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インフレ抑制・経済成長の現状維持(2)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年10月11日

記事概要

2008年7月の一連の議論を経て、各部門が個別会議を開き、これに対応した政策を打ち出し始めている。本稿ではその動向を紹介する。

はじめに

 7月の一連の議論を経て、各部門が個別会議を開き、これに対応した政策を打ち出し始めている。本稿ではその動向を紹介する。

 

1.人民銀行の動向

1.1 2008年年央工作テレビ電話会議

 開催時期は明らかではないが、人民銀行のホームページにアップされたのが72720:30であるので、この直前に開催されたものと考えられる[1]

 会議では上半期の金融マクロ・コントロールの成果が顕著であったことを強調したうえで、下半期の金融政策については、次のように述べている[2]

 「当面、党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、引き続き科学的発展観を深く貫徹実施し、経済の平穏でわりあい速い発展を維持し、物価の速すぎる上昇をコントロールすることを、マクロ・コントロールの第一の任務とし、インフレ抑制を際立って位置づけなければならない。

 引き続き、マクロ・コントロールを強化・改善し、マクロ経済政策の連続性・安定性を維持し、経済・金融の運営における際だった矛盾・問題の解決に力を入れ、金融コントロールの予見性・対応性・柔軟性を増強し、コントロールの重点・テンポ・程度をしっかり把握する。総量のコントロールと構造改善の関係を正確に処理し、経済構造調整と発展方式の転換を推進しなければならない。

 中小企業と対外経済の平穏な発展を支援・促進しなければならない。引き続き異常な外貨資金流動の監督管理を強化し、短期資本流動の衝撃を有効に防止しなければならない。」

 周小川行長は、6月下旬の時点では、ニューヨークにおいて、「燃料油価格の引上げはインフレ局面を激化させる可能性があるため、中央銀行は更に有力な政策を制定する可能性がある。当然、エネルギー価格が更に高くなれば、消費者物価指数にいくらかの圧力をもたらすので、我々はインフレへの対抗を強化する可能性がある」とし、またポールソン財務長官との会見では、「下半期のインフレ(圧力)が緩和されるかどうかは、言い難い。我々は密接にモニターする必要がある」と語っていた(人民網2008623日)。

 このように彼は金融緩和への要求が高まるなかで、当面政策の変更がないことを強調していたのであるが、7月の一連の座談会・会議を経て、人民銀行は当面模様眺めを余儀なくされているのである。

 

 1.2 為替相場司の新設

(1)事前報道

 上海証券報200881日は、731日に人民銀行の権威筋から聞いた話として、現在の発展趨勢の新たな需要に適応するため、中央銀行は現在為替レート政策に専ら責任を負う新機構(為替相場司)の設立作業を行っているとのことである。

 同報道によれば、為替相場司は現在の貨幣政策司に属する為替相場処、金融市場司の関係業務部門等をベースに設立され、現在貨幣政策司の副司長である王煜が担当するとされる。

 貨幣政策司為替相場処の主要職能は、人民元レート政策を研究・策定し、為替レート改革案を提出し、組織的に実施することにあった。この職能は、政策決定面により多く現れており、国家外貨管理局との職能分業は非常に明確である。外貨への監督管理の役割を担当する外貨管理局は、操作面においてより多く施策を行っている。例えば、国際慣行に適合した国際収支統計システムの設計・推進、外為市場の運営秩序の監督管理、中央銀行に対する為替レート政策制定の建議・根拠の提供、経常項目の兌換行為に対する法に基づく監督、内外の外貨口座の管理の規範化、国家外貨準備の経営管理等である。従って、将来の為替相場司の職能は外貨管理局と矛盾はない。

(2)国務院通知

 国務院弁公室は814日「中国人民銀行の主要職責・内部設置機構・人員編制規定に関する通知」を公表した。通知の日付は710日となっており、上記の報道はこれが漏れたものであろう。

 通知のポイントは次の3点である。

①主要職責

 従来の第1目的「法に基づき金融政策を執行する」が後順位に下がり、代わりに「金融業改革及び発展の戦略規画を立案し、金融運営における重大な問題の総合的に研究・協調的に解決し、金融業の協調的かつ健全な発展を促進する責任を担い、重大な金融買収活動が国家の金融安全に及ぼす影響の評価に参加し政策建議を提出し、金融業の秩序だった開放を促進する」ことが第1に掲げられた。

