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中国第11次5ヵ年計画のポイント

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2006年6月26日

はじめに

 2006年3月14日、全人代は中国第11次5ヵ年計画要綱(以下「要綱」)を採択し、閉幕した。この5ヵ年計画は胡錦涛−温家宝指導部が初めて策定した計画であり、中国の経済政策が大きな転換点を迎えるなかでの計画である。本稿では、政府活動報告の後半部分に当る要綱に関する温家宝総理の説明(以下「説明」)及び国家発展・改革委員会馬凱主任等の記者会見内容を紹介するとともに、第11次5ヵ年計画の特徴を解説することとしたい。なお、計画本体の詳細な解説は稿を改めて論ずることとする。

1.要綱策定の経緯

 2005年10月26日新華社北京電、2006年3月6日付け新京報、同3月13日付け京華時報、同3月16日新華社北京電は、今回の要綱の誕生記を詳細に紹介している。これも中国の経済政策決定過程を知る重要資料であるので、要旨を紹介しておきたい。

(1)時系列

2003年7月8日 国務院は第11次5ヵ年計画の起草作業を開始。

9月 党中央・国務院の統一的な手配により、国家発展・改革委は初めて入札形式により、国家・各地域・各部門の重要な研究機関、世界銀行・国連の駐在機関等を組織し、第11次5ヵ年計画期間の重大発展課題について研究を行い、数百万字の研究成果を提出した。

2004年末 中央は直接、22の重大課題を取り上げ、関係方面の専門家を組織し、深く研究を行った。その中には、三農、エネルギー・資源、地域の調和のとれた発展、所得分配、人口、就業・社会保障、環境保護、体制改革、開放拡大等が含まれていた。

2005年2月16日 各地域・各部門の50名余りの指導幹部・専門家学者が北京に集められ、建議起草組(グループ)が正式に成立した。組長には温家宝総理、副組長には曾培炎副総理が就任した。

4月15日 胡錦涛総書記は中央政治局第21回集団学習会において、第11次5ヵ年計画を制定するに際しては、特に科学的発展観により経済社会の全局を統率することを堅持しなければならないと重要講話を行い、建議起草の重要指導原則を明らかにした。

6月2日 胡錦涛総書記は、中央政治局常務委員会で起草活動の報告を聴取した後、再度a国際環境の新たな変化に対応し、快速で良好な発展を実現すること、b科学的発展観という指導思想を全面的に貫徹すること、c戦略の重点を選択するに当たっては、農民増収問題、エネルギー・資源の制約問題、雇用問題の解決と自主革新を際立って位置づけることを指示した。

7月26日 中南海懐仁堂において、胡錦涛総書記は党外人士座談会を開催し、民主党派の中央指導者、全国工商連指導者、無党派人士の意見・建議を聴取した。

7月末 中央弁公庁は通知を発出し、建議「意見徴求稿」につき、100余りの単位、一部の古参同志、党16期大会代表から広範に意見を徴求し、20日余りの期間に起草組は2000の各種意見を受け取った。温家宝総理・曾培炎副総理は起草組を主催し、逐一検討を行い、最終的に600余りの意見を採用し、建議を350箇所余り修正した。

8月19−23日 胡錦涛総書記は河南・江西・湖北3省の農村・企業・コミュニティを視察し、第11次5ヵ年計画期間の経済社会発展と科学的発展観の実施及び自主革新能力の向上につき調査・研究を行った。

9月9−13日 温家宝総理は、広東省書記張徳江らを伴って珠海・中山・仏山・広州・東莞・深圳を視察した。

10月8日 党16期5中全会が北京で開催され、温家宝総理から建議「討論稿」について全会に説明があり、会期4日間の全会は2日半を建議「討論稿」の審議にあてた。

10月10日晩 胡錦党総書記は党中央政治局常務委員会を主催し、中央委員会全体会議の分科会における討論の状況報告を聴取し、修正・補充の重要指示を出した。

10月11日 午前中全会は分科会討論を行い、正午、起草組は分科会討論の状況に基づき最後の草稿修正を行い、中央政治局同志のチェックを経て全会の審議に提出した。午後3時、建議は全会一致で通過した。

10月25日 国家発展・改革委は、国家第11次5ヵ年計画専門家委員会の設置を公表した。この委員会は全国の社会・経済・科学等各領域の37名の専門家で組織され、新農村建設を早くから提起していた北京大学の林毅夫教授、国務院発展研究センターの呉敬を開き、主として第11次5ヵ年計画期間の発展目標、重大措置・政策等について討論を行い、修正意見を提出した。

12月23日 温家宝総理が国務院常務会議を主催し、要綱を原則承認。

2006年1月12日 胡錦涛総書記が中央政治局常務委員会を主催し、要綱を承認。

1月23日 温家宝総理が国務院全体会議を主催し、要綱を原則承認。要綱「請求意見稿」を中央・各省・自治区・直轄市の151単位に送り、意見を求めることを決定。

1月25・26日 起草組が全人代財経委員会と全国政協に報告し、意見を聴取。

春節長期休暇(1月29日―2月4日)後、財経委は全体会議を開催し、その他専門委員会と合同で要綱草案の第1次審査を行い、国家発展・改革委は全人代から32の意見・建議を受け取った。

このプロセスで、各方面から850の意見が寄せられ、起草組は260箇所を修正。

2月6日−10日 温家宝総理は4回の専門検討会を開催し、各民主党派の中央、専門学者、科学・教育・文化・衛生、企業界、労働者、農民等の各層の代表から意見を聴取した。

このプロセスで、文化コラムが追加された。

2月6日 午前に国務院小礼堂で開催された最初の専門家座談会には10名が招請され、その中には国家発展・改革委マクロ経済研究院エネルギー研究所周大地所長、海南改革発展研究院遅福林院長、農業部農村経済研究センター柯炳生主任、南京大学洪銀興党委書記、その他社会科学院・清華大学等の専門学者が含まれていた。

午後は、同じ場所で科学・教育・文化・衛生・スポーツ方面の13名の代表が招請された。その中には、中国疾病予防コントロールセンター沈潔副主任、中国工程院李連達院士、末端農村医師馬文芳等が含まれていた。

