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ログイン2008年9月21日
7月17日、上半期の経済統計が発表された。本稿はその概要とマクロ経済政策の運営方向をめぐる全人代財経委の政府批判、これに対する国務院・党中央等の反応を紹介する。
はじめに
7月17日、上半期の経済統計が発表された。本稿はその概要とマクロ経済政策の運営方向をめぐる全人代財経委の政府批判、これに対する国務院・党中央等の反応を紹介する。
1.1-6月期経済統計
(1)GDP成長率
1-6月期は実質10.4%となった。4-6月期は10.1%であり、1-3月期の10.6%より減速した。
(2)工業生産
1-6月期の一定規模以上の工業の付加価値は、前年同期比16.3%増(6月は16.0%)となり、前年同期より伸びは2.2ポイント低下した。1-3月期は16.4%、4-6月期は15.9%であり、四半期別でも鈍化傾向が顕著である。
形態別では、重工業が前年同期比17.3%増(前年同期より伸びが2.2ポイント低下)、軽工業が13.8%(同2.6ポイント低下)と、軽工業の落ち込みが大きい。
(3)企業利潤
1-5月期の一定規模以上の工業企業の利潤は前年同期比20.9%増(前年同期より伸びが21.2ポイント低下)であった。
(4)投資
1-6月期の全社会固定資産投資は前年同期比26.3%増であり、前年同期より伸びが0.4ポイント加速した。うち、都市は26.8%(6月は29.5%)、不動産開発投資は33.5%と、投資はしだいに加速している。
プロジェクト新規着工は前年同期比1万2672件増であり、新規着工プロジェクト計画総投資額は1.5%増となっている。
(5)消費
1-6月期の社会消費品小売総額は、前年同期比21.4%増(6月は23.0%)であり、前年同期より6ポイント加速した。
(6)物価
6月の消費者物価は前年同期比7.1%上昇した。うち、都市は6.8%、農村は7.8%である。
食品価格の上昇は17.3%であり、うち肉及び肉製品は27.3%(豚肉は30.4%)、野菜8.3%、穀物8.7%、油脂34.0%、果物14.2%、卵2.1%、調味料5.6%の上昇となっている。
居住関係では、水・電気・燃料価格が9.1%の上昇、建築材が8.1%の上昇となっている。
1-6月期では、消費者物価の上昇は7.9%であり、うち都市は7.6%、農村は8.6%となった。食品価格の上昇は20.4%である。
6月の工業品出荷価格は前年同期比8.2%(1-6月期では7.6%)の上昇であり、原材料・燃料・動力購入価格は13.5%(1-6月期では11.1%)の上昇となった。
(7)住宅価格
6月の70大中都市の建物販売価格は前年同期比8.2%(1-6月期では10.2%)の上昇となった。
6月の新規建設の住宅価格は前年同期比9.2%の上昇であり、上昇幅が大きい都市はウルムチ20.2%、海口18.1%、寧波14.7%、北京14.3%、杭州13.3%である。
(8)所得
1-6月期の都市住民可処分所得は前年同期比実質6.3%増(前年同期より7.9ポイント減)であり、農民現金収入は実質10.3%増である[1]。これを反映し、都市住民の消費性支出は実質5.7%増となっている。
(9)対外経済
1-6月期の輸出は前年同期比21.9%増であり、前年同期より伸びは5.7ポイント低下した。輸入は30.6%増であり、前年同期より伸びは12.4ポイント加速した。この結果、貿易黒字は990億ドルとなり、前年同期より132億ドル減少した。
海外からの外資の実際利用額は524億ドル(前年同期比45.6%増)であり、前年同期より伸びは33.4ポイント加速している。
6月末の外貨準備高は1兆8088億ドルであり、前年同期比35.7%増加した。年初からの増加分は2806億ドルであり、前年同期比143億ドル増加した。
(10)金融
6月末のM2は前年同期比17.37%増であり、伸びは昨年末より0.63ポイント高くなった。
金融機関の預金残高は43.90兆元であり、前年同期比18.85%増、年初より4兆9649億元増加(前年同期より伸びは1兆5774億元増加)している。貸出残高は28.62兆元であり、前年同期比14.12%増(伸びは昨年末より1.98ポイント低下)、年初より2兆4525億元増加(前年同期より伸びは899億元鈍化)している。
(11)税収
1-6月期の税収は、3兆2553億元であり、前年同期比30.5%増となった。税目別では、国内増値税22.4%増、国内消費税18.5%増、営業税25.7%増(ここまでの間接税3税計で1兆4914億元)、税関が代行する諸税収3956億元、34.9%増、企業所得税335億元、14.7%増、個人所得税2135億元、27.3%増、証券取引印紙税837億元、34.2%増である。
このように税収が好調なこともあり、後述のように減税論が強まっている。
2.国務院経済情勢座談会(7月8-11日)
新華網北京電2008年7月27日は、7月8-11日に3度開催された経済情勢座談会の内容を公表した。このような重要会議の内容の公表が大幅に遅れるのは異例のことであるが、それだけ政府のマクロ経済政策に出席者から異論が相次いだということであろう。また、全人代財経委が7月23日に政府のマクロ経済政策を批判する文章を突然公表したことも、政府に会議の概要公表を余儀なくさせたのではないかと思われる[2]。
会議は指導者の地方視察の結果を総括する形で行われ、温家宝総理が主催、李克強・回良玉・張徳江・王岐山・馬凱が出席した。
(1)地方責任者座談会(7月8日)
広東・安徽・陝西・遼寧・山東・湖北・広西7省区の責任者が出席し、意見を述べた。彼らはいずれも上半期の経済は良好な発展態勢を維持しているとしつつも、「物価上昇圧力は依然かなり大きく、石炭・電力・石油等の基礎的原料製品の需給は逼迫し、輸出は少なからぬ困難に直面している」とし、マクロ・コントロールを引き続き強化・改善し、中小企業の発展を支援し、就業を安定的に増加させ、財政政策を運用して自主的なイノベーションを奨励し、対外貿易政策の基本的安定を維持するよう建議した。
