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インフレ抑制・経済成長の現状維持(4)

中国ビジネスレポート 金融・貿易
田中 修

田中 修

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2008年10月20日

記事概要

北京オリンピックは終了し、中国は10月の党3中全会、12月の「改革開放30年」に向け、経済のソフトランディングを目指す経済政策の模索の時期に入った。本稿では、経済の先行きに関する諸論、調及び国家発展・改革委が全人代常務委員会に対して行った経済状況及び下半期の経済政策の説明の内容を紹介する。

はじめに

 北京オリンピックは終了し、中国は10月の党3中全会、12月の「改革開放30年」に向け、経済のソフトランディングを目指す経済政策の模索の時期に入った。本稿では、経済の先行きに関する諸論、調及び国家発展・改革委が全人代常務委員会に対して行った経済状況及び下半期の経済政策の説明の内容を紹介する。

 

1.国務院発展研究センター 劉世錦副主任(新華北京電2008818日)

 すでに公表された7月の経済データのうち、いくつかの注意に値する新動向がある。

①消費者物価指数は引き続き反落の傾向にある。

②前月低下の状況にあった輸出が、やや持ち直している。

③内需は安定成長の態勢を維持している。

 年初、中央は今年の経済発展の不安定・不確定要因は増加し、困難は大きくなると予想した。しかし、国際一次産品価格の高騰、米国サブプライムローン危機が世界経済にもたらした深い影響、国内南方の氷雪災害、汶川特大地震等は、いずれも事前に予想することが難しく、或いは不可能なものであった。このような状況下、現在インフレ圧力のやや緩和が出現し、経済がわりあいに高水準の安定成長局面にあることは、まことに容易ならざることである。

 改革開放30年間、中国経済は年平均9%以上の成長率を維持した。このような長期の持続的高成長を支えた一連の要因には、広大で持続的に拡大した市場、独特な生産要素の組合せ、かなり整備された工業体系、日増しに改善されているインフラと産業の組合せ条件、安定した政治社会環境、徐々に整備された社会主義市場経済体制と開放型経済システム等が含まれる。

 中国の工業化・都市化のプロセスが大体完成する以前に既に高速道に走りこんだ中国経済は、高成長の勢いを引き続き維持する能力と潜在力がある。

 今後一時期、経済が今回の成長の調整期に入ったとしても、ファンダメンタルズの支えに加え有効なマクロ・コントロールと構造調整政策の支えがあるので、中国経済はなお9%前後の成長率を維持することが可能である[1]

 

 

 

2.アモイ大学マクロ経済研究センター・シンガポール南洋理工大学アジア研究所『中国 マクロ経済予測・分析 2008年秋季報告』(新華網アモイ電2008819日)[2]

 

2.1 現在の中国経済成長の「投資・輸出が高く、消費が低い」という「21低」の特徴は基本的に変わっておらず、経済が「輸出に牽引されて」成長する特徴が更にはっきりしてきている。

 中国の最終製品の構成のうち、最終消費の占めるシェアは継続的に下降しており、2007年は49%と2003年に比べ7.8ポイント低下した。資本形成の占めるシェアはゆっくりと下降傾向を示してはいるが、依然かなり高水準を維持している。

 注意に値することは、最終消費の構成を見ると、個人消費のシェアが継続的に下降し、政府消費のシェアが不断に高まっていることである。1996年の最終消費のうち、個人消費のシェアは77.31%であったが、2000年には74.54%、2005年には72.8%、2007年には更に72.05%にまで低下してしまった。この事実は、2007年の高成長が多くの程度外需の牽引によって得られたものであることを説明している。2008年に入り世界経済の不景気が中国経済の成長に深刻な影響を与えることは、予想される結果だったのである。

 

2.2 輸出の伸びの下降、製造業の投資の鈍化、消費の伸びの鈍化等の要因の影響を受け、今後一時期、中国経済が2007年のような11.9%の成長速度を継続することは難しい。

