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中国・煙台でエビを食品加工、日本へ供給

中国ビジネスレポート 各業界事情
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2003年12月18日

<各業界事情>
中国・煙台でエビを食品加工、日本へ供給
―原材料のエビは広東省の生産委託加工で調整―

アジア・マーケット・レビュー 2003年11月15日号掲載記事)

11月より直行便が運行

 「今年の11月からついに日本(関西空港)との直行便が運行します。これで日本からの投資が本格的に増えると思います」。中国の山東半島の付け根にある煙台経済技術開発区の楊林盛局長は大きな期待を込めて語る。
 日本企業は、飛行機の乗り換えが苦手である。青島でも、広州でも直行便が運行すると進出が急増する。これは面倒くさがりやでひとつの所に群をなして集中したがる日本民族の大いなる宿命かもしれない。逆に言えば、すき間で稼ぐ中小企業にとっては乗り換えが必要なところはチャンスの多い地域ともいえる。
 これまで、日本から煙台に行くのは、韓国のソウルもしくは首都の北京で乗り換えて行くのが普通の行き方である。渤海と黄海が交錯する煙台は青島と共に山東半島の主要都市であるが、青島と異なり直行便がないため、これまであまりにも日本とはなじみが薄かった。その証拠に外国企業のなかで煙台への進出企業の約半分は韓国企業である。煙台の街でも随分韓国料理店や韓国人が目に着く。これぞ韓国人の街と言って良い。
 しかし、唐代にはこの煙台から製鉄や絹織物の技術が日本や朝鮮半島に伝来して来た伝統ある港町だけに、この天下の良港を活用してきた企業も多い。「困るんですよ。そんなに便利になっては。便利になって日本企業が数多く来たら、人、物、金どの面を取っても我々のような中小企業には良くありません。」煙台でエビの食品加工を行う丸寛商事の本山寛社長は語る。

完全なる自然食エビの供給体制の確立

 同社は、普通の日本から見れば煙台を舞台に手品のようなビジネスを行っている会社である。後から日本企業に来て欲しくないというのも良く解る。同社は、10年前に900万米ドル、日本円にして10億円を投資して創った会正面玄関の中国共産党と工会委員会の2つの看板社である。この「中国煙台魯星食品有限公司」は、現在日本企業が合計で9社出資しているユニークな会社である。本山社長が同社のユーザーに出資の協力を得て創ったのである。
 原材料のエビは、インドネシアやエクアドルなどの東南アジアから持って来ている。ここで食品加工をし、冷凍食品にした後に日本に持って来ている。これが日本市場で大変好評でどんどん日本の会社が見学に来る。そして、「うちにもエビを納入して欲しい。」「うちにも投資させて欲しい。」の声が強く、「中国煙台魯星食品有限公司」は日本企業が9社も出資しているユニークな会社となった。
 同社の最大の売りは、抗生物質などを使わない身体にやさしい自然なエビを原料としていることである。元々、この煙台付近はエビの大産地であった。遼東半島、山東半島をエビを求めて回るうち11年前にこの煙台の地に中国人の友人が出来、食品工場を作ろうとしたが、その時にはすでにこの地域ではエビが全滅していた。
 そこで、丸寛商事はインドネシア、エクアドルからエピを輸入することにするが、いかんせん自然のものだけに供給にばらつきが出る。そこで、広東省で来料加工(生産委託加工)方式のエビの養殖を行う。エビの稚魚を与え、細かな養殖計画書を配布し、かつこの養殖体制のため同社から常時10人の生産管理要員を配置している。ここから年問1万トンのエビが来る。いわば完全なる自然食エビの供給体制の確立である。
 「うちの製品は、生産ラインのどのレベルでも手にとって食べられます。自然加工を心がけていますから」と本山社長は語る。 同社の第2の売りは、保護区となっている煙台経済技術開発区に立地していることである。これで、まず天下の良港煙台港が十二分に活用できる。日本に全量輸出する限り、関税はかからない。法人税も半額の17%で済む。
 この開発区は、食品、自動車、エレクトロニクス産業が概ね3分の1ずつ張り付いている。そして、その立地企業の半分が韓国企業である。これは大連の立地企業の半分が日本企業であることを考えれば、直行便がなければ乗り換えが本当に苦手というのもうなずける。ここに同社は日本企業では一番乗りで進出した。