(2)エコノミストとの座談会(7月10日)
8名のエコノミストが呼ばれ、彼らは一致して「現在の経済情勢は良好であり、政府のマクロ・コントロールは成果が上がっている。しかし、経済の平穏でかなり速い発展を維持し、インフレを抑制し、就業を促進するという方面において、政策を整備しなければならない」との認識を示した[3]。
(3)専門家座談会(7月11日)
ここでは金融・不動産情勢が重点的に分析され、金融・不動産業の安定的で健全な発展を促進する政策について建議を聴取した[4]。
(4)各座談会における温家宝の発言
現在のわが国経済は、引き続きマクロ・コントロールが期待する方向に発展しており、国際経済の不利な要因と深刻な自然災害は、わが国の経済発展の基本面を変えてはいない。しかし、体制的・構造的な矛盾が依然存在し、インフレ圧力かなり大きい等の新たな問題に直面している。
当面の経済政策は6つの関係をうまく処理しなければならない。
①経済の平穏でかなり速い発展とインフレ抑制の関係
両者の間の均衡点をしっかり把握しなければならない。
②当面の発展と中長期の発展の関係
今年の発展を促進するだけでなく、更に重要なのは来年・再来年・更に長期間の平穏でかなり速い発展のための条件を創造することである。
③総量と構造の関係
総量の均衡を保証するのみならず、構造調整を加速しなければならない。
④内需と外需の関係
内需拡大による経済成長の牽引を重視し、同時に対外開放水準を高める。
⑤居部と全局の関係
各地域・各分野に存在する際立った矛盾・問題に対応して、真に区別して対応し、維持するものと抑制するものを区別しなければならない。
⑥発展と改革の関係
改革により発展を促進することを堅持する。
3.国務院常務会議(7月15-16日)[5]
温家宝総理は次のように指摘した(新華網北京電2008年7月27日)
(1)情勢判断
我々は、直面する困難・問題を高度に重視し、リスク意識・憂患意識を強め、各種施策をしっかりと行う信念を固めなければならない。わが国は、発展の重要な戦略的チャンスの時期にあり、この判断は変わっていない。労働力・資金供給は総体として潤沢であり、貯蓄率はかなり高い。国内市場は広く、発展の潜在力は大きく、かなり大きな挽回の余地がある。企業の競争力・活力は不断に高まっており、市場の変化に適応する能力も増強している。マクロ・コントロール能力は、実践において改善・向上を得た。我々には、前進中の各種困難を克服し、現在の良好な情勢を強固に発展させる条件と能力がある。
(2)下半期の経済政策
経済の平穏でかなり速い発展を維持し、物価の早すぎる上昇のコントロールをマクロ・コントロールの第一の任務とし、インフレ抑制を際立って位置付けなければならない。各レベルの指導者は、思想・認識を中央の経済情勢判断・施策手配に統一させ[6]、引き続き国際情勢の変化を密接にフォロー・分析し、国内経済に出現した新たな状況・問題をタイムリーに検討しなければならない。マクロ経済政策の連続性・安定性を維持するのみならず、マクロ・コントロールの予見性・対応性・柔軟性を増強し、マクロ・コントロールの重点・テンポ・程度をしっかり把握し[7]、今年の経済発展の各種任務の完成に努めなければならない。
4.全人代財経委員会の経済情勢判断
新華網2008年7月23日は、全人代財経委員会が下半期の経済動向を研究・判断した結果を公表した[8]。概要は以下のとおりであり、政府のマクロ経済政策を厳しく批判している。
4.1 重大自然災害のマクロ経済に与える影響は限定的である
寒波・氷雪災害は、貴州・湖南・江西等の農業に830億元の直接損失をもたらした。特大地震は、四川・甘粛・陝西に1800億元余りの工業経済損失をもたらした。現在、南方の洪水はまだ終息しておらず、広東・広西・湖南の工業にマイナス影響をもたらしている。
しかし、今年の重大自然災害はマクロ経済運営全体にそれほど大きな影響を及ぼすことはない。規模から見れば、地震の重大被災地域13県市は全国の0.34%を占めるのみで、四川全体が2007年の全国GDPに占める割合は4.2%に過ぎない。財政収入の損失は、全国範囲から見れば比較的小さい。
投資から見れば、わが国の歴史的経験によると、大災害の後は往々にして投資の反動増が出現する。災害後は大量の家屋の新築・改築・修繕、工場・炭鉱・道路等インフラの修復が必要となり、短期間に集中的に建設が行われるので、投資の伸びを牽引する力がかなり強い。関係の研究試算によると、四川の固定資産の損害は4540億元を超えるので、3年で再建が完成するとすれば、第1年の固定資産投資の規模は2000億元前後となる。
農業から見れば、年初予想されていた一部農産品の需給逼迫の可能性については、問題は未だ発生していない。
物価から見ると、寒波・氷雪災害は農産品生産と輸送・供給にかなり大きな影響を与え、物価に短期的な直撃をもたらした。第2四半期に入り、野菜・副食品の供給が増大するにつれ、全国の物価上昇は鈍化している。特大地震災害発生後、震災が全国消費者物価にもたらす影響は顕在化していない。しかし、災害復興は鋼材・セメント等の建材需要を大幅に増加させ、更には地震対策・災害救助で消費した大量の備蓄物資の補充が必要なので、一定程度生産財価格の上昇をもたらすことになる。
4.2 下半期の経済動向に関する分析・判断
下半期、わが国経済が直面する国際環境は更に複雑さを増す。サブプライムローン危機の影響は実体経済に向って更に拡散し、米・日・欧等の先進国経済、ロシア・インド・ブラジル等の新興国経済は、いずれも異なる程度に鈍化が現れ、世界経済成長の下降傾向が明白になっている。同時に、エネルギー・取引量の多い国際商品価格が不断に上昇しており、世界的にインフレが激化している。世界経済の動向についてはなお判断が分かれているものの、世界経済の鈍化とインフレ激化は短期に変わることはなく、しかも不確定要因が増加しているので、国際経済環境は悪化に向っている。
国内から見ると、経済成長の減速を促す要因は明らかに増大している。
(1)輸出の伸びは引き続き鈍化する
