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中国下半期経済の懸念材料

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2002年8月29日

■中国下半期経済の懸念材料■

 中国の上半期の経済成長率は、7.8%。四半期別では、1−3月7.6%、4−6月8.0%であった。このように予想以上の数字が達成されたことについて、邱暁華国家統計局副局長は、「第1に、中央政府の政策(積極的財政政策と穏健な金融政策)が良かった。第2に、人々が努力した。第3に、世界経済が好転した」という3つの理由を挙げている(7月16日記者会見)。

 また、国家発展計画委員会の王春正副主任は、8月27日、全人代常務委員会に上半期の経済状況について「国民経済は良好な発展態勢を保持している」と報告した(8月27日中新社北京電)。

 しかし、下半期もこの勢いが続くかどうかは疑問が多い。むろん、前半の貯金が大きいので、1年を通じ7%以上の経済成長率が達成される可能性は高いが、成長のスピードは第2四半期に比べ、かなりダウンするとの見方も有力なのである。以下、主要な論調を見ておこう。

(注)ただし、国家情報センター経済予測部は、第3四半期も8.0%の成長が継続し、1−9月の経済成長率は7.9%になると、強気の見通しを示している(8月28日付け人民網)。

1.経済統計の「怪現象」

 エコノミストの張曙光は、上半期の経済運営で「常識では解釈できない」怪現象が出現したとしている(7月23日付け中国経済時報)。具体的には、次の5点が指摘されている。

  • 投資は大きく伸び、伸び率は対前年同期比6.4ポイント増であり、かつ重工業産品の輸出も加速しているのに、重工業増加値の伸び率は逆に1.1ポイント低下した。
  • 社会消費品小売額の伸び率が対前年同期比1.7ポイント減少し、在庫増も緩慢になったのに、軽工業生産の伸び率が2.6ポイントも増加している。
  • 物価の下げ幅が縮小し、工業増加値が0.7ポイント高まったのに、企業所得税の伸び率は低下し、工業企業の利潤の伸び率も1−5月で27.6ポイント低下した。
  • 1−5月の工業企業の利潤は2.8%しか増加していないのに、企業所得税は11.2%も伸びた。
  • 都市住民の1人平均支配可能な収入は17.5%増加し、農村住民1人平均現金収入は5.9%増加したが、社会消費品小売額の伸びは逆に緩慢になった。

2.消費

 7月22日付け「市場報」は、1−6月の社会消費品小売総額の伸び率が対前年同期比で、各月とも落ち込んでいると指摘し、中国消費市場に7つの重要な問題が発生しているとしている。

  • 商品市場の供給過剰の矛盾が激化している。
     工業増加値が1−6月で対前年同期比11.7%増、固定資産投資が同24.4%増なのに、社会消費品小売総額が8.6%増というのは、投入・供給された資源の伸びが、国内消費の伸びより明らかに大きいことを意味する。国家経済貿易委貿易市場局と中華全国商業情報センターの調査によると、上半期600種の主要商品中、供給過剰な商品は518種、全体の86.3%におよんでおり、これは2001年下半期より3.4ポイント増加している。
  • 都市・農村市場の販売伸び率の差が拡大している。
     社会消費品小売総額中、都市・農村市場の伸び率の差は、3ポイントあり、前年同期より0.8ポイント拡大している。
  • 株式市場が低迷し、貯蓄が急増し、消費は弱含みとなっている。
     昨年以来の株式市場の低迷が、個人貯蓄を増加させ、6月末には8.2兆元、対前年同期比17.4%増となった。この速度は、都市・農村住民の収入の伸びをはるかに上回っており、個人の投資・消費の低下傾向を反映している。
  • 物価の下落が続き、デフレが深刻化している。 この傾向は、7月も止まらず、物価下落は9ヶ月続いている。
  • 個人消費は容易に高まらない。 個人消費価格分類指数の変動によると、娯楽・教育・文化・サービス価格が明らかに上昇している以外は、消費品価格は下落傾向にある。
  • 住宅・自動車・通信・旅行消費は消費需要を牽引する重要な作用があるが、総体としてはその牽引効果は下降すると見込まれる。
     すでに、個人住宅消費の伸びは緩慢化している。
  • 中西部地区の消費市場は開拓の余地がある。
     西部大開発の大型プロジェクトが、今後数年投資需要の空間を拡大し、これが西部の巨大な消費市場の潜在力を発揮させうる。

