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2008年中央経済工作会議のポイント  

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2008年12月15日

記事概要

12月8-10日に、2009年の経済政策の基本方針を決める中央経済工作会議が、国務院・党中央共同で開催された。この会議は通常12月第1週に開催されるが、今回は大幅に日程が遅れており、これは11月の経済指標を確認する必要があったためと思われる。本稿では、このポイントと特徴及び続く全国発展・改革工作会議の概要について解説する。

はじめに

 12810日に、2009年の経済政策の基本方針を決める中央経済工作会議が、国務院・党中央共同で開催された。この会議は通常12月第1週に開催されるが、今回は大幅に日程が遅れており、これは11月の経済指標を確認する必要があったためと思われる。本稿では、このポイントと特徴及び続く全国発展・改革工作会議の概要について解説する。

 

1.2008年の回顧

(1)2008年は、党・国家の発展プロセスにおいて、尋常・平凡ならざる1年であった

 今年下半期に入り、国際経済環境は急転直下となり、国内経済の困難は明らかに増加した。情勢の発展・変化に基づき、我々はタイムリーにマクロ・コントロールの主要任務を経済の平穏で比較的速い発展、物価の速すぎる上昇の抑制に調整した。最近は、積極的財政政策と適度に緩和した金融政策を果断に実施し、内需を更に拡大し、経済成長を促進する一連の政策措置を採用し、経済の平穏で比較的速い発展を全力で維持した。

(2)今年以来、世界経済・金融情勢は複雑で変化に富んでおり、不安定・不確定要因が明らかに増えていることを見てとらなければならない

 サブプライムローン危機が引き起こした金融危機はますます激烈となり、急速に局部から世界に発展し、先進国から新興市場国家・発展途上国に波及し、金融分野から実体経済分野へと拡散し、歴史的に稀に見る、衝撃力の極めて強い、波及範囲が広範な国際金融危機が醸成された。国際金融危機の衝撃の下、実体経済の伸びは大幅に下降している。現在、この金融危機自体の底が見えないだけでなく、実体経済への影響は更に深まっており、その深刻な結果が更に顕在化している。

 国際金融危機の急速な蔓延と世界経済の成長が明らかに減速している影響を受け、更にわが国経済生活中の未だ解決されていない深層の矛盾・問題が加わり、現在わが国経済運営における困難が増加している。経済の下振れ圧力は増大し、企業の経営困難は増加し、農業の安定的発展・農民の持続的増収の維持は難度が増大し、金融分野の潜在リスクは増加している。

(3)わが国経済の発展は内外の深刻な困難・峻厳な試練に直面しているものの、わが国経済発展の基本面と長期的趨勢は変化しておらず、我々が遭遇している困難・試練は前進中の問題である

①改革開放30年の持続的高成長を経て、我々は物質的基礎を厚く蓄積し、経済実力・総合国力・リスク防御能力は顕著に増強された。

②わが国の工業化・都市化は急速に発展しており、インフラ建設・産業発展・個人消費・生態環境保護等の方面で巨大な発展の余地があり、内需拡大の潜在力は巨大である。

③社会主義市場経済体制は不断に整備され、かなり良好な体制環境が形成されている。

④金融システムは総体的に安定しており、財政赤字の規模はかなり小さく、外貨準備は充足しており、国内貯蓄率はかなり高いので、マクロ経済政策はかなり大きな調整の余地がある。

 我々が情勢の変化をよく見極め、科学的に政策決定を行い、周到に手配し、施策を実施し、自身の優位性を十分に発揮し、際立った問題を早急に解決しさえすれば、圧力を動力に変え、試練をチャンスに変え、国際金融危機の不利な影響を最低限に抑え、引き続き経済社会の良好で速い発展を推進し、小康社会を全面的に建設するプロセスを引き続き推進する条件は完全に存在する。

(4)経済のグローバル化に対して中央が行った判断は完全に正確であり、わが国発展の重要な戦略的チャンスの時期は依然存在し、今回の危機により逆転が発生することはあり得ない

