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ログイン2007年12月17日
中国共産党党規約改正,指導部人事についてです。今回の指導部人事をめぐっては、報道は胡錦涛総書記派の勝利と見る見解と、江沢民・曾慶紅派の勝利と見る見解に大きく分かれています。
Ⅲ.党規約改正
1.経緯
新華社2007年10月28日は、党規約改正に到る経緯を以下のように紹介している[1]。
2006年12月 中央が17回党大会報告の議題について広範に意見を徴求していた期間、多くの地方・部門・党組織が中央に対し、党規約改正の必要性を建議
党中央は、中央紀律検査委員会・中央弁公庁・中央組織部・中央宣伝部・中央連絡部・中央政策研究室等の部門に研究・論証を要求
2007年3月10日 胡錦涛総書記が中南海において中央関係部門主要責任者の座談会を主催し、党規約改正につき意見を聴取
3月24日 中央は通知を出し、党規約改正について各地域・各部門から意見を徴求
3月下旬 政治局常務委員会及び中央政治局会議で、党規約を適切に改正することを決定
中央は、呉邦国を党規約改正小組の組長とし、政治局常務委員会の直接指導の下、作業を行わせることを決定[2]
4月4日 20名余りの中央の各部門関係者が中南海に集まり、党規約改正小組の第1次全体会議を開催
4月上旬 各地域・各部門から中央の通知に対し、125の党規約改正に関する書面報告が届く
改正意見・建議は計1603項目、重複を除くと実質116項目
党規約改正小組は、これを50-60万字の意見集に編纂、最終的に72項目を採用
5月10日、6月14日 政治局常務委員会で党規約改正案を審議、重要な改正意見を提起
6月15日 中央政治局会議は審議のうえ、党規約改正案に同意
7月初 党規約改正小組は、党規約改正に関する重大理論・観点・提起の方法について、51の専門テーマに分けて更に深く検討
7月11日 中央は党規約修正案の意見徴求稿と17回党大会報告意見徴求稿を、各省区市・各部門・解放軍総政治部に発送し、5560人から意見を徴求[3](16回党大会に比べ約2520人の増)
16回党大会の代表及び新たに選出された17回党大会代表は、全て討論に参加
7月下旬 胡錦涛総書記は、北京・重慶・杭州等の都市で座談会を開催し、各省区市・軍隊大単位の主要な責任者から意見を聴取
8月初 各地域・各部門は、中央に対し125通の書面報告を提出
改正意見は311項目で、内容的に199項目に整理された
党規約改正小組は、このうち60余りの単位の30余りの項目を採用し、21箇所を修正
8月30日 政治局常務委員会が、党規約改正案意見徴求稿の意見徴求状況について報告を聴取
9月17日 中央政治局会議は、党16期7中全会で討論する党規約改正案を検討・承認
10月9日 党16期7中全会開催
呉邦国が党規約改正案討論稿を全体会議に説明、出席者は修正意見・建議を提出し、党規約改正小組はこれに基づき党規約改正案を修正
会議は党規約改正案を承認し、17回党大会の審議に付すことを決定
10月15日 17回党大会開催
代表達は積極的に建言・献策を行い、更に修正意見・建議を提出
党規約改正小組は更に案を修正
10月21日 党大会閉幕時に党規約改正案を一致して承認
2.改正の内容
党規約の改正は15箇所に及ぶが、上記新華社記事の整理では、その主な内容は以下のとおりである。
(1)科学的発展観等の重大戦略思想を追加
①科学的発展観がわが国経済社会の重要な指導方針であり、中国の特色ある社会主義を発展させるために堅持・貫徹しなければならない重大戦略思想であることを強調した。
②条文において、党員が科学的発展観を真剣に学習し、幹部が科学的発展観を導き貫徹することを要求した。
③社会主義の調和のとれた社会の構築、創造・革新型国家の建設、社会主義新農村の建設、平和が持続し、共に繁栄する調和のとれた世界の建設推進に努める等を追加した。
(2)社会主義の調和のとれた社会構築の追加
①総綱において、社会主義経済建設、政治建設、文化建設、社会建設を段落を分けて詳述した。
