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中華人民共和国労働契約法実施条例 の邦訳と解説

中国ビジネスレポート 労務・人材
水野 真澄

水野 真澄

無料

2008年11月9日

記事概要

 2008年1月1日に施行された『労働契約法』の実施条例が9月に発表されました。この条例の邦訳と水野真澄先生による解説を掲載いたしました。実施条例では、さらに具体的に踏み込んだ内容が盛り込まれており、今後の動向が注目されます。

中華人民共和国労働契約法実施条例

 

中華人民共和国国務院令・第535

 

「中華人民共和国労働契約法実施条例」は、200893日に国務院第25回常務会議を通過したので、ここに公布し、同日より施行する。

総理 温家宝

2008918

 

中華人民共和国労働契約法実施条例

 

第一章 総則

第一条 「中華人民共和国労働契約法(以下、労働契約法)」を貫徹し、実施をする為に、本条例を制定する。

第二条 各級人民政府と県級以上の人民政府労働行政等の関連機関、及び労働組合等の組織は、労働契約法の貫徹と実施を推進し、労働関係の調和を促進しなければならない。

第三条 法に基づいて開業した会計士事務所、弁護士事務所等の協力組織と基金会は、労働契約法第二条・第一項に規定する雇用者に属するものとする。

 

 

第二章 労働契約の締結

第四条 労働契約法に規定された雇用企業が開設する分枝機構は、法に基づいて営業許可証、或は登記証書を取得した場合、雇用単位として労働者と労働契約を締結することができる。法に基づいて営業許可証、或は登記証書を取得していない場合は、雇用企業の委託を受けて労働者と労働契約を締結することができる。

<解説>

前者は登記された分公司、後者は登記のない国内連絡事務所(弁事処)を指します。

 

第五条 雇用日より1ヶ月以内に、雇用企業が書面で労働者に通知したにも拘わらず、労働者が雇用企業と書面の労働契約を締結する事を拒否する場合、雇用企業は労働関係の中止を書面で労働者に通知するものとする。その場合、労働者に経済補償を支払う必要は無いが、法に基づいて、労働者の実労時間に対応する労働報酬を支払わなければならない。

第六条 雇用者が雇用日から1ヶ月超~1年未満の期間、労働者と書面による労働契約を締結しない場合、労働契約法第八十二条の規定に基づいて、毎月2倍の賃金を労働者に支払わなければならず、同時に、労働者と書面による労働契約を締結しなければならない。労働者が書面による労働契約の締結を拒否する場合、雇用者は書面により労働者に労働関係を中止することを通知し、又、労働契約法第四十七条に規定される経済補償基準に基づいて労働者に経済補償を支払わなくてはならない。

前項に規定した、雇用企業が毎月2倍の賃金を労働者に支払う期間は、雇用日より1ヶ月満了の翌日より起算し、書面による労働契約を締結する前日までとする。

<解説>

      労働契約法第十条第二項には、労働関係が確立された場合、、雇用日より1ヶ月以内に書面による労働契約を締結する事が義務付けられています。

 

<参考>労働契約法第47

経済補償について労働者が本雇用者における勤務年限に従って、満1年間毎に賃金1ヶ月分を支払う標準で労働者に支払う。

6ヶ月以上1年間未満の場合、1年間で計上し、6ヶ月未満の場合、労働者に賃金半月分の経済補償を労働者に支払う。

労働者の月給が雇用者所在の直轄市、区を設ける市級人民政府の公布した本地区前年度の平均賃金の3倍以上に達した場合、彼らに支払う経済補償の標準は月間平均賃金3倍の金額として支払い、彼らに支払う経済補償の年限は多くとも12年間以内とする。

本条に称する月給とは、労働者が労働契約を解除し、或いは、終了する前12ヶ月の平均賃金を指す。

 

第七条 雇用者が、雇用日より1年超、労働者と書面による労働契約を締結しない場合、雇用日より満1ヶ月の翌日より、1年満了の前の日まで、労働契約法第八十二条の規定に基づき、毎月2倍の賃金を労働者に支払い、又1年満了の当日より労働者と無固定期限労働契約を締結したと見做し、すぐ労働者と書面労働契約を追って締結するものとする。