②為替相場司の新設

 その職責は、以下の事項とされている。

・人民元為替レート政策の策定及び組織的実施

・外為市場のコントロール案の研究・制定・実施、国内外為市場の需給コントロール

・人民元の国際化プロセスに基づく人民元オフショア市場の発展

・関係方面と協力して資本項目兌換政策の建議を提出

・国際金融市場の為替レートの変化のフォロー・モニター

・国際資本流動の研究・モニター及び政策建議の提出

③マクロ政策の連携

 「国家発展・改革委員会、財政部、中国人民銀行等の部門は健全な協調メカニズムを確立し、各司がその職を相互に組み合わせ、マクロ・コントロールにおける国家発展規画・計画・産業政策の誘導の役割を発揮し、財政・税制・金融政策を総合的に運用し、更に完備されたマクロ・コントロール体系を形成し、マクロ・コントロールの水準を引き上げる」とされた。

④金融監督組織の連携

 「国務院の指導の下、中国人民銀行は、中国銀行業監督管理委員会・中国証券監督管理委員会・中国保険監督管理委員会と共同して金融監督管理の協調メカニズムを確立し、部と部の合同会議制度の形式により、金融政策と監督管理政策の間及び監督管理政策と法規の間の協調を強化し、金融情報の共有制度を確立し、金融リスクを防止・除去し、国家の金融安全を維持し、重大問題につき国務院に提出し決定をあおぐ」としている。

 

 1.3 北京の不動産融資リスク

 京華時報200884日によれば、中央銀行は最近「2008年上半期北京不動産市場及び不動産融資情勢分析報告」(以下「報告」)を公表した。

 報告は、金融機関は不動産融資の次の三重のリスクに密接に注意を払わなければならない、とする。

①一部のディベロッパーの資金逼迫が、開発融資の不良債権比率を上昇させる可能性がある。

②住宅価格の低迷が、個人住宅ローンの違約を増加させる可能性がある。

③予約販売の資金管理ができていないことが、貸出リスクを生み出す可能性がある。

 これに対応するため、各銀行は借入者の資格審査・貸出後の管理を強化し、償還能力がかなり劣る借入者に対しサブプライム住宅ローンを貸し出すことを避けなければならない。同時に、予約販売の資金管理制度を整備し、企業が予約販売資金を転用・流用することを防止しなければならない、と中央銀行は建議している。

 6月末までに、中国資本銀行の各種人民元貸出の不良債権比率は2.56%であり、昨年末よりわずかに0.19ポイント上昇した。そのうち、分譲住宅開発融資の不良債権比率は4.32%であり、前年末より0.37ポイント上昇した。

 「報告の下達は、北京の現在直面している特殊な環境と関係がある」と、ある株式制銀行の不動産融資部の責任者は指摘する。ここ数ヶ月、北京の住宅価格が前月比で下落していることは公然の秘密となっており、くわえてオリンピックが開催されるので、中央銀行はこのタイミングで報告を公表したのは、①住宅価格の下落が借入者に借金を返済しないという考えを起こさせることを心配している、②中央銀行が、オリンピック終了後の住宅価格の動向に関心をもっていることを表すものである。不動産取引のうち、多くの投資家はオリンピック要因を投資の心理的支えとしているのである。

 別の国有銀行の不動産融資部の関係者は、「報告の下達は、中央銀行が北京の不動産融資市場に慎重な態度をとっていることを表すものだ」と指摘する。今年に入り、深圳で住宅価格の下落が進み、住宅購入者がローン返済を拒否し始めたことが、金融業界内で大騒ぎとなっている。このような状況下で、管理層が各地の不動産融資市場に関心を向けるのは情理にかなっている。この関係者の指摘では、深圳に比べれば、北京の不動産市場は需要の硬直性が大きく、銀行が不動産融資を行うプロセスにおいて違反すれすれのことを行う状況は少ないので、金融リスクが出現する比率は決して大きくはない、とする。

 

 1.4 外貨管理条例の改正

 87日、人民銀行は改正外貨管理条例を公布し、即日施行すると発表した。

 国務院法制弁公室・人民銀行・外貨管理局の責任者は、その背景・内容につき次のように説明している(新華社200886日)。

(1)改正の背景

①経常勘定における人民元の兌換性が実現し、資本勘定での人民元の兌換性が絶えず高まり、人民元為替レート形成メカニズムが一層整備されており、条例を改正して改革の成果を定着させるとともに、次の段階の改革のために余地を残すことが必要となった。

②中国の国際収支情勢が根本的に変化し、外貨不足から外貨準備の急増に転じているが、旧条例は外貨の流出管理を重視していた。そこで、条例を改正して外貨の流入流出のバランスをとり、管理を規範化することが必要となった。

