こんにちわ、ゲストさん

ログイン

企業所得税の統合(2)

中国ビジネスレポート 税務・会計
田中 修

田中 修

無料

2007年4月26日

記事概要

2007年全人代は、3月16日「中華人民共和国企業所得税法」を可決した。同法は2008年1月1日から施行されることになる。本稿では、金人慶財政部長の説明、審議経過、各界の反応等を紹介しておきたい。

企業所得税の統合(2)

 

田中  修

 

はじめに

 2007年全人代は、3月16日「中華人民共和国企業所得税法」を可決した。同法は2008年1月1日から施行されることになる。本稿では、金人慶財政部長の説明、審議経過、各界の反応等を紹介しておきたい。

 

1.金人慶財政部長の説明(2007年3月8日)[1]

 

1.1 経緯

 2003年党16期3中全会で「各種企業税収制度の統一」が決定されたことに基づき、財政部・国家税務総局・国務院法制弁公室は共同で「中華人民共和国企業所得税法(意見徴求稿)」を起草し、2004年に書面で全人代財経委、全人代常務委法制工作委・予算工作委、各省・自治区・直轄市・計画単列市[2]人民政府、国務院関連部門の意見を徴求した。また、個別に関係部門・企業・専門家が参加する座談会を開催し、意見を直接聴取した。

 2006年、再度32の中央単位から意見を徴求し、更に修正を加えた後「中華人民共和国企業所得税法(草案)」(以下「草案」)を作成し、国務院常務会議の討論・通過後、国務院は2006年9月28日に全人代常務委に審議を提案。

 全人代常務委は、25回会議を開催し草案の審議を行い、2007年1月、全人代常務委弁公庁は草案を全人代代表に送付。

 常務委の構成員、全人代関連専門委員会の審議意見、全人代代表が提出した意見に基づき、国務院は草案を更に修正し、現在の草案を作成した。

 

1.2 立法の必要性・提出時機

 わが国の現行の企業所得税は内資・外資企業を区別して立法している。外資企業には1991年全人代を通過した「中華人民共和国外商投資企業・外国企業所得税法」(以下「外資税法」)が適用され、内資企業には1993年に国務院が公布した「中華人民共和国企業所得税暫定条例」(以下「内資税法」)が適用されている。

 20世紀70年代に改革・開放が実行されて以来、外資を吸収し、経済を発展させるために、外資企業に対し内資企業と異なる税制を採用することの必要性は現実が証明しており、改革・開放、外資吸収、経済発展促進に重要な役割を発揮した。

 2006年末、全国累計で批准された外資企業は59.4万社、実際の外資利用額は6919億ドルとなっている。2006年の外資企業の各種納税額は7950億元であり、全国税収の21.12%を占めている。

 現在、わが国経済社会状況は、大きな変化が発生しており、社会主義市場経済は初歩的に確立された。WTO加盟後、国内市場は外資に更に開放され、内資企業も徐々に世界経済システムの中に組み込まれており、ますます大きな競争のプレッシャーに直面している。このようななか、内資・外資企業に異なる税制を継続することは、必然的に内資企業を不平等な競争の位置に置くことになり、統一し、規範的で、公平な競争が行われる市場環境を確立することに悪影響を及ぼすことになる。

 現行の内資・外資企業所得税制は執行面においていくつかの問題が暴露されており、新情勢の要求に既に適応しなくなっている。

(1)現行の内資税法・外資税法は差がかなり大きく、企業間の税負担が不公平となっている。

 現行税法は税制優遇、控除等の政策において、外資企業にかなり緩やかであり、内資企業にかなり厳しいという問題がある。

 全国企業所得税の税源調査資料に基づき推計すると、内資企業の平均実質税負担は25%前後であり、外資企業は15%前後であり、内資企業が外資企業を10ポイント上回っている。このため、企業から税制待遇の統一と公平な競争の呼び声がかなり高まっているのである。

(2)現行企業所得税の優遇政策はかなり大きな抜け穴があり、企業の経営行為を歪曲し、国家の税源流出を引き起こしている。

 例えば、一部の内資企業は資金を国外に移した後、国内に再投資する方式により、外資企業所得税の優遇を享受しているのである。

(3)現行の内資税法と外資税法の実施から10年余りが過ぎ、わが国の経済社会状況に大きな変化が発生しており、新状況に対応してタイムリーな整備・修正が必要となっている。

