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労働契約法(第二次草案)11の改定ポイント

中国ビジネスレポート 労務・人材
筧 武雄

筧 武雄

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2007年1月18日

記事概要

 今回公開された第二次草案を見た限りでは、「文書による労働契約がない場合は、無期限の労働契約を締結したものとみなす」あるいは職能別の試用期間設定の条文案が削除されるなど、一部で外資側の要望は受け入れられたものの、全般的に一次草案よりもさらに労働者保護の色彩が強まっており、中国政府があくまでも国有企業や中小私営企業における労働者保護、あるいは農村からの出稼ぎ労働者、臨時派遣労働者に対する保護姿勢を強めていることが読み取れる。

2005年12月24日、初めて第十回全人常務委員会第十九回会議で労働契約法に関する審議が行われた。そして昨年の3月20日、一次草案の全文が公表され、全国各地の関係者に公開意見聴取が実施された結果、一カ月間で191,849件に及ぶ意見が提出された。その後昨年12月24日に全人常務委員会第二十五回会議で、新たに改訂された労働契約法草案の修正案(第二稿)が審議されるに至った。その結果は、昨年末に全人大ホームページ(人大網)で公開され、人民日報、新華網などでも報道された。

労働契約法の第一次草案に対しては、日本をはじめ欧米諸国からも「雇用側の権利を著しく損なうもの」と批判の声が高く、公聴に対しては北京の日本人商工会なども改善要求意見書を提出していたものである。ところが、今回公開された第二次草案を見た限りでは、「文書による労働契約がない場合は、無期限の労働契約を締結したものとみなす」あるいは職能別の試用期間設定の条文案が削除されるなど、一部で外資側の要望は受け入れられたものの、全般的に一次草案よりもさらに労働者保護の色彩が強まっており、中国政府があくまでも国有企業や中小私営企業における労働者保護、あるいは農村からの出稼ぎ労働者、臨時派遣労働者に対する保護姿勢を強めていることが読み取れる。

第二次草案の改定内容は(1)原草案の規定、(2)全人大常務委員会と全国各地、各方面関係者の意見、(3)全人大法律委員会の回答、の三部構成の解説のかたちで公開された。以下の和訳本文でもわかるように、すべての改定案が確定したものではなく、中には「検討して草案に追加する」など今後の検討が予定されているし、審議終了後の記者会見を見ても、これで草案が確定したわけではなく継続審議が進められると言及されているが、他方で「喫緊の課題であり、草案確定次第、速やかに実施されたい」という常務委員会の意見も出されている。恐らく、94年夏の労働法公布と95年1月の施行と同じタイミングで、今年の夏に草案が確定し、全人代常務委員会の決定を受け、来年から施行されるスケジュールではないかと考えられる。ここでは「(3)全人大法律委員会の回答」の部分のみを書き出してある(筧私訳)。

1. 従来の招聘任用制度労働者も本草案の適用対象に含める

現在、公務員および公務員法管理法に従う労働者を除き、従来の公的な招聘任用制度にもとづいて事業単位と労働契約関係を形成している労働者は行政管理部門の権限が分かれてしまうため、労働法が直截に適用されない現状にある。このような労働者も労働契約方の対象に含まれると修正されたが、これは他方で、彼らの「固定工」的な立場が否定されたことにもなる。

○「公務員および公務員法管理法にもとづく労働者を除き、国家機関、事業単位、社会団体と労働関係を形成する労働者は、その労働契約の締結、履行、変更、解除及び中止は本法に依拠する」

2.規則制度に対する企業の損害賠償責任

「使用者が法にもとづいて労働報酬、労働時間、休憩、休暇、労働安全衛生、保険福祉、従業員の養成、労働紀律および労働ノルマ管理等の方面における規則制度を確立、整備する場合は、労働組合、従業員大会また従業員代表大会で討論、採択されるか、または平等な協議により規定されなければならない」

