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保税区企業に対する調査と今後の外資商業企業について

中国ビジネスレポート 税務・会計
水野 真澄

水野 真澄

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2004年8月10日

<税務・会計>

保税区企業に対する調査と今後の外資商業企業について

1.保税区企業に対する調査

 最近、広州保税区において、保税区内企業に対する調査が行われています。
 先日、筆者自身もその調査に立ち会う機会がありましたが、調査を実施しているのは、工商行政管理局であり、調査の内容は以下の通りです。

  • 保税区のオフィスは、実態が伴っているか。
  • 保税区外のオフィス(保税区企業の常駐代表処)は営業を行っていないか。
  • 国内販売(保税区外取引)を行っていないか。
  • 危険物等の取扱を行っていないか。

 調査において、調査員は「現段階は実態把握のための初期的調査であり、検査ではないこと」、「今回の調査の結果を踏まえて、抜き取り検査を行うこと」を説明し、以下の内容の確認書を渡して引き上げました。

<確認書の内容>
 企業登録関連規定に基づけば、会社の住所は、その企業の主要な営業機構の所在地であり、一カ所のみが登記される。会社は登録場所において営業を行う必要がある。
 会社の住所は、所定の手続を経ずに変更することはできないし、無人であってはならない。
 また、会社の住所を変更する際には、移転前に所定の機関に対して変更申請を行わなくてはならない。当局は、区内企業に対して巡回検査管理を実施する。
 規定に違反する企業に対しては、規定に基づき処罰を行う。

 「なぜ、急にこのような調査を始めたのか」、という質問に対しては、「工商行政管理局の全国大会において、保税区の貿易会社の国内取引は不適切な行為であることが確認され、これに基づいて調査を開始した」という説明がありました。
 ただし、上海外高橋保税区を始めとする、その他の保税区では同種の動きが見られていないことから、この説明が正しいかどうかは、疑問が残ります。
 従って、今回の動きが、単に広州の局地的なものか、全国的なものかは、現時点ではなんとも判断ができませんが、「このような動きの背景にはなにがあるのか」という点について、把握しておく意義はあると思います。

2.保税区貿易会社の運用の変則性

 今回の調査の意義・背景を解説する前に、保税区の貿易会社の活動の変則性を、簡単に振り返ってみたいと思います。
 保税区の貿易会社のオペレーションは、総じて以下のような変則性を伴うものです。

1.保税区の登記場所(本来的には本社であるべき場所)には実態がなく、経営実態は保税区外の常駐代表所で行われている。
  • 保税区法人が保税区外に常駐代表所を開設することは、「保税区の外資企業が区外に事務所を開設することに関する通知(工商企字[2001]第363号)」により認められています。そのため、保税区の登記場所にそれなりの経営実態が備わっており、保税区外の常駐代表処が本社のための情報提供活動などを行っているような状況であれば問題がないのですが、実際には、ほとんどの保税区貿易会社は、本社は無人の部屋であり、経営・営業実態の全てが保税区外にある状況です。
    2.保税区の貿易会社の経営範囲は、本来、保税区内取引・三国間取引に限定されるべきであるが、実際には国内販売(卸売業務)が行われている。
  • 保税区法人の営業範囲は、保税区内企業との取引・三国間取引などに制限されています。そのため、本来的には中国国内販売はできないはずですが、実際には可能であり、国内取引を行うにあたって必要となる、増値税発票も発行できる(特定の保税区では交易市場を通じて、それ以外の保税区では、企業が自社発行可能)ため、実際には国内取引が行われている状況です。

 では、なぜこのような変則的な運用が黙認されているのでしょうか。
 これに対する回答は、極めて困難ですが、確実に言えることは、そもそも保税区のような制限された場所に、外資貿易会社の設立を認めたのは、将来的に外資に対して貿易・国内流通を認めるか否かを判断するに当たっての、実験的な試みであるということです。
 そのため、貿易権の開放、流通分野の規制緩和が実現し、一般地域に外資貿易会社・外資流通会社(卸売企業)の設立が始まれば、理屈としては保税区貿易会社はその任を全うすることになります。

 実際に、外資の卸売・小売企業の設立の根拠法となる、「外商投資商業領域管理弁法」が2004年6月1日より施行されたことより、外資商業企業(卸売・小売)の設立が本格化する下地ができつつあると言うことができます(できつつある、という表現を使用したのは、実施細則が公布されるかどうか、運用面での対応がどうなるかが、現状不透明なためです)。
 この状況を受けて、(上述の通り、実験的な意義により黙認されてきた)保税区貿易会社の変則的な運用に対して、制限が開始される可能性が想定されます。
 今回の調査は、単なる局地的な動きか、全体的な動きになるかはさておいて、それにあたっての初期的なアクションと捉えることもできます。
 実際に、調査員は、「2004年12月11日になれば、独資の商業企業が設立できるので、それに基づいて国内販売は行うべきである」という点を強調しています。

 では、2004年12月11日になり、「制度上は」独資商業企業ができるようになった場合、現在の保税区貿易会社の位置付けはどうなるのでしょうか。
 これを推測するにあたっては、まず、保税区自体が今後どうなっていくのか、という点について考えてみる必要が出てきます。保税区の有り方自体については、昨年より様々な検討が行われています。
 今年初めには、保税区・税関・その他の関連者が「保税区の方向性」を協議していますが、ここでは、一部の保税区(3箇所程度)以外は、将来的に、輸出加工区・経済技術開発区などに変更することが、基本方針として採択されています(具体的な移行期間は未定)。
 つまり、一部の保税区は、港と連動し、金融・貿易・物流を主体とした自由貿易港に拡大発展させ(準香港というイメージ)、その他の保税区については、「保税措置を留保した純粋な加工区(輸出加工区)」、もしくは「保税措置を撤廃した開発区(経済技術開発区)」に移行することが検討されているわけです。
 ここからも分かる通り、時期の問題はさておいて、将来的には、保税区の変則性を是正し、あるべき方向に戻そうという流れがあると言うことができます。