 また、8月16日付け中国経済時報は、社会消費品小売総額が理想的でない原因として、

  • 財政支出による刺激が主として投資の増加であり、消費の増加ではない
  • ここ数年住民収入は徐々に増加しているが、収入の増加速度はGDP増加速度より明らかに低く、かつ都市・農村住民の収入格差の構造的矛盾が未解決である

ことを指摘している。さらに、国家計画委総合司の尹艶林は、「中国経済の最大の問題は消費需要とりわけ農村消費需要の不足だ」としている(7月30日付け中国経済時報)。

 なお、強気の見通しを示している国家情報センター経済予測部も、消費の将来の不安要因として、

  • 低物価が長期間継続していることによる、消費者の買い控え傾向の助長
  • 就業の安定性への不安、住宅・年金・医療・子女教育への将来支出の予想から、貯蓄を増やす傾向
  • 収入格差が不断に拡大していることによる、社会平均の消費水準の低下
  • 多くの地区の洪水災害による消費減少

を挙げている(8月28日付け人民網)。

3.投資

 国家統計局は、上半期の投資情勢を次のように分析している(8月2日付け人民網)。

 まず、上半期の投資が好調だった要因として、次の4点を指摘している。

  • 国家の積極的財政政策の継続が投資増加に重要な作用を発揮した。
     昨年第4四半期以来、大部分の国債プロジェクトの2002年末完工を確保するため、各地において国債資金の交付が加速した。今年上半期の交付は762億元であり、前年同期比43.8%の増である。
  • 経済情勢が好転し、投資者の自信が強化された。
     資金源としては、外商(外資企業)の固定資産への直接投資が30.8%増であり、外商の更新改造投資は82.5%急増した。
  • 一連の内需拡大方針政策の効果により、都市住民の収入が不断に高まり、住民の居住条件改善の需要が旺盛となって、不動産投資の増加を牽引した。
  • 各地の都市建設が地方経済の速い発展を促した。

 一方で、国家統計局は、固定資産投資の問題点を次のように指摘している。

  • 投資の良性の増加を促進する内在的メカニズムが未だ完全に形成されておらず、投資の速い増加は、強く政策的要因に依存している。
     上半期の投資の速い増加は、国家計画委の今年国債プロジェクトを完成させよ、という命令と大きく関係しており、もしこの要因が消失すれば、投資の増加は緩慢になってしまう。西部地区の投資増加も国債資金に明白に依存している。
  • 資金不足が深刻化している。
  • 投資領域の中で、効率を軽視する現象が台頭している。
     ここ数年、飛行場が争って建設され、一部の地方飛行場は過密になり、損失がひどい。ある省では、800余りの工業団地が建設されている。
  • 更新改造方面の資金が逼迫している。
     外資は大幅に増えているが、銀行貸出は8.1%減少している。

 また、国家計画委総合司の尹艶林は、「上半期の21.5%の伸びが1年間続くことは不可能であり、ここ2年の投資増加が12.1%程度であることからしても、下半期は下降するはずだ」としている(7月30日付け中国経済時報)。他方、国家情報センター経済予測部は、第3四半期も投資の高い伸びが続くとしており、その理由の1つとして「国家は16回党大会の前に一部の国債プロジェクトの完工を要求しており、投資の勢いが弱まるはずがない」としている。

4.輸出

 8月18日付け人民網は、国務院発展研究センターのマクロ経済研究部情勢分析課題グループの分析を掲載しているが、これによれば、上半期の輸出が対前年同期比14.1%増と好調だったのは、第1にアメリカ経済が第1四半期に力強く回復したこと、第2に国内の輸出税還付を強化したことによるものであり、今後は、アメリカ経済の暗転、税還付の力の低下により、輸出に不利な要素が増加するものと見ている。ただ、昨年下半期の輸出が低調でベースが低いこと、米ドルと連動して人民元も切り下がっていること等から、対前年同期比では伸び率がやや下降する程度でおさまるのではないか、としている。前述の国家計画委総合司の尹艶林も1年を通じて上半期のような高い伸びは不可能と判断しており、むしろ下半期は輸入が増大し、貿易黒字が減少すると予測している。

