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本稿では、7月の経済指標と今後のマクロ経済政策をめぐる人民銀行貨幣政策執行報告、党財経領導小組・国家情報センターの論調につき、紹介する。
はじめに
本稿では、7月の経済指標と今後のマクロ経済政策をめぐる人民銀行貨幣政策執行報告、党財経領導小組・国家情報センターの論調につき、紹介する。
1.7月の経済動向
(1)物価
7月の消費者物価は前年同期比6.3%の上昇となり(6月は7.1%)、都市は6.1%、農村は6.8%の上昇となった。食品類価格の上昇は14.4%であり、うち肉及び肉製品は16%(豚肉は12.1%)、野菜は8.4%、穀物は8.6%、油脂は30.8%、水産品は18.3%、果物は17.4%、卵は5.9%、調味料は5.9%の上昇である。
また、水・電気・燃料価格は前年同期比9.1%上昇し、建材・内装価格は8.8%、家賃は3.8%上昇した。
1-7月期の消費者物価は前年同期比7.7%の上昇となり(1-6月期は7.9%)、都市は7.4%、農村は8.3%の上昇となった。食品類価格は19.5%の上昇である。
7月の工業品工場出荷価格は前年同期比10.0%の上昇となり(6月は8.8%)、うち生産財は11.7%、原油は41.2%、普通大型鋼材は37.5%、燃料動力類は30.1%、鉄金属は26.9%の上昇である[1]。
1-7月期の工業品工場出荷価格は前年同期比8.0%の上昇となり、原材料・燃料・動力の購入価格は11.7%の上昇となった。
(2)住宅価格
7月の全国70大中都市の建物販売価格は、前年同期比7.0%の上昇(6月は8.2%)であった。
新築住宅販売価格は、前年同期比7.9%の上昇であり、6月より伸びが1.3ポイント下落した。伸び率の大きい都市は、海口16.7%、ウルムチ15.8%、寧波13.3%、北京13.0%、蚌埠12.6%である。
(3)投資
1-7月期の都市固定資産投資は前年同期比27.3%増であり、1-6月期より0.5ポイント加速した。不動産投資は30.9%の増である(1-6月期は33.5%)。新規着工は14万4467件であり、前年同期比1万2368件増加した。新規着工計画総投資額は前年同期比で2.9%減少した。
(4)消費
7月の社会消費品小売総額は、前年同期比23.3%増となり、伸び率は6月より0.3ポイント増加した。1-7月期では前年同期比21.7%増となり、1-6月期より0.3ポイント増加した。
(5)工業
7月の全国一定規模以上の工業企業の付加価値は、前年同期比14.7%となり、前年同期より伸びは3.3ポイント低下した。6月からも伸びは1.3ポイント低下している。1-7月期では、前年同期比16.1%増(1-6月期は16.3%増)である。
(6)対外経済
7月の輸出は前年同期比26.9%増(6月は17.6%増)、輸入は33.7%増(6月は31.0%増)となった。7月の輸出の伸びが回復したため、1-7月期の輸出は前年同期比22.6%増(1-6月期は21.9%増)となった。
1-7月期で、EU向け輸出は前年同期比27.1%増、米国向け輸出は9.9%増、日本向け輸出は15.9%増となっている。製品では電機製品の輸出は好調であったが、伝統的商品であるアパレル関係の輸出が前年同期比3.4%増と前年同期より伸びが19.6ポイント下落し、靴類が14.2%増と前年同期より伸びが4.3ポイント下落、プラスチック製品がマイナス1%と前年同期より伸びが14ポイント下落した[2]。
7月の貿易黒字は252.8億ドルであり、前年同期比3.8%増となった。1-7月期の貿易黒字は1237.2億ドルであり、前年同期より9.6%、131億ドル減少した。主要国別では、EU向けが869.4億ドルで前年同期比24.9%増(前年同期より伸びは29ポイント減)、米国向けが916.7億ドルで同3.8%増(前年同期より伸びは15ポイント減)、日本向けが239.8億ドルの赤字で前年同期比70億ドル増であった。
1-7月期の外資利用実行額は607.2億ドルであり、前年同期比44.54%増(1-6月期は46%増)であった。7月の外資利用実行額は83.36億ドルであり、前年同期比65.3%増である。
(7)金融
7月末のM2の伸びは前年同期比16.35%、と6月末より伸びが1.02ポイント低下した。金融機関の貸出額は前年同期比14.58%増であり、6月末より伸びが0.46ポイント増加した。1-7月期の貸出増は2兆8343億元であり、前年同期より伸びが605億元増加した。