 中国の現在の経済成長反落の主要原因は、輸出の伸びの下降である。長期にわたり「輸出の牽引」に依存してきた経済成長は、現在外需の萎縮に直面し、伸びが下降するのは避け難いことである。引き続き緊縮的な金融政策、高騰するエネルギー・原材料価格、及び賃金上昇圧力の下、企業の投資コストは上昇しており、製造業の投資の伸びは明らかに下降している。

 外需の鈍化と国内コストの上昇により輸出が更に鈍化すれば、輸出業種の生産能力過剰が更に投資の伸びを抑制する。現在主要な輸出市場(米国・欧州)経済の先行きが不振に向かうと予想される下で、人民元の切上げ幅の速度を緩め、一部の製品輸出の税還付率を引き上げたところで、中国経済成長への刺激作用には限りがある。要素価格を合理化するため市場化改革を進めれば、更に製造業の利潤の伸びは抑制されることになる。

 現在の固定資産投資の源泉は、主として企業の自己調達資金から来ている。製造業の投資の伸びの下降は、一定期間なお続くことになろう。

 このほか、経済成長は消費とりわけ個人消費の緩慢な伸びによっても、制約を受ける可能性がある。今年に入り、中国の都市・農村住民の実質所得の伸びは下降し、都市家庭の限界消費性向は減退している。個人の実質所得の向上が長期的プロセスであることを考慮すると、短期的なマクロ政策(主として財政政策)のみならず、長期的な経済成長方式の根本的転換・産業構造のグレードアップ等の戦略的調整が必要である。このことは、消費需要とりわけ個人消費は短期的には急速な伸びが難しいことを意味する。

 このような状況は、中国の今回の経済成長が下降区間に入ったことを意味するものではない。今年・来年、中国の経済成長は調整期にある。U字型の調整期の底の部分の長さは、世界経済の景気の変化によって決まるばかりでなく、中国のマクロ政策のコントロールと経済構造調整によっても決まるのである。

 

2.3 今年と来年、中国の固定資本形成総額の伸びは引き続き反落する。

 2007年の不変価格で計算した中国の固定資本形成総額の伸びは12.09%であり、当該年の価格で計算した固定資産投資の伸びは25.61%であった。モデルにより予測すると、マクロ・コントロールの影響を受け、2008年の固定資本形成総額の伸びは11.78%に低下し、0.31ポイント反落する。2009年の固定資本形成総額の伸びは引き続き反落し8.86%となり、2008年より2.92ポイント下降する。2008年の都市固定資産投資の伸びは2007年の水準を基本的に維持し25.69%となり、2009年は大幅に下降し19.21%となって、2008年より6.48ポイント低下する。

 固定資産投資の資金源から見ると、2007年の中国固定資産投資の資金源の伸びは28.22%であった。モデルにより予測すると、マクロ・コントロールの影響を受け、2008年の固定資産投資の総資金源の伸びは24.10%に下降し、前年比4.12ポイント低下する。四半期別の伸びは、25.15%、23.33%、23.08%、25.02%と、第1四半期のわりあい高い伸びを経て第2・第3四半期の伸びはやや鈍化し、第4四半期にまたわりあい高い水準に戻る。しかし、全体として波動の幅は大きくはない。2009年の伸びはさらに22.84%に下降し、四半期別では20.74%、24.39%、19.65%、25.21%と大幅な波動が現れる。

 資金源の分類から見ると、2008年の各主要資金源の伸びはいずれも明らかに下降傾向を示しており、マクロ・コントロールの効果が現れている。そのうち、国内貸出の伸びは12.54%であり、前年比4.98ポイント下降する。企業の自己調達の伸びは23.19%であり、前年比8.35ポイント下降する。その他の資金源の伸びは2.61%であり、前年比30.61ポイント下降する。2009年の国内貸出の伸びは大幅に反動増となり24.82%である。企業の自己調達資金の伸びは下降傾向が続き、15.08%である。その他の資金源の伸びは小幅に反動増となり、12.00%である。

 

