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2010年下半期の経済政策(3)

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2010年9月1日

記事概要

本稿では、下半期のマクロ経済政策について、全人代常務委員会に対して国家発展・改革委員会張平主任が行った報告、及び人民日報の経済論評を紹介する。【6,039字】

1.全人代常務委員会に対する国家発展・改革委員会張平主任の報告(8月26日)

 各報道によれば、概要は以下のとおりである。

(1)全般的状況(新華網北京電2010年8月26日)
 今年に入り、経済社会の発展の総体としての態勢は良好であり、各地域・各部門は国際金融危機に対応する包括的計画の実施を堅持しており、マクロ・コントロールを的確に強化・改善し、発展方式の転換・構造調整・改革の促進・民生への恩恵を更に重視し、各方面の施策は新たな成果を勝ち取った。経済は平穏で比較的速い発展を維持し、初歩的な計算では上半期のGDPの成長は11.1%である。経済発展方式の転換は新たな成績を勝ち取った。重点分野の改革は新たな歩みを踏み出した。人民の生活水準は引き続き高まっている。

(2)国際環境(中新網2010年8月26日)
 世界経済の回復におけるリスク・隠れた弊害は依然かなり多く、回復のプロセスは順風満帆とはいかない。主要な要因は次のとおりである。
①世界経済の持続的伸びは動力が不足している。
 米日欧等の先進経済体の失業率は依然かなり高く、消費者のコンフィデンスは総体として低迷し、不動産市場は依然疲弊しており、新興産業が短期間に経済成長に対し明白な牽引作用をもたらすことは難しい。
②欧州の一部国家のソブリン債務危機はなお収束していない。
EU及びIMFは既に協力して救援枠組みを始動し、関連する欧州国家も空前規模の財政緊縮政策を宣言実行したが、ソブリン債務危機問題の解決は長期のプロセスとなる。このほか、金融機関の不良債権とりわけサブプライムローン及び関連のデリバティブが引き起こした損失はまだ完全に償却されておらず、金融機関の倒産件数はなお増加している。
③主要通貨のレートと国際市場の主要商品の価格の波動が激化している。
 ユーロの対ドル交換比率は一気に1.2ドル以下に下落し、最近は1.3ドル以上に反転急上昇している。原油・銅・鉄鉱石等のエネルギー原材料価格は高止まりで振幅している。国際市場の小麦価格は上半期の下落から最近大幅上昇に転じており、8月5日のシカゴ小麦先物価格は6月30日に比べ63.7%上昇した。
③貿易・投資保護主義が台頭している。
保護貿易主義の傾向は明らかに強まっており、手段は更に多様化している。上半期、わが国が受けた貿易救済調査案件は38件に達し、既に保護貿易の最大被害国になっている。
つまり、国際金融危機の深層における影響はなお完全に除去されておらず、世界経済の構造的・システミックなリスクはなお際立っており、わが国経済運営の直面する国際環境は依然相当複雑である。

(3)国内環境(中新網2010年8月26日)
 長期に累積した矛盾がなお存在し、新たな状況・新たな問題が顕在化しており、各種矛盾・問題は相互に交錯し、相互に影響し、解決の難度を増している。これには主として次のものが含まれる。
①災害対策の情勢が峻厳である。
 増水期に入って以降、全国レベルで連続して何度も豪雨が発生しており、深刻な洪水・土石流の災害を生み出した。被災地域の広さ・災害損失の重大さは歴史上まれに見るものであり、災害対策の任務は十分非常に困難である。加えて、農地の水利インフラは脆弱であり、年間の食糧安定増産はかなり大きな困難に直面している。
②省エネ・主要汚染物質排出削減の任務は非常に困難である。
 第11次5ヵ年計画の当初4年間、GDP単位当たりエネルギー消費は累計で15.6%低下し、年平均低下率は4.2%であった。第11次5ヵ年計画の省エネ目標を達成するには、今年1年で更に5.2%低下させなければならず、時間は切迫しており、任務は重い。
 同時に、二酸化硫黄の排出削減量は昨年末に目標を達成したものの、今年上半期の排出量は増加しており、これは軽視できない。
③インフレ期待の管理圧力がかなり大きい。
 下半期、一部の農産品価格はなお高止まりとなり、輸入型インフレ圧力は依然として存在する。しかも物価変動に対し遊休資金の投機と各方面が比較的敏感になっていることも、市場の物価上昇期待を拡大している。現在、一部大中都市の住宅価格は依然高すぎ、不動産市場のコントロールは依然繁雑で荷が重い。
④構造調整の任務は更に緊迫している。
 自主的なイノベーション能力が強くなく、サービス業の発展が立ち遅れ、都市・農村の間、地域間の格差がかなり大きい等の問題は、経済社会の平穏で比較的速い発展にますます悪影響を及ぼしている。とりわけ、一部業種の生産能力過剰問題は更に際立っており、労働力・エネルギー・原材料・環境対策等の生産コストが上昇する状況下、一部業種・一部企業の生産経営はかなり大きな困難に直面することになる。これらはいずれも、構造調整とイノベーションの発展の加速を迫るものである。
 このほか、就業、労働関係、社会保障、所得分配、社会サービス、安全生産等の分野に、なお大衆の切実な利益に関わる際立った問題が少なからず存在する。これらはいずれも高度に重視する必要があり、有効な措置を採用して解決できるものである。