 今回の金融危機はわが国に未曾有の試練をもたらしたが、未曾有のチャンスをももたらしている。我々は困難を十分に推し量り、対応措置を周到に考慮するとともに、変化する情勢から把握の難しい発展のチャンスを捉え、逆境の中で有利な要因を発見・育成しなければならない。

 

2.2009年の経済政策

2.1 意義

 国際金融危機の深刻な衝撃に戦勝し、来年の経済政策をしっかり行うことは、改革・発展・安定の大局を維持し、第115ヵ年計画で確定した目標任務を実現し、小康社会を全面的に建設するプロセスを推進するうえで、十分重要な意義を要する。

 

2.2 総体的要求

 科学的発展観を深く貫徹実施し、内需拡大に立脚し経済の平穏で比較的速い成長を維持し、発展方式の転換と構造調整を加速して持続可能な発展能力を高め、改革開放を深化し経済社会の発展の活力・動力を増強し、社会建設を強化し大衆の利益に関わる難点・ホットスポットの問題を早急に解決し、経済社会の良好で速い発展を促進しなければならない。

この総体的要求を貫徹実施するには、カギとなるものをしっかり掴み、重点を際立たせなければならない。経済の平穏で比較的速い発展の維持を、来年の政策の主要任務としなければならない。成長の維持に努力し、①内需拡大を成長維持の根本ルートとし、②発展方式の転換と構造調整を成長維持の主たる攻め口とし、③重点分野とカギとなる部分の改革を深化させ、対外開放水準を高めることを成長維持の巨大な動力とし、④民生改善を成長維持の出発点・足がかりとしなければならない。

 

2.3 科学的発展観の深い貫徹実施

科学的発展観の第1の重要意義は発展である。経済の発展がかなり大きな困難に直面したときほど、我々はますます「発展は絶対の道理」という戦略思想を断固として貫徹しなければならない。

我々が追求する発展は質と効率を追求する発展であり、人間本位の全面的に調和のとれた持続可能な発展でなければならない。成長維持の目標を実現する努力において、更に自覚的に科学的発展観を深く貫徹実施しなければならず、とりわけ以下の重大問題をしっかり把握しなければならない。

①内需拡大と外需安定を結びつけることを堅持し、外部の経済リスクを防御する能力を更に増強しなければならない。

②成長速度の維持と質・効率の向上を統一し、経済発展の質・水準を更に高めなければならない。

③構造のグレードアップと就業・創業の支援を協調させ、経済競争の優位性と雇用吸収能力を更に増強しなければならない。

④金融の革新と金融監督管理能力の向上を適応させ、経済発展の促進に対する金融の積極的役割を更に発揮させなければならない。

⑤政府のコントロール強化と市場メカニズムの作用の発揮を共に促進し、経済発展の内在活力を更に増強しなければならない。

 

2.4 重点任務

  2.4.1 マクロ・コントロールを強化・改善し、積極的財政政策と適度に緩和した金融政策を実施する

(1)財政政策

 かなり大幅に公共支出を増加し、重点分野と重点支出を保障する。災害復興を支援し、構造的減税を実行し、支出構造を改善する。引き続き、「三農」、就業、社会保障、教育、医療、省エネ・汚染物質排出削減、自主的なイノベーション、先進装置製造業、サービス業、中小企業、重大改革等の方面への支援を強化する。

 積極的財政政策の実施に際しては、政策の誘導方向を正確に把握することに注意しなければならない。産業構造のグレードアップと優勝劣敗の要求に基づき、発展のボトルネックの緩和・除去に重点を置き、落伍した生産能力を適切に淘汰し製品の世代更新を加速し、自主的なイノベーション能力と産業競争力を増強しなければならない。

 プロジェクト建設に際しては、プロジェクトの審査・許可と建設プロセスに基づき厳格に行い、エネルギー多消費・高汚染・低水準の重複建設を断固として防止しなければならない。決してプロジェクトの質を下げてはならず、人民をわずらわせ財産を損なう「イメージ作りのプロジェクト」や現実から乖離した「政治業績プロジェクト」を行ってはならない。