 現在、わが国経済は高成長の時期にあり、企業全体の収益は近年大きく向上しており、財政収入は良好な伸びを維持している。国際的な税制改革の経験によれば、このような情勢下で企業所得税改革を進行するのであれば、国家財政と企業の受容能力が比較的強いので、改革には有利なタイミングとなる。

 

 1.3 企業所得税改革の指導思想と原則

(1)指導思想

 科学的発展観と社会主義市場経済体制の総体的要求、「簡素な税制、広い課税ベース、低い税率、厳格な徴収管理」の税制改革原則、国際経験に基づき、各種企業に統一的に適用される科学的・規範的な企業所得税制度を確立し、各種企業にとって公平な市場競争環境を創造する。

(2)原則

A公平な税負担を貫徹する。

現在の内資・外資企業税制の待遇の相異と税負担の格差がかなり大きい問題を解決する。

B科学発展観を実施する。

経済と社会、地域間の調和のとれた発展を統一的に企画し、国民経済の持続可能な発展を実現する。

Cコントロールの役割を発揮する。

国家の産業政策の要求に基づき、産業の高度化・技術の進歩を推進し、国民経済構造を改善する。

D国際慣例を参照する。

世界各国の税制改革の最新経験に基づき、企業所得税制度を更に充実・整備し、可能な限り税法の科学性・完全性・先見性を体現する。

E分配関係を調整する。

 財政の受容能力と納税者の負担水準を併せ考慮し、財政収入を有効に組織化する。

F徴収管理に資する。

 徴収管理行為を規範化し、納税者の便宜を図り、収の徴収納付コストを引き下げる。

 

 1.4 草案の主要内容

 次の「4つの統一」を体現している。

A内資・外資企業に統一的な企業所得税法を適用する。

B企業所得税の税率を統一的かつ適切に引き下げる。

C控除の方法・基準を統一・規範化する。

D税制優遇策を統一し、「産業優遇を主とし、地域優遇で補う」新たな税制優遇体系を実行する。

 特に説明しておきたいのだが、全人代が新税法を通した後、国務院は新税法に基づき実施条例[3]を制定し、関連規定を更に細分化し、新税法と同時に実施する。

 

1.4.1 税率

 現行の内資企業・外資企業の所得税の税率は共に33%である。同時に、一部の特殊地域の外資企業には24%、15%の優遇税率を実行しており、内資の零細企業には27%、18%の2段階の優遇税率を実行するなど、税率の段階が多く、企業の類型によって名目税率と実質税率の負担格差がかなり大きい。

 草案では、新税率を25%に確定した。これには、主として次の点を考慮している。

A内資企業の税負担を軽減し、外資企業に対してはできる限り税負担増を少なくする。

B財政減収を受容可能な範囲内にコントロールする。

C国際上、とりわけ周辺国家(地域)の税率水準を考慮する。

 全世界の159の企業所得税を実施している国家(地域)の平均税率は28.6%であり、わが国周辺の18の国家(地域)の平均税率は26.7%である。草案が規定する25%の税率は、国際上は真ん中よりかなり低い水準であり、企業の競争力と外資導入の向上に資する。

 

1.4.2 税制優遇

(1)主要内容

 以下の5つの方式で、現行の税制優遇政策を調整した。

A条件に符合した小型零細企業には20%の優遇税率を実施し、国家が重点的に支援しなければならないハイテク企業には15%の優遇税率を実施する。また、ベンチャー企業と企業の環境保護・省エネ・節水・安全生産等の面の投資への税制優遇を拡大する。

B農林・牧畜・漁業、インフラ投資に対する税制優遇策は保留する。

C労働サービス企業[4]、福利企業、資源総合利用企業への直接減免税政策は、代替的な優遇策に替える。

D法律により設置された経済特区及び国務院が規定した上海浦東地区内に新たに設立された、国家が重点的に支援しなければならないハイテク企業は、過渡的な優遇を享受できる。また、国家が確定した西部大開発地域における奨励企業への所得税優遇策は引き続き執行する。