2月7日 午前に前日と同じ場所で開催された座談会では、4名の国有企業代表、3名の民営企業代表、1名の労働組合代表、1名の労働者、1名の農民が招請された。その中には、河北大型企業開灤集団公司楊中会長、中国遠洋運輸集団総公司魏家福総裁、海爾集団董事局張瑞敏主席、河北省藁城市南孟鎮南孟村党支部馮志華書記等が含まれていた。

2月21日 胡錦涛総書記が中央政治局会議を主催し、要綱草案を討論した。

2月24日 政治局会議の討論、全人代討論を踏まえ、要綱草案の修正を行った。

3月5日 要綱の草案が全人代に提出された。

3月6−8日 全人代代表の審査及び政協委員の討論の際に提出された意見・建議に基づき、国家発展・改革委員会は要綱草案に34箇所の修正を行った。

3月14日 全人代は要綱草案を可決した。

(2)指導者・各組織の役割

 上記以外に、新華社電及び新京報は党中央建議草案の起草に各指導者・各組織の果たした役割を強調している。

A胡錦党総書記は、建議の新しい草稿ができる度に真剣にチェックし、多くの指導意見を提出した。8ヶ月余りの起草過程中、総書記は前後5回中央政治局常務委員会、2回中央政治局会議を主催し、起草活動・討論状況・関連部門の報告を聴取し、重要指示を行った。

B起草組の組長として、温家宝総理は前後8回起草組会議を主催し、多くの重要指示を行った。副組長の曾培炎副総理も多くの会議を開催し、検討と修正意見のチェックを行い、関連問題の検討を行った。

Cその他の政治局常務委員も、建議の起草活動に十分関心をもち、多くの重要意見を提出した。

a呉邦国は2005年7月、山東省の8地方を視察。

b賈慶林は2005年7月中旬、湖南省の湘潭・岳陽・長沙等を視察。

c曾慶紅は2005年8月19−24日、新疆ウイグル自治区を視察。

d李長春は2005年8月20−24日、甘粛省を視察。

e黄菊は2005年9月、湖南省の長沙で就業・社会保障を視察。

f羅幹は2005年9月、黒龍江省で基層における政法工作と経済社会の発展状況を視察。

D国務院は座談会・専門課題報告会を開催し、専門家から建議に関する意見・関連報告を聴取した。全国政協は、専門課題協商会を挙行し、第11次5ヵ年計画について建言・献策を行った。起草組は、貴陽・上海でそれぞれ座談会を開催し、中西部地域・東部地域の第11次5ヵ年計画関連の重大問題につき意見を聴取した。

E党15期5中全会では、例えば次のような修正が行われた。

a第11次5ヵ年計画期間はバイオ・テクノロジーの発展を重視すべきだというメンバーの意見により、建議ではバイオ・テクノロジーの発展の内容を増加した。

b第11次5ヵ年計画期間は農業・農村への投入にもっと力を入れ、農村の生産条件を改善すべきだというメンバーの意見により、建議は財政支出構造の調整において各クラス政府が農業・農村への投入増加を強める内容を強化した。

c国家は中西部地域の発展への支援を強め、東中西部と東北地方の発展のあり方を更に正確に表現すべきだという一部地域の意見により、各地域の発展要求につき改善を加えた。

2.温家宝総理の説明

 温家宝総理は「政府活動報告」の後半部分で、要綱の説明を行っている。まずその主要な内容を紹介したい。

(1)主要な特徴

A内容

 科学的発展観と社会主義の調和のとれた社会を構築するという戦略思想が貫徹されており、「5つの統一的企画」(都市と農村の発展、各地域の発展、経済と社会の発展、人と自然の調和のとれた発展、国内の発展と対外開放を統一的に企画する)や経済・社会の脆弱な部分の補強、大衆の切実な利益に関わる問題の解決を際立たせ、市場メカニズムとマクロ・コントロールとの関係をうまく処理することに注意を払っている。

B計画指標

 大きく所期性指標と拘束性指標に区分している。所期性指標は所期目標や達成目標であり、主として市場主体の行為の導きを通じて実現されるものである。拘束性指標は必ず実現しなければならない目標を指し、主として法律に照らして管理を強化し、サービスを提供することによって実現されるものである。

C構成形式

 要綱は、本文と特別コラムによって構成される形となっており、特別コラムは関連の発展指標と重点プロジェクトを列挙し、それによって本文の内容が更にわかりやすく明確なものとなっている。

D基礎データ

 第1次全国経済センサスのデータを基礎としている。

(2)第10次5ヵ年計画期間における経済社会の発展状況

 第10次5ヵ年計画の主要指標の達成状況は表1のとおりである。

 また、説明では、第10次5ヵ年計画期間の経済社会発展において存在した矛盾・問題について以下の事項を指摘している。

a経済構造が不合理的で、自主革新能力が弱く、経済成長方式の転換が緩慢であり、エネルギー・資源の消費が過大で、環境汚染が激化している。

b就業の矛盾がかなり際立っている。

c投資と消費の関係がバランスがとれていない。

d都市と農村や、地域間の発展の格差及び一部の社会構成員間の所得格差が引き続き拡大している。

e社会事業の発展が依然として立ち遅れている。

(3)第11次5ヵ年計画期間における経済・社会発展の指導原則と主要目標

A指導原則

a経済の安定した速い発展を保つ。

b経済成長方式の転換を速める。

c自主革新能力を向上させる。

d都市・農村間や地域間の調和のとれた発展を促進する。

e調和のとれた社会の建設を強化する。

f改革開放を絶えず深化させる。

B重要目標

a経済成長率

 今後5年間のGDP成長率を7.5%とする。

説明は、前計画実績をかなり下回る7.5%という成長率目標を定めた理由として、「構造の最適化、効率の向上及び消耗の低減を踏まえて定めた」とする。そして、「各地方は、成長率と構造・効率の関係をうまく処理し、一方的に経済成長率を追求したり、盲目的に競い合ったりしてはならない」と警告を発している。

b省エネ・環境保全

 計画期間中にエネルギー単位消費量を20%前後低減させ、主要汚染物の排出総量を10%減らす。

 説明は、「この目標の実現には大きな困難があるとはいえ、我々には目標を達成する確信と決意がある」とする。

(4)第11次5ヵ年計画期間における戦略的な重点と主要任務

A社会主義新農村を構築する。

 要綱では、「三農」(農業・農村・農民)問題の解決を諸般の戦略的任務の首位に位置づけている。社会主義新農村のイメージは、都市と農村の経済・社会発展を協調させることを堅持したうえで、「生産を発展させ、生活を豊かにし、気風を改善させ、村を美しくし、民主的管理を行う」ものであり、具体的には次の施策が挙げられる。