「規則制度を実施する際、労働組合また従業員が本規則制度は適当ではないと認識した場合、使用者に意見を提出し、話し合いを通じて改善する権利を有する」

使用者が制定した労働規則制度が法律、規定等に違反する場合は無効とする。労働管理部門は警告を与え、改正を命じる。労働者に損害に与えた場合は使用者が賠償責任を負う

3.書面形式による労働契約締結の義務

(一)使用者は、雇用開始日に労働者と書面形式で労働契約を締結する。労働関係を結ぶ際には書面による労働契約締結の手続きをとらなければならない。

(二)すでに労働関係が存在しながら使用者が労働者と書面による労働契約を締結していない場合、雇用開始日から一か月以内に書面による労働契約締結の手続きをとらなければならない。

(三)使用者が採用手続きをする際に書面による労働契約を同時締結しない場合は、新規採用される労働者の待遇については、企業あるいは業界の「集団契約」内容にもとづいて標準的な条件を執行しなければならない。集団契約が存在しない場合は、同一職種の労働者と同一の報酬を与えなければならない。

(四)使用者が採用手続きから一カ月を超えても書面による労働契約締結の手続きを進行しない場合は、労働者に二倍の労働報酬(割増賃金)を与えなければならない。

4.労働契約期間に対応した試用期間の設定

(一)労働契約の期限が一年未満の場合は、試用期間は一カ月を超えてはならない。

労働契約の期限が一年以上三年未満の場合は、試用期間は二カ月を超えてはならない。労働契約の期限が三年以上の場合は、試用期間は六カ月を超えてはならない。

試用期間と労働契約期限が同一の場合は試用期間は設けず、全期間が労働契約と見なす。

(二)試用期間中の賃金について、同一職種の最低賃金あるいは労働契約賃金の80%を下回ってはならない。

(三)試用期間中において、当該労働者が採用条件に適合しないことを証拠をもって証明できる場合を除き、使用者が労働契約を解除することを禁じる。解除する必要のある場合は、労働者に理由を説明しなければならない。

5.無期限の労働契約を奨励する

(一) 無期限契約に調印する企業を奨励する。

以下の条件のいずれかひとつの条件に合う労働者が労働契約を更新締結する場合、企業は無期限労働契約に調印しなければならない。 

労働契約の延長をする時で、労働者が連続して勤務する期間が10年以上の場合。

使用者がはじめて労働契約制度を実行する、あるいは国営企業改革(民営化)の手続きで労働契約を再締結する場合で、労働者が連続勤務期間が満10年の場合、または法定の定年退職年齢まで10年以内の者の場合。

連続して二回固定期限労働契約を結んだ者が、さらに契約を更新する場合。

(二)使用者がこの規定に違反して無期限の労働契約を締結せず、あるいは労働契約を解除あるいは中止した場合、労働者に対して本規定に定める経済補償標準の二倍の賠償金を支払わなければならない。

6.研修と勤務期間制定、中途退職の損害賠償金

(一)使用者が労働者のために研修費を提供し、労働者に一か月以上生産から離れた専門技術研修を受けさせる場合は、労働者と勤務期間の約定ができる。労働者が勤務期間の約定に違反した場合に、使用者に違約金を支払わなければならない。

(二)約定する違約金は、使用者が提供した研修費を超えてはならない。労働者が違約した場合に支払う違約金は、労働者が勤務未履行期間に按分した研修費を超えてはならない。

(三)使用者と労働者の約定勤務期間が比較的長い場合、使用者は労働者の勤務期間内における賃金待遇を、給与規定にもとづいて高めなければならない。

7.競業避止範囲の縮小

(一)使用者は、商業秘密を守るべき労働者と労働契約あるいは協定を結ぶ際に、競業制限を約定しなければならない。労働契約を解除、あるいは中止した後の競業制限期間内は、毎月労働者に手当を支払わなければならない。労働者が守秘約定に違反した場合、約定にもとづく違約金を使用者に支払わなければならない。

(二)競業制限の対象は高級管理職、高級技術員、その他使用者の商業秘密を熟知する者に限られる。競業制限の範囲、地域、期限については、使用者と労働者が協議約定し、その約定内容は法律に違反してはならない。

(三)競業制限の期限は二年を超えてはならない。

8.賃金不払に対する労働者の支払命令申請権

(一)使用者は国家の規定と労働契約の約定にもとづいて労働報酬を満額支払わなければならない。使用者が期限どおりに賃金を満額支払わない場合は、労働者は支払命令書を申請することができる。執行を拒否する場合は、裁判所から法律にもとづき強制執行が実施される。