<解説>

ペナルティの対象となる期限が、雇用日ではなく、雇用日の1ヶ月超過日(雇用日の満一ヶ月の翌日)である事が明確になっています。これは、草案の内容と同様です。

 

第八条 労働契約法第七条に規定する「社員名簿」には、労働者の氏名、性別、身分証明番号、戸籍住所及び現住所、連絡方式、雇用方式、雇用開始時間、労働契約期限等の内容を含まなければならない。

 

第九条 労働契約法第十四条第二項に定める「勤続満10年」の開始時間は、雇用者の雇用日より起算し、労働契約法施行前の雇用期間を含まなければならない。

<解説>

労働者の要求が有った場合、無期固定契約への切り替えが義務付けられる条件の一つである、「連続勤務満10年」とは、「労働契約法施行前の勤続年数を含む」事が規定されています。

これは、草案の内容と同様です。実施条例公布前は、旧労働法に基づく勤務期間は、起算しないという解釈もありましたが、これにより、旧法の期間が含む事が明確となりました。

 

     <参考>労働契約法第14条・第2

     雇用者と労働者が協議の上合意した場合、無期限固定労働契約を締結する事ができる。

     以下の条件の何れかがあり、労働者が労働契約の更新・締結を要求、若しくは同意した場合、労働者が固定期限のある労働契約を要求する場合を除き、無期限固定労働契約を締結しなくてはならない。

(1) 労働者が雇用者の下で連続10年間勤務している場合。

(2) 雇用者が労働契約制度を初めて実行し、または、国営企業が制度改革により新たに労働契約を締結する時点で、労働者が当該雇用者の下で満10年間連続勤務しており、且つ、法定退職年齢まで10年に満たない場合。

(3) 固定期限のある労働契約を、連続して2回締結し、且つ、労働者に本法第三十九条(注:規則違反、過失などの事由に基づく解雇)、及び第四十条第一項(罹病・非公務による負傷により、医療機関満了後も職場復帰できない場合)・第二項(労働者が業務に不適格な場合)に規定する状況が無い状態で労働契約を更新する場合。

 

第十条 労働者本人以外の理由で、元の雇用者より新雇用者に雇用を切り替える場合、元の雇用者の下での勤務年限を、新雇用者の勤務年限に合算して計算するものとする。元の雇用者が既に労働者に経済補償金を支払った場合、新雇用者が、法に基づいて労働契約を解除・終止の上経済補償金の雇用期間を計算する際には、労働者の元の雇用会社での雇用期間を再び計算しない。

<解説>

外資企業の場合は、組織変更等に際して適用される条文です。

会社都合による人員の移管(雇用の切り替え)を行う場合、「一旦、経済補償金を支払い、勤続実績を白紙に戻してから再雇用する方法」と、「経済補償金を支払わずに、旧組織での勤続年数を引き継ぐ方法」があります。

ここでは、双方の方法が可能であるが、後者の方法が原則である事が規定されています。

 

第十一条         労働者と雇用者が協議の上合意した場合を除いて、労働者が労働契約法第十四条第二項の規定に基づいて無期限固定労働契約の締結を要求する場合、雇用者はその労働者と無期限固定労働契約を締結しなければならない。労働契約の内容に対し、双方は、合法・公平・平等・自由意志・誠実信用の原則に従って、協議の上合意しなければならない。協議一致しない内容に付いては、労働契約法第十八条に基づいて執行する。

<参考>労働契約法第14条・第2項は、実施条例第九条の解説を参照。

 

<参考>労働契約法第18

労働契約における労働報酬と労働条件の基準が明確でないために争議が生じた場合、雇用者と労働者は再度協議を行う事ができる。協議が合意に達しない場合は、集団契約の規定に基づく。

集団契約がない場合、若しくは、集団契約に労働報酬に関する規定がない場合は、同一業種・同一報酬制に基づく。

集団契約がなく、または集団契約に労働条件等の基準が気令されていない場合は、国に関連規定を適用する。

 

第十二条         地方各級人民政府、及び県級以上の地方人民政府は就業困難対象者の就業を手配する為に、職場補助金と社会保険補助金を支給する公益性の職場を提供した場合、その労働契約は労働契約法の無期限固定労働契約に関わる規定、及び経済補償の支払規定を適用しない。