国際需要の減少・コストの上昇・人民元レート等の要因の影響を受け、輸出の伸びは更に鈍化し、経済への牽引作用は引き続き低下しよう。
(2)消費の実質の伸びは鈍化する
個人所得の実質の伸びはかなり低く、物価総水準は高止まりとなり、個人の消費能力を大きく削減している。不動産・自動車という2大消費ホットスポットは明らかに冷えてきており、個人消費構造のグレードアップは力を失っている。
(3)投資の実質の伸びは減速する
輸出・内需の伸びの反落の影響を受け、投資の伸びは力不足となり、更に貸出引締め・株式市場の収縮・企業利潤の伸びの反落等の要因が投資資金を逼迫させており、全社会固定資産投資の実質の伸びは15%前後に減速しよう。災害復興が一定程度投資の伸びを牽引するとはいえ、投資の伸びが全体として鈍化する傾向を変えることはできない。
総体として見ると、わが国経済は2007年第3四半期に12.2%の成長のピークに達した後、昨年第4四半期には反落傾向が既に現れていた。今年上半期、経済のサイクル的・趨勢的下降傾向は更に明白となり、今年の経済成長は引き続き穏やかに下降しよう。注意しなければならないのは、経済が下降ルートに入ると同時にインフレ率が明らかに高まっており、国民経済は「高成長・低インフレ」から「高成長・高インフレ」に向かい、さらには「低成長・高インフレ」へと進んでいることである。
関係機関が2008年の主要経済指標を予測した結果は表1のとおりである。
表1 一部研究機関の2008年主要経済指標予測(伸び率:%)
指標 |
国家情報センター |
中国国際金融公司 |
人民大学課題グループ |
GDP |
10.3 |
10.3 |
10.4 |
全社会固定資産投資 |
24.5 |
26.3(都市) |
25.1 |
社会消費品小売総額 |
18.7 |
実質12.4 |
19.0 |
輸出 |
20.0 |
20.0 |
19.5 |
消費者物価指数 |
7.0 |
7-7.5 |
7.1 |
M2 |
17.7 |
16(目標値) |
16.3 |
現在の伸びの反落については、我々は次のように考える。
①数年連続の高成長後、内外の要因を考慮すると、伸びの反落には一定の必然性がある。もし年間10%前後の速度を維持できれば、マクロ・コントロールの誘導方向と要求に合致するものである。
②少なからぬ機関が2009年の景気は決して楽観できず、さらに反落すると予測している。このため、経済に慣性の下降と下降率の過度な拡大が出現するのを防止しなければならない。
このため、輸出・投資の実質の伸びの変化、不動産市場の動向、就業状況の変化、一部の先進国に経済・金融危機が発生する可能性を高度に重視し、適時・適度にコントロール政策の程度・誘導方向を調整しなければならない。
4.3 注意に値するいくつかの問題
(1)インフレ圧力は依然かなり大きい
インフレは不断に激化し、既に多くの国に蔓延している。
①取引の多い産品の国際価格が上昇している
②国内穀物価格の上昇圧力が増大している
国内の農業生産財価格の上昇は明白であり、農民の作付け収益はかなり低い。食糧の安全を保障するため、食糧の大規模密輸の出現を防止し、食糧の最低購入価格を引き上げよとの声が高まっている。
③川上の生産財価格の上昇が加速している
④製品油・電力・石炭価格の合理化について価格上昇圧力が増大している
国家は最近国内ディーゼル油の価格を調整したが、国際石油価格とは開きがあり、なお大きな調整圧力が存在する。電力価格の調整幅も全く不十分である。
⑤都市公共サービス価格の上昇圧力が大きい
現在、都市ゴミ処理費、汚水処理費、水・暖房・ガス供給等の公共サービス価格は依然かなり低い。
インフレは、一旦一定水準を超えてしまうと有効にコントロールすることができなくなり、個人・企業の期待を変え、経済に深刻な破壊的結果をもたらす。当面、わが国のインフレ動向に密接に注意を払い、インフレ水準が過度に高くなり国民経済に深刻な破壊をもたらすことを防止しなければならない。同時に、引き続き価格改革を推進し、価格体系を合理化しなければならない。これは短期的には更にインフレを押し上げる可能性があるが、不合理な需要を抑制し、供給を刺激する働きが相当明白であり、実際にはインフレ抑制に資するものである。価格統制によりインフレ問題を解決するのは奏功し難い。
2007年のわが国石油消費の新たな増加分は、世界の新たな増加分の40%近くを占める。国内製品油価格政策は国際石油価格に影響を与える重要な要因となっているが、現在国内製品油価格は引上げ後も依然かなり低く、一部の石油輸出国の水準よりも低い。国内の石油需要が高止まりになっていることが、国際石油価格を更に上昇させる圧力を増大させている。中金公司の試算によれば、国内石油価格を50%引き上げれば、精製油の粗利益は国際水準に達し、国内の供給は増加し、一部の不合理な需要が抑制されるので、石油価格の上昇圧力が軽減される。もし、2008年中頃に国内石油価格を50%引き上げれば、わが国の2009年のインフレ率は7.3%となるが、もし引き上げなければ2009年のインフレ率は8.7%に達する。
(2)輸出情勢は楽観できない
内外経済環境の緊迫と政策調整の相乗効果により、わが国の輸出情勢は峻厳な試練に直面している。特に、一部の輸出志向の経済地域では、対外貿易の伸びが明らかに鈍化している。1-4月期の広東省の輸出は10.7ポイント反落した。一部の労働集約型産業は、更に大きな打撃を受けている。広東省の1-4月期の輸出の伸びは、紡績アパレルが0.7%(11.2ポイント減)、プラスチック製品が7.4%(18.5ポイント減)、玩具が7.6%(29.2ポイント減)であった。全国のアパレル輸出は5月に0.64%減となっている。輸出の伸びが大幅に反落する状況下、少なからぬ輸出型企業の収益が明らかに下降しており、赤字に陥っているものもある。ただし、多くの企業は暫時利潤を犠牲にして市場シェアをなんとか維持しようとしているが、このような局面は長期には継続し難い。