7月末の人民元預金残高は前年同期比19.6%増であり、6月末より0.75ポイント伸びが増加した。外貨預金残高は1694億ドルであり、前年同期比4.37%増となっている。
2.人民銀行2008年第2四半期貨幣政策執行報告(8月15日)
2.1 マクロ経済の展望
2008年に入り、国民経済は引き続きマクロ・コントロールの予期する方向へ発展しており、国際経済の不利な要因及び深刻な自然災害はわが国経済発展の基本面を変えてはいない。当面、内外の不確定要因はかなり多いが、工業化・都市化・国際化及び産業と消費構造のグレードアップ等の要因が共同してプッシュする下で、わが国経済の発展は依然かなり強い内在的動力と活力を有している。下半期の経済は上半期の成長構造を続ける可能性があり、総体としては平穏でわりあい速い発展の体制を維持するだろう。
(1)内需は、引き続き相対的にかなり速い伸びを維持する
外需の伸びは減退しており、一部の輸出企業の生産能力過剰や投資の減少といった形で間接的に国内投資と消費に一定の影響を与える可能性があるが、総体として見れば、投資と消費の相対的にかなり速い伸びの維持を支援する要因は変わっていない。
産業のグレードアップ、地域の調和ある発展、住宅保障の引上げ、省エネ・汚染物質排出削減の強化及び災害復興等は、客観的にいずれも投資需要を生み出すものである。加えて、各方面の発展への熱意はかなり高く、投資が相対的にわりあい速い伸びを維持するよう推進する可能性がある。
同時に、経済構造調整の歩みの加速と個人所得の段階的引上げといった要因により、経済成長を牽引するうえでの消費の貢献度は総体として上昇傾向にある。ただし、物価上昇が個人消費行為に与える影響を注意する必要があり、総合的な施策を採用して消費の平穏な伸びを維持しなければならない。
(2)貿易黒字はなおわりあい高水準を維持する
米国のサブプライムローン危機の世界経済への影響はなお広がっており、世界経済の不確定性はかなり大きく、外需の伸びは鈍化している。前期に打ち出した輸出税還付・加工貿易等に関する一連の政策調整及び人民元レートの弾力性強化は、国際収支のバランス調整に役割を発揮した。
第2四半期の輸出情勢はやや好転したが、2006・2007年の同期水準よりはなお低い。しかし、世界経済とりわけ新興国市場経済はなお一定の伸びを維持することが期待され、貿易の多元的発展も一部の地域の経済成長の鈍化が貿易全体に及ぼす可能性のある影響の緩和に資するものである。加えて、国内貯蓄率がかなり高いこと等の深層の構造的要因の影響を受け、将来一時期のわが国の貿易黒字はなおわりあい高水準を維持することになろう。
(3)インフレ情勢は高度に重視しなければならない
当面、内外の需要の伸びが高止まりから反落基調にあり、国内のマネー条件が適度に引き締まっており、農産品価格に季節的な反落が出現したことは、いずれも物価の速すぎる上昇傾向を抑制することに資する。
しかし、わが国の経済開放度が不断に高まる状況の下、国際インフレとりわけ石油等一次産品価格と国内PPI、CPIの変動が高度に相関しており、国際経済及び商品価格の動向の不確定性がかなり大きいため、国内物価の変動の不確定性も増加しており、物価上昇を引き起こす要因は依然存在する。
大規模工業化・都市化プロセスは、一次産品を相対的に欠乏させる可能性があり、引き続きかなり高い一次産品価格を維持させ、貿易ルートを通じて国内物価に影響を与える可能性がある。一部の重要商品は内外価格差がかなり大きく、資源・エネルギー価格の歪み・矛盾はなお引き続き累積している。このほか、労働力等要素コストの上昇もかなり速い。総体として見れば、インフレリスクは軽視できない。
現在、国民経済は総体として平穏でわりあい速い発展に勢いを維持している。しかし、国際環境は更に峻厳・複雑化しており、多くの経済主体のマクロ政策が物価の安定維持と経済成長維持という両立困難な境地に陥っていることを見て取らねばならない。わが国経済の体制的・構造的矛盾は依然存在し、物価上昇圧力はかなり大きく、内外の不確定要因がかなり多いことも経済金融運営のリスクを増大させている。マクロ・コントロールはかなり複雑な局面に直面している。
2.2 今後の主要な政策の考え方
中国人民銀行は、党中央・国務院の下半期経済政策に対する手配を真剣に貫徹し、経済の平穏でわりあいに速い発展を維持し、物価の速すぎる上昇をコントロールすることをマクロ・コントロールの第一の任務とし、インフレ抑制を際立って位置づける。
