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金融政策の動向

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2010年10月16日

記事概要

本稿では、人民銀行周小川行長の一連の発言と、差別的な預金準備率引上げを解説する。【4,146字】

はじめに
 本稿では、人民銀行周小川行長の一連の発言と、差別的な預金準備率引上げを解説する。

1.人民銀行周小川行長の発言
 周行長は10月8-10日、IMF・世界銀行総会に出席するためワシントンを訪れたが、その際数回にわたって人民元レート等の問題につき発言を行っている[1]。その概要を紹介したい[2]

(1)中国の最近の経済情勢
①中国は国際金融危機の衝撃に対応する包括的計画と政策措置の実施を堅持し、国民経済は引き続きマクロ・コントロールの予期した方向へ発展している。構造調整は初めて成果が現れ、国際収支は均衡に向かっている。金融市場は平穏に発展しており、人民元レート改革は更に推進されている。中国は都市化を推進し、インフラ建設を増やし、環境保護を強化し、社会保障を整備する等の方面において、投入を増加させた。
②中国は、内需拡大、都市化プロセスの推進、サービス業の発展加速等、一連の成長の潜在力を有する。
③中国は人口の多い大国であり、経済成長は最終的に内需で決まる。世界的観点からすれば、中国の輸出がGDPに占める比重は決して十分際立っているとはいえない。これは、黒字が変化したとき、経済成長に対する影響も想像するほど大きくはないことを意味する。
④中国は既に内需拡大の重要性を意識するに至っており、正に製造業に向けられていた資金をサービス業に回し、サービス業の比重を引き上げ、サービス業の構造を最適化し、サービス業の全面的で急速な発展を促進する準備をしている。

(2)人民元レートについて
①短期間に、人民元を大幅に切上げることは、中国経済に巨大な衝撃を与える。西洋人は西洋医学を用いることを好み、その効果はてきめんだが、作用が激しすぎる。中国人は伝統的な漢方医学を用いることを好み、異なる薬草を調和させた後の薬効を重視する。効果はゆっくりだが、穏やかで有効な療法である。為替レートを操縦する政策は、複雑な芸術であり、国内のインフレ水準、失業率、経済成長率、国際収支など多様な要因を併せ配慮し、バランスのとれた考慮を進める必要がある。
②人民元レートの調整は段階的なものであり、いわゆる「ショック療法」は採用しない。
③一部の国家は中国に圧力をかけ、人民元の急速な切上げを要求しているが、中国は現在インフレ率がなお上昇しており、人民元の切上げは秩序立てて漸進的に行うしかない。8月の経済データからすると、インフレ率はなお3.5%に上昇しており、もしこれを3%以下の維持しようとするならば、少なくとも2年の時間を要する。インフレ率が相対的に低位を維持するようになって初めて、人民元切上げ期待は大きくなるのである。私個人は、低インフレと安定的な経済発展が維持されて初めて、人民元は段階的に切り上がるのだと思う。
④為替レートの動向は中長期的に見なければならず、人民元の変動幅が不十分である、或いは改革が停滞しているという見方は片面的である。今回の危機において、一部の国家は先に大幅に切り下げてから切り上げている。人民元は中長期的に持続的・着実に切り上がる新興市場の通貨の1つである。
⑤ある国家は中国に圧力をかけ、人民元切上げを要求しているが、その背後には原因がある。これらの国家の経済の回復は順調ではなく、就業問題が未解決であり、大衆・国会の圧力が大きいため、その他の国家の為替レートを非難する声が高まるのである。しかし、人民元切上げがこれらの問題を解決する効果は不確定である。将来経済が回復し、就業が回復するにつれて、これらの「騒音」も静まっていくことになろう。各国の政策決定者は、皆冷静になって経済の根本的問題を考慮すべきである。
⑥中国の現在最も緊要な問題は、住宅価格の速すぎる上昇を抑制し、経済回復の成果を強固にすることのほか、インフレ圧力を低下させ、人民元の今後の切上げの余地を探ることである。

(3)金融政策について
①中国の積極的な危機対応措置は、危機の破壊的影響が更に蔓延することに強く歯止めをかけ、世界経済の回復と構造調整のための余地と時間を勝ち取った。現在の金融政策はインフレ期待を抑制するのに十分である。
②インフレ抑制は中央銀行の金融政策の主要目標であり、異なる経済実体の購買力を保護する必要手段である。政策手段の選択はかなり複雑な問題であり、価格型手段であれ数量型手段であれ、選択使用に際して中央銀行は内外情勢を十分に考慮することになる。包括的経済刺激計画の運用に成功して以後、国内のインフレ圧力はある程度高まっているが、予測するに際しては短期的波動に注意を払うだけでなく、中期の動向を観察しなければならない。現在、既に使用している預金準備率及び公開市場操作による流動性吸収を含む数量的手段が、インフレ期待のコントロール目標を達成し難いという、十分な証拠はない。中央銀行は、引き続き動態的に経済統計データをフォローし、各種政策手段の内容を適時調整し、インフレがコントロール不能にならないよう注意を払うとともに、世界経済の回復における中国の役割も考慮しなければならない。これには、自身の平穏で比較的速い持続可能な成長が含まれ、その中でバランスが得られるのである。
③2年間採用した経済刺激措置が成果を得た後、中国は正に刺激措置を引き続き施行すべきか否かについて慎重に評価し、インフレ或いは不動産バブルの誘発を回避しようとしているのである。
④財政刺激と金融政策は既に相応の作用を発揮しているため、現段階でインフレ率のコントロールを急いではならない。しかし、政府は既に実行可能性の高い中期的計画を制定している。今年は利上げしない。住宅価格の上昇が速すぎることは、金融政策緩和のマイナスの影響であるが、政策決定者は住宅価格の動向をコントロールする能力を有すると確信している。