 公共投資の経済効率・社会効率・波及効果を高め、民間投資の領域・ルートを開拓し、経済成長を牽引する社会の協力を増強しなければならない。

(2)金融政策

 金融政策の景気サイクルに対する逆向きの調節と流動性供給作用を発揮し、貸出総量の合理的な伸びを促進する。区別して対応し、維持するものと抑制するものを区別することを堅持し、市場の期待を誘導・改善しなければならない。

 最終消費需要を拡大し中間需要を牽引するプロジェクトを支援し、国際分業において長期的な競争の優位性を備える先進的な生産能力の建設を支援しなければならない。内部ガバナンス構造が整備され、就業容量が大きい労働集約型企業を支援し、構造調整を有効に誘導しなければならない。

(3)為替レート政策

 人民元レートが合理的な均衡水準上で基本的に安定することを維持し、国際収支状況を更に改善する。

(4)資本市場・不動産市場

 資本市場・不動産市場の安定した健全な発展を維持しなければならない。

 資本市場の基礎的制度の建設を強化し、上場会社の質とガバナンス水準を高め、資本市場の監督管理を強化し、投資家の信頼を増強する。

 庶民の合理的な居住条件の改善願望を満足させることと、不動産業が支柱産業としての役割を発揮することとを結びつけ、社会保障的な住宅供給を増加させ、庶民が合理的に購入し自らが住む普通分譲住宅の負担を軽減し、内需拡大における不動産の積極的作用を発揮させなければならない。

 

  2.4.2 農業・農村経済の良好な情勢を強固に発展させ、農産品の有効な供給を保障し、農民の持続的な増収を保障する

 農業・農村・農民への施策を更に重視し、あらゆる手段を尽くして農業とりわけ穀物の問題のない安全を確保しなければならない。農民の収入を高め、農業の基礎を打ち固めることを内需拡大の重要内容としなければならない。

①穀物生産と主要農産品の供給を高度に重視する

 穀物生産と主要農産品の供給を高度に重視し、あらゆる手段を講じて農民の作付け、地方政府の穀物把握の積極性を引き出す。タイムリーにコントロール・誘導措置をとり、穀物その他主要農産品の生産の安定・市場の安定を確保する。

②「三農」への投入を大幅に増加する

 各レベルの財政の農業に対する投入の伸び幅が経常性収入の伸び幅を上回ることを保証し、国家の農業インフラ建設・社会事業発展に対する投入を大幅に増加する。中西部地域の農村の公益的建設プロジェクトへの投入を大幅に引き上げる。

③農村が現に持つ土地の請負関係は安定かつ長期不変を維持する

法に基づき自ら進んで有償で譲渡した土地請負権については、その過程で土地の集団所有の性格を変えてはならず、土地の用途を変更してはならず、農民の土地請負の権益に損害を与えてはならない。

④出稼ぎ農民の就業と農民の増収促進について、新たな状況の出現を高度に重視し、最大限度農村労働力の就業ルートと農村内部での増収の余地を開拓しなければならない

 

  2.4.3 発展方式の転換を加速し、経済構造の戦略的調整を推進する

 我々は成長の維持という荷の重い任務に直面しているが、発展方式の転換加速と経済構造の戦略的調整という大方向を動揺させてはならない。成長維持、内需拡大、構造調整を有機的に結びつけることを堅持しなければならない。

 発展の協調性と持続可能性の増強、自主的なイノベーション能力の向上を目標とし、最終消費需要の拡大を通じて中間需要を牽引し、国内生産能力を有効に吸収・消化し、発展の新たな優位性を形成しなければならない。

①個人所得水準の引上げと最終消費需要の拡大を重点とし、国民所得分配構造を調整する

 個人所得の国民所得における比重を高め、引き続き企業退職者の年金をしっかり調整し、個人の財産収入を高め、農民の消費を大いに促進し、住宅消費・自動車消費を安定的に発展させ、サービス消費・観光消費の発展に力を入れ、最終消費能力を普段に増強する。