金融政策の連続性・安定性を維持し、金融マクロ・コントロールの予見性・テンポ・程度を合理的に把握し、区別して対応し維持するものと抑制するものを区別するという方針を堅持し、経済の重点分野・脆弱部分への金融支援を強化する。インフレのコントロールと経済のわりあいに速い成長維持の関係をうまくバランスさせ、経済の良好で速い発展を促進する。
(1)貸出の合理的な伸びを誘導する
コントロールの成果を引き続き強固にし、総量コントロールの連続性・安定性を維持するという基礎のうえで、当面の国際環境における不確定・不安定要因が増大する状況に対応し、同時に国内経済の運営において直面する際立った矛盾・問題を考慮して、適時微調整を行い、金融マクロ・コントロールの予見性・対応性・柔軟性を高める[3]。
(2)流動性の管理を引き続きしっかり行う
現在、国際収支は経常・資本収支の黒字構造が続いており、これにより生じる銀行システムの流動性がかなり多いという問題が依然存在する。引き続き多様な政策手段を組み合わせて銀行システムの流動性を回収する必要性があり、マクロ・コントロールの需要に基づき手段の組み合わせ方・不胎化政策の程度を確定し、不胎化の効率を高める必要がある。
(3)価格型手段を合理的に運用する
金利の市場化改革を着実に推進し、マネー市場の基準金利体系の建設を推進する。金融機関の金利決定能力向上を誘導し、ディスカウント金利の市場化メカニズムを整備する。引き続き、主動性・コントロール可能性・漸進性の原則に基づき、人民元レートの合理的な均衡水準上での基本的安定を維持する[4]。
(4)窓口指導・政策誘導を強化し、貸出構造の調整を強化する
「区別して対応し、維持するものと抑制するものを区分する」という方針を貫徹実施し、貸出構造を改善し、エネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種の劣った企業に対する貸出を厳格に制限し、重点分野・脆弱部分への金融支援を強化する。
①「三農」への貸出支援を強化する
わりあいに低い預金準備率、郵貯資金の還流の誘導等の面の政策執行を通じて、農業・農村支援の資金源を拡大する。農村金融のインフラ建設を強化し、安全・便利・高効率の農村金融サービスを提供する。
②市場を有し、収益があり、わりあいに多くの就業をもたらす小企業への金融支援を強化する
金融機関が小企業への貸出・取引金融手段をイノベーションすることを奨励する。多層にわたる小企業への融資体系を構築する。小企業への直接金融のルートを拡大する。小企業への融資市場に民間資金を規範的に誘導し引き入れる。信用体系・担保体系の建設推進を加速し、小企業の融資環境を改善する。
③地震災害復興への貸出支援を強化する
災害地域の重点インフラ・住宅建設、消費、就業拡大、「三農」、小企業方面への貸出支援を強化する。
④総合的な施策を採用し、国際収支の均衡を促進する
外為市場の発展を更に推進し、金融機関の自主的な価格決定・リスク管理能力を引き上げ、金融機関が企業のために更に強力な為替レートリスク回避商品を設計することを奨励する。外貨管理体制改革を深化させ、資本のバランスのとれた流動を誘導し、海外進出の歩みを加速し、多元化した多層にわたる対外投資体系を整備することにより、国際収支の均衡化を促進する。輸出に関する外貨決済のネットワーク調査をしっかり行い、異常な外貨資金の流動の監督管理を強化して、外貨資金の大規模流出を防止する[5]。
⑤構造調整を加速し、内需拡大に力を入れる
現在、経済成長と資源環境の間の矛盾は際立っており、外需の伸びが相対的に緩慢になっているため、経済発展方式の転換と構造調整の促進及び内需の発展を高度に重視する必要がある。今後、引き続き財政・税制政策を調整・改善し、消費内需拡大とサービス業発展のために更に有利な財政・税制環境を創造すべきであり、社会保障等各種体制改革を推進し、構造調整を制約する体制的要因を除去すべきである。資源・エネルギー価格形成メカニズムの改革を適時推進し、環境保護基準を引き上げ強化し、発展方式の転換を促進する。
3.党中央財経領導小組弁公室 劉鶴副主任インタビュー
人民日報2008年8月4日は、劉鶴副主任の独占インタビューを報じた。党中央財経領導小組のメンバーが表で発言することは極めて稀であり、これまでは「三農」問題に関する中央1号文件について陳錫文弁公室副主任が会見する程度であった。党がこのようにメディアの前面に登場した背景には、7月に経済政策のあり方をめぐり国務院と全人代財経委員会の対立が表面化し、党政治局が収拾に乗り出さざるを得なかった事情があろう。