②社会主義の調和のとれた社会の構築という重大戦略任務を提起したことに伴い、党の基本路線における奮闘目標を、「わが国を富強・民主的・文明的で調和のとれた社会主義現代国家として建設する」ことに改めた。
(3)党内民主の推進
次の規定が盛り込まれた。
①党の各レベルの組織は、規定に基づき党務の公開を実行しなければならない。
②党の各クラスの代表大会代表の任期制を実行する。
新華社2007年10月28日は、「これは、16回党大会及び16期4中全会が、党代表大会閉会期間において代表の役割を発揮させることを明確に要求したことを考慮したものである。将来この規定に基づいて具体的な実施意見を制定し、党の各レベル代表大会の閉会期間における代表の職責・権利を明確にし、党代表大会の役割を十分に発揮させる」としている[4]。
③党中央及び省・自治区・直轄市委員会において巡視制度を実行する。
上記新華社記事は、「これは党内監督の強化と反腐敗・廉潔提唱の促進に資するものである」としている。
④中央政治局は、中央委員会全体会議に活動報告を行い監督を受け、地方の各レベル委員会の常務委員会は定期的に委員会全体会議に活動報告を行い監督を受ける。
⑤党の末端委員会、総支部委員会、支部委員会の委員候補は、党員・大衆の意見を広範に徴求しなければならない。
⑥党の末端組織は、党員に対しサービスを行い、流動党員の管理を強化・改善する。
(4)党員の義務
次の義務が盛り込まれた。
①党員は、科学的発展観を学習し、法律知識を学習し、社会主義の栄辱観の内容を率先して実践しなければならない。
②党の幹部は、科学的発展観を率先して貫徹し、正確な政治業績観を樹立し、道徳・修養を強化し、実践・人民・歴史の検証に耐えうる実績を挙げなければならない。
(5)その他
17回党大会の秘書処の責任者は、新華社に対しより詳細な改正点の説明を行っている(新華社2007年10月25日)。ここでは、上記の新華社記事から抜け落ちているもののうち、重要なものを紹介しておく。
①改革開放以来、我々が得た一切の成績と進歩の根本原因は、中国の特色ある社会主義の道を切り開き、中国の特色ある社会主義理論体系を形成したことに帰結する旨を追加した。
②人の全面的な発展を促進し、労働を尊重し、知識を尊重し、人材を尊重し、創造を尊重して、人民のための、人民に依拠した、成果を人民が享受できるような発展を行う旨を追加した。
③「1つの中心、2つの基本点」[5]の部分に、人材強国戦略、国民経済の良好で速い発展の促進、対外開放という基本的国策の堅持、改革の政策決定の科学性の向上、改革措置の協調性の増強を追加した。
④統一戦線の構成において、社会主義事業の建設者を盛り込んだ。
⑤平和発展の道を堅持すること、Win-Winの開放戦略を堅持すること、国内と国際という2つの大局を統一的に企画することが追加された。
⑥党の執政能力の建設と先進性の建設の強化、公のために立党し民のために執政することの堅持、マルクス主義の中国化の推進、腐敗を予防し懲罰するシステムの確立・健全化、科学的な執政・民主的な執政・法に基づく執政を堅持すること等が盛り込まれた。
3.留意点
党規約の改正は、胡錦涛総書記の報告と基本的にリンクしたものであるが、以下の点を指摘しておきたい。
(1)各論に胡錦涛色を反映
新しい党規約を見ると、冒頭に「3つの代表」の内容が掲げられ、「党の最高理想と最終目標は共産主義の実現である」とし、「中国共産党はマルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、『3つの代表』重要思想を自己の行動指南とする」とすることには変化はない。