2.4 近いうちに、中国の消費の伸びは下降傾向が現れる。

 2008年の不変価格で計算した個人消費総額の伸びは8.49%であり、当該年度の価格で計算した社会消費品小売総額の伸びは18%である。2009年の社会消費品小売総額の伸びは15.72%に下降し、個人消費総額の伸びも7.78%に下降する。四半期別に見ると、2008年下半期の社会消費品小売総額の伸びは四半期ごとに下降し、特に第4四半期は明らかに下降する。第3・第4四半期の伸びはそれぞれ17.12%、13.1%である。

 2009年に入ると、四半期別の社会消費品小売総額の伸びは、16.95%、15.24%、15.27%、15.44%である。比較可能な価格による個人総消費の伸びは、8.88%、7.33%、7.35%、7.54%であり、動向は社会消費品小売総額の動向と基本的に一致する。

 

3.謝旭人 財政部長

 中国証券報2008820日によれば、「財政政策の作用を十分発揮して経済社会の良好で速い発展を促進する」と題した論文を発表した。その要旨は次のとおりである。

(1)財政の現状

今年の中央財政赤字は1800億元であり、前年度比650億元減少し、GDP比は0.6%に低下するものと予想される。中央政府の投資総規模は、1521億元を計上しており177億元の増となっている。そのうち、予算内[3]の基本建設投資規模は1221億元(377億元増)に調整する。国債プロジェクトの資金規模は300億元(200億元減)に調整する。

(2)災害復興

 今年は、法に基づき2008年度中央予算を調整し、災害復興基金700億元を計上し、支出規模を増加した。811日までにすでに323.2億元が交付済みである。来年・再来年も引き続き相応の計上を行い、3年間累計で災害復興基金2500億元を計上することになろう。

(3)今後の財政政策

 財政部門は、物価の速すぎる上昇の防止をマクロ・コントロールにおいて際立って位置づけている。財政・税制政策の作用を十分に発揮し、物価の上昇幅を経済社会が受容可能な範囲内にコントロールするよう努める。

同時に、財政による農業・農村支援資金を大幅に増加し、農業を強化し農村に恩恵を与える財政・税制政策を絶えず強固に整備する。支出構造を不断に調整・改善し、投入を強化して、科学技術進歩と自主的なイノベーションを支援し、中小企業の発展を奨励し、省エネ・汚染物質排出削減・生態建設・環境保護を促進する。内需とりわけ消費需要を積極的に拡大し、経済構造の調整及び発展方式の転換における財政機能の働きを有効に発揮させる。

 

4.オリンピック後の石炭・電力・石油・運輸の状況

4.1 張国宝 国家エネルギー局長

 818日に、北京国際ニュースセンターと国家エネルギー局共催で行われた「中国のエネルギー状況と国際協力」記者会見で、次のように述べた(上海証券報2008819日)。

(1)オリンピック後に燃料価格が上昇するという噂について

 価格は往々にして製品の需給関係を反映し、中国は正に政府による価格コントロール体系から徐々に市場による価格体系に向っているところである。

 中国は、現在徐々に世界と価格をリンクさせる方法を採用しており、619日にガソリン・ディーゼル油・航空燃料価格を適切に調整したが、まだ国際価格より低い。これは、国内の各種受容能力を考慮する状況下で決定したものである。

 一定期間を経て、各界が注目したディーゼル油の供給逼迫、ガソリンスタンドでの行列現象は既に緩和され、特にガソリンの供給は既に比較的緩和されている。オリンピック以後、石油価格がどのように変化するかは、オリンピック後の経済全体の発展状況及び内外のエネルギー状況によって決まる。

(2)一部の省の電力不足について

 現在電力の逼迫は発電装置の容量が不足しているからではなく、主として石炭の供給逼迫を反映している。ここ数年、中国の電力発展の速度は速く、石炭供給は相対的に電力発展の需要を満足できていない。鉄鋼その他石炭を消費する産業の石炭需要も迅速に増加している。

 北京・上海等の大都市は電力不足を感じてはいない。華中地域の電力供給は、石炭の輸送供給の影響を受けている。わが国は現在石炭価格を自由化しており、市場によって石炭価格が決定されている。国家はこのため、「石炭・電力・石油・輸送の協調領導小組」を設立し、石炭の産出量・供給の増加、エネルギー節約の呼びかけ、電力需要の管理等の一連の措置を通じて、石炭の供給がかなり逼迫し価格が上昇している状況の改善を図っている。