(4)下半期の経済政策(新華網北京電2010年8月26日)
 下半期は以下の政策を重点的にしっかり行わなければならない。
①災害対策に立脚し、農業の豊作を勝ち取るよう努力する。
②個人消費の拡大に力を入れ、内需の安定的成長を維持する。
③インフレ期待の管理を強化し、物価総水準の基本的安定を維持する。
④省エネ・主要汚染物質排出削減に更に力を入れしっかり行い、目標ノルマの実現を確保する。
⑤構造調整の推進を加速し、発展方式の転換促進に力を入れる。
⑥対外開放水準の向上に力を入れ、国際競争に参加する新たな優位性を構築する。
⑦改革を更に深化させ、経済発展の活力を増強する。
⑧公共資源を更に多く民生に振り向け、庶民の生活を不断に改善する。

(5)不動産対策(中新網2010年8月26日)
 下半期、中国は不動産コントロール政策を安定的に実施し、一部都市の住宅価格の速すぎる伸びに歯止めをかける措置を更に実施して、投資・投機的住宅購入需要を断固として抑制する。基本的な住宅保障制度を更に整備し、社会保障的性格をもつ安住プロジェクトの建設資金投入と土地供給を増加し、社会保障的性格をもつ住宅の建設進度を加速して、有効な供給をできるだけ速く増加させる。

(6)食糧安全保障(新華網北京電2010年8月26日)
 わが国の食糧安全保障は峻厳な試練に直面している。これは主として、①食糧需要に対する生産能力の不足が拡大する[1]、②水・土資源の制約が強まる、③農地の水利インフラが脆弱である、④農業科学技術の梃入れ能力が強くない、⑤穀物作付けの長期的収益が他と比較してかなり低い、といったものである。
 食糧安全はわが国経済社会の発展、社会の安定、国家の自立に関わる全局的な重大戦略問題であり、国家の治安にとって最も大事なものである。今後、食糧総合生産能力建設を更に強化し、投入と政策支援を強化する。耕地・淡水等の食糧生産資源を厳格に保護し、農業科学技術及び関連産業による梃入れを強化する。現代的な食糧流通・加工産業の発展を促進し、穀物市場のコントロールを強化・改善する。食糧安全の責任を強化し、食糧立法を推進する。

2.人民日報経済論評「政策を安定させ、発展の良好な形勢を強固にせよ」(8月30日)

 これが、経済の現状及び当面のマクロ経済政策に関する、現在の政府のコンセンサスと思われる。

 2.1 経済は引き続き好転回復しているが、依然不確定要因に直面している

(1)今年既に過ぎた7ヶ月を点検すると、中国経済は国際金融危機の衝撃に対応する道路上を引き続き前進している。
上半期経済は平穏で比較的速い成長を実現した。GDPは前年同期比11.1%成長した。工業生産、投資の伸び、マネー・貸出はいずれも高止まりから反落している。国内消費需要は安定的に成長し、輸出入貿易は急速に反転上昇している。物価総水準は穏やかに上昇し、就業状況と都市・農村の個人所得は引き続き改善している。各方面の統計データは、包括的刺激政策を実施したことにより、我々が危機がもたらした景気後退の陰影から脱却し、段階的な成果を勝ち取ったことを説明している。

(2)引き続き好転回復すると同時に、経済運営において新たな状況が現れた。
①4-6月期の経済成長はある程度鈍化し、一定規模以上の工業付加価値・固定資産投資の伸び率はいずれも高止まりから反落し、企業経営に対し一定の困難・圧力をもたらしている。
②極端な気候が頻発し、農業の安定的な増産の不確定性が増した。
 春季には西南地域が大旱魃に見舞われ、夏に入って以降は多くの地域で広範な面積にわたって洪水災害が発生し、秋季穀物の豊作に困難が増した。
③インフレ期待は依然かなり強く、物価の安定的運営に影響を与える不確定要因が増している。
④省エネ・主要汚染物質排出削減のノルマが非常に困難であり、エネルギー多消費業種の成長がかなり速い。

(3)国際環境から見ても、かなり多くの不確定・不安定要因が存在する。
 世界経済は緩慢に回復しているが、人々は、国際金融危機の影響の深刻性と経済回復の曲折性が予想をはるかに上回るものであると、ますます認識している。各国の拡張的刺激政策の効果が徐々に減殺されると同時に、経済の自主的な成長動力はまだ現れていない。主要先進国の失業率は高止まりで、消費者のコンフィデンスは依然低迷している。世界の各主要経済体の回復プロセスはアンバランスであり、各国の経済政策の方向に相違が現れたため、世界経済の回復はさらに幾分かの不確定性が追加された。しかも、欧州ソブリン債務危機は欧州経済の回復プロセスに直接の影響を与えたのみならず、世界経済に累を及ぼす可能性がある。