ここ2年、国際収支の黒字を緩和し加工貿易の転換・グレードアップを誘導するため、国家は一連の加工貿易政策調整措置を打ち出した。これに対し、加工貿易の規模がかなり大きい一部の地域の反発は強烈であった。彼らは、政策調整の範囲が広く、打ち出しのタイミングが急であり、頻繁すぎ、加工貿易企業の生産経営に与える影響が大きすぎると考えたのである。しかも、この政策調整により、多くの外資はわが国のこれまでの貿易・外資政策の方向性に変化が生じたと考え、政策リスクへの憂慮が日増しに高まり、経営への信念が挫けたのである。加工貿易政策の調整は、主として「エネルギー多消費・高汚染・資源性」・低付加価値・低技術製品の輸出の伸びが速すぎるのを抑制するものであり、誘導の方向は完全に正しかった。しかし、政策を打ち出すに際し、内外経済環境の変化とりわけ欧米経済が後退に瀕していることの深刻な影響を十分考慮せず、タイミングの選択が適切とは言えなかった[9]。
我々は、新たな加工貿易調整政策を暫時緩和し、既存の政策の安定性を維持し、企業のダメージを緩和することにより、輸出に過度な打撃を与えることを回避するよう建議する。同時に、輸出の伸びと企業利潤の伸びが反落している状況については、業種・製品ごとに深く分析し、政策調整の効果をタイムリーに評価し、業種の平均値の変化のみを通して問題を見てはならないと建議する。労働集約型産業については、区別して対応しなければならない。紡績アパレル・玩具といったわが国の優位性が際立ち、就業圧力を有効に緩和できる産業、とりわけその中の高付加価値製品については、一定の政策傾斜を考慮すべきである。
(3)不動産市場の動向は、逆転が出現する可能性がある
今年に入り、全国の不動産市場に新たな状況が出現した。
①住宅価格の上昇幅に反落が出現し、少なからぬ大中都市の住宅価格が下落を開始した
広州・深圳等珠江デルタの主要都市の新規建設住宅価格は、今年に入り伸びが対前年度マイナスとなっており、成都・重慶の5月の新規建設住宅価格は4月よりも下がっている。北京・天津等渤海主要都市の住宅価格は小幅に上昇しているが、勢いは明らかに弱まっている。一部の都市では名目的な住宅価格は下落していないものの、ディベロッパーは「家を買えば自動車をプレゼント」といった隠れた値引き措置をすでに打ち出している。
②成約量が大幅に収縮している
1-5月期の全国分譲住宅の販売面積は前年同期比7.2%減少し、前年同期の伸びから23.8ポイント低下した。
価格の上昇が緩和し、成約量が収縮すると同時に、不動産開発投資は1-5月期で前年同期比31.9%増であり、前年同期より伸びが4.4ポイント加速している。少なからぬ専門家は、これは前期に建設中の規模が過大だったためであり、需要が依然旺盛であることを必ずしも反映していないと分析している。
長年の急発展を経て、不動産業はわが国経済において重要な地位を占めている。不動産・建設業の成長の経済成長への貢献度は20%に迫っており、付加価値はGDPの10%近くを占めている。不動産投資は、固定資産投資の25%を占め、不動産融資残高は商業銀行の全融資残高の約20%を占める。不動産からくる収入が地方財政収入に占める割合は相当大きい。6月末までに、わが国資本市場の株価指数は年初から50%近く下落したが、同様に資産価格である不動産価格でも「上がれば買い、下がれば買わない」という心理期待の影響が非常に顕著である。一旦住宅価格の大幅下落が発生すれば、影響は軽視できない。注意すべきは、米国において不動産価格の大幅下落が誘発したサブプライムローン危機が全面的に爆発する前に、不動産の成約量が大幅に収縮する状況が出現していたことである。
当面、一方で不動産業の資金繰り・取引量・開発投資の状況を深く調査研究し、不動産市場の動向に密接に関心を払いタイムリーに分析し、コントロール政策を安定化・調整し、住宅消費の期待を合理的に誘導しなければならない。他方で、不動産市場が地方財政・金融システムにもたらす潜在リスクを科学的に評価・防止し、政策調整のテンポ・程度をしっかり把握し、住宅価格の大幅な反落によって財政金融リスクが集中的に暴露され、経済が大打撃を受けることを防止しなければならない。
(4)農民の増収の難度が大きくなっている
今年1-3月期の農民現金収入は1494元であり、前年同期比18.5%の伸びであったが、実質の伸びは9.1%であり、前年同期より伸びが3ポイント反落した。今年に入り、農業生産財価格・農村労働力コスト・農業機械作業費が大幅に上昇しており、農業肥料価格の上昇圧力も依然大きい。農産品価格が大幅に上昇しているにもかかわらず、国家は農業生産財への総合直接補助基準を3度引き上げ、食糧最低購入価格水準を2度引き上げたが、食糧直接補助と食糧価格の上昇は、作付けコストの上昇を相殺し難く、農民の作付けによる増収は困難となり、作付けの積極性は高くない。
現在、一部の地域で食糧最低購入価格が市場価格よりはるかに低いという状況が出現している。食糧最低購入価格は指導作用を発揮できず、有名無実となっており、作付け農民の利益を保障できていない。現状からすると、食糧最低購入価格を引き上げれば、直接的・有効に農民の収入を引き上げることができ、操作コストも、不断に増加する各種補助の方式より低い。国家の食糧安全を確保し、農民の作付けへの積極性を高めるため、食糧最低購入価格を適切に引き上げ、農民の作付け収益を保証すべきである。
(5)ホットマネーの流入規模が増大している
今年に入り、外貨準備の増加が加速している。その1つの重要な原因はホットマネーの流入加速である。国際ホットマネーが大規模に中国へ流入し、わが国金融・経済の安全の脅威となっている。
①国際資本は引き続き流入し、中央銀行は受動的にマネーを放出している
中央銀行は頻繁に公開市場操作を行い、これが生み出す過剰流動性の圧力を緩和しており、これが中央銀行の金融政策の有効性・主動性を制約している。
②現在、わが国の金融監督管理体系は不完全であり、金融インフラ建設は相対的に立ち遅れている
これらの短期国際資本は、わが国の経済構造上の脆弱部分と金融制度の仕組みの欠陥を利用し、金融市場を攻撃し、金融市場の動揺を誘発している。