 電力価格は完全に市場により決定することはできない。中国は、米国を含む世界の多数の国家と同様、政府による価格決定を実行している。これは、物価の上昇水準をコントロールし、人民の生活を保障するためである。

 

 4.2 国家発展・改革委責任者のインタビュー(人民日報2008821日)

(1)逼迫の実情

①電力用石炭の供給

 総体的にかなり逼迫しており、特に華中・西南等一部の地域の需給の矛盾が比較的際立っている。華北地域は各方面の努力により電力用石炭の逼迫状況は既に明らかに緩和された。現在、一部地域の工業の伸びが速すぎ、多数の石炭多消費業種の生産量の伸びが続いている。一部の小炭鉱は生産が停止・半停止状態にある。

②電力方面

 電力用石炭の供給がかなり逼迫し、石炭の質が低下していることにより、発電機の出力が制限を受けており、また電力網の制約等の要因の影響を受け、全国の電力需給情勢は明らかにかなり逼迫しており、地域的・時間的な供給逼迫が出現している。電力用石炭の在庫がかなり少ないことは、一貫して今年の電力需給情勢に影響を与える主要問題である。

③石油方面

 3月以降、国際石油価格が持続的に上昇しているため、国内製品油と原油価格の逆転という矛盾が激化しており、企業の加工・輸入の損失が深刻であり、大部分の地域の精製工場が生産停止・半停止状態にある。製品油の消費が急速に伸びており、一部の地域でディーゼル油供給の逼迫状況が出現した。7月に国内製品油価格を引き上げたが、国際石油価格の波動がかなり大きいため、石油精製企業はなお損失状態にあり、現在の需給均衡は依然比較的脆弱である。

④輸送方面

 重点物資の輸送は基本的に保障されたが、一部地域は鉄道輸送のボトルネック制約を受け、輸送供給の矛盾が比較的際立っている。

(2)下半期の見通し

 今年あと数ヶ月は、石炭・電力・石油・ガス・輸送は引き続き総体としてかなり逼迫した情勢が続き、供給安定を保障するプレッシャーは依然かなり大きい。特に、冬季の渇水期に入ると水力発電能力が大幅に低下するので、華中・西南等の地域の電力・電力用石炭の需給の矛盾は更に際立つ可能性がある。

 

5.新華社の論調(新華網北京電2008826日)

 「オリンピック後の中国経済の動向はどうなるか」という論評を発表した。そのポイントは以下のとおりである。

(1)オリンピックは中国経済の分水嶺となりうるか

 統計では20022007年、北京が年平均でオリンピックに用いた投資は全国の毎年固定資産投資額の1%に満たない。建設規模からすると、北京オリンピックプロジェクトの竣工面積は718300㎡であり、2007年の全国建物竣工面積の0.0139%に相当するに過ぎない。国家行政学院の張孝徳教授は、「中国経済を大海とすれば、蛙がひと跳ねしても大海への影響はほとんど計ることができない」とする。

 JPモルガンが最近発表した研究報告では、オリンピック後に中国経済が鈍化する可能性は大きくないとの認識を示している。過去のオリンピック主催国の歴史からすると、経済規模がかなり大きく経済成長がかなり速いオリンピック主催国は、オリンピックの影響を受けにくい。JPモルガンの予測データでは、2008年の中国GDP4.5兆ドルとなっている。

 2008年は北京オリンピックの年であるとともに、中国の経済成長が周期的な調整を開始した年でもある。両者が同時に出現したことはうまいタイミングであったが、必然的な関係は存在しない。現在、中国経済は平穏でわりあい速い成長という基本態勢を維持しており、一部の領域でやや冷え込んでいるが、これはマクロ・コントロール政策措置の作用の下での中国経済自身の調整であり、マクロ・コントロールが予期した方向への発展である。