②自主的なイノベーション能力の向上と第1次・第2次・第3次産業の協調性の増強を重点とし、産業構造を最適化する

 産業の転換・グレードアップを制約する重要なカギとなる技術のブレークスルーに力を入れ、戦略的産業を入念に育成し、企業の合併再編を加速し、重点企業の技術改造を支援する。生産的サービス業と生活的サービス業を早急に発展させ、鉄道・水利等のインフラ建設を強化する。省エネ・節水・土地節約・材料節約・資源の総合利用活動を全面的に強化し、省エネ・汚染物質排出削減・生態環境保護の重点プロジェクト建設を際立たせてしっかり行わなければならない。

③都市化と都市・農村経済社会の発展の一体化を重点とし、都市・農村構造を改善する

 大中小都市と町の協調的な発展を促進し、総合的な受容能力が強く放射作用が大きいメガロポリスを重点的に育成し、これを内需牽引の重要な成長の基地とする。

④地域の発展格差の縮小と生産力の配置の最適化を重点とし、地域構造を調整する

 引き続き、西部大開発・東北地方等の旧工業基地の振興・中部地域の興隆・東部地域の率先発展という地域発展の総合戦略を実施し、地域間の生産要素の合理的な流動と傾斜移転を促進する。主体的機能区の国家計画を実施し、分類してコントロールする地域政策を手配し打ち出す。

 

  2.4.4 改革開放を深化し、科学的発展に有利な体制メカニズムを整備する

 社会主義市場経済への改革方向を堅持し、時機を掴んで成長維持・内需拡大・構造調整に資する改革措置を世に問うことは、市場のコンフィデンスを奮い立たせる最も良い方法である。

(1)改革

①価格体制改革を深化させなければならない

 市場の需給関係・資源の希少性の程度・環境損害のコストを十分反映させることのできる資源要素価格の形成メカニズムを早急に確立する。

②公共財政管理体制改革を推進する

 予算制度改革を深化させ、中央政府・地方政府の財政力と事務権限が相対応する体制に健全化する。

③金融体制改革を加速する

 金融政策・金融の発展と金融監督管理が相協調した健全なメカニズムを確立し、金融構造・サービスを改善し、金融の監督管理とイノベーションを強化する。

④投資体制改革を推進する

 政府の投資管理体制を健全化する。

⑤国有企業改革を深化させる

 引き続き国有経済の配置調整を推進し、現代的な企業制度への健全化を加速し、独占業種の分類改革を推進する。いささかも動揺することなく非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導する。

(2)開放

 対外開放を拡大し、対外経済の発展方式を転換し、質によって勝利を勝ち取る効率化・多元化した発展ルートを歩まなければならない。輸出の安定的伸びの維持に努力し、先進技術、カギとなる設備、重要なエネルギー・原材料の輸入を増加させ、外資利用の質を高めなければならない。更に、積極かつ穏当に「海外進出」戦略を実施し、対外開放において我が国経済の国際競争力・リスク抵抗能力を不断に高めなければならない。

 