ところが、指導思想の各論を見ると、「3つの代表」の次に科学的発展観の段落が挿入され、これが「重大戦略思想」であるとされている。また、「1つの中心・2つの基本点」の各論においては、経済・政治・文化・社会が段落を分けて詳述され、経済の部分では、胡錦涛総書記の強調する科学的発展観の中心部分である「5つの統一的企画」[6]、経済発展方式の転換、社会主義新農村の建設、中国の特色ある新たなタイプの工業化の道、創造・革新型国家の建設、資源節約型で環境にやさしい社会の建設が網羅されている。また、新設された社会に関する部分は、冒頭から「中国共産党は人民を指導し、社会主義の調和のとれた社会を構築する」とし、胡錦涛総書記が科学的発展観と並んで提起した重大戦略思想である「社会主義の調和のとれた社会」が盛り込まれているのである。
また、このほかにも各論には「平和発展の道」「調和のとれた世界」「党の執政能力建設と先進性建設の強化」「立党は公のため、執政は民のため」「マルクス主義の中国化の推進」「科学的な執政、民主的な執政、法に基づく執政」「社会主義の栄辱観」「正確な政治業績観の樹立」といった胡錦涛総書記の主張がちりばめられている。
このように、今回の改正は総綱の党の行動指南に科学的発展観を無理に押し込もうとはせず、党の基本路線を具体的に解説した部分に胡錦涛総書記の言葉を最大限盛り込むことにより、実質的に大幅な修正を図っているのである。
(2)法治の重視
党員は科学的発展観とともに、法律知識を学習しなければならないとする。胡錦涛指導部は発足以来、一貫して法治国家の建設を重要課題として掲げており、これが党規約にも反映されているのである。
(3)党内民主の重視
党幹部の定期的な委員会全体会議への活動報告、党務の公開、末端選挙における党員・大衆の広範な意見の徴求、代表大会代表の権限強化など党内の民主改革に取り組む姿勢が見られる。他方、流動党員管理の強化・改善の規定が盛り込まれたように、末端組織の弱体化が重大な問題となっていることも分かる。
(4)団結の強調
改革開放政策に対する新左派・保守派からの攻撃に備え、引き続き「主として『左』を防止する」とともに、新たに「組織上から党の基本理論・基本路線・基本綱領・基本経験の貫徹実施を保証する」ことの必要性、「全党の団結統一と行動の一致の保証」が強調されている。また、改革開放の受益者である「社会主義事業の建設者」(新興私営企業家等を指す)を最も広範な愛国統一戦線に組み込むこととされた。
また地方の面従腹背に対しては、科学的発展観の学習の徹底と「正確な政治業績観の樹立」を要求している。
(5)呉邦国の役割
今回の党規約改正小組の組長には呉邦国が就任している。前年の党6中全会で社会主義の調和のとれた社会が議論された際も、起草小組の組長は呉邦国であり、胡錦涛総書記の提起した新戦略思想を党内で議論するに際して、呉邦国が意見の集約に大きな役割を果たしていることが分かる。呉邦国はしばしば江沢民派と見られがちであるが、ここ2年間彼の果たした役割からすると、むしろ胡錦涛総書記を支える方向に立場を移しているのではないかと考えられる。
Ⅳ.指導部人事
1.分かれる見解
今回の指導部人事をめぐっては、報道は胡錦涛総書記派の勝利と見る見解と、江沢民・曾慶紅派の勝利と見る見解に大きく分かれている。それぞれの論拠を整理すると、以下のようになろう。
(1)胡錦涛派勝利説の論拠
①最大の政治ライバルである曾慶紅を引退に追い込んだ。
②後継者として期待されている李克強を中央委員からいきなり政治局常務委員に引き上げることに成功した。
③腹心の李源潮を政治局入りさせ、かつ党組織部長に就けることに成功した。
④胡錦涛の政治母体である共青団出身の李克強、李源潮、劉延東、汪洋が政治局委員に就任し[7]、中央委員にも令計画、胡春華をはじめ共青団出身者が多数就任した。
(2)江沢民・曾慶紅派勝利説の論拠
①江沢民色の強い賈慶林と李長春[8]を引退させることに失敗した。
②曾慶紅に近い習近平が中央委員会から一気に政治局常務委員に昇任し、しかも序列が李克強の上位となり(習は第6位、李は第7位)、書記処書記として党務全般を掌握したことにより、習近平の方が次期総書記の座に近くなった。
③中央紀律検査委員会書記に曾慶紅に近い賀国強が就任し、同じく公安・司法・検察等担当のトップに曾慶紅に近い周永康が就任した。
④習近平の後任上海書記に自派系統を送り込めず、太子党の兪正声が就任した。
2.留意点