(4)IMF改革について
①現在、国際社会はIMF自身の改革の進展に高度に関心を払っており、出資シェアの改革はIMFのガバナンス改革の核心・基礎である。根本的目標は、新興市場及び発展途上国の発言権・代表性を高めることにより、構成国の出資シェアのバランスとその世界経済における地位を対称させることである。
②最近、新興市場国家のIMFにおける出資シェア改革を、為替レート切上げ等その他の問題とからめようとする声がある。金融危機発生から現在に至る2年前後の時間で、これは主流の声ではない。IMFの出資シェア改革は、IMFがより代表性を高め、世界がIMFをより信用するようにし、世界経済の更なる健全化を図るものであり、これと責任とは必然的関係はない。

(5)中国の貯蓄率の高さについて
 中国の現在の若者世代は、彼らの父親の世代に比べて、より多くの金を使うことを惜しまない。我々が若者の頃は、金があっても使う場所が多くなかったかもしれない。

2.差別的預金準備率の実施
 10月11日、人民銀行は工商銀行、農業銀行、中国銀行、建設銀行の4大国有商業銀行、及び招商銀行、民生銀行の株式制商業銀行2行に対し、預金準備率を0.5ポイント引き上げ17.5%とすることを通知し、この週のうちに預け入れるよう要求した。市場関係者は、この措置は短期的なものであり、2ヶ月前後と予想している(京華時報2010年10月12日)。
この6行の預金額は約38.1兆元であり、預金総額68.6兆元の半分を占める。今回の措置による流動性回収額は2800-3000億元前後と予想されている(南方日報2010年10月12日)。
 この措置の背景としては、次の点が指摘されている。

(1)9月の貸出急増
 消息通によると、9月の4大国有商業銀行の新規貸出増は2000億元余りであり、株式制銀行9行の新規貸出増は1020億元、そのうち、招商銀行は230億元、民生銀行は380億元である。
 中央銀行は今年の貸出の適度な伸びをずっと強調しており、9月の新規貸出増を2800億元前後に抑える予定であった。しかし、市場の予想では9月の新規貸出増は5000億元前後となり、監督部門の考える貸出規模・テンポを大きく超えている[3]。このため、6行を選択し、差別的預金準備率を用いてこの6行に警告を与えているのである(中国証券報2010年10月12日)。

(2)流動性の抑制とインフレ抑制(京華時報2010年10月12日)
①メリル・リンチ証券 陸挺エコノミスト
 9月のPMI(製造業購入経理指数)は高まっており、需要と市場のコンフィデンスが反転上昇していることを示している。人民元の切上げ期待は、ホットマネーの流入を引き起こしており、同時に、政府は不動産業の投機を抑制する必要がある。預金準備率の引上げは、「財政緩和、金融引締め」という市場の政策予想と符合するものである。短期内には利上げの可能性は大きくないと思う。
②交通国際銀行 李珊珊業種アナリスト
 人民元切上げ期待が引き続き強まっており、外貨交換による人民元放出が不断に増加傾向にあり、10月の中央銀行手形の満期到来が大量であること[4]等が、中央銀行が今回の挙に出た原因である。この措置は臨時的なものであり、期間は2-3ヵ月維持されるのではないか。現在、利上げの可能性は大きくないが、この政策が打ち出されて以後、利上げの可能性は更に小さくなった。
③興業銀行 魯政委エコノミスト
 中央銀行がこの挙に出たのは、経済データと関係があり、その意図はインフレの抑制である。8月のデータは好転を示しており、9月のデータは引き続き好転しているものと予想される。このような状況下、政策の風向きは、経済成長の下降防止からインフレ抑制に転換している。
④中央財経大学中国銀行業研究センター 郭田勇主任
 中央銀行のこの挙の意図は、インフレの抑制である。もし、将来インフレ状況が有効に抑制できず、マイナス金利の状況が少しも改善できないならば、利上げの可能性も排除できない。
⑤社会科学院金融研究所金融市場研究室 曹紅輝主任
 今回の6行に対する預金準備率引上げは、貸出の収縮が目的であり、臨時的な行為で、利上げの前奏ではない。合理的な利上げの時点は、2010年末から2011年初であり、しかも非対称的な利上げの可能性が大きい。預金金利の引上げは銀行の利鞘の縮小をもたらし、銀行の営利を阻むことになるので、利上げをするならば最も可能性のあるのは貸出金利のみの引上げである。

(4,146字)
[1]例えば、10日13:00頃からロナルド・レーガン・センター宴会大ホールで開催された国際金融協会の午餐会で、19分ほど英語でスピーチを行っている。
[2]これは、新華網ワシントン電2010年10月10・11日、上海証券報2010年10月11日、中国証券報2010年10月11日、国際金融報2010年10月12日を総合している。
[3]南方日報2010年10月12日は、9月の新規貸出増を6500-7000億元前後と予想している。
[4]中国証券報2010年10月12日によれば、5720億元である。

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