現在、人民元は経常項目は完全に兌換可能であり、資本項目は一部兌換可能である。海外資金は兌換可能な項目を利用し、複雑多様な方式・ルートで国境を越え流動しており、隠蔽性が強く、監督管理の難度が大きい。ホットマネー問題を解決する最も有効な方法は、利益メカニズムを通した調整であり、資金流入のインセンティブを弱めることである。為替レートの調整は、切上げ期待を弱めるのに役立つが、調整方式を整備し、一方的な切上げ期待が強まるのを防止しなければならない。
(6)財政政策・金融政策を更に整備する
現在の複雑な経済情勢に対しては、依然穏健な財政政策と引締め気味の金融政策の実施を堅持しなければならないが、同時に状況の変化に応じ、具体的な執行の中で調整を行わなければならない。引き続き金融を引き締め、銀行貸出をコントロールする状況下において、直接金融を積極的に発展させ、融資ルートを広げ、現在の企業の資金逼迫問題を緩和すべきである。
債券市場の発展を加速し、社債の発行規模を更に拡大し、省レベルの地方政府が地方債・特定目的の災害復興債を発行することを適時許可し、ノンバンクの金融業務の発展を加速することを建議する。
新たな金融政策は市場の期待の要素を十分考慮し、説明をしっかり行い、打ち出すタイミングをしっかり把握し、不必要な恐慌を発生させ金融市場の大きな波動を引き起こすことを回避すべきである。
経済の大幅な下降を防止するため、財政政策は消費需要を安定化する役割を発揮してよい。個人所得税の課税最低限を更に引き上げ、預金利子所得税の税率を引き下げ、個人の実質所得を増加させることを建議する。企業のコストが不断に上昇する圧力を緩和するため、道路通行料金などの税費用基準を引き下げ、技術イノベーションによりコストを引き下げた企業に対しては税を減免・控除してよい。全国的に増値税改革を早急に拡大すべきである[10]。
5.社会科学院数量経済・技術経済研究所 汪同三所長
人民日報2008年7月18日に「情勢を正確に推し量り、コントロールの重点を把握すべきである」との論文を寄稿している。ここでは、マクロ・コントロールの方向・重点の部分の概要を紹介する。
「下半期、マクロ経済政策は、総量をコントロールし、物価を安定化させ、構造を調整し、均衡を促すという要求に基づき、総体としては引き続き経済過熱を防止し、明白なインフレを防止し、穏健な財政政策と引き締め気味の金融政策を実行すべきである。同時に、内外経済環境の変化に応じ、発展・改革の方法により前進中の問題を解決することを堅持し、引き締め気味の金融政策の実施の程度・テンポをしっかり把握すべきである。穏健な財政政策の構造調整・民生の保障・地震災害復興への支援を増加し、経済の大きな起伏が出現することを有効に回避し、経済の平穏でかなり速い発展を維持すべきである。当面、経済成長の過度な減速と物価水準の高止まり状況が出現することを防止すべきである。マクロ・コントロールの重点・テンポ・程度を科学的に把握し、科学的発展観を堅持しさえすれば、内外の各種不利な要因がもたらす困難に打ち勝つことができる。
現在の情勢の特徴からして、当面のマクロ経済政策の重点内容は次の点とすべきである。
①インフレ抑制をマクロ・コントロールの重点とする。
あらゆる手をつくして物価総水準の速すぎる上昇を抑制し、物価の上昇幅が受容可能な範囲内にコントロールされるよう努力し、庶民の生活の安定を保障しなければならない。
②価格改革をマクロ・コントロールの強化・改善の重要内容とする。
引き続き、段階的に資源要素価格の改革を推進し、価格体系を更に合理化し、有効な供給を増加させ、不合理な需要を抑制して、技術進歩・省エネ・汚染物質排出削減・増産節約を推進しなければならない。
③金融の安定化を金融リスク防止の基本内容とする。
国内金融分野の問題を正確に分析し、短期資本流動と国際為替レートの変化の動向を高度に警戒し、金融危機の突発的特徴を十分認識し、さらに金融監督管理を強化しなければならない。国内資本市場の健全な発展を促進し、不動産市場の安定を維持し、国家の金融安全を確保しなければならない。
④農業の掌握を大局安定化の基礎活動とする。
農業の安定的増産を実現し、農業副産品の有効な供給を保障し、いかなる時も物価の上昇を抑制し、経済社会の大局安定の基礎を維持しなければならない。引き続き農業・農村支援・優遇各種政策を真剣に実施し、農業への投入を増やし、更に高水準の農業と持続的な増産、農民の持続的増収の実現を勝ち取らなければならない。」
6.党外人士座談会(7月21日)
経済政策の在り方について、民主諸党派・全国工商連・無党派人士から意見を聴取した(新華網北京電2008年7月25日)。
6.1 胡錦涛総書記の指示
上半期の成績を十分肯定すると同時に、我々は現在わが国経済発展が直面する内外の試練・リスクを深く分析し、研究・判断を強化し、妥当に対応しなければならない。我々の戦略的判断は依然、かつてないチャンスがあり、かつてない試練もあり、チャンスは試練よりも大きいというものである。
下半期の経済政策の目標は、引き続き経済の平穏でかなり速い成長を維持し、経済社会の良好で速い発展の推進に努め、引き続き物価の速すぎる上昇の抑制を際立って位置付け、物価の上昇幅を合理的に区間内にコントロールするよう努めることである。この目標の実現のためには、政策を安定させ、政策の連続性・安定性を維持しなければならない。また、適時微調整を行い、マクロ・コントロールの重点・テンポ・程度をしっかり把握しなければならない。さらに、区別して対応し、維持するものと抑制するものを区別し、柔軟・的確に問題を解決しなければならない。
下半期経済政策に対しては6点を要求する。
(1)経済の平穏でかなり速い発展を全力で維持しなければならない
内需とりわけ消費需要の拡大に力を入れ、同時に対外貿易の平穏な伸びを維持し、内外市場・内外資源を十分に利用して経済発展を推進しなければならない。石炭・電力・石炭の供給増に努め、中小企業の生産経営困難の解決を支援し、資本市場・不動産市場の健全な発展を誘導し、経済発展への期待を安定化させなければならない。
(2)物価の速すぎる上昇を有効に抑制する