 

第十三条         雇用者と労働者は、労働契約法第四十四条に規定される労働契約の終了条件以外の労働契約終止条件を約定してはならない。

<解説>

これは草案にはない規定です。

労働契約の終了条件に関しても、法による制限がかけられました。

 

<参考>労働契約法第44

     以下の状況の何れかがある場合、労働契約は終了する。

(1) 労働契約期間が満了した場合。

(2) 労働者が、法により基本養老保険待遇を享受し始めた場合。

(3) 労働者が死亡したか、人民法院により死亡宣告、若しくは、失踪宣告がなされた場合。

(4) 雇用者が法に基づいて破産を宣告された場合。

(5) 雇用者が営業許可証を取り消され、閉鎖を命じられ、引きはらわれた場合、若しくは、事前解散を決定した場合。

(6) 法律、行政法規が規定するその他の場合。

 

第十四条         労働契約の履行地が、雇用者の登録地と一致しない場合、関連労働者の最低賃金基準、労働保護、労働条件、職業危害防止と本地域の前年度月間平均賃金標準等の事項は、労働契約履行地の関連規定に基づいて執行する。雇用者の登録地の関連基準が労働契約履行地の基準よりも高い場合、雇用者と労働者が協議の上、雇用者の登録地の関連基準に基づく事を約定し場合には、その約定に従うものとする。

 

第十五条         労働者の試用期間中の賃金は、当該企業の対応する職場の賃金基準の80%、或いは労働契約で約定した賃金の80%を下回ってはならず、又、雇用者の所在地の最低賃金基準を下回ってはならない。

 

第十六条         労働契約法第二十二条第二項に規定される研修経費は雇用者が労働者への専門技術研修に支払う証憑を有する研修経費、及び研修期間中の出張費・研修に付随する労働者に使うその他の直接費用を含む。

<参考>労働契約法第22

雇用者が労働者に専門研修経費を提供して、彼らに対する専門技術研修を行なう場合、その労働者と協議書を締結し、服務期間を約定できる。

労働者が服務期間の約定に違反した場合、約定通りに雇用者に違約金を支払わなければならない。違約金の金額は雇用者の提供した研修経費を超えてはならない。雇用者が労働者に要求する違約金の支払いは、服務期間の履行していない分に割り当てられるべき研修経費を超えてはならない。

雇用者と労働者が服務期間を約定する場合、正常な賃金調整システムに従い、労働者の服務期間における労働報酬の引き上げに影響しない。

 

第十七条         労働契約期限が満了したが、雇用者が労働者と労働契約法第二十二条に基づいて約定する服務期間が満了していない場合、労働契約を服務期間まで延長する。双方が別途約定している場合は、その約定に従うものとする。

 

 

第三章 労働契約の解除と終止

第十八条         以下の状況の一つが生じた場合、労働契約法に規定する条件、手続に従って、労働者は雇用者と固定労働契約、無期限固定労働契約、若しくは一定量の仕事の完成を期限とする労働契約を解除できる。

(一)  雇用者と労働者が協議の上、合意した場合。

(二)  労働者が30日前に、書面で雇用者に通知した場合。

(三)  試用期間内に、労働者が3日前に雇用者に書面で通知したとき。

(四)  雇用者が、労働契約に規定した労働条件・労働保障を提供しない場合。

(五)  雇用者が速やかに労働報酬の全額を支払わない場合。

(六)  雇用者が法の定めに基づいて従業員の社会保険を納付しない場合。

(七)  雇用者の規則制度が、法律・法規に違反し、従業員の権利を侵害する場合。

(八)  雇用者が詐欺、脅迫の手段で、或いは他人の困難につけ込む事により、従業員の

 真実の意思に反する状況で労務契約を締結し、或いは変更した場合。

(九)  雇用者が自己の法律責任を免除し、従業員の権利を排除する場合。

(十)  雇用者が法律、行政法規の強制的規定に違反する場合。

(十一)        雇用者が暴力、脅迫或いは不法に身体の自由を制限する方法で、従業員に労働を

 強要した場合。

(十二)        雇用者が規則に違反して、危険を冒す作業を強迫的に指揮命令し、従業員の人身

 の安全を脅かす場合。

(十三)        法律、行政法規に、従業員が労働契約を解除できると規定されたその他の場合。

 