E生産性外資企業の期限付き減免税優遇策、及び産品を主として輸出している外資企業に対する税半減優遇策は廃止する。

 このほか、全人代代表の提出した意見に基づき、草案は「企業が環境保護プロジェクトに従事した所得」及び「条件に符合した企業の技術移転所得」に対する減免税優遇を追加した。これは、国家の環境保護と技術進歩を奨励する政策の精神を体現したものである。

 以上の調整を通じ、草案が確定した税制優遇は主として、技術イノベーション・科学技術進歩の促進、インフレ建設の奨励、農業の発展・環境保護・省エネの奨励、安全生産の支援、公益事業及び弱者集団への支援促進、自然災害特定プロジェクトへの減免税優遇策等が含まれる。

 ハイテク企業・小型零細企業は国民経済において特殊な地位を占めており、一部の国家の経験からしても、国家が重点的に支援しなければならないハイテク企業と小型零細企業に優遇税率を実施することは必要である。現在国務院関連部門は、ハイテク企業と小型零細企業の認定基準(実施条例で規定)について検討・論証を行っている。

(2)元々法定の税制優遇を享受していた企業には過渡的措置を実施する

 新税法が一部の旧企業の税負担を増加する影響を緩和するため、次の過渡的措置を与える。

A現行税法の規定により15%・24%等の低税率優遇を享受していた旧企業は、国務院規定に基づき、新税法施行後5年以内は低税率の過渡的配慮と5年以内に段階的に新税率に達する過渡的措置を享受することができる。

B現行税法の規定により期限付き減免税の優遇を享受していた旧企業は、新税法施行後現行税法の規定する優遇基準・期限に基づき未だ享受し終わっていない優遇を引き続き享受できる。ただし、未だ利益が出ずに優遇を享受していない企業については、優遇期限は新税法の施行年度から起算する。

C過渡的措置の政策性が強いこと、状況が複雑であることを考慮し、草案では上述の過渡的措置の具体的方法を国務院が定めることとしている。

 

  1.4.3 納税者・納税義務

(1)納税者

 大多数の国家は個人以外の組織ないし実体に課税しており、これは法人を基準に納税者を確定するものであり、法人税制の実施が企業所得税制の改革の方向である。

 このため、草案は現行内資税法の「独立経済計算」を基準に納税者を確定する規定を廃止した。同時に、納税者の範囲を企業その他収入のある組織と確定した。

 また重複課税を避けるため、個人独資(全額出資)企業とパートナーシップ企業には本法を適用しない。

(2)納税義務

 国際上通用している方法に基づき、草案は規範化された「居住者企業」と「非居住者企業」の概念を採用し、居住者企業には全面的な納税義務を課し、その国内外の全所得を納税対象とする。非居住者企業には限定的な納税義務を課し、一般的に国内を源泉とする所得のみを納税対象とする。

 国際的に居住者企業の判定基準には「登記地基準」、「実質的管理機関基準」、「本社所在地基準」等があるが、大多数の国家は多くの基準を組み合わせる方法を採用している。わが国の実際状況を加味し、草案は「登記地基準」と「実質的管理機関基準」を組み合わせることとし、居従者企業と非居住者企業を明確に画定した。

 

  1.4.4 納税所得額

 草案は、企業の毎納税年度の収入総額から、非課税収入、免税収入、各種控除、過年度欠損のうち補填が認められたものを減額して納税所得額を算定している。

(1)収入

 草案は、収入総額を「企業が貨幣形式・非貨幣形式により各種源泉から取得した収入」と定義し、同時に、非課税収入は、財政交付金、財政管理に組み入れる行政事業的性格の料金収入、政府性基金等財政資金に属する収入であると規定している。

 草案はさらに、国債の利子収入、条件の符合する居住者企業間の配当・特別配当等権益性投資収益等を「免税収入」と規定している。

(2)控除・資産の税務処理

 現在、内資・外資企業所得税は原価費用等の控除の面で異なる規定をしている。例えば、内資企業所得税では、課税上認められた給与額(1人当たり月1600元)までを費用計上することとされているが、外資企業所得税は実額控除制度が実施されている。

 草案は、企業が実際に発生した各種支出の控除政策を統一し、公益的な寄贈の控除基準を規定し、控除できない支出の範囲を明確にしている。同時に、企業が実際に発生した固定資産、無形資産、長期前払費用、投資資産、棚卸資産に関連した支出控除について、規定を統一している。

 