インタビューの概要は以下のとおりである。
(1)経済動向
今年の経済情勢は最も複雑であり、試練性が最も強い。世界経済の変化はかなり大きく、多くの状況が予想外のものである。中国経済は、世界的視野から認識しなければならない。現在、世界経済は正にスタグフレーションを経験しており、先進国では普遍的に経済の下降とインフレ率の上昇が出現し、53の発展途上国のインフレ率は2桁に達し、一部の国家では社会動乱までが発生している。これと比較すれば、中国経済の発展の勢いは最も良い方である。
歴史的に見れば、経済運営はもともと周期的・構造的に変化するという特徴がある。低コスト・高成長という段階は既に過ぎ去り、経済構造調整が客観的な大勢である。世界要因を考慮すれば、下半期の経済は上半期の成長構造を持続するだろう。即ち、輸出は減速し、消費は水準を維持し、投資はやや低下して、全体としての成長速度は去年よりやや下回ることになる。各方面の予測では、年間の成長率は9.5-10.4%の間である。
(2)政策の安定と適時の微調整[6]
「政策の安定」とは、私個人は次の3方面と理解している。
①中国経済の現状から見ると、マクロ・コントロールの程度は基本的に十分であり、更にコントロールを強める必要はなく[7]、各種のマクロ政策の安定を維持することにより良好・透明な外部環境を創造し、企業に市場のシグナルに基づき主動的な調整をさせるべきである。
②期待の安定により、社会に環境の特徴を予見させ、ミクロ主体を落ち着かせ、「平穏でわりあいに速い」という(経済の)大勢を確保すべきである。
③外部の変化がこのように大きいと、苦難がいったいどの程度のものなのか冷静に観察する必要がある。米・欧・日は経済の困難に直面しており、発展途上国は急いで対策を探している。このような状況下、我々は周到かつ慎重に対応しなければならず、安易に対策を打ち出すべきではない。
概括的に言えば、環境を創造し、期待を安定させ、変化を静観するということである。
「適時微調整」について言えば、今回のマクロ・コントロールにおいては、利益主体ごとに感じ方が異なり、特定の地域・産業・企業・集団は異なるプレッシャーに直面している。とりわけ、中小企業は試練に直面している。区別して対応し、維持するものと抑制するものを区別すべきである。微調整とは何か?
①中小企業の融資難の問題解決を重視し、貸出政策の誘導を通じて、競争力があり雇用を十分に吸収する中小企業に資金を振り向ける。
②経営困難な労働集約型業種に対して、輸出税還付を適切に調整し、貿易の平穏な伸びを維持する。
③価格を適時合理化する。実情に基づいて微調整のタイミングを選択し、価格の歪みを改め、供給を増加させ需要を抑制して市場の平穏な運営を保証しなければならない。
(3)マクロ・コントロールの今後の力点
良好で速い発展のためには、単純にインフレ退治のために成長を放棄してはならず、成長のみでインフレ退治を軽視してもならない。為替レート・金利・価格は量的変化が速く、労働力の素質は量的変化が緩慢である。量的変化が速いものと遅いものとの間が均衡するには、一定のプロセスがある。この事実から出発し、下半期のマクロ・コントロールは重点を「総量のコントロール、構造調整、物価の安定、均衡の促進」に置き、マクロ政策を安定させる前提の下、カギとなる部分の改革を推進し、ミクロの基礎を更に堅実なものにすることに力点を置く。
①金融改革を深化させなければならない
貸出政策の引締めは、切り捨てられるのは往々にして中小企業であり、これは国内金融大勢が相対的に硬直化し、融資構造が不合理であることを反映している。債券市場の健全な発展を推進し、大企業の直接金融を増やすことにより、中小企業に更に多くの資金の余地を作り出さなければならない。
②価格改革を周到かつ慎重に推進する
マクロの矛盾は、往々にしてミクロのメカニズムの改革が不十分なことに由来する。これにより、マクロ政策はうまく伝達しなくなる。最も主要なものは価格の歪曲である。人々は「成長に限界はなく、歪曲による限界のみが存在する」と言う。価格シグナルの歪曲は、良好で速い(経済の発展)を困難にしている。
今年は、正に改革開放30年である。改革の新たな措置を推進し、ミクロの基礎を堅固なものとすることにより、マクロ政策を更に有効なものにすべきである。
(4)インフレ抑制