 ただし、現実問題として、全国の保税区には数千社の貿易会社が存在しているという事実を無視することはできません。この現実を無視して、短期的に保税区貿易会社の活動を制限した場合、ほとんどの貿易会社は撤退を余儀なくされ、その影響は極めて甚大なものとなります。
 ソフトランディングのためには、保税区の貿易会社から、通常の(外商投資商業領域管理弁法に準拠した)商業企業への移行ができることが最良の方法ですが、少なくとも2004年12月11日までは独資形態の商業企業設立は制度的に不可能です。
 また、それ以降についても、設立認可取得の運用上の難易度はどうか、保税区貿易会社から通常の商業企業に形態を変更できるのかについては状況が不透明ですし、さらに保税区が、自由貿易港・輸出加工区・経済技術開発区等の開発区に切り替わるタイミングについても、詳細は不明です。

3.外商投資商業領域管理弁法に基づいた商業企業は容易に設立できるのか

 では、外商投資商業領域管理弁法に準拠する外資商業企業(とくに卸売企業)の設立は、いつから本格化するのでしょうか。独資商業企業の設立が認められる、2004年12月11日以降は、外資商業企業の設立申請が相次ぐことが予想されます。ただし、(運用上)容易に設立認可が取得できるかどうかについては、まだ状況は不透明であると言えると思います。

 同規定が2004年4月に公布された時には、中国ビジネス関係者の間で少なからぬ混乱が生じました。これは、従来の規定(外商投資商業企業試点弁法⇒外商投資商業領域管理弁法施行と同時に廃止)とはうって変わって自由な規定内容になっていたためです。
 従来の規定(外商投資商業企業試点弁法)は、外資商業企業の設立に対して事細かな制限を行っていました。とくに、出資比率・出資者の資格・最低資本金などに対しては、極めて高いハードルが設定されていたため、新規定の公布前は、「たとえ規定改定が実現しても、最低資本金・出資者の資格など、WTO加盟時に規制緩和の公約を行っていない事項については、それなりの制限は残るであろう」というのが、一般的な観測でした。
 ところが、実際に新規定が公布されてみると、最低資本金・出資者の資格などについては制限が撤廃されていますし、出資比率についても、WTO加盟時の公約通り、2004年12月11日には制限を撤廃し、独資の商業企業設立を認めることが謳われています。
 このため、現在でも、「外資商業企業の設立が完全に開放された。会社法に定める最低資本金50万元で、容易に外資卸売企業が設立できるようになる」という声をよく聞きます。これは、本当でしょうか。

 これを考えるにあたり、忘れてならないのは、以下の点です。

  1. 独資卸売企業の設立に関しては、依然として国家認可が必要であること。
  2. 外資企業の最低資本金は、総投資と一定の関係を保つことが、規定により定められていること(中外合資企業の登録資本金と総投資額の比率に関する暫定規定:工商企字[1987]第38号。ただし、合資企業だけでなく、三資企業全般に準用される)。

 つまり、50万元というのは単なる名目的な金額であって、実際上は、フィージビリティスタディ(FS)に基づく必要総資金額(総投資額)の一定割合を資本金とするのが、実務上の資本金決定方法となります。さらには、独資卸売企業は、地方認可だけでは設立できず、国家(商務部)認可の取得が必要ですので、認可取得に際しては、時間も要しますし、何よりFSの妥当性・認可を与えることの意義が念入りに審査されます。
 このため、外資商業企業、とくに独資卸売の設立認可が急速に容易になると考えるのは早計と言っても良いでしょう。

 さらには、貿易権・流通権の開放にあたっては、傘型会社・貿易会社の設立条件との齟齬も生じています。
 つまり、外資貿易会社(2003年に新規定公布)の最低資本金は、依然として5千万元のままですし、ましてや、通常の外資企業に先行して貿易権・流通権を開放することが予定されていた傘型会社においては、「3千万米ドルの資本金を投資目的で使い切って、初めて傘下企業以外の中国内調達製品の輸出が認められ、1億米ドルの資本金を払い込んで(もしくは、それ以外の条件をクリアして)、初めて海外の親会社製品の輸入と中国内販売が認められる」という、極めて厳しい条件に据え置かれています。
 傘型会社を設立する目的は、各社それぞれであると思いますが、総じて言えば、以下の通りと推測されます。

  • 短期的

    関連会社に支給する製品の一括調達、及び、関連会社製品の代理販売

  • 将来的

    親会社製品、もしくは、国外の関連会社製品の輸入と中国国内販売

 ただし、これらの業務は、外資商業企業(卸売企業)の営業範囲に含まれるべきものであり、外資卸売企業が、容易に設立できるのであれば、傘型会社を設立することに意義を感じる外国企業はほとんどなくなってしまうでしょう。
 従って、外資商業企業の設立認可発給を本格的に開始する前に、この点の調整が図られるというのが、まずは常識的な観測であろうと思います。

 いずれにしても、今後、これらの点について、何らかの調整が図られるのか、さらには、実務上、独資商業企業の設立認可がどの程度容易に取得できるようになるのか、という点については、しばらく状況を見守る必要があるといえるでしょう。

(2004年8月記・4,666字)
丸紅香港華南会社コンサルティング部長・広州会社管理部長
水野真澄

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