  1.4.5 徴収管理

(1)納税方式

 現行方法では、内資企業は独立経済計算単位を納税者として現地で納税し、外資企業は企業本社が一括納税している。

 草案では、納税方式を統一し納税者の便宜を図るため、中国内で法人資格を具備しない営業機関を設立した居住者企業は、一括計算して企業所得税を納めなければならないとしている。

(2)特別納税調整

 現在、一部の企業は各種の租税回避手段を用いて所得税を回避しようとする現象が日増しに深刻化しており、租税回避と反租税回避の闘争は日増しに激烈になっている。

 各種の租税回避行為を防止するために、草案は国際慣例に基づき、関連会社間の移転価格防止について明確に規定している。同時に、一般的な反租税回避、資本弱体化防止、タックス・ヘイブン防止、査定手続き及び税追徴において国務院規定に基づき利子を追加徴収する等の規定を増加した。反租税回避手段を強化したことは、租税回避行為を防止し、国家利益を擁護することに資するものである。

 

 1.5 企業所得税法が企業税負担及び財政収入に与える影響

(1)企業の税負担への影響

 内資企業にとっては、主として税負担の軽減となる。新税法実施後、内資企業の法定名目税率は33%から25%に引き下げられ、8%の低下になる。

 外資企業にとっては、税負担がやや増える。外資企業所得税の法定名目税率も33%から25%に引き下げられるが、一部の外資企業は元々享受していた24%ないし15%の低税率優遇が、それぞれ1%、10%上昇することになる。

 しかし、旧企業に対して一定期限の過渡的優遇措置を採用しているため、その生産経営に大きな影響を及ぼすことはあり得ない。国際経験からすれば、安定した政治局面、発展が良好な経済情勢、広大な市場、豊富な労働力資源、及び不断に整備される法制環境と政府サービス等が、外資を引き付ける主要な要因であり、税制優遇は一面にすぎない。新税法の実施も、外資の吸収に大きな影響を生むことはあり得ない。

 また新税法執行後、一部の外資企業は新税法の規定に基づきハイテク企業優遇税率及び小型零細企業優遇税率を引き続き享受でき、一部の外資企業は過渡的優遇政策を享受できるので、新税法執行後、外資企業の当期財務コストに大きな影響を与えることはあり得ない。

(2)財政収入への影響

 総体として法定税率が引き下げられ、控除基準が引き上げられるため、2008年に新税法を実施した場合、現行税法での計算と比べ財政の減収は約930億元となり、そのうち内資企業所得税の減収が約1340億元、外資企業所得税の増収が約410億元である。元々法定の税制優遇を享受していた旧企業に過渡的措置を実施することを考慮すれば、新税法を実施する初年度の財政減収は更に大きくなるが、これは財政の受容可能な範囲内である。

(3)税源移転問題

 新税法実施後、本店・支店合算納税が実施されるため、一部地域に税源移転問題をもたらす可能性があり、税源が移出する地域の財政に一定の影響を与えることになる。

 2002年に所得税税収分配改革を実施した際、我々は地域(1級行政区)を越えて合算納税する企業の所得税収入について、要因別に分配し税金を予定納付する方法を実施し、一定程度税源移転問題を解決している。

 このほか、現行の一般的移転支出[5]の方法に基づき、税源が移出する地域の財政力は自動的に一定の補償を得ることができる。中央財政の(地域間の)均衡に向けた力が不断に強化されるにつけ、この種の補償メカニズムの働きは益々明白になろう。新税法実施後、我々は税源移転問題につき追跡調査を実施し、新たに出現した問題をタイムリーに検討・解決する。

 

2.全人代による修正

 

 2.1 審議経過

 3月8、9日、全人代代表により企業所得税法案の審議が行われ、全人代法律委員会は代表の意見及び関連専門委員会の審議意見に基づき、草案の修正稿を提案した。

全人代主席団第2次会議は、12日表決を行い、修正稿を大会の審議にかけることを決定した。

 13日、全人代代表は修正稿を審議し、今次大会で表決に付すことに概ね同意が得られたが、一部の委員から改正意見が出された。このため、全人代法律委員会は代表の意見に基づき14日午後審議を重ね草案建議表決稿を提案した。