まず、今回のインフレの性質を正確に見定めなければならない。我々は正に世界的にコスト・プッシュ型のインフレを経験している。経済学者のフリードマンは「インフレは最終的に貨幣的現象である」と言ったが、重要なことはどの通貨に注目するかである。今回のインフレは、世界の決済通貨が大幅に切り下がったことが一次産品価格の高騰を生み出し、これにより各国において輸入型インフレの圧力が増大したのである。今回のインフレを抑制するには、世界の共同努力によらなければならず、我々は自分のできる事をしっかり行わなければならない。何ができるかと言えば、「政策を安定させ、供給を保障し、貧困者に補助を行い、価格を微調整する」ことであり、これはインフレ退治に極めて重要である。
我々はまた、インフレ期待の誘導を強化しなければならない。物価の上昇を恐れてはならず、わが国の生産要素価格の歪みの調整は何としても行わなければならないが、更なる物価上昇期待を生み出してはならない。物価の速すぎる上昇を有効に抑制するという目標は実現可能である。世界経済の鈍化にしたがい、石油価格の速すぎる上昇傾向にもターニングポイントが既に現れており、輸入型インフレ圧力は一定程度やや緩和される可能性がある。国内供給の保障程度は相当高く、農産品とりわけ穀物は今年大豊作が期待され、人民大衆の生活需要を満足できる。下半期の物価における前年の要因は明らかに弱くなり、年間の物価総水準がコントロールされ不断に収斂していくことは完全に可能である。
(5)内圧と外圧
内外の要因は相互に連関しており、企業が直面している困難は単一の要因により生み出されたものではなく、外部の環境変化と内部の調整圧力が重なり合った結果である。経済のグローバル化が不断に深化するプロセスにおいて、米国経済はなおも「わずかな動きが全局に影響を与える」状況であり、外部のリスクが出現して以後、外部経済に高度に依存している中国経済に新たな限界的要因が増えた。労働力コストが上昇し、環境保護・社会保障等の支出が増加し、人民元が切り上がったことにより、企業はまず「内圧」を感じたが、客観的に言えば、外部リスクが最後の一押しだったわけではなく、多くの内部問題を噴出させる引き金となったのである。我々は既に一国経済からグローバル経済に入っており、企業家は視野を広げ、絶えず外部経済の変化に注目しなければならない。
長い目でみると、「内圧」は大勢の赴くところであり、避けることはできないし、拒むことはできない。これまでの粗放型成長構造は継続し難く、発展方式を転換すべきである。率直に言えば、内圧がもたらした陣痛は決して今年だけのことではなく、我々は現実を直視し、待ちの姿勢や人任せにするのではなく、主動的に調整し、全力でコアとなる競争力を高め、「危機」を「チャンス」に転換することを学び取るべきである。少なからぬ企業家は眼下の商機を千載一遇と認識しており、矛盾が多く試練が大きいほどチャンスも多いのである。
今年、沿海部の大量の投資が中西部に移転し、2つのデルタ構造のグレードアップの歩みは加速し、重要産業の生産集中度は高まっている。繁栄をはるか遠くに眺めていた地方政府・企業家は正に構造調整に力を入れて取り組んでおり、このような変化は喜ばしいことである。
(6)マクロ・コントロールの今後の難点
①世界が急速に変化する背景の下、政策の実施プロセスにおいて、政策の連続性・安定性の維持と対応性・柔軟性・予見性の増強との関係をうまく処理しなければならない。
②発展推進のプロセスにおいて、改革・発展・安定の関係をうまく処理しなければならない。
合目的的に改革を推進し、改革により発展と安定を促し、改革のタイミング・程度をしっかり把握しなければならない。世界経済は正に大変革・大調整の新たな段階にあり、外部の不確定性は増加し、わが国のマクロ・コントロールに更に高い要求を提起した。下半期から来年上半期にかけて、世界経済は最も困難な時期となる可能性があるが、全ては良くなっていくはずである。長期に目をやり、信念を樹立し、チャンスをしっかり掴み、調整のなかで発展を加速しなければならない。中国経済の数次の調整経験は、我々が完全に各種試練に対応する能力を有することを証明している。私は中国経済の発展の将来を十分楽観しており、真っ直ぐに進みさえすれば、中国経済は新たな高みに到達するはずである。
4.国家情報センターの建議
国家情報センター経済予測部課題グループ(組長は範剣平)は、長文の経済政策に関する建議を発表した(中国証券報2008年8月8日)。ここでは、そのポイントを紹介したい。
4.1 はじめに