  2.4.5 大衆の利益にかかわる難点・ホットスポットの問題解決に力を入れ、社会の安定を適切に維持する

(1)更に積極的な就業政策を実施しなければならない

 就業の伸びを全方位的に促進し、就業情勢の基本的安定を確保する。

(2)都市・農村の社会保障体系を早急に整備する

①都市従業者の基本年金保険、基本医療保険、都市住民基本医療保険のカバー率を拡大し、全国統一の社会保険関係への転換・引継ぎの方法を研究し世に問う。

②農村社会における年金保険のテストを積極的に展開し、出稼ぎ農民年金保険弁法を制定する。

③農村の貧困家庭、都市の生活困難家庭、離退職した従業者、貧困大学生の基本生活が下降しないよう適切に保障する。

(3)各レベル・各種の教育・訓練を強化する

 職業教育とりわけ農村の中等職業教育を大いに発展させ、素質教育を全面的に推進する。

(4)医薬・衛生体制改革を積極的に推進する

 人民大衆に安全・有効・簡便・廉価な医療・衛生サービスを提供する。

(5)食品・薬品の質の安全及び生産の安全を高度に重視し、かつ適切にしっかり把握す

 る

 各種の法規に違反した生産経営行為を厳重に取り締まり、重大・特大安全事故を断固として抑制する。

(6)社会主義精神文明の建設を深く展開する

 経済社会の発展に思想の保証、世論の支持、文化的条件を提供する。

(7)社会の管理を強化・整備する

 応急管理体制メカニズムを健全化し、大衆の反応が強烈な際立った問題の解決に力を注ぎ、社会の安定を全力で維持する。

 

  2.4.6 2009年の経済政策の留意点

(1)柔軟かつ慎重なマクロ経済政策を引き続き実施しなければならない

 核心は、マクロ・コントロールの変化適応能力と実際の効果を高めることである。コントロールの予見性・対応性を適切に増強し、コントロールの科学性・実効性を高めるよう努力しなければならない。

 施策の具体的手配に際しては、積極的に内需を拡大し、農業の基礎的地位を更に強固・強化し、経済構造の戦略的調整を加速し、改革開放を断固として推進し、就業・社会保障政策に力を入れしっかり行い、製品の質と安全生産水準を全面的に引き上げ、社会事業の発展を加速しなければならない。

(2)経済政策に対する党の指導を更に強化しなければならない

 思想を統一し、協調して行動し、学習を強化し、技量を伸ばし、作風を転換し、意を決してしっかり実行しなければならない。

①思想・行動を科学的発展観の要求に統一し、内外経済情勢に対する中央の分析・判断に統一し、中央の政策決定・手配に統一し、思想・認識を高度に一致させることによって、行動と施策の高度な協調を保証しなければならない。

②科学的発展観を深く学習・実践する活動の展開と、経済の平穏で比較的速い発展の維持とを緊密に結びつけなければならない。

発展規律の把握・発展理念の革新・発展方式の転換・発展の難題の解明に力を入れ、科学的発展に影響を与え制約する思想観念・体制メカニズムの転換に力を入れ、経済社会の発展における際立った矛盾・問題の解決に力を入れなければならない。

③現実に深く入り、末端に深く入り、大衆に深く分け入り、調査・研究を展開しなければならない。

 民衆に政治・必要・計画を問いかけ、提起された発展の考え方・施策の手配・政策措置を現実に更に適合させなければならない。

④党風・廉潔政治の建設を強化しなければならない。

 紀律を厳格に執行し、督促・検査を強化し、内需の一層の拡大と経済成長の促進に関する中央の政策措置が割り引かれることなく実行に移されることを確保し、党・国家の重大な政策方針が全面的に貫徹されることを確保しなければならない。

(3)我々は、胡錦涛同志を総書記とする党中央の周囲に更に緊密に団結し、中国の特色ある社会主義の旗印を高く掲げ、万民が心を一つにし、精神を奮い立たせ、鋭意進取の気性を発揮し、施策を着実に実施し、来年の経済政策を全面的にしっかり行い、ずば抜けた成績により新中国成立60周年を迎えなければならない。

 

 2.5 今回の中央経済工作会議の特徴

(1)2008年回顧の部分にウエイトが大きく割かれている

 経済の現状認識について、見解が分かれているためであろう。

今回の経済後退の理由として、自然災害や国際金融・経済危機のせいだけにせず、「わが国経済生活中の未だ解決されていない深層の矛盾・問題」も指摘されている。これは、危機を理由に改革を一時棚上げにしようとする勢力への牽制であろう。

また、経済のグローバル化に対する中央の判断が正確であり、現在の流れは不可逆的なものであることが強調されている。これは、今回の米国発国際金融・経済危機の発生により、米国主導型のグローバル化及びこれに対応した開放政策のあり方に批判が出ているためと考えられる。

