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ログイン2008年10月16日
世界保健機関(WHO)は、メラミンが牛乳に添加された理由を、「中国の事件が発生した地域では、増量の目的で生乳に水が加えられていた。水が加えられて希釈されると、たん白質含量は低くなる。牛乳のたん白質含量は、窒素含量を測定する方法で検査されるので、窒素含量の多いメラミンを添加すればたん白質含量を高く偽ることができる」と解説している。
メラミン混入事件の背後にある問題
メラミンが混入された粉ミルク(生産者は石家荘の「三鹿」)を飲んだ原因で、中国国内で乳幼児の腎結石等の被害が生じ、5人死亡、腎結石等の患者は5万5千人、25の省・直轄市・自治区の病院で受診した児童は延べ約60万人(9月末現在)にも達していると報道されている。
世界保健機関(WHO)は、メラミンが牛乳に添加された理由を、「中国の事件が発生した地域では、増量の目的で生乳に水が加えられていた。水が加えられて希釈されると、たん白質含量は低くなる。牛乳のたん白質含量は、窒素含量を測定する方法で検査されるので、窒素含量の多いメラミンを添加すればたん白質含量を高く偽ることができる」と解説している。
被害状況を最初披露したのは、監督官庁ではなく、中国の報道機関(そして中央の報道機関ではなく、地方の新聞)だったところも注目される。今年4月、中国のメディアはすでに粉ミルクを飲んだ嬰児が腎臓結石に罹ったことを暴露したが、しかし、9月9月付けの『蘭州晨報』の報道までは社名を明らかにせず、「某企業」とされていた。『蘭州晨報』の報道を読んだ『東方早報』(上海)の簡光洲記者はすぐ蘭州に飛んで取材し、9月12日の『東方早報』で「三鹿」の社名を挙げて被害の事実を再報道した。この報道により、「毒粉ミルク」事件は中国全土及び全世界で大きな反響を呼んだ「大事件」に発展したのである。
これまでに「三鹿」の会長らは拘束、石家荘市の市長と党書記は免職、李長江・国家品質監督検査検疫総局長(閣僚級)は辞職、メラミンの生産者・使用者など20人以上は逮捕された。8月2日、「三鹿」は市政府に報告したが、五輪直前もあって、市政府は省政府および中央の品質監督検査検疫総局に報告しなかった(食安全に関する重大事件があれば、2時間以内に報告しなければならないとの規定がある)という事実も明らかにされた。
中国衛生部と民生部の集計によると、メラミンが混入された粉ミルクを飲んだ児童数は全国で730~800万人に達し、これらの児童の被害状況を診断するため、北京を含む多くの病院や泌尿器科医師・看護婦を総動員している。事件発覚後の「三鹿」粉ミルクの回収、液体ミルクを含むミルク製品の販売低迷で、中国の酪農も大きな損害を蒙っている。全国22の地域、32万人の酪農は困窮状態に陥り、直接的な経済損失は260~320億元(約4160~5120億円)に及んでいる。
国務院の指示を受けて、国務院弁公室、国家品質監督検査検疫総局、衛生部、監査部、河北省政府の幹部115人から構成された調査チームは、全国各地で調査を行なった後、9月21日に52ページに上る調査報告書を国務院に提出し、多くのことを解明したそうであるが、深層にある問題及びその教訓に関する総括は今後の課題となっている。
今度の事件が生じた最大の原因は、中国社会における拝金主義の横行、社会モラルの低下、官僚の腐敗・無責任にあると、筆者は見ている。その背景には自由化・規制緩和を中心とした市場経済化の性急な推進がある。市場経済は大変精密なシステムで、それを完成するには長い時間とたゆまない努力が必要である。しかし、中国では経済高成長と市場経済化が急展開を続けている一方、競争ルールと管理・監視システムの整備や人材の養成などはなかなか追いつかないのが実状である。
欧州では200~300年間で確立された市場経済システムを、中国では20~30年で完成できるとの錯覚も、政府系シンクタンクを含む多くの中国人が持っているようである。一部の外国政府と企業は中国政府に「改革開放の加速化」を執拗に求めることにも問題がある。もちろん、調子に乗って「頭脳発熱」した中国政府と官僚の責任が特に重大である。
