こんにちわ、ゲストさん

ログイン

党4中全会前後の政治経済情勢

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

無料

2004年10月8日

<政治・政策>
党4中全会前後の政治経済情勢

田中修

はじめに

9月16−19日に中国共産党第16期4中全会が開催され、江沢民中央軍事委主席の辞任と胡錦涛副主席の後任への昇格が承認されるとともに、「党の執政能力建設強化に関する党中央決定」(以下「決定」)が決議された。決定全文は9月26日に公開されたが、これ自体の経済的インプリケーションはさほど大きくない。本稿では、その前後を含めた経済動向および経済とも関連する政治動向を解説することとしたい。

1.胡錦党総書記・温家宝総理の動き

(1)経済引締めをめぐる対立

温家宝総理は7月14日に国務院常務会議を、胡錦党総書記は7月23日に党政治局会議をそれぞれ召集し、上半期の経済情勢、マクロ・コントロールの状況と下半期の経済活動について検討を行ったが、この一連のプロセスにおいて、上海の陳良宇書記が温家宝総理の経済引締めに「このまま継続すれば経済成長を阻害するおそれがある」旨の異議を唱え、これに黄菊政治局常務委員が同調したという情報が広く流布された。

これに対して温家宝総理は「経済に問題が生じれば自分が責任をとる」旨回答したという。結果的に、この両会議とも経済引締めの継続が確認されたのであるが、胡・温と上海グループ(ないし江沢民グループ)の確執がその後広く喧伝されるようになった。

この政治局会議の直後、胡錦涛総書記は7月26−29日、上海の電力状況、造船・自動車産業の状況等を視察し、その際「マクロ・コントロールの強化・改善においては、区別して対応することと、あるものは保護し、あるものは抑制するという原則を貫徹し、経済運営中の不安定、不健全な要素を断固として抑制するとともに、経済社会発展の脆弱な部分に対しては強化措置を取らねばならない」としている。この上海視察の際、胡錦涛総書記は上海指導部の地方保護主義を厳しく指弾したとも言われており、この後上海グループからの表立った反論は聞かれなくなった。

つづく8月5−8日、温家宝総理は四川省視察に際し、7日広西・重慶・四川・貴州・雲南の5省区の責任者による座談会を開催し、マクロ経済情勢を分析、検討した。ここでも、温総理は「現在の経済情勢は総体としては良好であり、中央のマクロ・コントロール強化の政策措置は着実に実施され効果を上げている。現在のマクロ・コントロールはなおカギとなる段階にあり、獲得した成果は初歩的・段階的なものであり、基礎はまだ強固ではない。固定資産投資の拡張と生産財価格の上昇圧力は依然大きく、石炭・電力・石油・輸送の需給は依然逼迫している。

経済運営の中で際立った矛盾・問題を生み出す体制上・メカニズム上の弊害は除去されていない。中央の方針・政策を引き続き断固として貫徹することによってこそ、マクロ・コントロールの成果を強固にすることができる。もし少しでも緩めれば、反動が出現する可能性があり、九仞の功をいっきに欠くことになる。各クラスの指導者はマクロ・コントロールの困難性・複雑性を十分認識し、各種工作を怠りなくしっかり行うことを堅持しなければならない」と強調した(2004年8月8日新華社成都電)。

そして下半期の経済政策としては、次の5点を指示している。

    農業を強化し、食糧増産と農民の収入増加を実現する。
    投資の速い増加を引き続き抑制し、更に投資構造を高度化する。
    経済運営の調節を強化し、石炭・電力・石油・輸送の逼迫状況の緩和に努める。
    経済体制改革を引き続き推進する。
    大衆の身近な利益に関わる際立った問題をしっかり解決し、社会の安定の維持に努める。

また、温家宝総理は8月18日国務院常務会議を召集し、当面の金融活動を検討した。ここでは、

    商業銀行に対する窓口指導の強化により、貸出しの合理的なコントロールを継続。
    固定資産プロジェクトの整理において、建設停止となったり、建設がスローダウンしたプロジェクトに対する貸し付けの前後処理をうまく行い、新たな金融リスクを防止する。
    国有商業銀行・農村信用社を始めとする金融改革を時機を失することなく推進する。