第十九条         以下状況の一つが発生した場合、労働契約法に規定する条件、手続に従って、雇用者は労働者と固定労働契約、無期限固定労働契約、若しくは一定の業務の達成を期限とする労働契約を解除できる。

(一)          雇用者と労働者が協議により合意した場合。

(二)          試用期間内に労働者が採用条件に合致しない事が証明された場合。

(三)          労働者が雇用者の規約・制度に厳重に違反した場合。

(四)          労働者が厳重な職務上の過失、私情にとられる不正行為によって雇用者に重大な損害を与えた場合。

(五)          労働者が、その他の雇用者と同時に労働関係を確立し、当該企業の業務達成に重大な影響を与え、または雇用者が指摘しても是正しない場合。

(六)          労働者が詐欺、脅迫により、或いは困難に乗じて、雇用者の真実意志に反する状況で労働契約を締結、或いは変更させた場合。

(七)          労働者が法により刑事責任を追及された場合。

(八)          労働者が罹病し、或いは非公務による負傷により、規定される治療期間の満了後、元の業務に復帰できず、雇用者が配置した別の業務にも従事できない場合。

(九)          労働者が仕事に適任ではなく、研修、或いは職場転換を行っても依然として仕事に適さない場合。

(十)          労働契約締結時に根拠とする、客観状況の重大な変化が発生し、労働契約の履行が不可能となり、雇用者と労働者が協議しても労働契約内容の変更に合意できない場合。

(十一)雇用者が企業破産法の規定によって会社更生を行なう場合。

(十二)雇用者の生産経営に重大な困難が生じた場合。

(十三)企業が従来とは異なる製品を製造する事となり、重大な技術革新、或いは経営形態の変更で、労働契約を変更した後も依然として職員を削減しなければならない場合。

(十四)その他の労働契約締結時に根拠とする客観的な状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行ができなくない場合。

<解説>

雇用者からの解雇条件が明確化されました。この解雇条件は無期限固定契約にも適用されます。

因みに、草案では、無期限固定契約の解除要件として規定されていました。

本実施条例では、固定期限、業務達成を基準とした契約の全てに適用される事となっていますが、内容は草案と同様です。

 

第二十条         雇用者が労働契約法第四十条の規定に基づいて、定額以外に1ヶ月の賃金を労働者に支払った上で労働契約を解除する場合、その定額以外に支払う賃金は、労働者の前月の賃金を基準として確定する。   

<参考>労働契約法第40

下記の何れかに該当する場合、雇用者は30日前までに書面により労働者本人に通知するか、若しくは、労働者に1ヶ月の賃金を追加で支払う事によって、労働契約を解除する事ができる。

(1) 労働者が罹病に、若しくは、非公務による負傷で、規定する医療期間が満了した後も業務に復帰する事ができず、雇用者が別途手配した業務にも従事する事が出来ない場合。

(2) 労働者が業務に適さない事が証明され、職業訓練、または職場調整を経ても業務に適さない場合。

(3) 労働契約締結時に根拠とした客観的事実に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能となり、雇用者と労働者が協議を行っても、労働契約の内容変更に付いて合意に至らない場合。

 

第二十一条 労働者が定年退職年齢に到達する場合、労働契約を終止する。

 

第二十二条 一定量の仕事の完成を期限とする労働契約が、任務の完成により終止される場合、雇用者は労働契約法第四十七条に基づき、労働者に経済補償金を支払わなければならない。

    <参考>労働契約法第47条に付いては、本実施条例第六条の解説参考。

 

第二十三条 雇用者が公務により負傷した労働者との労働契約を、法に基づいて終止する場合、労働契約法第四十七条の規定によって、経済補償金を支払う以外、国家の公務負傷保険に関する規定に基づいて、一括で公務負傷医療補助金と障害者就業補助金を支払わなくてはならない。

 

第二十四条 雇用者が発行する労働契約の解除・終止証明には、労働契約期限、解除或は終止の日付、職位、同雇用会社での勤務期間を明記しなくてはならない。

 