③中国経済が日増しに国際化し、国際的資金移動が加速している状況下で、国境を越えた資金の移動の監視システムを一層整備し、国際収支の応急保障制度を作り、整えて、リスクをうまく防止し、開放型経済のレベルを高めることが必要となった。

(2)改正のポイント

①外貨資金の流入流出をバランスさせるための管理を実施した。

 経常勘定の外貨収支に真実の合法的な取引の裏付けがあることを求め、外貨収入を強制的に国内に回収させる規定を廃止し、外貨収入を所定の条件・期間に従って国内に回収するか、国外に預け置くことを認めた。

 資本勘定の外貨収入決済の管理を規範化し、資本勘定の外貨資金と外貨を決済して得た資金を認可時の用途に従って使用するよう求め、外貨資金の不法な流入・不法な外貨決済・決済で得た資金の使途管理違反等の違法行為に対する処罰規定を追加した。

②人民元為替レート形成メカニズムと金融機関の外貨業務管理をより整備した。

 人民元為替レートにつき、市場の需給を基礎とした管理された変動為替制度をとる旨、人民元転及び外貨売却業務を運営する金融機関等による銀行間外貨市場での外貨取引、金融機関の外貨業務運営に対する総合的なポジション管理を規定した。

③国境を越えた資金移動の監視を強め、国際収支緊急対応の保障制度を作った。

 WTOルールに基づき、国際収支の重大な不均衡が生じるおそれがあるとき、国民経済の重大な危機が生じるか、そのおそれがあるとき、国は国際収支について必要な保障・コントロールなどの措置をとることができると規定した。

④外貨監督管理の手段と措置を整えた。

 外貨管理機関の検査手段と措置を明確化・細分化した。

 

2.2008年証券先物監督管理年央工作会議

 上海証券報2008731日が詳細を報じており、おそらくその直前に開催されたのであろう。

 2.1 資本市場の現状

 会議において証券監督管理委員会の尚福林主席は、資本市場の現状について次のように総括した。

 「今年に入り、国際金融市場の動揺は激化し、国内マクロ経済情勢は調整・変化が出現した。ここ2年の急速・大幅な上昇を経た後、上半期の資本市場の運行プロセスで、新たな問題・困難が出現した。市場は深く調整され、価値評価水準は全体的に反落した。

 しかし、総体としてみると、わが国資本市場の安定的・健全な発展の基礎と推進力には重大な変化はなく、資本市場の健全な発展を支えるマクロ経済の基礎は依然として穏やかであり、資本市場の安定的な運行を維持する基礎的な制度条件は初歩的に具備されており、資本市場の持続可能な発展を推進する客観的需要は更に切迫している。

 市場の改革・発展プロセスで出現した問題は、改革の不断の深化を通してこそ徐々に解決することができる。当面の市場情勢を正確に認識・分析し、市場の発展が直面するチャンスと有利な条件をはっきり見て取り、各種の複雑な局面の試練に積極的に対応し、市場の平穏な運行を全力で維持しなければならない。」

 

 2.2 下半期の政策の基本的考え方

 尚主席は次のように述べている。

 「胡錦涛総書記・温家宝総理は、最近下半期の経済政策の手配において、改革・開放を断固として推進し、経済の平穏でわりあいに速い発展を全力で維持し、資本市場の健全な発展を誘導し、下半期及び今後一時期の施策をしっかり行うよう指示した。

 党中央・国務院の重要な手配を深く貫徹し、資本市場の内外環境の変化に依拠し、構造の健全化・メカニズムの整備・リスクの防止を重点とし、資本市場の安定的・健全な発展の維持を目標とし、監督管理をしっかり行わなければならない。

①内外の経済・金融情勢の研究を更に重視し、全局的な視野を強めなければならない。

②市場に内在する安定メカニズムの整備を更に重視し、法に基づき市場を治めることを堅持しなければならない。

③金融のイノベーションを積極かつ穏当に推進することを更に重視し、市場リスクの防止に注意を払わなければならない。

④市場構造の整備を更に重視し、市場の発展の質を改善しなければならない。

⑤市場の安定的・健全な発展という要求に主動的に適応することを更に重視し、監督管理の思考を転換させなければならない。」

 