引き続き経済・法律・所要の行政手段を総合的に運用し、有効な供給の増加と不合理な需要の抑制に力を入れなければならない。市場供給の拡大、とりわけ穀物・食用油・肉・野菜等基本的な生活必需品の生産の増加に努め、市場の監督管理を強化しなければならない。
(3)農業生産を適切にしっかり行う
食糧総生産の安定的な伸びの実現に努め、品種構造をうまくバランスさせることに注意を払わなければならない。各種農業・農村の強化・優遇政策を更に実施・整備し、農業への支援・補助を強化し、農業生産コストを引き下げる措置を採用し、農民の作付けの積極性を保護しなければならない。
(4)経済発展方式の転換を積極的に推進する
産業構造の改善・グレードアップを推進し、企業の科学技術進歩とイノベーションを大いに推進し、省エネ・汚染物質排出削減活動を全力を挙げしっかり行なわなければならない。
(5)引き続き改革開放を推進する
改革開放を断固として推進し、とりわけ要求に基づき重要分野・カギとなる部分で新たな進展をしっかり勝ち取らなければならない。資本市場システムを早急に整備し、行政管理体制改革を深化させ、対外開放を拡大しなければならない。
(6)民生保障活動を念を入れしっかり行う
地震対策・災害救助・災害復興活動を適切にしっかり行い、対口支援メカニズムを整備し、とりわけ被災者の生産・生活の手配をしっかり手配しなければならない。引き続き積極的な就業活動を実施し、被災地域の労働力の就業を大いに援助しなければならない。物価の上昇が低所得層の生活水準に与える影響に注意を払い、財政による民生保障支援を強化し、低所得層の生活水準が下がらないよう保証に努めなければならない。
6.2 温家宝総理の指示
下半期の経済政策について6点を指示した。
(1)経済の平穏で速い発展を維持しなければならない
物価の上昇幅を、合理的な区間・経済社会の発展が受容可能な範囲内に抑制しなければならない。
(2)現在に立脚し、長期に着眼しなければならない
経済の長期的発展を制約する際立った矛盾の解決に力を入れ、来年さらに長期にわたる経済の持続的で健全な発展のための条件を創造しなければならない。
(3)発展方式を適切に転換しなければならない
経済構造の調整を加速し、経済成長の質・効率を高めなければならない。
(4)内需とりわけ消費需要の拡大に努めなければならない
同時に、内外の市場・資源をハイレベルで利用しなければならない。
(5)改革による発展を促すことを堅持しなければならない
改革という方法を用い、体制的・構造的矛盾を解決し、科学的発展に体制メカニズムの保障を提供しなければならない。
7.人民日報海外版2008年7月23日
「10.4%の経済成長率を理性的に見るべきである」との評論を掲載した。その概要は以下のとおりである[11]。
「最近、経済成長速度の鈍化と物価指数の上昇が、政府・学界にわが国経済にスタグフレーションが発生する可能性があるとの憂慮を引き起こしている。ここでは、わが国経済の成長率にスタグフレーション問題が発生する可能性があるか否かをじっくり検討したい。
(1)わが国の経済成長の歴史的データを分析し、現在の経済情勢を正確に判断すべきである
1978-2007年の平均成長率は9.88%である。1984年・1992年・1993年の超高成長の要因を除外すると、わが国経済の適切な成長区間は8.5-10.5%である。これからすれば、上半期の経済成長率は正常範囲に属するといえる。成長率の鈍化は、過去5年間の経済成長が速すぎたためであり、今回の減速は理性的な回帰であり、成長の停滞ではない。
(2)改革開放以来、わが国は連続30年平均10%近い成長率を実現してきた
国際経験からすれば、わが国のような高成長の持続は非常に稀である。わが国の経済成長率がなお世界平均水準(4-5%前後)の倍であるときに、スタグフレーションを過度に心配するのは不要なことである。
(3)現在の経済情勢は「過熱化」区間から「安定」区間に反落したばかりである
反落速度はかなり速いが、なお安定区間のかなり上の区域にあり、「冷却化」区間の恐慌には陥っていない。実際、西側の学術界の定義では、スタグフレーションに対応する成長率はゼロ成長か1-2%以下の低成長である。これからすれば、わが国は現在スタグフレーションのリスクがあるとは言えない。
(4)中央の政策決定層が経済発展方式の転換を強調するにつれ、過去の「追いつけ追い越せ」という情緒に駆られた粗放式高成長の方法は徐々に改変されている
個別業種の虚構の繁栄は是正され、汚染プロジェクトは中止となっている。外資の超国民優遇政策は修正され、普通労働者の低賃金は引き上げられている。資源・農産品価格は更に合理化された。これらの深層レベルの改革は、短期的にはいずれも経済成長率に影響を及ぼすものである。以上からすれば、現在の経済成長率の鈍化は、わが国経済がより好ましい発展を実現するための副産物であり、西側の経済成長理論のロジックにも適合するものである。
(5)今後数年、多くの制約要因の作用がわが国経済成長を適切な区間(約7.5-9.5%の間)に下方調整することになろう
このため、現在の経済成長速度は正常である。もし省エネ・汚染物質排出削減目標を達成できるとすれば、10%前後の成長率は「良好で速い」という目標に完全に合致するものである。国民が「追いつけ追い越せ」という情緒をフエードアウトし、頭を冷静にしてこそ、経済ルールを理性的に分析できるのであり、現在の成長率鈍化問題を客観的に見ることができるのである。」
8.温家宝総理の広東省視察
7月19-20日に行われた。直近の7月4-5日に習近平が視察しているにも関わらず、なぜ再び視察を行ったのかは定かではないが、①全人代が指摘するように広東省の経済状況がかなり悪化している、②習近平の視察内容が温家宝の満足するものではなかった[12]、③深圳市で行われている政治改革実験の督励、の3つが考えられよう。
視察において温家宝は、次のように指示した(新華網広州電2008年7月20日)
「世界経済の成長鈍化、外需の収縮が、珠江デルタの輸出型中小企業に与える影響は大きい。この試練への対応の根本的出口は、改革開放の深化と科学的発展の推進にある。重点施策としては、