第二十五条 雇用者が労働契約法の規定に違反して労働契約を解除、若しくは終止することにより、労働契約法第八十七条の規定に基づく賠償金を支払う場合、追加で経済補償金を支払う必要はない。賠償金の計算期間は雇用日から計算する。

    <解説>

      賠償金と経済補償金を同時に支払う必要が無い事を明確にする規定で、草案と同様の内容となっています。

 

<参考>労働契約法第87

雇用者が本法の規定に違反して労働契約を解除或いは終止する場合、本法第四十七条に規定される経済補償標準の2倍で労働者に弁償金を支払わなければならない。

第二十六条 雇用者と労働者が約定した服務期間において、労働契約法第三十八条に規定する雇用者側の違反により労働者が労働契約を解除できる規定に基づいて労働契約を解除した場合には、約定した服務期間の違反には該当せず、雇用者は違約金の支払いを労働者に要求する事はできない。

以下の状況の一つに該当する状況で、雇用者が労働者と服務期間を約定した労働契約を解除する場合、労働者は約定通りに雇用者に違約金を支払わなければならない。

(一)          労働者が雇用者の規約制度に厳重に違反した場合。

(二)          労働者が重大な職務上の過失、私情による不正行為によって、雇用者に重大な損害を与えた場合。

(三)          労働者が、その他の雇用者と同時に労働関係を結び、当該企業の業務遂行に重大な影響を及ぼし、または雇用者が指摘しても是正しない場合。

(四)          労働契約法第二十六条第一定款第一項の、労働者が詐欺、脅迫、或いは人の困難に付け込んで、雇用者の真意に反した状況で労働契約を締結、若しくは変更させたために労働契約が無効となった場合。

(五)          労働者が法により刑事責任を追及された場合。

   <参考>労働契約法第38

雇用者が以下の状況の一つに該当した場合、労働者は労働契約を解除できる。

(一) 労働契約の約定通りに労働保護或いは労働条件を提供しない場合。

(二) 遅延無く労働報酬を全額支払わない場合。

(三) 法に基づき労働者の為に社会保険料を納付しない場合。

(四) 雇用者の規則制度が法律、法規の規定に違反し、労働者の権益を損害する場合。

(五) 本法第二十六条第一定款に規定される状況により労働契約が無効になった場合。

(六) 法律、行政法規に規定される労働者が労働契約を解除できるその他の場合。

雇用者が暴力、脅迫或いは不法に人身自由を制限する手段で労働者の労働を強迫した場合、或いは雇用者が規則違反で指導し、危険を冒す作業を強迫的命令し、労働者の人身安全を脅かす場合、労働者は直ちに労働契約を解除でき、事前に雇用者に告知する必要は無い。

 

第二十七条 労働契約法第四十七条に定める経済補償の月次賃金は、労働者が得るべき賃金に基づいて計算し、時間制賃金、出来高賃金、及び賞与、手当、補助金等の貨幣的収入を含むものとする。労働契約の解除、又は終了時前の12ヶ月の平均賃金が当地の最低賃金の基準を下回った場合、当地の最低賃金基準に基づいて計算する。労働者の勤務が12か月に満たない場合、実際の勤務月数に基づいて平均賃金を計算する。

   <解説>

   経済補償金の計算は表面的な賃金だけではなく、賞与・手当等を含めた金額とする事が明記されました。

 

 

第四章 労務派遣の特別規定

 

第二十八条 雇用者、またはその所属する単位が出資、若しくは共同設立する労務派遣会社が、自社、或は所属会社に労働者を派遣する場合、労働契約法第六十七条に定める設立できない労務派遣会社に属するものとする。

        <参考>労働契約法第67

     派遣先は、労務派遣会社を設立し、自社、若しくは所属機関に労働者を派遣してはならない。

 

第二十九条 派遣先は労働契約法第六十二条に定めた義務を履行し、被派遣労働者の合法的な権利を保護ければならない。

       <参考>労働契約法第62

     派遣先は、以下の義務を履行しなくてはならない。

(1) 国の労働基準を遵守し、適切な労働条件・労働保障を提供する事。

(2) 被派遣労働者の業務上の要求、労働報酬を告知する事。

(3) 残業手当、業績賞与を支給し、職位に相応する福利待遇を提供する事。

(4) 職位にある被派遣労働者に対して、職位に必要な研修を行う事。

(5) 連続雇用の場合は、正常な賃金調整メカニズムを実施する事。

派遣先は、被派遣労働者を他の雇用者に再派遣してはならない。

 