a農業の総合的生産力を更に高め、農業構造の調整を推進し、農村インフラ整備を強化し、農民の収入を増やす。

b食糧・綿花・搾油作物の大型生産基地の整備や良質食糧産業、農地水利施設、飲用水の安全、農道、メタンガス施設及び農村の教育、文化、医療衛生の整備等の重点事業に取り組む。

c農村の総合的な改革を推進し、郷鎮機構や農村義務教育、県・郷クラスの財政管理体制等の改革任務を基本的に完遂する。

d知識と技術を身につけ、農業経営能力を持った新しいタイプの農民を養成する。

eより多くの建設資金を「三農」に傾斜させ、公共サービスはより広範な農村地域をカバーし、社会全体が農村の発展を大いに支援する。

B経済構造調整と成長方式の転換を加速する。

説明は、「当面、わが国の経済成長過程に見られる多くの問題の根本的原因は、経済構造の不合理や成長方式の粗放型にある」と指摘する。成長方式の転換のイメージは、新しいタイプの工業化の道を歩むという要請に応じて、産業構造の最適化及び資源節約、環境保全を踏まえながら発展を目指すものであり、具体的には次の施策が挙げられる。

a工業構造の最適化とグレードアップの推進により、規模の大きい工業から実力をもつ工業への転換を促す。

b情報化の促進、ハイテク産業の発展、プラント製造業の振興、エネルギー資源や素材産業を発展させる。

cサービス業、とりわけ情報、金融、保険、物流、観光及びコミュニティ・サービス業の発展を加速させ、サービス業のウエイトとレベルを絶えず高める。

d省資源、環境にやさしい社会の構築を際立った位置に据える。

C地域間の調和のとれた発展を促進する。

a異なった地域の協力・相互扶助メカニズムを健全化する。

bそれぞれの地域の資源、環境受容能力、成長潜在力に基づき、国土のスペースを最適化開発区、重点開発区、開発規制区、開発禁止区の4種類の主体的機能区に分け、更にこれらの区域に対し異なる政策をそれぞれ実行する。

c積極かつ着実に都市化を推進し、メガロポリスによる牽引・波及の役割を発揮させる。

D自主創造・革新能力の増強に力を入れる。

 説明は、「これは要綱の特徴である」とし、革新型国家の建設を加速し、オリジナルな創造力、集積による革新能力、導入・消化・再革新能力を高めなければならないとする。また、国の戦略的要請に照らし、情報・バイオ等の戦略産業、エネルギー、資源、環境、健康、軍民両用技術などの重要科学技術特定プロジェクトを立ち上げる。

E改革を深化させ、開放を拡大させる。

 説明は、「これまでの20数年の間に、わが国の経済社会の発展で収められた全ての成果は、いずれも改革開放を断固として推し進めたことと切り離せない。新しい段階の発展任務を完遂するためにも、揺るぐことなく全面的に改革を深化させ、開放を拡大させなければならない」と強調する。

 また対外開放については「国内の発展と対外開放を協調させるという要請に応えて、互恵やWin-Winを目指す開放戦略を実行し、開放によって改革と発展を促進する。開放を拡大する中で、国の経済の安全維持を重視しなければならない」としている。

F調和のとれた社会の建設に努力する。

 説明は、「これは経済社会の発展を推進するうえで重要な目標であり、保障でもある」とする。具体的な施策としては、人口対策事業、就業拡大、社会保障体系の整備、国民の生活水準・健康レベルの不断の向上、公共安全の整備強化、社会主義民主政治・文化建設の強化、社会管理体制の充実が挙げられており、「今後5年間に、我々の社会が更に調和のとれたものとなり、人民大衆の生活が一層豊かになるよう努力を重ねていかなければならない」としている。

Gその他

a行政管理体制の改革を加速し、政府機能を更に転換しなければならない。

 政府と企業の分離を引き続き推し進め、行政許認可・審査を縮減し、規範化する。政府がやるべきでない事務を断固として市場、企業、民間機構、仲介機構に任せる。政府の経済管理方式を着実に転換し、社会管理と公共サービス機能を強化する。政務の公開を推進し、事務処理の透明度と効率を高める。行政上の問責制度を確立し、健全化し、政府の執行能力と政府への信頼感を高める。

b廉潔政治の建設と反腐敗闘争を深く展開しなければならない。

 腐敗への処罰・防止に係る諸般の任務と措置を真剣に徹底させる。教育面の法外な費用徴収や高額な診療費など際立った問題の解決に努めなければならない。

c公務員法を真剣に貫徹実施し、公務員に対する教育・管理・監督を強化しなければならない。

 厳格に行政をおしすすめ、賞罰を明確にすることを堅持する。大局を念頭に置く、規律を向上させ、法律の厳正さや絶対性を尊び、国の法規・方針・政策を正しく実施しなければならない。真実を追究し、実際を重んじ、空理空論を戒め、官僚主義や形式主義、虚偽・欺瞞、大風呂敷を広げるといった気風を克服し、諸般の任務と配置の計画を確実なものとしなければならない。

 なお、第11次5ヵ年計画期間の経済社会発展の主要指標は表2のとおりである。

3.国家発展・改革委員会馬凱主任等記者会見(2006年3月6日)

 要綱につき、次のような解説を行っている。

(1)要綱の新たな特徴

A指導思想

 科学的発展観と調和のとれた社会の構築という2大戦略思想に貫かれている。

B目標体系

 経済指標を重視するだけでなく、人文・社会・環境の指標を重視しており、とりわけ初めて発展指標を所期性と拘束性の2種類に分けた。

C発展の戦略任務

 社会主義新農村の建設を独立した編とし、各種戦略任務の首位においた。

D工業領域

 次期5年間の工業発展の主要任務は規模を拡大することではなく、構造のグレードアップであり、わが国の工業を大から強に変えることである。

E第3次産業構造

 初めてサービス業を独立した編とし、際立って位置づけた。これは、わが国の第3次産業が立ち遅れていることに対し、構造を高度化し、就業を拡大し、総合競争力を高めるべく提出したものである。

