにより、日常の経済生活が破壊され、農業・交通・製造業に顕著な影響をもたらしたことである」と指摘している。農業部の危朝安副部長は、「被災地域の農村労働力と生産力の損失が深刻であり、被災地域の農業生産の回復に重大な影響をもたらした」としている。

 地震による交通運輸施設の破壊、とりわけ宝成線のような幹線鉄道の不通は、運輸の困難をもたらし、供給を減少させた。電力・通信網は損害を受け、被災省の多くの発電機は停止し、四川電力網の災害後の最大出力は62%に低下した。四川の天然ガス生産も影響を受け、省内の多くの製油工場・炭鉱・化学工場・石油ガス田は生産停止に陥り、中国石油の直接経済損失は17.8億元に達した。

(2)マクロ経済はハードランディングとはならない

 国家統計局の責任者は最近、「被災地域のGDP・投資・消費といった経済総量の全国に占める比率はいずれも比較的小さく、国民経済全体を変えることはなく、総体としては平穏でかなり速い発展の基本的動向を続けるだろう」と述べた。

 国泰君安の戦略アナリストの翟鵬は、「地震は突発的で不可抗力の事件であり、これが四川の経済発展に局部的影響を与えたとしても、マクロ経済全体の運行動向を決して変えることはなく、マクロ経済は地震によってハードランディングが出現することはない」と述べている。

 農業部の種植管理司の王守聡副司長は、「災害は主として山間地域で発生しており、農産品供給と価格に明らかな影響を及ぼすことはない。被災地域において短期的に価格が波動する可能性はあるが、地震の影響が薄れさえすれば経済活動は正常に回復し、一部の波動の大きい食品価格も安定してくるだろう」とする。

 災害復興活動が展開されれば、新たな生産財・基礎的消費財の需要のピークが到来し、経済への牽引作用は下半期に徐々に現れるだろう。

(3)被災地域の損失は他の地域が補う

 現在、被災地域の交通・通信・電力等の修復活動は、秩序立った高い効率で進行している。各レベルの政府と経済管理部門は、行政・経済措置を取って災害損失を最低に抑えようと努力しており、各種の有効な措置を取って震災のマクロ経済への影響を減少させている。最近、中央銀行・銀行業監督管理委は緊急通達を公布し、被災地域の金融サービスをしっかり行うことにより災害復興の準備に努力することとしている。

農業部は地震後震災対策の指揮部を立上げ、農業災害救助の応急体制を始動させた。危朝安副部長は、「農業部は協調的な生産と輸送調整を早急に行い、被災地域への農産品供給を確保している。当面の急務は、その他の地域の農業生産をしっかり把握し、夏季の生産を適切にしっかり行い、良好な収穫を勝ち取り、被災地域の損失を他の地域で補うことである」としている。

ある専門家は、「経済情勢を安定化させ、損失を減らしてインフレ圧力に対応するためには、現在マイナス影響の拡大を避けることが最も急がれる。地質災害・疫病の問題を防止する案を準備し、権威ある情報が透明にタイムリーに多方面から出てくるメカニズムを確立し、災害復興案を迅速に検討すべきである」とする。

 

3.新華網北京電200864

 地震災害の発生後、マクロ・コントロールは更に際立った試練に直面している。一面において、経済発展方式を転換し、経済構造のバランスを実現するためには、過剰流動性の抑制を強調する必要がある。他方で、災害復興・生産回復は被災地域のインフラ投資と貸出需要の猛烈な増加をもたらす。国家行政学院の経済学教授である張孝徳は、「各種の不確定・予測不可能な要素が重なることにより、わが国のマクロ・コントロールは更に複雑な環境に直面している」とする。

 注意すべきは、地震後インフレ圧力は更に激化し、現在マクロ経済運営の最大のリスクは依然物価の全面上昇圧力であるということである。災害後の大量のインフラ再建は、必然的に将来一時期セメント・鉄鋼・銅・アルミ・亜鉛などの基本的な金属・建材の需要を増加させる。川上の生産価格への衝撃も軽視してはならない。

 

4.経済参考報200865

(1)農業

 中国科学院成都生物研究所の劉慶研究員は、「地震が生態環境にもたらした破壊・影響、農業への影響を軽視してはならない。初歩的な推計で損害を受けた農地は1000万ムー(1ムーは666.7㎡)に達する。最大の問題は耕作する土地が、水没・毀損・他からの土砂の堆積により無くなってしまったことである。特に重要なことは、被災地域は成都平原及びその周辺省市に対する重要な野菜の供給基地だったことであり、冬季の野菜供給にかなり大きな影響が出る」と指摘している。

 天相投資顧問有限公司のアナリストである施剣剛は、養豚への影響について「四川はわが国第1の養豚大省であるが、生産基地の大部分は川南の成都・南充・資陽・達州・宜賓・涼山・綿陽・濾州の8地区に集中しており、全省の51%を占める。綿陽・成都は被災範囲に入っており、短期的には輸送の不具合等により四川省内の豚肉価格に波動が出現する可能性があるが、長期的な価格動向への影響は限定的である」とする。

(2)工業

①化学工業製品は損害の深刻な業種の1つである

 四川はわが国第4のリン鉱石の備蓄基地であり、3つのリン鉱で全省の総生産量の95%以上を占めている。この3リン鉱は被害を免れず、他のリン鉱も生産停止に陥っているので、リン供給の減少をもたらし価格を刺激することになる。

②食品・飲料業も影響を免れず、とりわけ豚肉加工業への影響が大きい

③非鉄金属への影響は限定的である

 亜鉛精錬は全国の10.5%、亜鉛精錬は7%、アルミ材は8.6%を占める。しかし、長江証券アナリストの葛軍は「これらの供給については、一定のマイナスの影響はあるが、総生産量は総体としてかなり小さいので、影響は限定的である」とする。

④紡績業への影響は更に小さい

 聯合証券アナリストの汪蓉によれば、重度被災地域には紡績企業は極めて少なく、ファッション企業は殆どない。

(3)観光業

 観光収入は全省GDP8%を超え、四川省張谷旅行局長によれば、観光業の損失は624億元であり、昨年の収入の半分に達する。しかし申銀万国によれば、「短期的には四川省及びその周辺地域の観光業にかなり大きな打撃を与えるが、長期的には影響は限定的である」としている。(2008年6月記 10,792字)

 
 


 

  

      [1]    今回の義捐金のうち、高額所得者の分がどの程度含まれているかを検証する必要があろう。迫害を恐れた外資や一般庶民が大半であれば、所得再分配効果があるとはいえない。

 

  

      [2]    逆に、一時的な復興需要の増大により、インフレが加速する危険もあろう。

 

  

      [3]    政府の支援が彼の言うように多岐にわたるのであれば、財政圧力はむしろ増大するだろう。

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