 2.3 下半期の施策の重点

 尚主席は、次の6点を指示した。

(1)認識を統一し、精神を奮い立たせる

 科学的発展観を真剣に学習貫徹し、資本市場を大いに発展させることの重要性・緊迫性を深刻に理解する。市場化改革の方向を常に堅持し、発展の中で問題を解決する。将来展望と直近を組み合わせ、引き続き基礎的な制度建設を強化する。高度な政治的責任感と歴史的使命感を牢固に樹立し、資本市場の監督管理に力を尽くす。

(2)全力でしっかりと安定を維持する

 大局意識・責任意識を適切に強め、安定維持のメカニズム建設を強化し、証券先物業の情報システムの安全活動を全面的に強化し、リスク・隠れた弊害を整理して厳密にチェックし、有効な対応措置をタイムリーに採用し、応急の事前対応案・準備を更に整備し、資本市場の安全・安定的な運行を確保する。

(3)改革・イノベーションを着実に推進し、市場の深み・範囲を不断に拡大する

 新株の価格諮問制度を整備し、市場化による価格決定メカニズムの役割を更に発揮する。多元的な機関投資家の隊伍建設を推進し、各種長期資金の資本市場への流入を奨励する。債券市場の発展促進におけるボトルネックの問題を積極的に解決し、市場融資構造を更に改善する。市場のイノベーションを推進し、市場体系を整備し、市場を主体とした健全な発展を促進する。現在の先物品目を精緻化し、新たな品目の上場を着実に推進する。

(4)市場の法治を強化し、監督管理を更に改善・強化する

 「証券投資ファンド法」の改正を引き続き推進し、「先物法」の起草・論証をしっかり行い、「上場会社監督管理条例」等の法規政策の提起を大いに推進する。行政審査・許可制度の改革を深く推進し、「行政許可実施プロセス規定」を早急に改定する。厳格な法執行を堅持し、市場操作・インサイダー取引・利益移転等の違法案件の調査・処分を強化し、法に基づく行政の能力向上に力を入れる。

(5)主動的に誘導し、良好な世論の環境を作り上げる

 ニュースの公表を強化し、資本市場改革と監督管理の重要政策、ホットスポットの問題をタイムリーに公表し、疑惑を解消して、メディアとのタイムリーで効率の高い意思疎通メカニズムを模索し確立する。ニュース宣伝・公安等の部門を積極的に組み合わせ、デマ・虚偽等市場の運行を深刻に撹乱する不良な情報をタイムリーに処分する。

(6)反腐敗・廉潔提唱教育を強化し、幹部の隊伍建設を強化する

 施策関係者の株売買禁止、敏感なインサイダー情報に対する厳格な機密保持の関連規定を厳格に執行し、規定・紀律違反を発見した場合には紀律・法規に基づき厳格に懲罰する。学習の気風を大いに興し、監督管理幹部が複雑な問題を解決し、複雑な局面を処理する水準・能力を適切に引き上げる。幹部人事制度の改革を早急に推進し、広範な監督管理幹部が市場の改革・発展に功績を打ち立てるよう誘導する。

 

3.財政部

 3.1 財政部党組の動向

 新華網北京電200882日によれば、財政部は部内の党員・幹部の思想解放を行う大討論会を広範に発動し、自己査定を真剣に行うと同時に、全人代・全国政協・解放軍・各省(自治区・直轄市)党委及び財政庁(局)・中央直轄各単位・国務院各部門及び部内各単位に対し、広範に意見を徴求した。また、2回にわたり財政系統の17期党大会代表・全人代代表・全国政協委員を招請して座談会を開催して問題点をあぶり出し、建議を聴取した[3]

(1)目標・課題

 科学的発展に資する財政体制・運行メカニズム・管理制度を形成するという目標について、部党組は科学的発展観を学習実践するうえでの5つの目標・課題を確定した。

①協調的に組み合わせた財政政策の体系の健全化に力を入れる

 マクロ・コントロールを強化・改善し、経済構造調整と発展方式の転換を推進する。

②財政支出の構造の最適化に力を入れる

 民生を保障・改善する長期的に有効なメカニズムを確立する。科学的発展観を体現する公共財政体系を整備する。

③税制改革の推進に力を入れる

 健全な資源有償使用制度と生態環境補償メカニズムを確立する。科学的発展観に資する財政・税制制度を構築する。

④法に基づく資産管理の推進に力を入れる

 科学的管理を強化し、健全な財政予算管理制度を確立し、財政管理の業績効果を高める。

(2)現在のマクロ・コントロールの不足・問題点

 財政部党組は、次のように認識している。

①財政のマクロ・コントロール機能は、更に強化する必要がある

②マクロ・コントロールの予見性を引き続き高める必要がある

③財政マクロ・コントロールはなお不健全である

④財政政策と金融政策・産業政策及び国家発展計画の協調的な組み合わせを強化する必要がある

(3)当面の財政政策

 これらの不足・問題点について、部党組は専門課題小組を設立し、関係する多くの司・局の系統的な研究を経て、科学的発展観に基づき各方面に配慮して統一的に企画する根本的方法を提起し、健全で協調的に組み合わせた財政・税制政策体系を確立し、体制改革と政府機能の転換を積極的に支援し、マクロ・コントロールの有効性を増強する。