F地域発展戦略

 更に最適化開発区、重点開発区、開発規制区、開発禁止区の4種類の主体的機能区の位置づけと政策方針を更に明確にした。

G人と自然の関係

 資源節約と環境保護という2大基本国策を要綱に書き込み、資源節約型社会・環境にやさしい社会を建設するという戦略任務と具体的措置を提起した。

H自主的な創造・革新とハイレベルの人材養成を際立った位置づけとしている

 創新型国家の建設と人材強国戦略という重大任務と政策措置を提起した。

I要綱は発展の計画であるとともに、改革の計画でもある

改革の深化と開放の拡大という任務を2編に分けて詳述しただけでなく、農村編、科学教育興国編、調和のとれた社会編等を含むその他の各編も、改革の内容が貫かれている。

J経済建設、政治建設、文化建設、社会建設という「四位一体」の総体思考から出発している

 政治文明建設、文化建設、社会建設を独立の編とし、人間本位と大衆の切実な利益に関わる重大問題の解決を際立たせて強調している。

 なお、形式上の革新としては、本文にコラムを付する形式を採用した。これは本文を更に簡潔明快にするとともに、コラムを通じて計画の力点を際立たせて実現することにより、計画の実施を容易にすることにもなる。

(2)策定プロセスの民主化

A2005年10月末から建言・献策活動を展開し、2ヶ月間に5000人余りから数万件の建議が提出された。

B初めて公開入札方式で社会の力量を動員し、160の重大専門研究を展開し、500万字の報告が作成された。

C初めて37名の各領域の著名な専門家で構成される専門家委員会を組織し、4回の専門論証会を開催した。

D初めて要綱を正式に全人代審議に提出する前に、各地の人民代表に送付し第1次審査をあおいだ。とくに温家宝総理は4回の座談会を主催し、直接各方面の意見・建議を聴取した。

(3)地域格差の縮小(朱之鑫副主任)

A基本的考え方

a西部大開発、東北振興、中部興隆、東部率先発展という地域発展総体戦略を堅持する。

b特に、財政移転支出・資金投入・産業発展において、更に多く革命故地、民族地域、辺境地域、貧困地域に多く投入する。

c最終的に主体の機能を明晰にし、東部・中部・西部が相互に作用し、公共サービスと国民の生活水準の格差が縮小するような、地域の調和のとれた発展構造を形成する。

B格差縮小の面で重要なことは、各地域間の公共サービスと国民の生活水準面の格差を縮小することである。異なる地域の大衆が、みな同等の義務教育・公共衛生・公共安全・を享受し、最終的には異なる地域の国民が徐々に同等の生活水準を享受できるようにすることがポイントである。

C1地域の発展に際して、単純に経済総量を追求してはならないし、単純に一様な発展速度を追求してはならない。

(4)計画の指標

A全編に定められた指標は39であるが、最も主要な指標は第3章のコラム2で、計22ある。この22の指標には非常に特徴があり、経済成長を反映するものはわずか2で、経済構造を反映したものが4、人口・資源・環境を反映したものが8、公共サービス・国民生活を反映したものが8となっている。この指標設計は、人間本位と「5つの統一的企画」を十分に体現している。

B指標体系中、最も主要で、最も代表的なものは、2方面の指標である。1つは経済成長率(年平均7.5%)であり、2つ目はエネルギー消費・排出低減の指標である。これは、経済成長と資源・環境上の代価を考量したものである。

C指標を所期性と拘束性に分けたのも、初めてのことである。

a所期性指標は、国家が期待する発展目標であり、主として市場主体の自主的行為に依存して実現する。政府は良好なマクロ環境・制度環境・市場環境を創造し、市場の資源配分機能を更に発揮させる。

b拘束性指標は、所期性指標を基礎とし、政府が実現しなければならず、達成しなければならない指標である。

cこのような区分は、政府と市場の職責をはっきり区分することに資し、政府が公共サービス・公益領域において履行すべき職責を強化することに資し、計画の操作可能性に資し、科学的発展観の要求に符合する業績評価体系を確立することに資するものである。これにより、盲目的にGDPを追求し、単純に成長率を追求することを回避することができる。

(5)順調な実施の確保(朱之鑫副主任)

A要綱は、特にこのために第14編を設けた。

これは計画の実施編である。この編の冒頭には、分類して指導するという計画実施メカニズムの基本原則が示されており、主として市場の資源配分における基礎的役割が発揮されることになる。

B指標体系の設置や18のコラムは、いずれも計画実施の力点である。

a主として市場が発揮する役割による領域については、主として財政政策、金融政策、産業政策、地域政策、社会政策等を通じて行う。

b主として政府が履行する職責がある領域については、公共資源・政府投資等の合理的配置を通じて、個別に拘束性指標を達成する。

c計画全体の実施過程において中間評価を行い、経験を総括して計画実施中の欠点・問題を改正し、計画の実施を保証する。

(6)庶民に対する現実の恩恵(表2記載事項以外)

A2010年、GDPはドル換算で3兆2000億ドルとなり、1人当り2400ドルを超える。

B鉄道を1万7000キロ新たに建設するが、そのうち7000キロは高速鉄道である。国家は1000億元で、農村の自動車道を建設する。

C就学難・就学費用が高い問題は、5年かけて大幅に緩和する。

D期間中に1億の農民の飲料水の安全問題を解決する。

E貧困人口を更に減少し、都市年金保険、最低生活保障を経済成長につれて引き上げ、農村の最低生活保障制度を徐々に整備する。

4.重要政策に関する関係官庁記者会見

(1)社会主義新農村

これは新計画の最大の目玉ということもあり、2006年3月8日に農業部、国家発展・改革委、財政部による合同記者会見が開催された。そのポイントは以下のとおりである。

A社会主義新農村建設の重点(農業部 尹成傑副部長)

a農村生産力の建設を強化する。財政投入を増加し、農業・農村インフラ建設を強化する。

bあらゆる手段をつくして農民の収入を増加させる。

c農村の基層レベルの民主を拡大する。

d農村の精神文明建設を更に強化する。

e農村の社会建設・管理を強化する。

f農村の各種改革を更に深化させる。郷鎮機構改革、義務教育、郷鎮財政管理体制改革を推進する。

B投資・プロジェクト建設の重点(国家発展・改革委 杜鷹副主任)