第三十条 労務派遣会社は非全日制雇用の形式で被派遣労働者を募集してはならない。

 

第三十一条 労務派遣会社、或は被派遣労働者が法に基づいて労働契約を解除・終止する場合の経済補償は、労働契約法第四十六条、第四十七条の規定に基づいて実施する。      

    <参考>労働契約法第46

    以下の何れかの状況がある場合、雇用者は労働者に経済補償金を支払わなくてはならない。

(1) 労働者が労働契約法第三十八条の規定に基づき労働契約を解除する場合。

(2) 雇用者が労働契約法三十六条の規定により、労働者に労働契約の解除を要求し、且つ、労働者と労働契約の解除に付いて、協議の上合意に至った場合。

(3) 雇用者が労働契約法第四十条の規定に基づき労働契約を解除した場合。

(4) 雇用者が労働契約法第四十一条・第一項の規定に基づき労働契約を解除する場合。

(5) 労働者が労働契約に約定する条件を継続、若しくは改善して労働契約の更新を希望し、労働者が更新に同意しない状況以外で、労働契約法第四十四条・第一項の規定(労働契約期間が満了した場合)に基づき固定期限の有る労働契約を終了する場合。

(6) 労働契約法第四十四条・第四項(雇用者が破産を宣告された場合)、第五項の規定(雇用者の営業許可取り消し、閉鎖、事前解散)により労働契約を終了する場合。

(7) 法律、行政法規で規定するその他の状況。

 

    <参考>労働契約法第47条は、当実施条例第六条の解説参照。

 

    <参考>労働契約法第38条は、当実施条例第二十六条の解説参照。

 

    <参考>労働契約法第36

        雇用者と労働者は、協議により合意すれば、労働契約を解除する事ができる。

 

    <参考>労働契約法第40条は、当実施条例第二十条の解説参照。

 

    <参考>労働契約法第41条・第一項

以下状況のうち一つがあって、20人以上削減しなければならず、或いは20人以内の削減であるが、解雇する人員が企業従業員全体の10%以上を占める場合、雇用者は30日間前に労働組合、或いは従業員全員に状況を説明し、労働組合或いは従業員の意見を聴取した後、人員削減案を労働行政部門に報告して、はじめて削減できる。

(1)企業破産法の規定に従って再編を行なう場合。

(2)生産経営に厳重な困難が発生した場合。

(3)企業の改業、重大な技術革新、或いは経営方式の変更のため、労働契約を変更後も依然として人員を削減しなければならない場合。

(4)その他、労働契約の締結時に根拠とする客観的な状況の重大な変更が発生し、労働契約の履行ができなくなった場合。

 

第三十二条 労務派遣会社、または被派遣労働者が法に違反して労働契約を解除・終止する場合は、労働契約法第四十八条の規定に従い執行する。

    <参考>労働契約法第48

    雇用者が労働契約法の規定に違反して労働契約を解除・終了し、労働者が労働契約の継続を要求した場合、使用者は労働契約を継続しなくてはならない。

    労働者が労働契約の継続を要求しない場合、若しくは、既に労働契約の履行ができない場合は、労働契約法八十七条の規定(2倍の支払い義務)により賠償金を支払わなくてはならない。

 

 

第五章 法律責任

 

第三十三条 雇用者が労働契約法の社員名簿作成に関する規定に違反した場合、労働行政部門は期限内に作成を求める。期限を過ぎても作成しない場合、労働行政部門は、2千元以上、2万元以下の罰金を課す。

 

第三十四条 雇用者が労働契約法に従い、毎月2倍の賃金、或は賠償金を労働者に支払う必要が有るにも拘わらず、未だ支払っていない場合、労働行政部門は雇用者に支払を命ずる。

 

第三十五条 派遣先が労働契約法と本条例の労務派遣に関する規定に違反した場合、労働行政部門、及びその他の関連主管部門は是正を命ずる。状況が重大な場合、一人当たり1,000元以上、5,000元以下の基準で罰金を課す。被派遣労働者に損害を与えた場合、労務派遣会社と雇用者は連帯賠償責任を負う。