①経済発展方式の転換を加速し、産業構造の改善・グレードアップを推進し、世界の先進的な製造業基地・現代サービス業の地域センターを作り上げることに力を入れなければならない。
②対外開放の範囲・深さを拡大し、国際競争力の増強に力を入れ、導入の水準を引き上げ、海外進出戦略を早急に実施し、開放型経済を新たなレベルに引き上げなければならない。
③相互利益・Win-Win、平等な話し合いという原則を堅持し、協力の考え方・方式を刷新して、広東・香港・マカオの緊密な協力を大いに推進しなければならない」[13]
9.党中央政治局会議(7月25日)
下半期の経済政策について次のように強調している(新華網北京電2008年7月25日)。
(1)科学的発展観を深く貫徹実施し、経済の平穏でかなり速い発展の維持と物価の速すぎる上昇の抑制を第一の任務としなければならない。
引き続きマクロ・コントロールを強化・改善し、マクロ経済政策の連続性・安定性を維持し、経済運営中の際立った矛盾・問題の解決に力を入れる。マクロ・コントロールの予見性・対応性・柔軟性を増強し、コントロールの重点・テンポ・程度をしっかり把握する。
(2)改革開放を深化させる
経済構造調整と発展方式の転換の推進に力を入れ、経済発展の質・効率を高め、省エネ・汚染物質排出削減・生態環境保護を適切に強化する。
(3)民生改善を一層重視し、経済社会の良好で速い発展を促進する
(4)各地域・各部門は思想・行動を中央の情勢分析・判断と総体的手配に統一させ、手抜きをせず、中央の確定した各種方針・政策を実施しなければならない
経済の平穏でかなり速い発展を維持し、物価の速すぎる上昇の抑制に力を入れ、いささかも緩めることなく農業生産をしっかり把握し、対外経済の平穏な発展を促進し、財政・金融コントロールを強化・改善し、構造調整・省エネ・汚染物質排出削減を断固として推進し、地震災害復興活動を着実に実施し、重点分野・カギとなる部分の改革を積極的に推進し、人民生活の改善に力を入れ、経済社会の発展で更なる成績を勝ち取らなければならない。
10.北京青年報2008年7月26日
政治局会議の直後に、「マクロ・コントロールを政府改革の契機とせよ」と題する記事を発表した。同紙は共青団系であり、前述の人民日報海外版とともに指導部の意向を反映しているものと思われる。記事の概要は以下のとおりである。
「上半期の経済運営のデータ・情勢を総合すると、我々は今回のマクロ・コントロールがカギとなる時期に入ったと強烈に感じた。他方で、経済成長の下降と輸出・不動産等の業種の激烈な波動と、これが誘発する就業問題を防止しなければならない。この十字路に対し、エコノミストは1つの異なる見解と1つの共通認識を生み出している。
見解が異なるのは、金融政策である。一部のエコノミストは、国内のインフレ圧力が十分峻厳であり、もし今金融政策を緩めれば、更に深刻なインフレを誘発するとする。別のエコノミストは、金融政策を緩め、投資市場を活性化し、経済発展を刺激すべきだとする。彼らは、今回のインフレは基本的に輸入型インフレに属するものであり、金融政策の緊縮では決してインフレ圧力を有効に緩和できないと考えている。しかも、現在経済は明らかに下降傾向にあり、経済の持続的成長を維持し、日増しに深刻になる就業問題を緩和することこそ現在の政策の重点であるべきだとする。
共通認識は、財政政策に関するものである。現在のマクロ経済情勢に対して、エコノミストは申し合わせたかのように一致して、穏健な財政政策を積極的財政政策に転換すべきだと指摘している。引き締め気味の金融政策を使用してインフレを防止すると同時に、積極的財政政策を使用してスタグフレーションを防止しなければならないとするのである。
この見解の相異点については、さらに観察が必要である。情勢の動きをよく観察し、金融政策の程度について正確に把握し、議論のない財政政策の共通認識についてはタイムリーに関連操作を打ち出すことによって、政策決定の遅滞により経済運営が更に大きな影響を受けることを防止すべきである。
積極的財政政策とは、即ち減税である。当面、減税は決して税率を大幅に調整することではなく、実行可能でやるべきことを実行し、経済成長の安定化という政策目標を達成しなければならない。
①個人所得税の課税最低限の更なる引上げ
②個人所得税の徴収方法の改革
個人単位の徴収を家庭単位の徴収に改める。
③低所得者への各種移転支出の基準を引上げ
④輸出税還付の適切な調整
人民元の対ドルレートの切上げ、エネルギー・原材料価格の上昇、労働力コストの上昇により、今年上半期の輸出は明らかに鈍化している。これらの要因が企業に与える影響を考慮すると、輸出税還付を適切に調整し、企業の製品構造の調整・技術進歩の加速に実効のある支援をすべきである。
⑤創業型小企業への減税支援を特に重視し、彼らに更に積極的な支援をしなければならな
い
これらの財政政策は、消費需要・輸出需要の増加、企業の経営環境の改善を通じ、引き締め気味の金融政策と組み合わせ効果を生み出すものである。
一般的に、減税に対応するものは、財政赤字・政府の起債・財政支出の減少である。財政赤字の方法による減税は明らかに不適切である。しかも、引き締め気味の金融政策の条件下で政府が債務規模を拡大すれば、一定程度金融政策の作用を打ち消してしまうので、採用できない。このため、もし減税を選択するならば、これは同時に財政支出を減少させなければならないことを意味する。わが国の機能的分類による財政支出構造には、経済建設費・社会文教費・国防費・行政管理費及びその他の支出が含まれる。もし、その他支出と国防費が不変であれば、政府の機能を転換するという前提の下、経済建設費は引き続き減少させるべきである。サービス型・節約型政府を建設するという背景の下、社会文教費は当然増加させなければならない。行政管理費は大幅に減少させるべきである。
このような増加・減少の背後には、政府自身の利益の調整がある。しかし、30年の改革がもたらした経験・教訓を回顧し、未来の改革の堅塁攻略を展望するならば、容易に見てとれるのは、今後のおよそ1つ1つの改革は全て政府自身の改革・建設と関係があるということである。減税実施というマクロ・コントロール措置の必要条件は、政府自身の改革を通じて財政支出を減少することである。これにより、政府の全面的改革を早急に深化させることは、経済運営にとっても長期的発展にとっても疎かにできないことである。」