a農業総合生産力の向上

 種子プロジェクト・大型商品化食糧基地・大型灌漑地区の節水改造・中部4省の排水ポンプ所の改造、小型水利建設、動物疫病予防・検疫システムの整備等

b農民の生産生活条件の改善

 飲用水の安全、エネルギー(メタン)、農道建設、電力建設に力を集中させる。

c農村社会事業の発展加速

 教育・衛生・文化事業の発展を加速させる。

C財政支援(財政部 朱志剛副部長)

a財政の農村支援資金が安定的に増加するメカニズムを確立する。

既存支出を調整すると同時に支出増の重点を農村に傾斜させる。

b全国的にかつ全面的に農業税を取り消す。

 中央財政は移転支出を増加させる。

c農民が非常に歓迎している食糧直接補助・優良種子補助・農機具補助の3補助を、引き続き整備・強化する。

d農村義務教育への投入を増加させる。

 第11次5ヵ年計画期間に2182億元の投入増加を準備する。

e農民の医療難の問題を解決する。

 2008年には全面的に農村合作医療制度を実行する。中央財政はこれに補助を行う。

f農村郷村機構改革、農村義務教育制度改革、県・郷財政体制改革を主要内容とした農村総合改革を推進する。

D食糧増産と農民の増収(農業部 尹成傑副部長)

a食糧の総合生産能力の建設を強化する。

 厳格な耕地保護制度を実施する。食糧生産基地の建設を強化する。

b農業・農村経済構造の戦略的調整を積極的に推進する。

 専業化・地域化された農業を発展させる。資源節約型・環境にやさしい農業を発展させる。

c農民の増収ルートを広げる。

 現代農業を建設するとともに、農村労働力の移転を促進し、出稼ぎ収入を増加させる。

d農業発展を支援する政策を実施し、農民の移転収入を増加させる。

e農業科学技術の自主革新とその成果の転化を大いに推進する。

f農民の科学技術文化の素質を高める。

E耕地の保護(農業部 尹成傑副部長)

 工業化・都市化の推進につれて、毎年農村において正常に収用されている土地は400万ムー(1ムーは15分の1ha)余りにのぼるが、うちおよそ200万ムー余りが農民の耕地であり、これにより100万人余りの農民が耕地を失っている。

a厳格な耕地保護制度を実行し、できるだけ失地農民を減少させる。

b耕地を収用された農民に合理的な補償を与える。

c失地農民の就業を手配する。

d生活困難な農民に対し、最低生活保障を実行する。

(2)創新型国家の建設

 第11次5ヵ年計画の目玉の1つは「自主的な創造・革新能力の増強」である。この関連でも、2006年3月10日に科学技術部、国家発展・改革委、教育部、財政部による合同記者会見が開催されているので、主要な部分を紹介しておきたい。

A「創新型国家」目標の意義(科学技術部 徐冠華部長)

科学技術の進歩がなければ、我々が提起した小康社会の全面的建設目標は達成が非常に困難となる。

aわが国は1人当りエネルギー・水資源・土地資源の供給がひどく不足しており、長年の経済発展を経過して後、我々は益々緊迫する資源問題・環境問題に直面している。科学技術の進歩があってこそ、この問題を解決する糸口が見つかる。

bグローバル化の過程において、中国企業はますます激しい国際競争圧力に直面している。また労働力コストが不断に上昇するにつれ、わが国の労働力の比較優位は不断に弱化している。我々は自主的な創造・革新を通じて創新型国家を建設するしか道はない。

B具体的措置(国家発展・改革委 張暁強副主任)

a企業の自主的な創造・革新を奨励する政策環境を更に整備する。

b重大な科学技術インフラの建設を加速する。

c企業の自主的な創造・革新の専門プロジェクトを組織的に実施する。

d重大技術装備(原子力発電所・高速鉄道等)の研究製造と重大産業技術(省エネ・新エネルギー・資源総合利用等)の研究開発を強化する。

C財政措置(財政部 張少春部長助理)

a財政資金の投入増に力を入れる。

 第11次5ヵ年計画期間は、財政の科学技術投入の伸び率を、財政の経常的収入の伸び率よりはっきり高める。

b財政税制政策の科学技術進歩に対する促進作用を十分に発揮する。

 企業の研究開発投資に係る所得税の控除、研究開発設備機器の加速度償却、ハイテク企業への企業所得税減免、機械設備輸入の税制優遇、政府購入の促進。

c科学技術経費の管理制度の整備。

 管理工作の透明度を高める。

5.第11次5ヵ年計画の特徴

 以上、温家宝総理の説明及び馬凱主任の会見をもとに、第11次5ヵ年計画の特徴を整理してみたい。

(1)「計画」から「規画」へ

 この用語解説そのものはないが、「現代漢語詞典」によれば、「規画」は比較的長期の発展計画を指すとされる。計画に比べ、重点はミクロからマクロへ、直接から間接へと移り、より戦略性・指導性・予測性が強まると考えられている(2005年10月17日付け中国経済週刊)。この用語の変更は計画経済からの最終的決別を意味するものといえよう。

(2)指標の減少・分類

 「規画」への変更に伴い、従来のような数値目標の羅列は減少し、指標体系そのものも「所期性」の指標と「拘束性」の指標に2分された。前者は、市場メカニズムを通じて達成が期待されるものであり、後者は政府に達成義務が存在する。

 拘束性指標として分類されたものとしては、次のものがあり、これらを見ると、逆に中国経済社会が抱える問題が明らかになってくる。

A持続的な経済成長を可能とするため、人口・資源・エネルギー・環境という成長制約要因を緩和するための指標:総人口、エネルギー・水の節約、汚染物質排出減、森林カバー率

B食糧安全保障の観点からの指標:耕地面積

C国民生活水準を向上させ、社会の安定を維持するための指標:都市基本年金カバー人数、新型農村合作医療カバー率

 なお、第10次5ヵ年計画の指標はいずれも達成されたかに見えるが、目標値を達成できなかったものとしては次のものがある(2006年3月8日付け中国経済時報、同3月10日付け上海証券報)。

a第10次5ヵ年計画では、エネルギー消費を年平均3.26%の伸びとし、単位GDP当りの消費を第9次5ヵ年計画末より15−17%引き下げる予定であったが、実際には年平均10%の伸びとなり、単位GDP当りの消費は5年間で7%上昇し、計画指標よりも27%上昇した。また、第10次5ヵ年計画では石炭のエネルギー消費に占める比重を61%から57%に引き下げる予定であったが、実際には石炭消費は計画指標を5.8億トン標準炭分上回った。

b第10次5ヵ年計画では、大気汚染・水質汚染をしっかりと処理し、「2つの規制地区」における二酸化硫黄排出量は20%削減されるはずであった。しかし、実際には全国二酸化硫黄排出量は5年前より増加し、3分の2の都市人口は中度以上の大気汚染の環境の中で生活しており、全国58%の河流の水質は中度ないし深刻な汚染状況にあり、半分以上の都市の地下水の汚染は深刻である。

c第10次5ヵ年計画では、消費の対GDP成長率貢献度は46%から50%以上に高まるはずであったが、2005年は33.3%と逆に低下している。

 これらの未達成指標を見ると、第10次5ヵ年計画の高い成長率が、いかにエネルギーを多消費し、環境に負荷をかける投資依存型の成長であったかが分かる。このため、第11次5ヵ年計画ではエネルギー・環境関係が拘束性指標となったのであろう。

