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経済政策をめぐる議論

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2010年9月2日

記事概要

本稿では、国家行政学院政策決定諮問部の王小広研究員及び全人代財経委員会賀鏗副主任・九三学社中央副主席の今後の経済政策に対する意見を紹介する。【4,537字】

はじめに
 本稿では、国家行政学院政策決定諮問部の王小広研究員及び全人代財経委員会賀鏗副主任・九三学社中央副主席の今後の経済政策に対する意見を紹介する。

1.王小広
 彼は早くから不動産投機の弊害を指摘しており、エコノミストの中でも比較的冷静な議論を展開している(新華財経2010年8月19日)。

 2010年上半期の中国マクロ経済は、平穏で比較的速い成長の態勢を維持し、経済の回復傾向は更に強固となった。しかし、2009年の過度に拡張した金融政策が一定のマイナス影響を生み出してもいる。これは主として不動産バブルが比較的深刻なことであり、構造調整の推進がスムーズでないことである。

 下半期の経済成長はある程度反落すると予想されるが、これは合理的な調整である。更に喜ばしいことは、インフレ圧力が減退に向かうことである。多くの人々が二番底のリスクを心配しているのとは異なり、我々は、2010年下半期さらには2011年の経済成長の反落は正常な現象であり、構造調整・経済発展方式の転換・経済の長期にわたる持続可能な成長にとって好ましい事と考えている。

実際上、2010年は新たな経済の成長加速サイクルの開始の年ではなく、昨年4-6月期以降の経済の力強い反転上昇の反動であって、反転ではない。
まず、経済の内在的成長動力が不足している。2009年4-6月期以降の力強い反転上昇は、市場に内在する反転上昇ではなく、緩和された金融政策の刺激に依存するものであった。とりわけ、不動産投資の伸び、住宅価格の爆発的上昇は、内在的な需要(自ら住むための住宅購入需要)ではなく、マネーサプライの伸びが速すぎ、貸出が多すぎることによるものである。過度な流動性が推進する不動産のバブル的上昇が生み出す高成長の幻覚は、持続不可能である。

 このため、経済の反落は一種の内在的要求である。一面において、政策刺激効果は徐々に逓減しており、例えば、2009年の国有企業の投資の伸びは高かったが、2010年は明らかに反落している。他方で、中国経済は2008年から内在的調整プロセスを開始しており、これはまだ終了していない。むしろ、前期の過度な刺激政策によって調整が遅延してしまったのである。補完的調整策は補完的調整策でしかなく、中国経済に内在する構造問題をしっかり解決することは、新たな経済成長サイクルによってのみ始動できるのである。
 したがって、2010年は10年前の2000年のように、経済の大反転ではなく、構造調整・発展方式の転換の加速を通じて形成される経済成長の新たな動力を必要としており、それによって初めて経済の比較的速い成長を維持できるのである。

 第2に、比較的長期間持続した経済刺激政策のマイナス作用はかなり大きい。例えば、住宅価格の高度なバブル化、エネルギー多消費業種の猛烈な成長等である。常軌を逸した政策(適度な緩和以外の部分)の早急な退出は十分必要である。下半期の経済成長鈍化は、政策効果の逓減、外需の調整、消費の伸びのやや鈍化が相俟った作用の結果である。

 経済成長の適度な調整は、決して経済の悪化のしるしではない。むしろ経済の正常への回帰、不健全な要因が排除されたしるしであり、今後中国経済が新たに比較的速い成長サイクルを再現するためにエネルギーを蓄積する必要なプロセスなのである。投資の伸びの反落、工業の伸びの反落、不動産の伸びの反落は、いずれも「不健全要因の除去」である。

 我々の長期目標は、過度に投資に依存した成長モデルを改変することである。2010年のマクロ経済は明らかに好転しており、正にこのモデルを調整する好機である。投資の適度な反落により、生産能力過剰の圧力を緩和し、省エネ・汚染物質排出削減を促進し、投資増加の衝動を抑制することができる。どうしてこれが、中国経済の悪化のしるしと理解されるのか?不動産の伸びの反落は更に大いに好ましい事である。

 経済成長がある程度鈍化した以外に、マクロ経済のもう1つの新たな変化は、インフレ圧力が徐々に減殺されていることである。我々は、7-9月期の物価総水準の上昇は、やや高まるか横ばいとなり、10-12月期の物価は明らかに調整されると予想している。
 野菜価格は引き続き顕著に反落する。PPI工業品工場出荷価格で現在現れている高止まりからの反落は、インフレ期待を減殺している。下半期の総需要が示す鈍化傾向(外需の伸びの鈍化、消費の伸びの鈍化)は、非食品類価格の反落をもたらす。居住類価格は、住宅価格上昇の暫時停滞及び今後の予想が不明な状況下で、上昇を加速する動力が不足している。下半期のCPIの上昇要因は現在ただ1つであり、それは食糧価格が引き続き相対的に高止まりで上昇することである。

 ベースの影響により、2009年10-12月期のCPIは前年同期比0.7%の上昇であった。2010年上半期以降の物価動向からすると、ここ連続2年間の物価上昇は4%を超えておらず、したがって年平均上昇の余地は2%である。とすれば、10-12月期の物価上昇は1.5%を超えず、1%にすぎないだろう。これから予測すると、2010年の年間物価上昇は、2.5%を超えないだろう。