 中国経済の長期発展は、オリンピックによって始まったわけではなく、当然オリンピックにより終わることもない。北京オリンピックは盛大な高潮の後、引き潮となるのは避けられないが、北京オリンピック後経済の大衰退が発生することもなければ、経済発展のターニングポイントが出現することもないとは言える。

(2)中国経済の直面する試練を直視せよ

 「オリンピック低落効果」は大多数のオリンピック主催都市が免れ難い陰影である。およそどのオリンピック主催都市も、オリンピック時期の経済リスクを完全に免れてはいない。

 30年の改革開放を経て、わが国の総合国力と経済潜在成長率は徐々に高まり、加えて経済総量が大きく、地域は広大であり、経済システムは完備しているので、挽回の余地はかなり大きい。このため、オリンピックの終了がわが国経済発展の基本面に影響を及ぼすことはない。しかし、いかにして物価の速すぎる上昇を避け、合理的な成長速度を維持し、中国経済の良好で速い前進発展を促進するかも、オリンピック後の中国経済が直面する重大な試練である。

 オリンピック後わが国経済は、米国経済の後退が中国の輸出の伸びに及ぼす影響、不動産産業の発展に周期的な調整が出現する可能性、原材料価格の上昇がもたらす企業経営の困難などを含む一連の不確定・不安定要因の影響を受けており、経済の平穏でわりあいに速い発展にとって峻厳な試練が生み出されているため、高度な警戒が必要である。

 国家発展・改革委員会マクロ経済研究院副院長の王一鳴は、「経済の持続的でわりあいに速い発展は、周期的な調整と経済の転換圧力に直面しているだけでなく、一定程度『ポスト・オリンピック効果』の影響も相乗的に受けている。このため、オリンピックが経済発展にもたらすプラスの影響を積極的に拡大し、出現可能な各種のマイナス効果に有効に対応すべきである」と述べている。

(3)中国経済は平穏でわりあいに速い成長を継続する

 多くの問題と不確定要因の試練に直面し、中国経済は依然活力を保持している。それは、最大の市場、安定した政治環境、投資・外需・内需[4]3大経済牽引要素があるうえに、マクロ・コントロールの手段が日増しに成熟し、経済の持続的な速い発展に重要な保障を提供しているからである。

 王一鳴は、「オリンピックの影響は期待である。『経済の平穏でわりあいに速い成長を維持し、物価の速すぎる上昇をコントロールする』という目標は、即ちインフレ期待を安定させ、全面的インフレの出現を防止すると同時に、『成長の維持』と『物価のコントロール』の間の均衡点をうまく把握して、経済の安定した健全な発展を保証しなければならないということである」と認識している。

 マクロ・コントロールにより、経済過熱のリスクは消化され始め、経済成長は減速を開始した。この「減速」は受動的な減速ではなく、マクロ・コントロールが追求してきた「減速」であり、年初提起された「インフレと経済過熱を防止する」コントロール政策が作用を発揮し始めたことの表れである。

 今年、わが国の経済成長はなおわりあいに速い速度を維持すると予想できる。原因は、①中国経済発展の中長期的な基本面は良好である、②投資・消費・輸出の「三頭立て馬車」が経済成長を牽引する短期的な動力は減じていない、ためである。同時に、省エネ・汚染物質排出削減等産業政策の誘導の下、わが国経済構造・産業構造の転換は明らかに加速しており、経済運営の質は明らかに向上している。

 かつて、あるエコノミストは、オリンピックの実体経済への影響には限りがあるかもしれないが、投資家が良好な期待を形成するため、資産価格が投機により実体を離れて高騰し、株式市場・不動産市場はオリンピック終了後迅速に調整されるのではないか、と心配していた。「現在までに、市場の状況には既に変化が発生した。タイムリーで有効なマクロ・コントロールにより、すでに中国経済の過熱リスクは解消し始め、経済運営は徐々に正常な軌道上に回帰している。株式市場・不動産市場のリスクは既に大きな程度緩和され、エネルギー価格も調整されたので、オリンピック後の中国経済を過度に心配する必要はない」とエコノミストの樊綱は指摘する。

