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ログイン2010年11月30日
これは、わずか18条からなる司法解釈であるが、労使間紛争事件の受理、訴訟当事者、残業に関する挙証責任、終局裁決の認定基準など、実に重要な内容を含んでいる。そこで、本稿は、これについて若干の解説を加えるものとした。【2,120字】
1.はじめに
2008年施行の労働契約法、労働争議調停仲裁法等を契機として、労働者が自己の権利を保護するための法的手段が拡充され、労働者の権利意識も向上した。特に、仲裁・訴訟の費用が引き下げられたこともあり、近年、労使間紛争をめぐる事件が大幅に増加しつつあるが、単に事件数が膨れ上がっただけでなく、内容の複雑化、場所的な広域化、訴訟当事者の集団化といった傾向もみられ、人民法院の負担増が顕著となっていた。そこで、最高人民法院は、労使間紛争訴訟の減少、労使間紛争にかかる裁判基準の統一を目的として、2年半の準備期間を経た2010年9月13日、「労働争議事件の審理に係る法適用の若干の問題に関する司法解釈三」を公示し、翌日から施行となった。
これは、わずか18条からなる司法解釈であるが、労使間紛争事件の受理、訴訟当事者、残業に関する挙証責任、終局裁決の認定基準など、実に重要な内容を含んでいる。そこで、本稿は、これについて若干の解説を加えるものとした。
2.人民法院が受理する労使間紛争の範囲
(1)社会保険をめぐる争い(1条)
社会保険をめぐる争いであって、次の4要件、すなわち①当事者間に労働関係が存在すること、②使用者が労働者のため社会保険への加入手続をしていないこと、③未納の保険料が既に追納不能であること、④労働者が社会保険金を受給しえないこと、これらを全て充足する事件は、人民法院がこれを受理する。これに対し、労働者のため既に社会保険加入手続を行った使用者に関する納付基数、納付金額、納付期間など種々の紛争は、依然として政府の社会保険部門がそれを解決する機関となる。いずれにせよ、社会保険に関する手続を怠った使用者は、訴訟係争の当事者となる可能性が高まったと思われる。
(2)社内体制の改革をめぐる争い(2条)
企業が自主的に行う社内体制の改革に起因する紛争は、人民法院がこれを受理するものとされた。ただ、企業の改革が政府主導で行われる場合には、その際に発生した労働争議は、関係政府機関によって処理される。
(3)賠償金の支払をめぐる争い(3条)
労働契約法85条は、①国家の法令又は契約の定めに反し、労働者に対する労働報酬の全額支給を怠った使用者、②労働者に支払った賃金が現地の最低賃金基準に満たない使用者、③残業した労働者にその残業代を支払わない使用者、④労働契約が解除・終了となっても、法の定めに従って労働者に経済補償金を支払わない使用者に対し、労働行政部門が一定期間内に労働報酬、残業代、経済補償金を支払うことを命じ、この期限を過ぎても支払わないときは、支払うべき金額の50%以上100%以下を基準とする賠償金の支払も命じる、と定めている。
労働者が労働契約法85条に基づき賠償金を請求する事件は、これまで労働行政部門が取り扱うものとされ、人民法院がこれを受理することはなかった。しかし、本司法解釈は、労働者が賠償金を請求する事件については、人民法院が受理するものと改めた。
3.労使間紛争にかかる訴訟の当事者
労働者の権利保護を強化するため、本司法解釈は、労働者を直接雇用する主体でなくとも、労使間紛争にかかる訴訟の当事者に組み込むものとした。
営業許可証を有さず若しくはこれを取り消された使用者、又は営業期限満了後も営業を継続していた使用者とその労働者との間に紛争が生じた場合において、訴訟が提起されたときは、使用者のほか、その出資者も当該訴訟の当事者となる(4条)。合法的な営業資格を有しない使用者が他人から営業許可証を借り受けた場合には、その営業許可証を貸した他人も、また、使用者が他企業に付属して営業する場合には、その付属を許可した企業も、同使用者の労使間紛争にかかる訴訟の当事者となる(5条)。
さらに、労働人事争議仲裁委員会の仲裁判断を不服として人民法院に訴訟が提起された場合において、当事者となければならない者が仲裁手続に関与していなかったことを人民法院が知ったときは、その者を当該裁判手続に参加させなければならず、この者が責任を負うべきときは、人民法院は、調停、裁判を通じて直接この者に責任を負わせる(6条)。
4.残業に関する挙証責任
労働争議調停仲裁法の施行以来、労働者が残業代の支払を求める事件が大幅に増加した。これまで、退職後2年以内の残業代については使用者が、それ以前の期間における残業代については労働者が挙証責任を負うものとされていたが、本司法解釈は、原則として、労働者が基本的な挙証責任を負い、使用者が補充的な挙証責任を負担するものとした(9条)。
5.おわりに
中国において、労働法については全国で多様な運用がなされ、また、地方独自の政策も制定されていることから、労働法に関する司法解釈は、その実務・手続を通じて確立されたルールを実体法化するものとして、重要な意味を有する。本司法解釈の対象は、労働紛争の手続的な問題であったが、最高人民法院は、既に中国労働契約法の実体的問題について調査を開始し、司法解釈四の策定に着手したとのことである。今後も引き続き、その動向が注目される。
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