留意点
ここでは、一連の動きにつき、気づきの点を述べておきたい。
(1)頻繁な会議は異例
党大会や党中全会報告につき、何度も座談会・会議が開催されることは珍しくないが、下半期の経済政策について指導者が地方に赴き、何度も座談会・会議を開催するのは異例のことである。それだけ、現在の引き締め気味のマクロ経済政策に不満がたまっているということであろう。
(2)マクロ経済政策の表現の消滅
6月13日の責任者会議で「引き締め気味の金融政策」という表現は消えたが、今回「穏健な財政政策」という表現も消えた。「マクロ経済政策の連続性・安定性を維持」という表現が、人民銀行・財政部のぎりぎりの抵抗の結果であろう。
7月初の山東省視察で王岐山副総理は、なお「引き続き引き締め気味の金融政策と穏健な財政政策を実行」すると強調していたのであるが、もはやこの表現を政府・党の公式発表に盛り込むことは困難になっているのである。
これを反映したこれまでのマクロ経済政策の目標は、「インフレ・経済過熱・経済下降の防止」から「経済成長の現状(平穏でかなり速い発展)維持・インフレ抑制」に改められた。
(3)経済政策をめぐる論争
北京青年報記事がよく事情を解説しているが、争点は現在経済がインフレの危機にあるのか、スタグフレーションの危機にあるか、ということである。全人代財経委の見解は後者に基づくものである。前者であれば、金融政策は引き締め基調を維持すべきことになり、後者であれば金融政策は緩和すべきことになる。しかし、それは決着がついていないのであろう。このため、妥協の産物として減税が急浮上しているのである。
(4)胡錦涛指導部は、論争をバネに政府機能の改革を実行しようとしている
改革で最後に残っているのは、政府自身の改革である。北京青年報記事にあるように、改革開放30周年のこの年、指導部は新たな改革に取り組まねばならず、減税を行う代わりに政府機能の徹底的見直しに着手しようと考えているのではないか。
(5)改革による発展促進の強調
これまで、98-99年のように経済が悪化すると再び発展が強調され、「発展が絶対の道理」「発展してこそ問題が解決できる」といった言葉が飛び交い、改革の気運が次第に後退する傾向があった。今回もこのような議論が出始めたものと思われ、温家宝はこれを牽制しているのであろう。
(6)党3中全会で大きな決定が出るかは不透明
7月25日の党中央政治局会議は、10月に3中全会を開催することを決定したが、議題は活動報告と農村の改革・発展の推進である。胡錦涛指導部は「三農」問題を重視しており、インフレ抑制のためにも農業生産の増強が必要なので、この議題は当然にも見えるが、過去の度重なる中央第1号文件で議論は出尽くしてしまっている。農民の土地に対する個別財産権を認めるといった根本的な改革が行われれば別だが、そうでなければ過去の政策のおさらい的文書が発表されるだけの可能性もある。農業・農村問題は、98年10月の15期3中全会でも議論されたが、発表の中身は空疎なものであった。
問題は、改革開放30年の総括と新たな政策がいつの時点で打ち出されるかである。政治局会議の議論を見るかぎり、3中全会では議論されないように見える。目先のマクロ経済政策で議論が混乱しているときに、より先のことは考える余裕はないということなのかもしれない。温家宝総理が「現在のことだけでなく、長期に着眼せよ」と繰り返しているのも、議論が近視眼的になっていることへの苛立ちであろう。
しかし、いずれにせよ改革開放30周年は単に祝い事ではなく、保守派・新左派からの批判や既得権益を守ろうとする勢力の抵抗を踏まえ、今後の改革・開放戦略を練り直さなければならないはずである。そのタイミングが仮に3中全会でないとすればいつかであるが、1つの可能性は12月あるいはその直前であろう。改革開放は公式には78年12月の11期3中全会からスタートしたとされているからである。これをタイムリミットとしながら、水面下で政策論議が進んでいくことになろう。
(2008年8月記・19,177字)
[1] 農民の現金収入は2528元、うち賃金収入が880元であり、賃金収入のうち労務収入が785元(地元での労務収入430元、出稼ぎ355元)である。
[2] ただし、全人代の批判に対抗するためか、政府のマクロ経済政策に対する批判めいた発言は全く掲載されておらず、皆が政府の政策を支持したかのようになっている。
[3] 後述の汪同三の論述は、主要なエコノミストの見解を良く代表するものと思われる。
[4] 建議の内容が紹介されていないのは、最近の株暴落・不動産市場の低迷について、関係者から政府のマクロ経済政策について厳しい意見が出たためと想像される。
[5] 国務院常務会議は半日ずつ2日を費やしているが、これも通常ではない。
[6] この表現にも、地方が中央の政策判断に不満を抱いている状況が看取される。
[7] この表現は、インフレ・経済過熱防止重視派と経済下降ないしスタグフレーション防止派の見解を折衷したものである。
[8] 分析は1-5月期についてなされており、1-6月期の経済統計が明らかになる前に、文案が固められたものと思われる。
[9] ここまで全人代が政府を批判することは非常に珍しい。
[10] これは、引締め気味の金融政策の事実上の変更と積極財政への転換を要求しているに等しい。
[11] この記事は、全人代に代表される経済先行き悲観論に対抗するため、政府・党中央が意識的に掲載したのではないかと思われる。
[12] 指導者の沿海部視察の際、新華社は温家宝・李克強・王岐山については自ら記事を執筆しているが、習近平については広州日報記事を転載する形をとっていた。
[13] なお、胡錦涛総書記も7月20日に山東省青島市を訪れ、オリンピックの準備状況と輸出企業の経営状況を視察している。
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