 中国は現在、工業化の中期にある。ある専門家は、中国経済の78%あるいはより高い成長率は、少なくとも1520年は維持できると予測する。中国の投資は引き続き旺盛な状態にあり、経済発展の余地・潜在力は依然大きい。政策調節が適切でありさえすれば、わが国経済は完全に内外の各種状況の変化に自在に対応し、引き続き平穏でわりあいに速い成長の勢いを維持できるのである。

 

6.新京報の論調(新京報2008827日)

 オリンピックの投資額が全国投資に占める割合が小さいため、「ポスト・オリンピック効果」が中国経済の低迷を生むとか、「オリンピック後」も依然中国経済を積極的に推進できるといった悲観或いは楽観論は、いずれも道理がないとしたうえで、経済の基本情勢はなお試練に直面しているとし、次のように指摘する。

 「『ポスト・オリンピック効果』が中国経済に及ぼすマイナス影響が軽微であることは、現在中国経済の前途が楽観できることを説明するものではない。逆に、中国経済が直面する問題は依然存在し、更に多く重視を必要とする。

 主要なものは以下の方面である。

(1)インフレの可能性という脅威は、未だ完全に解消できていない

 「頭痛がすれば頭を治療し、足が痛ければ足を治療する」[5]という大範囲の価格統制は、期待した効果をあげていない。将来も楽観できず、社会科学院は消費者物価が上昇傾向を維持すると予測している。

(2)金融市場の管理が不規範であるため、株式市場に心理的ダメージが生まれている

 多くの株主は、株式市場は安心して投資できないと見ている。長期的に見ても、資本市場の制度改革は任重く、道は遠い。

(3)不動産価格が動揺し、中国経済及び人民の生活向上を依然牽制している

 現在の政策は、政府・銀行を勝ち組にし、消費者の負担は過重となっている。不動産を市場化し、政府の関与と荒稼ぎを減少させることが、問題解決の最も望ましい方法である。

(4)エネルギー・原材料価格の上昇が世界経済に影響を及ぼしている

 輸出に依存して経済を牽引してきた中国経済にとって、これは重要な成長動力を失うのみならず、内外投資の縮減を意味する。いかに新しい成長動力を見つけ出し、経済の快速発展の継続を促進するかが、カギとなる思案どころである。」

 

7.国家発展・改革委 朱之鑫副主任

 827日、全人代常務委員会に対し、経済状況及び下半期の経済政策の説明を行った。その概要は以下のとおりである(新華網北京電2008827日)。

 7.1 中国経済運営の際立った矛盾

 「今年に入り、わが国経済社会へ平穏でわりあいに速い発展を維持しており、基本面は変わっていない」としながらも、「現在、国際環境は更に複雑・峻厳化しており、不確定・不安定要因は増し、中国に不利な影響が引き続き顕在化している」とし、次の4つの矛盾を指摘した。

(1)物価の上昇圧力がかなり大きい

 国際一次産品価格は高止まっており、国内の土地・労働力等の要素価格の上昇は企業のコストを増加させ、加えて一次産品の需要がかなり旺盛なため、物価上昇を抑制する任務は十分困難である。

(2)農業の安定的発展と農民の増収に影響を与える制約要因が依然かなり多い

 今年の重大自然災害は、一部地域の農業インフラを深刻に毀損した。今後の天候状況にも少なからぬ不確定要因がある。農業の病虫害の影響及び重大な動物疫病のリスクも軽視できない。作付けの収益が比較的低い問題はなお際立っており、とりわけ農業生産財価格の上昇がかなり早く、17月期の上昇幅は21.3%に達し、農業生産コストを増加させている。

(3)省エネ・汚染物質排出削減の情勢は依然峻厳である

 経済発展方式は総体としてなお比較的粗放であり、経済成長が資源消費に過度に依存する状況は根本的に変わっていない。工業構造の重厚長大化の特徴は顕著であり、落伍した生産能力の淘汰は難度が大きい。省エネ・汚染物質排出削減の政策・メカニズムは不完全であり、一部の方面の監督管理は不十分である。