(3)構成

 第10次5ヵ年計画は、10編26章であったが、第11次5ヵ年計画は14編48章と大幅に内容が増加し、配布資料ベースでも頁数が52から90に増えている。また、コラムが18設けられ、分野ごとの重点プロジェクトが具体的に列挙されている。

(4)戦略思想

 次の2つが重大戦略思想とされている。これはいずれも胡錦涛―温家宝指導部が提起したものである。

A「科学的発展観」

「人間本位の全面的で調和のとれた持続可能な発展観」を指す。この発展観では経済成長至上主義は修正され、社会の全面的発展、省エネ・省資源・節水・土地節約・環境生態保護が併せて重視される。「5つの統一的企画」(都市と農村の発展、各地域の発展、経済と社会の発展、人と自然の調和ある発展、国内の発展と対外開放を統一的に企画する)がこの思想の中心である。またこの発展観からは、成長方式についても従来の粗放型から効率を重視した方式への転換が求められる。

B「社会主義の調和のとれた社会」

「民主的法治を進める、公平と正義のある、信義誠実と友愛を旨とし、活力にあふれ、安定的で秩序立った、人と自然が仲良く共存する社会」を指す。この社会観からは、これまでの効率重視のみならず、社会的公平・所得再分配が重視される。

 全面的な小康社会との関係では、社会主義の調和のとれた社会の建設は小康社会の全面的建設の前提とされている。また科学的発展観は、社会主義の調和のとれた社会を建設するという当面の目標を達成するための戦略的指導思想である。

(5)2つの目標

A経済成長率

 今後5年間のGDP成長率を7.5%とする。

党中央建議の段階では2010年度1人当たりGDPを2000年度の2倍とするという目標が立てられていたが、このときは第10次5ヵ年計画期間の平均成長率を8.8%としていた。しかし、その後経済センサスの結果、平均成長率は9.5%と大幅に上方改定されたため、この目標は達成が容易なものとなっている。

B省エネ・環境保全

 計画期間中にエネルギー単位消費量を20%前後低減させ、主要汚染物の排出総量を10%減らす。

 5ヵ年計画に省エネ・環境保全の目標が定められたのは、初めてのことである。それだけ成長に伴う資源・エネルギーの浪費・環境破壊が深刻だということであり、このような粗放型成長からの「成長方式の転換」の成否は正にこの目標の達成にかかっている。

しかし、この2つの目標は地方政府によって早くも無視されつつある。全人代開催時点で、25の省区市が経済成長目標を公表しているが、8.5%が1箇所、9%が7箇所、10%が10箇所、11%が3箇所、12%が3箇所、13%が1箇所となっており、平均は10%以上となっている。また、エネルギー単位消費量について、低減を30%としているのは吉林省だけであり、25%が3箇所、20%が10箇所、15%が3箇所、13%が1箇所、12%が1箇所、未提出が6箇所となっている。この結果につき、2006年3月8日付け中国経済時報は「今後5年間にGDP成長速度が10%を下回らないとすると、エネルギー単位消費量を20%低減することはできず、中央計画の2つの基本目標は実現困難となる」と指摘している。

(6)社会主義新農村の建設

第10次5ヵ年計画においては、農業・農村は第2編第3章という1章にしか位置づけられていなかったが、今回は第2編第4−第9章と、各論の筆頭に大きく格上げされた。

社会主義新農村の建設とは、都市と農村の経済・社会発展を協調させることを堅持したうえで、「生産を発展させ、生活を豊かにし、気風を改善させ、村を美しくし、民主的管理を行う」こととされる。

これは、これまでの工業・都市優先から、工業が農業を支援し、都市が農村を支援する形に転換し、工業・農業、都市・農村の共同発展を図り、現在の都市・農村の経済格差拡大傾向に歯止めをかけようとするものである。また、要綱は消費の役割をより発揮した内需拡大を掲げているが、これを実現するためには農村における消費を振興する必要があり、このためにも農民の所得向上は不可欠となっているのである。

具体的政策としては、減免税・補助金・公共投資・中央からの財政移転等の手段を通じた財政資金の農村・農業への傾斜配分が中心である。

(7)自主的創造・革新能力の増強

 具体的には、科学技術・教育面においてオリジナルな創造力、集積による革新、導入・消化・吸収・再革新能力を向上させることを指す。

このような考え方が生まれた背景には、科学技術の進歩がなければ、2020年に設定されている小康社会の全面的建設の達成が非常に困難となるという問題意識がある。即ち、最近の高成長のなかで、エネルギー・資源・環境の制約要因が顕著になっており、これを打破するには科学技術の進歩が不可欠になっている。また、国際競争が激化するなかで、最近賃金の上昇が続いており、国際競争力の減少が懸念されている。労働コストの上昇を補い、国際競争にサバイバルするためには生産性と開発能力の向上しかなく、このためにも科学技術の進歩が不可欠なのである。この具体的政策としては、財政資金の投入・減免税制度が活用されている。

(8)サービス業の重視

 第10次5ヵ年計画では、第2編第5章であったが、今回は第4編第16−18章に格上げされている。これは、中国の発展が未だに第2次産業に依存しており(2005年のGDPに占めるシェアは47.3%)、第3次産業の発展が発展途上国と比べても立ち遅れている(インドが同51.2%であるのに対し、中国は同40.3%)ことがある(2005年12月20日人民網北京電)。第3次産業は、民営企業・中小企業が中心であり裾野が広いため、都市の一時帰休・失業者、今後農村から移転する労働者の吸収が期待されるのである。