5.その他の経済の問題点

 上述以外にも、中国経済については、以下の問題点が指摘されている。

  • 就業矛盾が突出しており、就業圧力が更に増大
     その要因としては、現在新規労働力の増加がピークであること(毎年800万人前後増加)、農村余剰労働力の移転が加速していること、国有企業改革の深化が就業を逼迫させていること、経済構造調整がうまく進んでいないことが就業圧力を生み出していること、が指摘されている(8月16日付け中国経済時報)
  • 生産安全問題、社会安定問題、生活・生産における自然災害問題が悪化
     特に、死亡事故の増大、重大・特大事故の頻発、原因の未解決が指摘されている(8月16日付け中国経済時報)
  • 物価の低迷
     上述の国務院発展研究センターのマクロ経済研究部情勢分析課題グループは、その直接の原因は、WTO加盟以降、国際市場価格の影響が強まったこと、公共サービスの独占による価格引き上げにブレーキがかかったこと、を挙げているが、より深層の原因としては、金融政策の伝達メカニズムがうまく機能していないため、過剰生産能力が淘汰されず、国有銀行はリスクを負うことができず貸し渋りしていることを指摘している。
  • 中小企業の融資難
     上述の国務院発展研究センターのマクロ経済研究部情勢分析課題グループは、その解決策として、金融業の対内開放の速度を速め、非国有の銀行を適度に発展させるべきだとしている。
  • 外資利用方式の欠陥
     8月22日付け中華工商時報は、今の外資利用は投資増加のみで、資産の現存量に殆ど影響を与えていない、と指摘している。合併・買収が少ないため、外資の大量の参入は現在の生産能力過剰を激化させ、国有企業の生存の余地をさらに狭めている、としている。
  • 財政権限と行政権限のアンバランス
     国家計画委マクロ経済研究院の馬暁河は、94年の分税制以降、上級政府は財政権限が大きくなり、下級政府は行政権限が大きくなったため、下級政府は財政収支のバランスを取るべく企業や農民から税や各種の手数料を取り立て、企業・農民の負担が加重される結果を生んだ、と指摘している

(8月26日付け国際金融報)。

6.まとめ

 以上見てきたように、上半期の高い成長率は政府のてこ入れにより、嵩上げされた面が強い。これは、普通であれば党大会は9月ないし10月に開催されるが、その時点では上半期の経済統計しか明らかではないため、そこまでの数字をできるだけ良くし、現指導部の適切な経済運営により昨年下半期より経済状況が大きく好転した姿を党大会で示したかったのではないか、と思われる。しかし、16回党大会は11月8日にずれ込んでしまったため、その時点では1−9月統計が明らかになってしまうこととなった。

 官による経済てこ入れは上半期に集中させてしまったので、下半期はやや息切れ気味となる。それに代わる民需や輸出の増大も当面期待できない。財政部は財政健全化の観点から、徴税強化を行うとともに(王春正国計委副主任も、8月27日全人代常務委において、高所得者の個人所得税徴収を強化し、通年の予算を計画どおり執行したいと強調している)、5ヵ年計画の後半(2004−2005年)において、積極的財政政策をフェイド・アウト(中国語では「淡出」)させようとしているが、この「淡出」には各方面から反対論が出ている。そもそも中国経済が本当に民需中心の堅実な成長を遂げているのなら、これほど強い反対が起こるはずもない。常識的に考えれば、第3四半期の国経済の減速は避けられないのではないかと思われる。

 もっとも、国家情報センター経済予測部が指摘するように、政府がなりふり構わず、より多くの国債プロジェクトの党大会前の完工を強制すれば、1−9月の成長率が嵩上げされる可能性はある。実際、党大会日程の公表以来、「際立った成績で16回党大会を迎えよう」というスローガンが繰り返されている(8月26日付け人民日報社説、8月28日全国宣伝部長会議・全国組織工作座談会における江沢民重要講話等)のである。しかし、それは第4四半期の成長を大きく鈍化させることになろう。下半期の経済動向に強気の見方をしている国家情報センター経済予測部ですら、その達成のためには、積極的財政政策の農村への傾斜・金融による県域経済の支持の強化・サービス業へのてこ入れによる就業増加・輸出貨物への「免除・相殺・還付」方式の税還付による輸出のてこ入れが必要と建議しているのである。

 仮に第3四半期の数字が思わしくなかった場合、現指導部はどのように対処するのであろうか。おそらく「このように困難な時期だからこそ、経験が豊富な現指導部の存在は重要だ」と開き直るのであろう。すでに、今年初めからそのような言い方がされ始めている。経済がどう転んでも、自分に有利に議論を展開する。そういう、したたかさを現指導部は有しているのである。

2002年8月29日記

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