ことなどが決定されている(2004年8月18日新華社北京電)。

さらに温家宝総理は8月27−30日に浙江省を視察し、非公有制経済の健全な発展促進を強調した。同省は今回の経済引締めで民間企業の資金逼迫が伝えられており、温総理自らてこ入れを行う必要があると考えたのであろう。

これらの一連の活動を通じて、経済引締めへの公然とした批判はほぼ抑え込めたと判断したのか、温家宝総理は9月13日国務院常務会議を開催し、改めて当面の経済政策を議論した。この会議では、今回のマクロ・コントロール政策が正確・有効であったことが再確認され、当面マクロ・コントロールを強化し、中央が確定した各種政策措置を真剣に貫徹実施することが重要とされたのである(2004年9月13日新華社北京電)。

また、同会議では、当面以下の8項目の政策に重点が置かれることになった。

    固定資産投資の規模を引き続きコントロールし、土地・貸出の2つの水門をしっかり締め、投資の反動増を防止する。
    土地管理制度を早急に完備する。
    食糧・農業生産をさらにしっかり行う。
    貸出し総量を合理的にコントロールする。
    広範な投資家の利益を適切に保護し、資本市場の着実で健全な発展を促進する。
    市場需給と物価政策をしっかり行う。
    食糧流通体制改革、農村税・費用改革、金融系統の改革、国有企業改革、財政・税制改革等の改革にさらに力を入れる。
    就職・再就職・低所得者の生活といった広範な大衆の切実な利益に関わる問題を真剣に解決する。

このように、経済引締めの継続可否については、4中全会までに一応の決着が図られた。

党内監督の強化、人事制度の改革、行政許可法の施行、会計検査報告の全文公表、投資体制改革の決定と、胡―温指導部は地方の専断を抑える政策を年初から着々と実行しており、上海グループも抵抗には限界があったのだろう。

また、伝えられる上海グループの造反劇には江沢民の側近と言われてきた曾慶紅政治局常務委員の名や江沢民と近いと言われる上海系の呉邦国政治局常務委員の名が挙がっておらず、この論争には胡錦涛・温家宝と従来の江沢民グループの対立の一環とは単純に割り切れない面がある。江沢民グループの中でも、曾慶紅はすでに江沢民に見切りをつけ、胡錦涛―温家宝体制の中での地位の保全に傾いていた可能性もある。むしろ今回の造反劇は、経済引締めの継続により上海の不動産バブルがはじけてしまうと腐敗責任を追及されかねない面々が抵抗していたように思われる。

(2)軍との関係

胡―温指導部がもうひとつ解決しなければならないことは、軍との関係の調整であった。指導部が年初に掲げていた「平和台頭」の方針に強く異議を唱えていたのは軍であったとされる。すなわち、最初から武力行使のカードを放棄してしまうと、台湾の陳水扁政権や日本・韓国その他の領海問題・領土問題を抱える周辺諸国の侮りを受けかねない、というのである。軍の反対論の背景には江沢民中央軍事委主席がいると目されていた。

前述の7月23日に開催された政治局会議につづき、24日午後には政治局集団学習会が開催され、胡錦涛総書記は国防建設と経済建設の協調発展を全面的に貫徹する方針を明らかにした。学習会では、経済発展の基礎の上に国防建設に努力し、小康社会の全面的建設というマクロ目標の勝利実現を促進・保証することが強調され、「平和台頭」の言葉は用いられなかったものの、独立自主・平和外交政策を堅持し、平和発展の道を確固として歩むことが確認されたのである(2004年7月24日新華社北京電)。

これは、経済建設と国防建設の関係を整理することにより、軍と一応の妥協を図るとともに、重要な国策は中央軍事委ではなく、党中央政治局で決定するという「軍に対する党の絶対的指導」の方針を再確認する意味もあったろう。このことは、江沢民の中央軍事委主席への居座りの意味を事実上減殺する効果も持っていたのである。

ただこの妥協の結果、従来江沢民が95年党5中全会で提起したいわゆる「12大関係論」で述べていた「国防建設と経済建設は経済建設を拠り所とし、国の経済建設の大局に従う」という表現に比べ、国防建設と経済建設の関係がより対等になっており、今後空軍・海軍・ミサイル等台湾武力制圧を可能とするための軍事予算の拡大が懸念される。

(3)

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