被害者の地域分布を調べると、格差問題など中国社会の多くの歪みも露呈された。最も多くの被害者を出したのは甘粛省など内陸部であり、北京(石家荘市に非常に近いが)や上海など所得水準の高いところからは被害の報告はほとんど伝わっていない。実は中国の粉ミルク市場では輸入品が主流(3分の2)で、国産品は3分の1しか占めていない。輸入品の値段が国産品の約3倍なので、高所得層(地域)は輸入品を、内陸部を中心とした低所得層(地域)は国産品を購入するという構図が定着しているようである。ちなみに2007年北京、上海の一人当たりGDPは、それぞれ56044元、65347元と、甘粛(10335元)の5.4倍、6.3倍に相当する。
浸透する中国企業・官庁への不信
北京市民の中でも中・低所得者が多い。これらの家庭まで値段の高い輸入品を利用するのは、複数の理由がある。一つは、「一人っ子政策」が地方より徹底的に実行されているため、北京市の戸籍を持つ幼児はほとんど「一人っ子」であること、北京市の「薄給」でも内陸部住民より収入が良いこと、北京市民、特に若い世代は地方よりはるかに多い情報量を持っていること(この点は最も重要かも知れない)である。
北京市民が持っている情報の一つは、外国企業が中国企業より品質管理が厳しく、大抵その製品も国産品より信頼できることである。北京市民の間で、外国(先進国)の官僚は中国の官僚より責任感が強く、企業活動とその製品へのチェック体制も中国のそれより遥かに優れているとの認識も広がっているのである。
実は粉ミルクだけでなく、外国製品「崇拝」は中国社会全体に浸透しているといえる。高所得者は外国ブランド品を求めているし、普通の都市部(特に大都市)住民も安全性と信頼性の観点から国産品より輸入品を好む傾向がみられる。中国の分譲住宅はコンクリートの「ハコ」の形で売る場合が多く、購入者は自分で資材を選び、業者に頼んで内装を行なう必要がある。筆者が知っている北京市民の資材購入基準(順位)は、大抵輸入品→外国企業が中国現地で生産した製品→中国有名企業のブランド品→普通の国産品となっている。
個人の経済力にもよるが、多くの北京市民は「普通の国産品」を排除し、値段などを総合的に判断して、輸入品→外国企業が中国現地で生産した製品→中国有名企業のブランド品を組み合わせするというやり方をとっている。経験者からみれば、有害物質と臭いの有無の面では、輸入品→外国企業が中国現地で生産した製品→中国有名企業のブランド品という順序がかなりの精度で成立できるようである。
中国企業も外国企業も利益を追求するところに共通しているが、中国企業はよく短期的利益を追求するのに対して、外国企業は割に長期的利益を追求するとの区別がある。中国企業はなぜよく短期的利益を追求するのか、これは中国企業の特質で解釈できる。中国企業は大別して国有企業と民営企業に分けられる。国有企業の経営者は国に任命され、任期がある。かれらの関心は主に如何にして任期内で利益を得るかに集中しており、企業の長期的発展への関心が比較的に薄いのである(これらの企業を管轄する官庁の責任者も同じ傾向がある)。
一方、民営企業のうち、長期的戦略に立っているところは増えているものの、「共産主義社会の実現」を基本理念とした共産党の指導が国是となっていることもあって、「共産党が心変わりしていないうちに儲けろう」との考えを持っている経営者も少なくない。毎日のように官僚(高級官僚を含む)の腐敗・汚職事件が報道されているなか、中国の消費者、特に情報量の多い沿海部大都市の消費者の監督官庁・官僚への不信は強いものがあるといわなければならない。
外国食品と外資系スーパーは人気が高い
中国産の食品の安全性問題は日本のマスコミを賑わせているが、実は中国人、特に大都市の中国人の食の安全への関心は日本人のそれより高いかも知れない。その理由として、所得水準の急上昇のほか、消費者の企業と政府への不信も挙げられる。企業と政府が信頼できないから、消費者自身で自分と家族の健康を守らなければならない。どこの製品を買うかだけでなく、何処の店で買うかについても、よく頭を使うのである。