 下半期のマクロ経済政策は、安定を基調とすべきであり、第2次刺激政策を採用してはならず、むしろ金融政策を適度な緩和の水準に調整することを堅持しなければならない。特に重要なことは、引き続き不動産に対するマクロ・コントロールの程度を維持するか、あるいは経済成長の最低ライン(8%)を維持したうえで、不動産に対するマクロ・コントロールを適度に強化しなければならないということである。最近の不動産コンロトールの効果と予期した目標とは大きな差があり、緩和してはならない。とりわけ、政策の執行力を高めなければならない。

2.賀鏗
 全人代幹部がマクロ経済政策について発言することは稀であり、それだけ全人代内部でも議論が分かれているのであろう(新華財経2010年8月19日)。

 不動産コントロール措置を含む現在の政策は、安定させるべきであり、改めてはならず、マクロ・コントロールは観察期間に入っている。
 「成長の維持」とは、経済成長率の数字を維持することであってはならず、各レベル政府は民生の維持・就業の維持を最も重要な位置に置くべきであり、そうでなければ本末転倒である。このためには、現在の主としてGDPを指標とする政治業績考課体系を転換する必要がある。

(1)現在の経済の鈍化の性質・程度
 PMIの鈍化下降という現象は重視すべきである。私の判断では、現在の経済の下降は傾向的な下降とは言い難く、むしろ経済構造調整、不動産のコントロール、及び昨年過度に膨張したインフラ等建設規模の縮小、地方融資プラットホームの整理がもたらした経済の収縮である。

 この種の経済収縮は避け難いものであり、コントロール過程の正常な表現である。さもなくば、経済構造をどうやってうまく調整できるだろうか?構造のアンバランスをどうやって正せるだろうか?持続可能な発展という目標をどうやって達成できるだろうか?
 このことから、私は現在の政策の改変を主張しない。マクロ・コントロールは緩めてはならず、とりわけ不動産に対するコントロールは堅持すべきである。当然、強化する必要もない。不動産市場の急降下は大きなリスクをもたらすからである。したがって、現在の政策をしっかり安定させ、バブルをゆっくり排除しなければならない。

(2)今後のインフレ動向
 私は、今年5%を超える深刻なインフレは出現しないと考えている。物価が大きく上昇する理由はなく、むしろ小幅の上昇が期待される。
 インフレは需給が決定するもののであり、需要が供給能力を超過したときインフレが出現するのである。中国の現在の問題は供給が相対的に過剰で需要が不足していることであり、とりわけ庶民のマネー収入の伸びが速くないことである。

 もう1つの根拠は、昨年の世界金融危機から現在まで、外部経済情勢は総体としては比較的安定しており、国際主要商品価格も総体として比較的平穏だということである。輸入型インフレ問題もそれほど人々を心配させるほどではない。
経済成長率を9%に維持し、CPIを3-5%に維持すれば、経済発展に有利である。しかも農産品価格については、私は適度に上昇すべきだと考えており、これにより農民の収入が高まるのである。

(3)マクロ経済政策の安定化についての建議
 一面において積極的財政政策と適度に緩和した金融政策の組合せを安定させ、即ち需要管理を安定させなければならない。他方で、最も重要な措置は供給管理を強化すべきだということである。具体的に言うと、
①一部の製品に市場があり、就業ポストを多く提供する業種の企業コストを引き下げなければならない。
 政府は構造的減税を強化すべきであり、同時に一定期間内、企業の労働保険の全部あるいは一部を財政が負担することを考慮してもよい。このようにすれば、企業のコストは低下し、労働者の収入も引き上げられる。これと同時に、高速鉄道・道路といった方面の財政投資を縮減すべきである。
②職業訓練を強化し、十分な就業を促進することにより、失業者に再就職に必要な技能を迅速に掌握させるべきである。
③最も重要なことは、労働力・資金・土地等の生産要素を最適化しなければならないということである。

 資金・人を、これを必要とする業種・地域に誘導する方法を考えて、都市・農村、業種、及び地域の協調的発展を促進しなければならない。
 決して不動産等いくつかの業種の発展をただ強調してはならず、政策を大多数の人々・中低所得者に傾斜させなければならない。
 誘導の具体的手段としては、主として税・費用の調節を通して実現する。例えば人材については、もしもう少し高い賃金を提供し、発展が必要な貧困地域に地域補助を実行するならば、自然に更に多くの人材をそれらの地域に誘導することができる。

(4)構造調整の実現のための建議
 最も根本は経済発展方式の転換にあり、このことは我々が長年提起してきた旧い話題である。そのなかでも最も重要な点は経済発展の目標の転換であり、GDPから民生への転換である。
 我々は喜んで成長の維持を提起するが、その実は経済成長率の数字を過度に重視してきた。これは本末転倒であり、民生を維持こそが最も重要な任務なのである。民生問題を改善し、農業・サービス業・教育・医療等を改善し、庶民の収入を安定的に増加しさえすれば、GDPがどれだけかという数字にどんな意義があるというのだろうか?

 各レベルの政府はいずれも経済成長率を非常に重視してきたが、これは政治業績考課指標と密接な関係がある。この種の考課観を改め、就業率・庶民の収入等の考課指標に更に傾斜させることにより、真に人間本位にすべきである。
 このほか、経済財発展の動力を転換することにより、経済成長を投資牽引から需要牽引に転換し、生産方式を粗放型から集約型へ転換しなければならない。

 さらに一点提起が必要なのは、我々は市場メカニズムの育成を更に重視し、真に市場により資源を配分し、中小企業・民営企業に平等な市場環境を開放しなければならないということである。(民間投資促進の)新36条の貫徹執行実施の意義は重大である。

(4,537字)

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