(9)地域発展戦略の見直し

 全国の地域を最適化開発区、重点開発区、開発規制区、開発禁止区に4分類するとともに、それぞれについて財政政策・産業政策・土地政策・人口管理政策・政治業績評価が定められている。これは、全国一律的な開発を改め、地域の特性に合わせて開発にあり方を定めようというものである。第10次5ヵ年計画では、小都市・町の建設を大きな目玉として打ち出したが、結果として生じたのは開発区の乱立であった。今回は「城市群(メガロポリス)」という地域の特性に応じ広域的な計画(珠江デルタ・長江デルタ・環渤海地域が対象)を策定し、域内の都市同士がそれぞれの優位性を生かし、相互補完的に発展させる方向も打ち出しており、日本の全国総合開発計画・国土利用計画・大都市圏整備計画・都市計画の発想が盛り込まれている。

(10)改革開放の再強調

 第10次5ヵ年計画では改革開放は第5編第16・17章であったが、第11次5ヵ年計画では改革が第8編第30−34章、開放が第9編第35−37章と大幅に記述が増加している。

しかも、温家宝総理は説明において、「これまでの20数年の間に、わが国の経済社会の発展で収められた全ての成果は、いずれも改革開放を断固として推し進めたことと切り離せない。新しい段階の発展任務を完遂するためにも、揺るぐことなく全面的に改革を深化させ、開放を拡大させなければならない」と強調する。今回の要綱では「改革」の文字は83回も使われているのである(2006年3月6日付け新京報)。

また、2006年3月6日上海代表団に対する胡錦涛総書記の発言も「いささかも揺るぐことなく、改革の方向を堅持しなければならない。改革の決意と信念をさらに強固にしなければならない。社会主義市場経済体制を不断に整備し、資源配分における市場の基礎的役割を十分に発揮させ、同時にマクロ・コントロールの強化・改善に努め、経済社会の速く良好な発展を保証しなければならない。時機を失することなく改革を推進し、改革を適切に強化し、重要領域・カギとなる部分で改革の新たなブレイク・スルーを実現しなければならない。同時に改革の政策決定の科学性を重視し、改革措置の協調性を増強し、改革に当たっては各方面の利益を併せ配慮し、各方面の関心を顧慮し、真に広範な人民大衆の擁護・支持を得なければならない。対外開放水準を不断に高め、対外貿易の成長方式を転換に努め、外資導入の構造を改善し、条件の整った企業が対外投資・多国籍経営を行うことを支援し、同時に国家の経済安全の擁護に注意しなければならない」とされている(2006年3月6日新華社北京電)。

これは、2004年以降改革・開放政策について批判的な論調が次々に提起され、1980年代初・1990年代初に続く第3の改革をめぐる大論争が発生したことと無縁ではなかろう。しかも、今回の論争では今日の経済社会の矛盾は改革・市場化がもたらしたものだとする批判が社会学者・法学者さらにはネットを通じて大衆が参加して展開され、医療改革・教育改革・地域格差・都市農村格差・社会保障不備等重大な経済・社会問題にまで対象が拡大した。そして、市場化改革を続けるべきか、どのような改革・市場経済が左傾化・右傾化といえるか、効率と公平の価値観の関係をどう調整するかが大きな焦点となった(2006年3月10日付け南方週末)。第11次5ヵ年計画で改革の深化を言う以上、この全人代で改革論争に決着をつける必要があったのである。このため要綱にも「社会の公平を更に重視し、人民全体が改革発展の成果を享受できるようにする」という庶民の感情に配慮した記述が盛り込まれている。

 また2004年3−9月には外資批判論争も展開されており、説明では「国内の発展と対外開放を協調させるという要請に応えて、互恵やWin-Winを目指す開放戦略を実行し、開放によって改革と発展を促進する。開放を拡大する中で、国の経済の安全維持を重視しなければならない」としている。

(11)「先富」から「共同富裕」へ

 南巡講話」を行った際、彼は「一部の人々や地域が先に豊かになる」(先富)を許容するとともに、「先に豊かになった人々や地域がその他の人々や地域を先導し、手助けをして、共に豊かになる」(共同富裕)という手順を考えていた。そして20世紀末に小康水準に達したとき格差問題を解決すればいいとしていたのである。しかし、上海に政治的基盤を持つ江沢民指導部は「先富」を21世紀になっても推進し、2003年のSARS流行により農村の後進性が明白になるまで党は共同富裕に本格的に政策を転換することができなかった。

要綱では「所得分配制度の改革を加速し、個人所得分配の秩序を規範化し、分配結果に対する監督管理を強化し、業種・地域・社会構成員間の所得分配格差が拡大する傾向の緩和に努める」とする。そして、就学・就業・分配過程の社会公平を重視し、低所得者の所得向上・中所得層の拡大・高所得者の有効な調節を行うほか、独占業種の所得の規制、個人所得の健全な申告制の確立、個人所得税の徴収管理の強化を挙げている。また、各種社会保障制度のカバー範囲の拡大を盛り込んでいる。

さらに財政改革では中央と省クラス政府の財政移転制度の完備を打ち出しており、胡―温指導部は共同富裕の実現に向け、所得再分配を本格化する姿勢を示している。

(12)財政の役割の増加

 以上の特徴を見ても分かるように、今回の第11次5ヵ年計画では、資源配分・所得再分配に関する財政の役割が著しく増加している。全人代開催期に行われた各重要施策に関する記者会見に、いずれも財政部幹部が同席しているのもその表れであろう。

 他方、積極的財政政策といった、財政政策に関する一定の方向性は記述されず、マクロ経済政策の方針としては、「経済の安定した速い発展の維持」と「経済の乱高下(中国語では「大起大落」)の防止」が記載されているのみである。これまでの5ヵ年計画でも、第9次には緊縮的財政政策が盛り込まれていたが、実際に発生したのはデフレであり、第10次では積極的財政政策が盛り込まれたものの、実際に発生したのは経済過熱であったことからも分かるように、5ヵ年計画で財政政策について一定の方向性を書き込むことには無理があり、却って経済の乱高下を助長しかねない。今回のようにニュートラルな記述の方が賢明であろう。

(13)計画実施体制

 計画に盛り込まれた内容に応じて、a主として市場メカニズム・利益誘導メカニズムを通じて実現に努めるもの(政府は良好な制度・政策環境作りを行う)、b政府が承諾し、公共資源を運用し全力で達成するもの、c政府の重要職責として、政府施策の重要位置に据えるもの(改革任務がこれに属する)に区分している。