(4)今年上半期、引き続き積極的財政政策と適度に緩和した金融政策を実施すると同時に、経済運営における際立った問題に対して、中央政府は不動産市場のコントロール、貸出の総量・テンポのコントロール、地方融資プラットホームの整理、省エネ・主要汚染物質排出削減、一部商品の輸出税還付の取消等の政策を打ち出した。
 これら一連のコントロール措置を点検すると、中央政府の用意が明らかにた易く見て取れる。即ち、現在に着眼し(国際金融危機に対抗して勝ち取った成果を強固にし)、また長期を考慮して(断固として構造調整の歩みを踏み出し)、国民経済を徐々に良好で速い持続可能な発展の道へ引き上げたのである。

(5)内外経済に出現した新たな状況・新たな問題により、マクロ・コントロールは一連の「2つの困難な」選択に直面している。
①不動産のコントロールと安定した経済成長
 我々は、不動産価格の速すぎる上昇に歯止めをかけなければならず、同時に経済の引き続き安定した成長を保障し、経済成長が不動産に過度に依存することを減殺させなければならない。
②所得分配改革と企業の発展環境
 我々は、所得分配改革の大方向を段階的に推進することを堅持しなければならず、同時に中小企業の受容能力を考慮し、短期的な生産コストの速すぎる増加が企業の発展に影響を及ぼし、さらには就業に影響を及ぼすことを防止しなければならない。
③資源型製品の価格改革と物価総水準のコントロール
 資源価格形成メカニズムの改革を加速し、市場の価格シグナルを利用して企業の省エネ・主要汚染物質排出削減、構造調整を誘導しなければならず、同時に物価総水準の安定を併せ考慮し、物価の速すぎる上昇が低所得者の生活水準に影響を及ぼすことを防止しなければならない。
 「2つの困難」問題が出現した原因は、国際金融危機がもたらした新たな困難のみならず、経済体制中に長期的に累積した旧い問題があるためである。新旧の矛盾は交錯し、内外の環境は交互に影響しているため、下半期の「成長維持、構造調整、インフレ期待の管理」のコントロール任務は、新たな難度が増している。

 2.2 マクロ経済の基本的方向を安定させ、容易に得がたい良好な形勢を強固に発展させなければならない

(1)今年は、第11次5ヵ年計画の最終年である。
複雑な環境において、中国経済という急行列車をうまく運行し、国民経済の安定成長を維持することができるか否かは、国際金融危機の衝撃に対応して勝ち取った成果を強固にし、第11次5ヵ年計画で提起された目標・ノルマを全面的に達成し、第12次5ヵ年計画期間さらに長期にわたる発展の良好な基礎を打ち立てることにとって、重要な意義を有する。

(2)経済運営において存在する不確定性に対しては、長期にわたり存在する体制的・構造的矛盾の解決に力を入れるにしても、現在の経済運営における際立った問題を的確に解決するにしても、いずれも経済の平穏で比較的速い発展の前提の下で進めなければならない。
 このため、下半期のマクロ・コントロールは「穏」の字が頭にくる。
①マクロ政策の基本的方向を安定(中国語では「穏定」)させ、経済発展に対する財政・金融の支援の程度を維持する。
②各方面の期待を安定させ、発展への自信を強める。
 同時に、発展方式の転換・構造調整を緩めてはならず、今年既に打ち出した各種のコントロール政策を引き続き実施し、不確定な政策シグナルが放たれることを回避し、深層の矛盾・問題の解決を推進し、潜在的リスクを防止・除去し、経済の平穏で比較的速い発展を促進しなければならない。

(3)内外経済運営において出現した新たな状況・新たな問題に対するマクロ・コントロールの水準を高めなければならない。
 マクロ経済政策の協調的組合せを強化し、政策の組合せを最適化して、各種政策の全体効果を十分に発揮させなければならない。モニターを強化し、新たな変化に基づいてタイムリーに政策実施の程度・テンポ・重点をしっかり把握し、経済運営のリスクを有効に除去し引き下げなければならない。軽重・緩急を区別し、政策の効果が過度に折り重なることを防止するとともに、コントロール政策の統一性を自覚をもって維持し、各自が思い思いにバラバラの施策を行うことを防止しなければならない。

(4)2008年に国際金融危機が爆発して以降、中国経済は困難の荒波を乗り越え、2009年にV字型反転を実現し、世界経済のなかで率先して回復した。
 今年上半期、国民経済は総体の態勢として良好であり、年間を通し経済の平穏で比較的速い発展のために有利な条件を創造してきた。現在、年末まであと4ヶ月あり、我々は内外経済環境の複雑性を十分に認識し、憂患意識と緊迫感を強めるとともに、更に信念を確固とし、党中央・国務院が制定した各種方針・政策を引き続き貫徹執行し、マクロ・コントロール政策を安定させ、容易に得がたい良好な形勢を強固に発展させなければならない。

(6,039字)

[1]2020年には、中国の食糧需要総量は5.725億トンと予想される。食糧自給率を95%以上とすれば、2020年の食糧総合生産能力は5.4億トン以上に達することが必要となる(新京報2010年8月27日)。なお、2009年の食糧生産量は5.308億トンであり、食糧自給率は95%以上を維持している。

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