①内需を拡大し、民生を保障する

 教育・衛生・社会保障等の社会事業の発展を大いに支援し、個人消費の期待を安定化させ、所得分配制度の改革を深化させ、個人所得の安定的な成長のメカニズムを確立し、高所得に対する税の調節を強化する[4]

②「三農」を支援し、新農村を構築する

 農業・農村への財政支援を強化し、「三農」への支出の比重を徐々に高め、新農村建設への地方政府・社会資金の積極性を動員し、農業・農村支援投入の多元的な新構造を形成し、都市・農村の統一協調的な発展に資する健全な農業・農村財政支援政策体系を確立する。

③構造を改善し、産業のバランスを図る

 現代的な農業への支援を強化し、優位性をもち特色のある、安全で効率の高い農業を大いに発展させる。重大な装置の輸入にかかる税及びその他の税制政策を調整し、先進的な装置製造業の発展を加速する。関係の財政・税制優遇政策を整理・整備し、エネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種の盲目的な発展を抑制する。国有企業改革を大いに支援し、国有経済の配置・構造の最適化を図る。現代的なサービス業の発展を促進する財政・税制政策を制定・整備する。

④自主的なイノベーション、科学技術の進歩を図る

 科学技術への財政投入を安定的に増やすメカニズムを確立し、財政・税制優遇政策を実施し、国家の実験室及び国家の重点実験室の建設を支援し、産学研究室の有機的な組み合わせを推進し、重大科学技術特定プロジェクトの順調な実施を保障する。地域における科学技術のイノベーション新体系の建設を促進し、国内の重大装置製造業の振興を促進する。創業投資を誘導するファンド政策を整備し、中小企業発展の特定資金の支援範囲を拡大する。

⑤省エネ・汚染物質排出削減、生態保護を図る

 財政補助・利息補助・税制優遇等多様な政策手段を総合的に運用し、多元的な資源節約と環境保護資金の投入と効率の高い使用メカニズムの確立を推し進める。資源等の要素価格の合理的な価格形成メカニズムを確立し、生態環境保護と経済建設の協調的発展を促進する。

⑥地域の協調と全面的な発展を図る

 西部大開発を促進し、東北の旧工業基地を振興し、中部の興隆を図る関連優遇政策を整備し、東部地域の速やかな発展を奨励し、中央と地方の財政力と権限が対応する財政体制の健全化を図る。移転支出制度を整備し、基本的なサービスの均等化を促進する。

⑦フォロー・アラームのメカニズムを健全化する

 健全な経済社会発展の主要な指標のモニター・アラームのメカニズムを確立することを通じ、経済運営の動態的なモニター・分析・予測を強化する。国債・税制・補助等の多様な政策手段を総合的に運用しコントロールを行い、政策の実施状況をタイムリーにフォロー・分析する。マクロ・コントロール政策の協調的組合せを強化し、国家発展・改革委、財政部、人民銀行の間の協議制度を更に整備し、対外財政経済交流弁公室を設置して国際財政経済交流・協力を強化する。健全な財政予算管理制度を確立し、財政マクロ・コントロールの管理水準の科学化・詳細化を全面的に推進する。

 

 3.2 輸出税還付率の引上げ

 81日から、一部の紡績品、アパレルの輸出税還付率が11%から13%に引き上げられ、一部の竹製品の輸出税還付率が11%に引き上げられた。

 この措置については、見方が2つに分かれている。上海証券報200881日は、2007年の国内紡績・アパレルの輸出総額が1679億ドルであり、そのうち一般貿易が7割、年間の輸出の伸びが10%と仮定すると、2008年の紡績品・アパレルの輸出総額は1847億ドル、うち一般貿易が1300億ドルとなるため、輸出税還付率2%の引上げにより紡績業の利潤総額は26億ドル増加し、現在の為替レート水準で換算すると企業利潤の増加は176.9億元になると試算している。