このように今回の国際金融・経済危機及びこれに伴う中国経済の減速は、改革開放政策の基盤を脅かしており、改革開放30周年を迎えるなかで政策の後退を世界に印象付けることは何としても避ける必要がある。最後の部分で地方・各部門に対し、内外経済情勢に対する中央の分析・判断に思想・認識を高度に一致させるよう要求しているのも、いくら強調しても止まない地方の面従腹背に対する中央の危機感の現れであろう。

(2)科学的発展観の強調

 「発展は絶対の道理」という鄧小平の言葉を引用しつつも、同時に質と効率を重視し、科学的発展観の深い貫徹実施を強調している。

夏の時点では、内需拡大の中心は消費であったが、1017日の国務院常務会議において「投資の強化」が打ち出されて以降、経済対策の中心は一気に投資に傾斜した。115日の国務院常務会議では「投資の拡大」が中心となり、2010年末までに4兆元の投資を喚起することとなった。これを受け、地方政府は次々に大型の投資計画を発表しており、その総額は30兆元に迫っている。これは伝統的な地方主導による投資過熱を招きかねない状況であり、もしこれを有効にコントロールできないならば、大量の重複投資・非効率な投資が発生する可能性がある。これは、短期的には経済を押し上げても、長期的にはエネルギー・資源の浪費、環境破壊、生産能力過剰をもたらし、中国経済の成長の持続的可能性を徹底的に損なう可能性がある。

このため、会議では投資の拡大というこれまでの言い方が大きくトーンダウンし、科学的発展観が強調され、「発展方式の転換」「経済構造の戦略的調整」さらには「最終消費需要の拡大」が重視されているのである。

(3)汪洋の役割

 (2)との関係で、最近存在感を強めているのが広東省書記の汪洋である。彼は、111213日に湛江市を視察した際、「各種各様の議論に動揺してはならない。今年に入り広東では5万社余りの企業が倒産したという者がいる。数値の真偽は別として、現在倒産しているのがどのような企業か、皆真剣に分析しなければならない。著名な大企業は倒産などしていない。私の判断では、これらの企業は総体として皆落伍した生産能力である。落伍した生産能力が市場の周期的な波動で淘汰されるのは、市場経済の規律が作用しているのである」と発言した(新華網20081114日)[1]

 この直後、111415日に温家宝総理は2回目の広東省視察を行った。この視察において温家宝総理は、「中小企業はわが国経済社会の発展において、重要な決定力を持っている。現在の経済情勢の下、中小企業の健全な発展を支援することは、経済成長を促進し、財政収入を増加させ、都市・農村就業を拡大し、社会の安定を維持することにとって、十分重要な意義を有する。各レベルの政府は、皆中小企業への指導・協調を強化し、タイムリーに関連政策を調整・整備し、中小企業の発展において際立った問題の解決に努力し、中小企業の良好で速い発展を促進しなければならない」と強調した(新華網広州電20081115日)。香港の「争鳴」200812月号によれば、ここで温総理と汪書記の間で中小企業の淘汰をめぐり激しい確執があったとされている。また、ネット上でも彼の発言は物議をかもした(中国経済週間20081215日)。

 しかし、汪洋は2008128日の人民日報に「伝統的発展モデルの『危険』と科学的発展モデルの『チャンス』」という論文を寄稿し再び持論を展開した。ここでは、「広東が金融危機に対し投入している11銭は、皆科学的発展に立脚しなければならず、断固として伝統的発展の旧い道に戻してはならない。『経済の平穏で比較的速い成長』と『自主的なイノベーション能力の向上、伝統的産業の転換・グレードアップ、現代的な産業システムの建設促進』を決して対立させてはならない。このような発想は、速度を維持するために、既に淘汰された落伍した生産能力を再び支援し稼動させるものであり、目先の急場をしのぐあまり将来の大禍を考えないものである」「産業構造調整プロセスにおいて、政府は社会保障機能を発揮し、一時帰休・失業者を妥当に安置しなければならないが、決して盲目的に落伍した生産能力を救ってはならない」としている。この文章は人民日報海外版にも要約が転載されている。