今後一時期、とりわけ第3四半期の国民経済の運営は、新たな不確定要因に直面している。世界の主要な経済体の経済減速と物価上昇、国内で出現した新状況・新問題は将来の経済運営に変数を増加させているが、中国が正に重要な戦略的チャンスの時期にあるという長期に有利な要因は変化していない。
現在、中国経済が直面しているのは、周期的な調整圧力のみならず、構造的な調整圧力である。経済構造のグレードアップを加速し、発展方式の転換を推進することが、調整圧力を発展の動力に転化する唯一の出口である。
4.2 世界経済の複雑な局面が国内経済運営に与える影響
年央に至っても世界経済情勢は好転せず、困難が一層加重される傾向にある。国際経済が依然不景気であることは、下半期の中国経済運営に不利な影響をもたらすことになる。
(1)米国のサブプライムローンのリスクは引き続き拡大し、世界経済の更なる減速をもたらしている。
①米国経済は衰退の縁に至っている。
②主要な経済体のGDPの伸びは鈍化している。
EUの経済成長は減速しており、日本経済の成長動向も楽観できない。
(2)原油・鉄鉱石・穀物価格は急上昇しており、世界的インフレ圧力はにわかに増大している。
(3)国際金融の動揺が激化しており、新興国家の金融リスクはかなり大きい。
①世界の各主要株式市場は暴落を続けており、巨額の富が急激に縮小している。
②世界の資金流動に重大な変化が発生している。
大量の国際流動資金が新興市場国家に流れ込み、これらの国家の通貨を不断に上昇させている。もしドルのレート・金利が低下から上昇に転じたならば、世界的な資金流動は再び大変動をきたし、国際資本は新興市場国家から先進国に流れ出し、資本流出速度が速すぎるならば新興経済体の金融を動揺させることになる。
4.3 第3四半期の経済動向予測分析
第3四半期を展望すると、マクロ・コントロール目標が経済の平穏でわりあいに速い発展と物価の速すぎる上昇のコントロールに調整され、災害復興が投資需要を増加させることにより、国民経済は総体としては経済成長の安定・物価上昇率の緩和傾向が現れるだろう。
(1)第3四半期のGDP成長は10.2%となり、第2四半期より0.1ポイント加速する。
(2)第1次産業は引き続き安定した成長を維持する。
最近数年、国家は農業への投資を強化しており、農業生産の安定的発展を有効に保証してきた。第1次産業の成長は3.5%(上半期と同水準)と予測する。
(3)第2次産業の伸びは加速が期待される。
①災害後の物流の正常への回復が、工業生産の急成長に資する。
②四川工業の生産回復が全国工業に牽引作用をもたらす。
③資源価格の調整が関連業種の生産刺激に有利に働き、工業全体の成長速度を押し上げる。
しかし注意しなければならないことは、第3四半期、オリンピック関連の地域で打ち出された一部物資の暫時輸送禁止措置が、これらの地域の工業成長に不利に働くということである。正反両面の要因の影響により、第2次産業の成長は11.4%(上半期より0.1ポイント増)と予測する。
(4)第3次産業の伸びは小幅に反落する。
わが国の金融・証券・不動産サービス業は、近年第3次産業の成長の最も活発な部分であった。しかし、今年の証券取引は低迷が続き、不動産市場の取引量は収縮し、広告・商取引等のサービス業に連鎖反応が現れている。第3次産業の成長は10.2%(上半期より0.3ポイント減速)と予測する。
(5)災害復興が投資需要を増加させ、省エネ投資が投資の新たなホットスポットとなることが期待される。
①地震災害復興において中央・地方政府が投入する大量の資金は、投資の加速を直接的に牽引する作用をもたらす。
1000億元前後の災害救済建設支出は、全社会固定資産投資の実質成長を1ポイント加速すると試算される。
②資源価格の合理化は関連業種の投資熱を刺激するのに有利にはたらく。
③不動産開発投資は高成長を続ける。
国家の不動産に対する期限をきった土地開発と、土地の囲い込みを禁止する政策・規定が、今年の不動産開発投資の大幅な伸びを刺激した主因であり、政策効果は第3四半期も続く。
④中西部の省からの経済発展加速を要求する呼び声がかなり大きい。
ただし、輸出の減速が関連投資に明らかに抑制作用をもたらし、貸出資金の逼迫も固定資産投資の伸びに影響を与える。全社会固定資産投資の伸びは28.5%(上半期より1.7ポイント加速)と予測するが、投資の実質の伸びは前年同期よりやや鈍化する。
(6)物価と所得の二重の要因の影響を受け、消費の伸びは高位で安定に向う。