(二)使用者が賃金を長期にわたって支払わない場合は、相応の法律責任を負う。

(三)国家は、徐々に労働者に対して全国的に移転しても通用する基本養老保険の個人口座を実現する措置を取る。

9.20人以上の人員整理は要報告

「以下のような情勢のいずれかひとつの場合で、労働契約が履行不能な状態に至り、20人以上の人員削減が必要な場合、あるいは20人に満たなくても総人数の10%以上を占める場合は、使用者は30日前に労働組合または従業員全員に状況を説明し、意見を聴取し、そのうえで人員削減計画を労働部門に報告した後に人員削減が可能となる。

・ 破産法にもとづいて会社を再建する場合

・ 生産経営が非常に困難な場合

・ 環境汚染防止のために移転する場合

・ その他の重大な原因により労働契約を履行することが不可能となった場合」

「人員削減にあたっては、次の労働者を優先して残さねばならない。

・ 勤務年数が比較的長く長期の固定期限付き労働契約を結んでいる者

・ 無期限の労働契約を締結している者

・ 家庭に他の就業者がおらず、未成年者と老人を扶養している者」

10.集団契約にもとづく労働組合の告訴権

(一)労働者は使用者との平等な協議を通じて、労働報酬、勤務時間、休憩、休暇、労働安全衛生、保険、福利等の事項について集団契約を締結する。集団契約草案は従業員代表大会あるいは従業員全員に提出しなければならない。労働組合は労働者の代表として、使用者と集団契約を締結する。労働組合がない場合は、労働者代表が使用者と集団契約を結ぶ。

(二)県級以下の地域内建築業、鉱業、サービス業等業種による労働組合は、労働者の代表として使用者と産業別集団契約を結ぶ。産業別集団契約は当地のすべての使用単位、労働者を拘束する。

(三)労働者は使用者との平等な協議を通じて、労働安全衛生、賃金規定等、特定の事項について集団契約を締結することができる。

(四)集団契約に定める労働条件と労働報酬の標準が現地人民政府の規定を下回ることを禁じる。使用者と労働者が個別に締結する労働契約中の労働報酬等の基準は集団契約基準を下回ることを禁じる。

(五)使用者が集団契約に違反し、労働者の権利を侵害した場合、労働組合は法律にもとづき使用者の責任を追及することができる。集団契約を履行するうえで争議が発生し、労使協議による解決が不可能な場合、労働組合は法律に従って仲裁を申請、あるいは会社を告訴することができる。

11.人材派遣会社と派遣労働者

(一)派遣元あるいは派遣先は、労働者に対するすべての法定雇用義務を履行しなければならない。人材派遣会社は派遣される労働者とのあいだで二年以上の固定期限労働契約を締結しなければならない。

(二) 派遣元あるいは派遣先の義務:

・ 国家の定めた労働安全標準に従い、労働者に適切な労働条件と労働保護を提供しなければならない。

・ 労働者に対して、担当業務の要求内容と労働報酬を通知しなければならない。

・ 残業代、実績奨励金および資格、職種内容に相応した福利待遇を提供しなければならない。

・ 労働者のために研修費を提供する制度を創設する。

・ 継続勤務する労働者に対して、正常な賃金制度を創設する。

(三)派遣元は派遣労働者と派遣労働協議を結ばなければならない。派遣先は実際の仕事内容により派遣期間を明確に定めなければならない。連続期間を切断し、いくつもの短期間契約を結ぶことは禁じる。

(四)派遣元は労働派遣協議の内容について、労働者本人に通知する義務がある。派遣元は派遣協議に従事する派遣労働者に、協議に定めた本人支給報酬を全額支払わなければならない(協議に違反した派遣元の中間搾取を禁ずる)。

(五)派遣労働者は差別なく「同一労働同一報酬」の権利を持つ。また労働組合に参加し、あるいは組合を設立するなど、自分自身の合法的権利を擁護する権利を有する。

(六)派遣労働者は法律にもとづいて派遣元との労働契約を解除することができる。

(七)人材派遣の形式で従業員を雇用する業務は、臨時性、補助性あるいは代替的な場合に限られる。

(八)使用者が自ら派遣会社を設立し、社内あるいは関連会社に派遣することを禁じる。(以上)(2007年1月記 5,056字)

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