 そして、今回の会議を見ると、科学的発展観が強調されるとともに「落伍した生産能力を適切に淘汰し、製品の世代更新を加速する」「発展方式の転換加速と経済構造の戦略的調整という大方向を動揺させてはならない」という記述が盛り込まれており、むしろ汪洋の主張に近い。

 もともと汪洋は共青団系とされており、胡錦涛総書記に近い立場とされている。その人物が温家宝総理と対立しているという香港報道はやや違和感がある[2]。広東省は今回の景気後退で最も被害を受けている省の1つであり、その最高指導者が安易な投資拡大・企業救済を求めず、科学的発展観・発展方式の転換・経済構造調整を強調することは、胡錦涛指導部にとってプラスのはずである。むしろ中央経済工作会議に向けて、汪洋は胡錦涛の切込み隊長的な役割を担わされていたようにも思える。今後の彼の動向には注意を要しよう[3]

(4)マクロ・コントロールに関する新しい表現

 人民日報20081215日は、次の3点が新しい表現であると指摘している。

①構造的減税

社会科学院財貿研究所の高培勇副所長によれば、「従来の増税と減税の組合せにより課税ベース・税収総量を変更しない減税とは異なり、減税そのものに着眼し税負担の総体水準を引下げるもの」とされる。

②(景気)サイクルに対する(金融政策の)逆調節

社会科学院金融研究所貨幣理論・金融政策室の彭興韵主任は、「経済成長が速過ぎ、特に潜在成長率より高く、インフレ圧力が大きくなったときには引き締め気味の金融政策を実行し、逆に経済成長が下降し、あるいは後退のリスクがあるとき、金融政策は利下げやマネー・貸出を増やし、投資・消費を刺激しなければならないことを意味する」と解説している。

③最終需要を拡大し、中間需要を牽引する

人民大学経済学院の楊志教授は、「中長期的に見ると、最終消費需要の支えがない場合には、投資需要は無効の投資、即ちバブルとなり、このような投資は国民経済が快速で調和のとれた健全な発展を持続することを保証できない。投資の速い伸びがもたらすのは中間需要であり、最終消費需要を拡大してこそ有効に投資需要を牽引できるのである」と解説している。

 

3.全国発展・改革工作会議のポイント

 121314日に開催された。例年この会議は中央経済工作会議の直後に開催され、同会議を補完するものである。

(1)国際金融危機のわが国経済減速への影響(人民日報20081213日)

①投資の伸びが下降し、投資の持続力が不足している

 19月期の全社会固定資産投資は、名目では前年同期比27%の伸びだが、実質では15.1%である。市場の見通しがはっきりせず、融資難と収益下降の状況下で、企業の投資意欲・能力は低下している。

②工業生産の伸びが鈍化し、エネルギー・原材料・輸送需要が下降している

 110月期の全社会電力使用量は前年同期比8.3%で、前年同期より伸びが9.7ポイント反落した。鉄鋼・セメント・電解アルミ等の商品市場価格も大幅に下降している。

③不動産・自動車市場が低迷し、消費のスポットが冷めてきている

④一部の企業の経営が困難となり、財政収入の情勢が峻厳となっている

(2)2008年の政策(人民日報20081213日)