また、経済政策のあり方についても、公共財政の優先領域、租税政策の役割、産業政策の重点を定めるとともに、制度の協調・計画の協調・政策の協調を強化し、財政政策・金融政策・産業政策・地域政策・社会政策と成績評価を結びつけ、国家の政策が縦割りになることを防止するとしている。

さらに、行政管理体制改革においては、政府の職責範囲の合理的画定、行政許認可・審査の減少・規範化、政府機構改革、投資体制改革(企業の投資自主権の実施、政府の投資範囲の合理的画定)等、政府の機能を合理的な範囲に限定しようとしている。

これらも、「計画」が「規画」となった反映であろう。

(14)策定プロセスの改善

 公開入札による専門研究、専門家委員会の設置、党・全人代への広範な事前意見徴求、一般国民からの建言・献策活動の展開、温家宝総理による座談会の開催等、これまで以上に多くの関係者の意見を取り入れる姿勢を示している。これは、改革論争において一般国民がネットにより改革批判に参加したことからも分かるように、もはや指導部の一部エリートだけにより計画を策定・実施することは困難になっており、何らかの形で民意を取り入れることが不可欠になっている事情を物語るものである。(3月28日記)

表1 第10次5ヵ年計画の主要指標の達成状況

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指 標

 

 2000年

 

10−5計画目標

 

 2005年

 

 年平均成長率(%)

 

GDP年平均成長(%)

 

 都市新就業増(万人)

 

 農業労働力移転(万人)

 

 都市登録失業率(%)

 

 物価水準

 

 貨物輸出入総額(億ドル)

 

 研究開発費の対GDP比(%)

 

 高等教育への粗入学率(%)

 

 高校段階への粗入学率(%)

 

 中学段階への粗入学率(%)

 

  全国総人口(万人)

 

  主要汚染物質排出総量削減率(%)

 

 都市住民1人当り可処分所得年平均伸び率(%)

 

 農民1人当り純収入年平均伸び率(%)

 

 都市住民1人当り住宅建築面積(

 

 

 

 

 

 

 

 3.1

 

 

 

 4743

 

 0.9

 

 11.5

 

 42.8

 

 88.6

 

 126743

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 20.3

 

 7

 

 [4000]

 

 [4000]

 

 5

 

 基本安定

 

 6800

 

 1.5

 

 15

 

 60

 

 90

 

 133000

 

 [10]

 

 5

 

 

 

 5

 

 

 

 22

 

 

 

 

 

 

 

 4.2

 

 

 

 14221

 

 1.3

 

 21

 

 53

 

 95

 

 130756

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 26

 

 9.5

 

 [4200]

 

 [4000]

 

 

 

 1.4

 

 24.6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6.3‰

 

 <[10]

 

 9.6

 

 

 

 5.3

 

 

 

 5.1

注1. 研究開発費の対GDP比を経済センサス前の数値に直すと2005年は1.55%である。

注2. [ ]を付しているのは5年間の累計数である。

注3. 粗入学率とは、人口統計上で各段階の在学相当年齢に当たる者の人口全体に占める、実際に入学している生徒数の割合を指す。

表2 第11次5ヵ年計画期間の経済社会発展の主要指標

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 類別

 

 指  標

 

2005年

 

2010年

 

 年平均成長率(%)

 

 属性

 

 経済

 

 成長

 

 GDP(兆元)

 

1人当たりGDP(元)

 

 18.2

 

 13985

 

 26.1

 

 19270

 

 7.5

 

 6.6

 

 所期性

 

 所期性

 

 

 経済

 

 構造

 

 付加価値に占めるサービス業比率(%)

 

 就業に占めるサービス業比率(%)

 

 研究開発費のGDP比(%)

 

 都市化率(%)

 

 40.3

 

 31.3

 

 1.3

 

 43

 

 43.3

 

 35.3

 

 2

 

 47

 

 [3]

 

 [4]

 

 [0.7 ]

 

 [4]

 

 所期性

 

 所期性

 

 所期性

 

 所期性

 

 

 人口

 

 ・

 

 資源

 

 ・

 

 環境

 

 全国総人口(万人)

 

 エネルギー単位消費量の低減(%)

 

 単位工業付加価値当り使用水量の低減(%)

 

  農業灌漑用水有効利用係数

 

 工業固体廃棄物総合利用率(%)

 

 耕地保有量(億ha)

 

 主要汚染物質排出総量減少(%)

 

 森林被覆率(%)

 

 130756

 

 

 

 

 0.45

 

 55.8

 

 1.22

 

 

 

 18.2

 

 136000

 

 

 

 

 0.5

 

 60

 

 1.2

 

 

 

 20

 

 <8‰

 

 [20]

 

 [30]

 

 [0.05]

 

 [4.2]

 

 −0.3

 

 [10]

 

 [1.8]

 

 拘束性

 

 拘束性

 

 拘束性

 

 所期性

 

 所期性

 

 拘束性

 

 拘束性

 

 拘束性

 

 

 公共

 

 サー

 

 ビス

 

 ・

 

 国民

 

 生活

 

  国民平均教育年数(年)

 

 都市基本年金保険カバー人数(億人)

 

 新型の農村合作医療カバー率(%)

 

5年間の都市部就業増加数(万人)

 

5年間の農業労働力移転(万人)

 

 都市登録失業率

 

 都市住民1人当り可処分所得(元)

 

 農民1人当り純収入(元)

 

 8.5

 

 1.74

 

 23.5

 

 

 

 

 4.2

 

 10493

 

 3255

 

 9

 

 2.23

 

 >80

 

 

 

 

 

 5

 

 13390

 

 4150

 

 [0.5]

 

 5.1

 

 >[56.5]

 

 [4500]

 

 [4500]

 

 

 

 5

 

 5

 

 所期性

 

 拘束性

 

 拘束性

 

 所期性

 

 所期性

 

 所期性

 

 所期性

 

 所期性

注1.GDP及び都市住民収入は2005年価格。

注2.[ ]を付しているのは5年間の累積。

注3.主要汚染物質は二酸化硫黄(SO2)及び化学的酸素要求量(COD)。

 

(2006年6月記・18,929字)
財務省財務総合政策研究所客員研究員

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