筆者は政治の専門ではないので、最小限のコメントをしておきたい。
(1)派閥による分類は段々困難になっている
今回太子党から抜擢された人物として、習近平・王岐山・劉延東・兪正声・薄煕来の名が挙がっている。しかし、王岐山は朱鎔基側近の金融テクノクラートとして頭角を現した人物であり、太子党というだけで推し測ることはできない。また劉延東もどちらかといえば、共青団派の色彩が強い。他方で、過去に共青団に在籍したことがあるからといって、全てを共青団派とし劉雲山まで胡錦涛系のように整理してしまうことにも無理がある。
また、江沢民派・上海閥という分類も難しくなっている。例えば呉邦国は上海閥ではあるかもしれないが、ここ2年の動きを見る限り必ずしも江沢民派とはいえない[9]。また、一般に江沢民派に分類される人物でも賈慶林と李長春を除けば、むしろ曾慶紅に近い者が多い。江沢民と曾慶紅の関係については連携説[10]と離反説[11]があり、必ずしもはっきりしないが、いずれにせよ江沢民が高齢化する一方で、曾慶紅は引退後も一定の政治力を保つものと予想されるため、非胡錦涛勢力は自然と曾慶紅のもとへ集まることになろう。
(2)地方指導者の交代は人事考課で
ここしばらく中央紀律検査委員会の書記には総書記に忠実な人物が選ばれてきた。それゆえ、江沢民・胡錦涛は腐敗を理由に、中央に反対する地方実力者を解任することができたのである[12]。
しかし、今回中央紀律検査委員会書記と公安・司法・検察担当トップに曾慶紅に近い人物が就任したことにより、胡錦涛新指導部は曾慶紅の同意なしに、腐敗を理由に反対派を解任することが難しくなったのではないかと思われる。逆に言えば、曾慶紅は脛に傷をもつ指導者の生殺与奪の権を握ったともいえるだろう[13]。ただ、胡錦涛系の李源潮が党組織部長に就任したことにより、今後胡錦涛指導部は通常の人事異動・人事考課を通じて気長に体制固めを行っていくことになろう。
このように人事面で胡錦涛指導部の強いリーダーシップが確立しなかったことは、地方の中央に対する模様眺めの状況を助長する可能性もあり、中央の進める経済引締め・所得再分配の強化・省エネ・省資源・環境保護の政策が十分に貫徹されないおそれもある。
(3)次期指導部への布石
今回の曾慶紅の引退で、68歳定年制はほぼ確立したものと考えられる。5年後の政治局常務委員人事で留任可能なのは、習近平と李克強のみと予想され、政治局委員も江沢民・曾慶紅に近い委員が大幅に引退に追い込まれることになる。他方今回の人事で共青団出身者が中央委員に多く就任しており、5年後の政治局・政治局常務委員会人事において、胡錦涛系はようやく多数を送り込むことが可能になるものと思われる。
(4)経済政策の担い手
今回の新たに政治局入りした人物の中で、中央で経済政策を担当した経験のある人物は王岐山(人民銀行副行長・建設銀行行長を歴任)、汪洋(国家発展計画委員会副主任・国務院副秘書長を歴任)、兪正声(建設部副部長・部長を歴任)、薄煕来(商務部長)であり、兪が上海市書記に、薄が重慶市書記に、汪が広東省書記にそれぞれ就任したことから、経済政策の担い手は王岐山が実質的に中心となろう。
(5)次期総理の担い手
今回の政治局常務委員の序列からすると、来年3月の全人代で筆頭副総理に選任されるのは、李克強である可能性が高いとされている。
注意しなければならないのは、仮に来年3月に温家宝が総理に再任されたとしても、5年の任期を全うできるかどうかは予断を許さないことである。2010年には第12次5ヵ年計画の策定作業が大詰めを迎えることになり、秋の党中央委員会全体会議では、第11次5ヵ年計画の達成状況を報告しなければならない。この段階で、温家宝総理が政治生命をかけているGDP単位当たり20%の省エネと主要汚染物質排出量の10%削減が絶望的になっていれば、政治責任の追及は免れないであろう。任期途中の総理交代もあり得、来年3月の国務院人事には十分注意する必要がある。(2007年12月記・6,492字)
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