①内需拡大に立脚し、経済の平穏で比較的速い伸びを促進する

 構造改善の前提の下、投資規模を拡大し[4]、消費とりわけ個人消費の拡大に力を入れ、経済運営の調節をしっかり行う。

②農業の基礎的地位を強固・強化する

③経済構造の戦略的調整と企業の転換・グレードアップの推進に力を入れる

④重点分野・カギとなる部分の改革でブレークスルーの実現に努力する

具体的には次の点に力を入れ、経済の健全な発展に制約を加える体制的障害の解決に努力する(新華網20081212日)。

 価格:資源性製品価格・環境保護費用徴収、とりわけ製品油価格の税費用及び価格形成メカニズムの改革

投資体制:企業の投資プロジェクトの審査許可の縮小、権限の下放

独占業種:電力業・電信・民間航空・郵政

医薬衛生:政策措置の深化・細分化・実体化

⑤あらゆる手段を尽くして外向型経済の安定的発展を促進する

 自主的ブランド・核心技術をもつ製品及び農業・軽工業・紡績等労働集約型製品の輸出を支援する。

⑥省エネ・汚染物質排出削減・生態環境保護を着実に推進する

 重点プロジェクトの実施を強化し、落伍した生産能力の淘汰を加速する。

⑦民生の改善を重点とした社会建設の推進を加速する

⑧自らの系統の建設を強化する

(3)投資の重点(新華社網20081214日)

投資は、以下の原則をしっかり把握しなければならない。

①投資プロジェクトの関連度が高くなければならない

②社会投資を有効に牽引できるものでなければならない

③特定の計画が整備されており、前期の施策が実現されていなければならない

④迅速に物資を調達し、迅速に資金を交付し、資金と質の管理をしっかり行わなければならない

投資の重点は、次の5点に置く。

①「三農」

 大中型の水利骨幹プロジェクト等。

②都市・農村の社会保障的性格をもつ住宅安定プロジェクト

 低家賃住宅建設の大規模な展開等。

③交通運輸が逼迫している区間の解決・エネルギー構造の改善

 西部の石炭の東部への輸送・輸出及び新疆石炭の対外輸送能力の向上等。

④省エネ・汚染物質排出削減、自主的なイノベーション・産業構造のグレードアップ

 重点省エネプロジェクト・循環経済重大模範プロジェクトを支援し、都市汚水・ゴミ処理施設及びパイプ網の建設を加速。ローカル線の国産飛行機の自主設計・生産規模の能力増強。大型原発・風力発電と高速鉄道の国産化推進。企業の技術進歩・技術改造の推進。重大産業化プロジェクトの建設。

⑤社会事業

 中小学校の校舎改造プロジェクトの実施、末端医療衛生サービスシステム・計画生育サービスシステム・郷鎮総合文化ステーション等の建設加速。

(2008年1215日記・11,977字)

 


 


[1]  広東省中小企業局によれば、倒産企業の多い市は、東芫市1464社、中山市956社、珠海市709社、深圳市704社、汕尾市587社、佛山市526社、潮州市432社である。同局の官維平副局長は、「全省には99万社余りの合法に存在する中小企業がある。19月期、広東の各種輸出企業のうち、前年同期に輸出記録があるが今期はないものが6823社であり、うち3499社が民営企業で全体の51.3%である。今年輸出記録のあるものは17812社で、うち31.9%、5676社が下降傾向にある。現在、珠江デルタで倒産している企業の大部分は、①自主的なイノベーション能力が弱く、管理水準が低いため、競争相手によって倒産に追い込まれた、②産業のレベルが低く、付加価値が低いため、市場によって倒産に追い込まれた、③産業のグレードアップの要求に適合せず(エネルギー多消費、高汚染)、政府の政策で閉鎖させられたものである」としている。なお、19月期の広東全省での倒産企業は5.6万社、新たな開業は9.2万社となっており、新開業の方が多くなっている(中国経済週間20081215日)。

[2]  むろん、胡錦涛指導部内でも経済政策の進め方について意見対立は考えうる。汪洋が経済構造調整・発展方式の転換を優先するのに対し、温家宝は失業の増大による社会不安を懸念していたとも考えられよう。

[3]  もし、失業の増大により広東省で大規模な騒擾事件が発生し、これを汪洋がうまく抑えられない事態となれば、これは汪洋個人の失脚のみならず、胡錦涛指導部が進める科学的発展観にとっても致命的になるおそれがある。温家宝はこれを恐れたのかもしれない。

[4]  これを見ると、依然国家発展・改革委は投資の拡大にこだわっていることが分かる。投資資金の配分は同委の権力の源泉だからである。

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