 

 

第六章 付則      

 

第三十七条 労働契約法と本条例に違反する行為に対する訴え、摘発を行った場合、県級以上の地方人民政府労働行政機関は「労働保障監察条例」の規定に基づいて処理しなければならない。

 

第三十八条 労働者と雇用者が、労働契約の締結、履行、変更、解除或いは中止に際して雇用者と争議が生じた場合、「中華人民共和国労働争議調和仲裁法」に基づいて処理する。

 

第三十九条 本条例は公布の日より施行する。

 

 

<解説>

労働契約法実施条例では、草案に規定されていたいくつかの事項が削除されています。

削除された主な内容は、以下の通りです。

 

草案第5

労働契約の締結日から雇用日までの期間は、雇用関係が成立していないため、双方は法に基づき労働契約を解除でき、双方の約定した違約責任を負う。雇用者は労働者に対して、医療費等の責任を負う必要がなく、経済補償金を支払う必要もない。

 

草案第12

連続満10年間勤務し、以下の条件の一つに該当する労働者が無期限固定契約の締結を要望する場合、無期限固定契約を締結しなければならない。

1)職業病危害のある作業に従事した労働者で、その職位を離れる前に職業健康診断を実施しておらず、或いは職業病の疑いがある患者が、診断中、若しくは、医学観察期間中にある者。

2)病気に罹り、或いは非公務による負傷で、規定される治療期間中にある者。

3)女性職員で、妊娠期間、出産期間、授乳期間にある者。

 

草案第21

会社は、競業制限を受ける高級管理者として、「中華人民共和国会社法」に規定する会社経理、

副経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書と会社定款に規定するその他の人員を含む事を規定

できる。その他の雇用組織の高級管理者は、前記の規定を参照の上確定する。

 

草案第22

雇用者と商業機密を把握する労働者が、労働契約中に商業機密保守関連事項を約定する場合、労働契約中止前に、或いは労働契約法第三十七条に規定される労働契約解除後の一定期間内に、労働者の職場を変更する事を、その労働者と約定できるが、それにより労働者の賃金待遇を下げてはならない。

注:草案第21条・22条とも競業禁止の規定ですが、条例では競業禁止関連規定が削除されています。

草案第24

雇用者が労働者と協議の上合意すれば、労働契約履行の中止、或いは一部中止を行なう事ができる。労働者が徴兵により入隊し、法に基づき人身の自由を制限され、或いは行方不明になったが、人民裁判所により失踪・死亡を宣告されていない場合、雇用者は労働契約履行の中止、或いは一部中止ができる。

 

労働契約履行の中止、或いは一部中止の期間に、雇用者と労働者双方は、労働契約に関連する権

利と義務の履行を暫定的に停止する。

 

労働契約の履行を中止する期間は、労働者の雇用者における勤務期間とは計算しないが、労働者が徴兵に応じて入隊した事により労働契約の履行を中止した場合は除外される。

労働契約の履行を中止する情況が消失した場合、労働契約が履行できない場合を除き、労働契約の履行を回復しなければならない。労働契約履行中止期限は5年間以内とする。

 

草案第37

労働契約法施行日に存続する労働契約が、労働契約法施行後解除或いは中止し、労働契約法第四十六条及び本条例の規定によって経済補償を支払わなければならない場合、20071231日までの経済補償金は「中華人民共和国労働法」、及びその付属の規定によって計算し、2008年1月1日以降の経済補償金は労働契約法によって計算する。

注:草案では、雇用関係が新旧労働法をまたいでいる場合(200811日以前から雇用関係がある場合)、新労働契約法に基づく経済補償金の支払いは200811日よりと規定されていましたが、これが削除されました。

 

草案第38

雇用者は通常、非主要業務の職場、存続期間が6ヶ月以内の職場、或いは元の職場の労働者が一時職場を離れて学習し、休暇のため一時出勤できず、交代要員が必要な場合に労務派遣雇用者を採用する。労務派遣会社は被派遣労働者と試用期間を設定してはならない。

注:派遣労働者採用の条件が、草案ではあまりに厳しいため、この部分が削除されました。(2008年11月記・11,527字)

 

 

 

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