大手ユーザーがすべて株主

 同社の第3の売りは強力なユーザー群である。現在同社の製品の半分は株主であるロックフィールドに売られている。あのロックフィールドのメンタイコはここで作られている。
 しかもユーザーが株主であるから役員会、株主会、個別の商業の場といろいろな場でいろいろな立場からの意見が貰える。情報が伝わる。市場の変化が読みとれる。何よりもユーザーのほとんどが株主であるから無断で販売先から逃げ出すことはない。
 同社は、将来は中国国内での販売も考えているが、現在は99%日本に輸出している。同社の年問売上げが80億円とすごい金額だが、これも抗生物質などを使わない自然食エビを安定供給し、煙台の港と経済技術開発区のシステムを活用し、ユーザー参加型の工場経営をしているからである。ビジネスの土台をひとつひとつ精密に積み上げたものだからなるほどとうなずかさせられる。これまで、投資ブームではあるものの中国ビジネスはなかなか金にならない。目に見える形で成果が出ないといわれている。特に、利益の日本への送金や配当の送金は半ばあきらめている日本企業も多い。製品を作って持って帰るところと割り切っている訳である。
 ところが、この煙台魯星食品有限公司は創業直後から増収増益を続け、実際に毎年10%前後の配当をしている。
 本山社長は、「総額2億円を配当しています。中国と日本は租税協定を結んでいて、日本でかかった税率は差し引かれます」と事も無げに語る。

正面玄関の2つの看板

 確かに、本山社長の言っていることは中国投資の規則からすると当たり前の話であるが、現実はそうは行かない。どこも利益や配当金の日本への送金が大変なのである。
 この秘密が同社の正面玄関にあるような気がした。同社の正面に2つの大きな立派な看板がある。ひとつは、「中国共産党魯星食品有限公司委員会」とあり、もうひとつは「中国煙台魯星食品有限公司工会委員会」とある。
別の角度から見ると中国の社会はどこまで行っても中国共産党の社会である。会社にも、大学にも、病院にも中国共産党の支部があり責任者である書記がいる。そして、社会主義市場が行き渡った時の中国共産党の合理的な生き残り組織が、日本でいえば労働組合のような、厚生会のような「工会委員会」である。
従って、中国に進出した日本企業はどの会社も中国共産党の支部と工会委員会がある。しかしこれ程までに堂々と正面玄関に立派な看板で掲げた会社は見たことがない。同社のこれだけの配慮を煙台市政府が悪く思わない訳がない。私が見ていても、本山社長は煙台経済開発区と実に綿密に連絡を取りながら仕事を進めている。実はこれが何よりも大事なのである。
 これは仕方のないことであるが、西側の企業の人問は、共産党というとちょっと距離を置こうとする。ところが実際に外国企業が中国に来て相手をするパートナーも、市政府も、ユーザーも、例外を除けばほとんどが中国共産党の党員なのである。人口の5%、6,000万人の党員が中枢の仕事をしているからである。

ビジネスの手品師

 我々は、中国ビジネスを本格的にこなしたいのであれば、ここらで中国共産党をひとつの政党としてみるのではなく、この革新性にもう少し着目して良い。まず、中国共産党は労働者のイデオロギー政党から、知識階級を加え、昨年の全国人民代表大会から経営者を加えた。外資を世界で一番積極的に導入し、市場主義を積極的に、戦略的に進める新しい中国共産党と理解して良い。しかし、世界的にこの認識はまだまだ弱い。
 本山社長のすごさは、このことを正確に評価し、その姿勢として立派な看板を掲げたことである。「別にうちの会社で党員の獲得活動や中国共産党のPRをやっている訳ではありません。市政府や煙台経済技術開発区の担当者が私共の何の相談でも対応してくれ、うまく解決してくれています。しかし、それもみんな中国共産党の力なのです。彼らの創意工夫力なのです。よく見れば判りますよ」本山社長は外国企業の中国投資の本質的部分を実にリアルに語ってくれる。
 もちろん、中国投資はこの2つの看板を掲げればすべてがうまく進むほど甘い話ではない。同社がこの経済技術開発区で日本企業一番乗りということもある。あるいは煙台市のなかで輸出額が一位という実績が生きているのかもしれない。
 日本企業の中国ビジネスを見ていると最後はこの詰めの問題になる。現地で生産し、日本に持って帰る。あるいは現地で売る。売上げや利益が多く出たとする。最後にこれを税金、配当金、預金、送金をどう処理できるかということである。
 これはこうやればうまく行くという法則ははっきりいってない。地域によって異なり、業種や企業のケースによって異なる。稼いでいる会社に多くの税金を支払って貰おうとするのは中国政府だけでなく日本政府を含めたどこにでもある政府の常である。結論としていえることは、中国でコツコツと人脈を築いて、中国政府にも、そして社員にも、ユーザーにも、株主にも都合の良い会社を創るしかないのである。それをやり遂げているから私は本山社長をビジネスの手品師と名付けたのである。
(産能大学経営学部教授増田辰弘)

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

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