物価水準の反落により、消費品小売額の名目の伸びは鈍化する可能性がある。このほか、上半期の都市・農村住民の所得の実質成長は明らかに減速している。同時に、自動車・住宅という消費の2大ホットスポットが明らかに冷めてきている。消費品小売額の伸びは名目20%(上半期より1.4ポイント減)、実質で12.9%(上半期と同水準)と予測する。
(7)昨年のベースが影響し、輸出の伸びは安定の中で緩やかな上昇が期待される。
昨年7月に国家は貿易政策を大幅に調整したため、昨年6月に突撃的な輸出が発生した。この関係で今年の第3四半期の輸出の伸びは第2四半期よりもやや加速する可能性がある。もし、第3四半期に政府が一部の業種の輸出税還付率を引き上げ、人民元の切上げ速度を緩和する等の政策をタイムリーに打ち出し、資金が逼迫している輸出企業への貸出を緩めるならば、第3四半期の輸出の伸びの下降幅は緩和が期待される。
このほか、最近国際原油価格の下落が続いており、穀物・非鉄金属も段階的に反落している。内需の減退と輸入商品価格の反落の相乗作用により、第3四半期の輸入の伸びは鈍化が期待される。
輸出の伸びは20.3%(6月より2.7ポイント減)、輸入の伸びは29%(6月より2ポイント減)、貿易黒字は656億ドル(前年同期比76億ドル、10.4%減、上半期より下げ幅は小さい)と予測する。
(8)新たな物価上昇を主因として、物価上昇圧力は依然存在する。
①消費者物価の動向は割に楽観できる。
農産品価格の反落の継続と昨年の影響が減少するため、物価総水準はおだやかに反落する。ただし、資源価格改革が消費者物価に一定の影響を及ぼすので、新たな物価上昇要因は上半期より大きくなる可能性がある。消費者物価の上昇は6.6%(上半期より1.3ポイント減)と予測する。
②生産者物価の上昇圧力は依然かなり大きい。
製品油価格と電力価格の調整は新たな物価上昇要因となる。第3四半期のGDP・投資・工業の伸びが小幅に加速すると、エネルギー・原材料の需要が増加し、生産需要が価格を牽引する。国際的に取引量の多い商品の価格は高位で波動しており、輸入インフレの圧力がかなり大きい。工業品出荷価格の上昇は第3四半期8.8%、1-9月期は8%、エネルギー・原材料の購入価格の上昇は第3四半期13.7%、1-9月期は12%と予測する。
4.4 マクロ・コントロールに関する政策建議
(1)経済手段と政策の組合せによりインフレを総合的に退治し、企業がコスト上昇圧力を消化するのを助ける。
①供給増加に力を入れ、構造的な価格上昇を退治する。
経済手段を用いて穀物・食用油・肉類の基本的生活必需品、石炭・電力・石油・ガスその他不足している商品及び災害復興物資の生産を強化し、重要製品・物資の有効な供給を確保する。
②税・費用の引下げを通じて、企業の技術進歩を誘導し、企業がコスト上昇圧力を消化するのを助ける。
技術革新・設備更新を通じてコストを引き下げる企業に対しては、税の減免・控除の政策支援強化を考慮する。全国レベルで企業増値税改革を早急に普及させる。
(2)3大需要を安定化させ、経済の速すぎる下降を防止する。
下半期の経済は適度な成長区間に反落し、趨勢的・自発的な反落態勢が出現する。物価のもう一段の反落によりかなり好ましい社会総需給環境を提供するために、マクロの需給コントロール管理政策の基本方向を、前期の輸出・投資の速すぎる伸びのコントロール・調整から3大需要の安定に移し、経済の更なる慣性的反落、更には速すぎる下降を防止すべきである。
(3)消費需要を安定化させ、都市・農村住民の実質所得の引上げに力を入れる。
個人所得税の課税最低限の更なる引上げ、利子所得税率のゼロへの引下げを建議する。
(4)投資需要を安定化させ、投資コントロール政策の重点を投資構造の改善に置く。
鉄道、都市軌道交通、装置製造業、新エネルギー、省エネ・環境保護、主幹電力網建設、石炭・石油パイプライン建設、石炭・穀物・石油輸送の主要交通幹線、石炭と接続した生産能力基地建設等国家の戦略的リーディング産業への投資を強化する。
(5)輸出需要を安定化させ、労働集約型産業内の製品のそれぞれの技術・付加価値の含有量を細分化し、紡績・軽工業の奨励製品に対する輸出税還付率を引き上げる。
自主ブランド製品、ハイテク・高付加価値製品の輸出を重点的に支援しなければならない。
(6)穏健な財政政策は、災害復興・民生保障・構造調整などへの支援を強化する。
農業・農業生産財の生産その他不足している商品の生産への補助を拡大し、低所得層への補助を増加する。教育・医療・住宅保障等社会性支出の増加を通じて、更に社会保障体系を整備し、インフレ期待と消費意欲を安定化させる。災害復興の財政支出を増加し、計画の進捗に応じタイムリーに資金を交付する。