 これに対し、中国証券報200881日は、2ポイントの引上げでは、紡績・アパレル業界には実質的影響はなく、人民元の切上げとコスト上昇圧力の一部が相殺されるのみであり、輸出の下降傾向を変えることはできず、下降速度を緩和するだけだと否定的な見解を述べている。同報の試算では、紡績・アパレル業界の利潤増加も80億元にとどまっている[5]

 他方、820日からはコークスの輸出時に課す暫定税率が25%から40%に引き上げられた。コークスの輸出暫定税率は年初に15%から25%に引き上げられたばかりである[6]

 

4.中小企業金融

 4.1 銀行貸出規模の増額調整

 人民網200886日は、中央銀行が2008年度の全国規模の商業銀行の貸出規模を当初の指導(2007年と同額)から5%増額修正し、地方レベルの商業銀行については10%増額修正することに同意したと報じた。

 今年上半期、中国の銀行業の貸出は24525億元であり、年間指標の68%を達成していた。もし、中央銀行が前年同額の貸出規模3.6兆元を変更しなければ、下半期の貸出情勢はどうにもならない状況となっていたのである。今回の措置により、貸出規模の指標は2000億元増加することとなった。

 ただ、消息筋によれば、今回の貸出規模増は主として中小企業支援に向けられることとなっており、不動産業等は恩恵を受けられないとされている。中小企業の融資難は現在問題になっており、今年13月期に中小企業が受けた融資は3000億元で、前年同期比300億元減少していた。全体の貸出額は2.2兆元を上回っており、中小企業向け貸出は全体の商業貸出の15%を占めるに過ぎない。貸出規模抑制のしわ寄せが専ら中小企業に向かっていたわけであり、これが中国金融の最大の問題点である。

 

 4.2 国家中小企業銀行設立構想

 83日に国家発展・改革委中小企業司が発表した統計によれば、上半期、全国の約10分の1の一定規模以上の中小企業の工業付加価値の伸び率は30%近く、前年同期比で15%減少していた。また、一定規模以上の6.7万社の中小企業が倒産し、労働集約型の紡績中小企業の倒産は1万社を上回り、3分の2の紡績企業がリストラを迫られている。中小企業の権威筋も中小企業金融が未曾有の困難に直面しており、現在民間レベルの融資が中小企業の資金調達の重要手段の1つとなっていることを認めている。

 このため、国家発展・改革委は大商業銀行に対し、中小企業向け貸出を増加し、銀行の中小企業向け貸出を全国商業貸出の平均的伸びに比例させるよう要求している。また、以下の各施策を検討中である(広州日報200884日)。

①国家中小企業銀行を設立し、中小企業の融資難問題を解決することを模索している。

②政府は担保機関に所要の支援を与え、一部の中小企業担保金を補助する。同時に、国家レベルの再担保機関の設立を模索し、完備された中小企業信用担保体系を確立する[7]

③産業発展の需要に適合した小型薄利工業の企業所得税の課税最低限を引き上げ、納税規模基準を30万元から焼く50万元にすることが検討されている。

(2008年8月記・10,209字)


 


[1]  なお、これと同タイミングで人民銀行貨幣政策委員会第2四半期例会も開催されているが、基本的スタンスは同じである。

[2]  この会議で、周小川行長・蘇寧副行長が講話を行っているが、その内容は公開されていない。

[3]  このように、財政部の党組織が前面に出て調整を行うことは異例である。99年に、当時の項懐誠財政部長と楼継偉副部長の確執を背景に、江沢民の「三講」教育運動が財政部で大々的に展開され、楼副部長が自己批判に追い込まれて以来のことではないかと思われる。おそらく、経済成長鈍化のなかで中立的(穏健)な財政政策を堅持する財政部に対し批判が集中し、組織として自己批判を余儀なくされたのであろう。また、このままでは党3中全会において財政部が槍玉に挙げられる可能性があるため、党組織が調整に乗り出さざるを得なかったものと思われる。

[4]  71日から、都市最低生活保障対象者への補助水準は毎月15元、農村は毎月10元に引き上げられた。これに中央財政は37.8億元の補助を支出している。

[5]  このように、政治と異なり経済政策面においては、政府が新規施策を発表してもメディアがこれを手放しで礼賛する環境は消滅している。

[6]  これは、エネルギー多消費・高汚染製品の輸出制限政策の一環とみられる。

[7]  これについては、東北3省で再担保機関の国家テストが成功をおさめ、全国各地への普及が準備されているという。

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