ジェトロ(日本貿易振興機構)事務所の現地報告は、中国消費市場の特徴として3点を挙げているが、うちの2点は「高まる健康・食の安全意識。オムツ、粉ミルクなど日本製品への信頼が高まる」と「共稼ぎが多く、外食、冷凍レトルト食品が普及」となっている(いま一つは「口コミ、インタネットの影響力が大きい」)。ちなみにこの報告はメラミン混入粉ミルク事件が起こった以前に書かれたものである。
メラミン混入粉ミルク事件を契機に、日本企業を含む外国企業の対中ビジネスチャンスは増加していく可能性が高い。実際、アサヒビールはメラミン混入粉ミルク事件が明らかとなった直後の9月19日、中国で「日本並み」の品質の牛乳を発売すると発表した。新聞報道によると、豪州とニュージーランドから持ち込んだ牛を山東省の農場で育て、日本の品質管理技術を導入した工程で生産し、食の安全を重視する都市部の消費者に向け、北京と上海、青島の百貨店などで順次販売するとのことである。
この牛乳はイオンなどの日系や外資系のスーパーでも販売する予定、価格は現地の一般的な牛乳の1.5―2倍に設定すると伝えられているが、このような値段なら北京などの大都市で十分売れるではないかと、筆者は見ている。筆者は幼児に輸入粉ミルクを飲ませる北京の知人に、「新鮮な牛乳があるのに何故粉ミルクを使うのか」を聞いたことがある。知人は「新鮮な牛乳は国産のものしかなく、粉ミルクなら輸入品がある」と答えた。
食の安全への関心の高まりは、日系を含む外資系スーパーに好影響をもたらすことも期待される。振り返ってみると、2003年のSARS(新型肺炎)の蔓延は、多くの中国人に日本を再認識させ、感染者が出なかった日本の公共衛生水準や日本人の衛生習慣がマスコミの賞賛対象となり、イトーヨーカドー(中国名は「華堂商場」)など日系スーパーに足を運ぶ中国人も大幅に増えている。
筆者は成都と北京のイトーヨーカドー店を見学したことがあるが、日本にある同社の店より食品売り場の充実が特徴である。仏系のカルフールや米国系のウオルマートも食品売り場を大きくしている。これは、「民以食為天」(民は食を天とする=庶民たちは食の問題を何よりも重要なこととする)という中国人の伝統によるところもあるが、食の安全を重視し、中国のスーパーより外資系のスーパーを信頼するという中国消費者の心理がうまく把握されていることがポイントといえよう。
ジェトロの調査によると、2008年半ばまでにカルフールは中国で387店舗、ウオルマートは206店舗を持っている。日系のイオンとイトーヨーカドーもそれぞれ34店舗(香港を含む)と12店舗を設けている。今年10月、イオンは北京市内に敷地面積約9万平方メートル、3000台の駐車場を併設した、初のモール型ショッピングセンター「イオン北京国際商城SC」をオープンし、2010年度末までに中国全土で100店舗体制を作る計画も明らかにしている。中国人の食安全への関心の高まりは、外国食品の対中輸出や、日系企業を含む外資系スーパーの中国進出に拍車をかけていくに違いない。
中国での外資系小売業の店舗
社名 |
店舗数 |
進出年 |
カルフール(仏、2007年12月31日現在) |
387 |
|
テスコ(英、2007年2月24日現在) |
47 |
2004年 |
メトロ(独、2007年10月31日現在) |
34 |
1996年 |
イオン(日、2007年2月20日現在) |
33(香港を含む) |
|
イトーヨーカドー(日、2008年6月3日HPより) |
12 |
|
ウオルマート(米、2008年5月現在) |
206 |
1996年 |
資料:ジェトロ『2008年版貿易投資白書』による。
(2008年10月記 4,697字)
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