(7)金融政策は、災害復興・構造調整への資金支援を増加させなければならない。
新たに増えた不確定性に直面し、金融政策を具体的に操作する際には、実際の需要に応じ適時・適度に柔軟な調整を行うべきである。公開市場操作は、資金の回収程度を柔軟に掌握し、預金準備率の引上げと積極的に組み合わせて、流動性コントロールの目的を達成するべきである。
貸出政策面では、厳格な限度額管理を堅持すると同時に、一定方向への貸出規模を適切に増加し、専ら災害復興と企業の技術のグレードアップ支援に用いるべきである。更に多くのホットマネーの流入、資産価格の大幅な波動を回避するため、金利手段の使用は慎まなければならない[8]。
経済発展方式の転換を支援するため、国家重点建設プロジェクト・一部の大企業の技術改造・設備更新の資金需要に対し、社債の発行規模の拡大を通じて大企業・上場企業の資金需要を満足させるべきである。商業銀行はむしろ中小企業の流動資金需要を多く支援するよう、貸出限度額の余地を残さなければならない。
5.国家発展・改革委マクロ経済研究院 王一鳴副院長記者会見
8月17日に行われた。そのポイントは以下のとおりである(新華網2008年8月17日)。
「2008年は北京オリンピック開催の年であり、中国経済が新たな周期的調整に入った年でもある。
ポスト・オリンピックの時期に入ると、オリンピック前の時期に体育会場及び関連インフラ建設で生まれた大規模な投資需要、及びオリンピック開催期の内外旅行者がもたらした巨大な消費需要は減退ないし短期間で消滅することになる。しかし、過去30年間中国経済の持続的でわりあいに速い発展を支えてきた基本動力に変化は発生しない。オリンピックがもたらした経済及び投資増額が、中国経済及び投資総量に占める比重は小さい。オリンピックが中国経済の分水嶺にはなりえず、経済の平穏でわりあいに速い発展の大勢は変わらず、中国経済の成長潜在力及び経済発展の基本面に影響を与えるものではない。
過去7年間中国経済の持続的でわりあいに速い発展を推進してきた主要要因は、貯蓄率がかなり高いこと、都市化・インフラ建設の投資規模が巨大であること、個人消費の構造がグレードアップしていること、市場の潜在力が巨大であること、労働生産性及び全要素生産性が高まっていること、経済のグローバル化に積極的かつ主動的に参加したことである。中国経済の発展を推進するこれらの基本動力は、オリンピック終了によって変化は発生しない。
オリンピック経済の北京の経済成長に対する貢献は明らかだが、北京市経済は全国経済総量の3.6%に過ぎない。北京オリンピックの会場建設及びインフラ投資は約3000億元であり、投入期間4年に按分すると平均毎年750億元となり、中国の過去4年間の全社会固定資産投資の0.55-1.06%を占めるに過ぎない。ポスト・オリンピック効果が中国経済の発展の基本面に影響を与えることはない。」(2008年9月記・14,109字)
[1] 7月の大幅上昇は、7月初のエネルギー価格の大幅値上げ(ガソリン16.7%、ディーゼル油18.1%、航空燃料25.2%、電力価格4.7%)の影響が大きい(中国経済週間2008年8月18日)。
[2] 国家発展・改革委員会は、エネルギー多消費・高汚染・資源性製品の輸出がなお増加していると指摘する。例えば、1-7月の鋼材累計輸出は3415万トンであり、前年同期比14%減となっているが、2月を除くとその他6ヶ月の輸出量はいずれも400万トン以上であり、しかも7月は721万トンと6月より38.1%増であり、前年同期比でも21.3%増となっているとする(中国証券報2008年8月18日)。
[3] これは引き続き、引締め気味の金融政策を維持したい人民銀行の苦心の表現である。
[4] ここでは、反発の強い利上げ・人民元レート改革について、あえて言及を避けている。
[5] これにより、人民銀行の関心がすでに資金流入から資金流出に向いていることが分かる。
[6] 党外人士座談会において、胡錦涛総書記は「政策を安定させなければならず、適時に微調整を行わなければならない」と発言した。
[7] これは、更なる引締めの余地を確保しようとする人民銀行の方針とは対立するものである。
[8] ここで、利上げは明確に否定されている。
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