(4)一部業種・企業の生産経営が困難になっている

 国際市場の需要減退、コストの上昇により、一部の中小企業とりわけ輸出を主とした企業の生産経営のプレッシャーが増加している。最近国家は一連の支援政策を採用したが、政策効果が現れ、企業が経営状況を自ら調整・改善するには、一定のプロセスを必要とする。

 このほか、所得分配、医療・衛生、個人住宅、安全生産等の分野にも、高度に重視し、真剣に解決を要する問題が存在する。

 

 7.2 下半期の経済政策

(1)経済の平穏でわりあいに速い発展を維持する

①構造改善の前提の下、合理的な投資規模を維持する。

②消費の経済成長の牽引作用を更に増強し、新たな消費のホットスポットの育成に努力する。

③引き続き、不動産市場をしっかりコントロールし、不動産業の安定かつ健全な発展を促

進する。

④貿易政策を安定化・整備し、貿易の平穏な伸びを促進する。

⑤石炭・電力・石油・輸送の調節を強化し、重点の需要を確保する。

(2)物価の速すぎる上昇の抑制に力を入れる

①穀物・食用油・肉・野菜等庶民の基本的な生活必需品の生産を積極的に増加し、生産・輸送のリンクと輸出入のコントロールをうまく行うことにより、市場の安定的な供給を確保する。

②重点産品の価格変化の予測・アラームをしっかり行う。

③法規に違反した価格吊り上げ行為を厳格に調査・処分し、新たな費用徴収を厳格に抑制する。

④低所得層及び大学生などへの補助政策を整備し、しっかり実施する。

(3)農業生産をいささかも手を緩めずしっかり行う

①農業への支援を引き続き強化し、秋の豊作を勝ち取る。

②穀物の新たな市場供給・購入を適切に行い、化学肥料等農業生産財市場のコントロール・監督管理を強化する。

③災害で損失を受けた農業インフラの修復、病害検査、ダムの危険除去・強化を早急に行う。

(4)財政・金融コントロールを強化する

①農業・構造調整・自主的なイノベーション・省エネ・汚染物質排出削減・中小企業の発展・民生改善等の方面への財政支援を強化する。

②「三農」・中小企業等への貸出支援を強化し、「エネルギー多消費・高汚染」のプロジェクトへの貸出を厳格に抑制する。

③国境を越えた資本流動の監督管理を強化し、システミックな金融リスクを防止する。

(5)省エネ・汚染物質排出削減・構造調整を断固として推進する

①省エネ・汚染物質排出削減目標の責任考課を強化する。

②省エネ・汚染物質排出削減の重点プロジェクトの建設を加速する。

③企業の技術改造、製品のグレードアップ・モデルチェンジの加速を支援し、企業の合併・再編を奨励し、中小企業の発展を支援する措置を積極的に採用する。

④サービス業の発展環境を更に改善する。

(6)社会事業の発展を引き続き加速する

①重大な科学技術インフラと知識イノベーションプロジェクトの建設をしっかり行う。

②都市・農村の義務教育費免除を全面的に実施する。

③医薬・衛生体制改革を深化させる方案を早急に打ち出す。

④文化産業を積極的に発展させる。

(7)重点分野・カギとなる部分の改革を深化させる

①農村・財政・税制・金融・投資・国有企業改革を引き続き深化させる。

②地方政府の機構改革を積極かつ穏当に推進する。

(8)震災復興活動をしっかり行う

(9)民生の改善と社会の調和の促進に力を入れる

2008年10月記・10,923字)


 


[1]  これは、すでに政府が9%前後に成長が減速することを視野に入れ、これが正当なものであることの防衛線を構築し始めていることを示すものである。

[2]  アモイ大学は、改革派のリーダーの1人である王洛林前社会科学院副院長(現在は顧問)が、社会科学院副院長就任まで学長を務めていたことで知られる大学である。

[3]  これは公共事業の財源を国債ではなく税収に求めることを意味する。

[4]  これは消費内需のことであろう。

[5]  根本を治さず、場当たり的な対処しかしていない意。

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