 15日午前、法律委員会主任楊景宇は、主席団第3次会議に修正稿に関する修正意見の報告を行った。代表団は審議を行い、草案建議表決稿を大会の審議に付すことを決定した(2007年3月15日新華社北京電)。

 16日午前、全人代は閉幕会を挙行し、中華人民共和国企業所得税法を、賛成2826票、反対37票、棄権22票で可決した(2007年3月16日人民網北京人民大会堂発)。

 

 2.2 修正部分

 全人代法律委員会楊景宇主任によれば、草案の改正は15箇所であったが、主要なものは次の4箇所であった(2007年3月20日新京報)。

(1)公益的寄贈の控除率を12%に引き上げる

 草案では、企業の公益的寄贈は、年度利潤総額の10%以内の部分を納税対象所得額の計算の際、あらかじめ控除できる旨規定していた。

 審議の過程で一部の代表及び財経委員から、「公益的な寄贈を奨励するため、控除率をさらに引き上げてはどうか」という提案がなされた。

 法律委員会は、財経委員会及び国務院関連部門と検討し、控除率を10%から12%に引き上げることにした。

(2)省エネ・節水に対して所得税を減免できることとする

 審議の過程で一部の代表及び財経委員から、「省エネ・節水は持続可能な発展と関係が大きく、省エネ・節水を奨励するため、企業が省エネ・節水プロジェクトに従事した所得に対して、税制優遇を与えるべきではないか」との提案がなされた。

 法律委員会は財経委員会及び国務院関連部門と検討し、草案に「企業が条件に符合した省エネ・節水プロジェクトに従事した所得に対して、企業所得税を減免することができる」旨の規定を追加した。

(3)公共施設の減免税について、具体的プロジェクトを削除した

 草案では、企業が港湾、埠頭、空港、鉄道、幹線道路、電力、水利等国家が重点的に支援する公共インフラプロジェクト投資経営に従事した所得に対して、企業所得税を減免できることとしていた。

 審議の過程で、一部の代表及び財経委員から、「わが国の経済発展に伴い、国家の重点的支援に属する公共インフラプロジェクトは、実際の状況に基づいて国務院により所要の調整が必要であり、本法では具体的に列挙しない方がよい」、同時に「草案に列挙されているプロジェクト中、あるものは利潤率が既に高く、なおも長期に税制優遇を与えるべきか検討する必要がある」との提案がなされた。

 法律委員会は財経委員会及び国務院関連部門と検討し、具体的プロジェクトを削除することとし、「国家が重点的に支援する公共インフラプロジェクト投資経営に従事した所得に対しては、企業所得税を減免できる」旨に改めた。

(4)税額に関わる2つの条項を削除した

 草案では、納税所得額の計算に際して、企業内営業機関間で支払われた賃貸料・特許権使用料、及び銀行以外の企業内営業機関の間で支払われた利子、並びに企業間で支払われた管理費は控除できないこととなっていた。

 審議の過程で、一部の代表から、「企業内の営業機関は決して単独計算により納税を行っておらず、企業の合算により納税している。この規定は主として過渡期における一部企業内の営業機関の予定納税を解決するためのものであり、法律にはこのような規定を置かなくてもよい。企業間で支払われた管理費は、控除できないものもあるが、労務の性質を有する管理費には控除が認められるものもある。この問題は、国務院財政部門・税務部門が本法の関連規定に基づき具体的規定を定めればよい」との提案がなされた。

 法律委員会は財経委員会及び国務院関連部門と検討し、草案からこの規定を削除した。

 

3.各界の反応

 

 3.1 政府・全人代関係

(1)商務部長 薄熙来(2007年3月16日新華社北京電)

 2税の統一は、統一・規範的・公平な市場環境を確立することに資する。中国の改革・開放は既に28年に及び、税制改革を進めるうえで2税の統一は、大勢の赴く所である。

 過去に内資と外資の税制を分けたことは、合理的であった。なぜなら、これは多くの外資が中国市場に参入することを奨励したからである。現在2税を統一することも合理的である。なぜなら、これは中国の外資利用水準が更にハイレベルに向かうことを推進するからである。

 中国の外資企業に対する総合的な吸引力は、これによって弱まることはない。外資が中国に来るのは、1つの要因によって駆られるものではなく、他の要因も重要である。例えば、インフラ、科学技術による下支え、労働力の素質、産業のフルセット能力、融資条件、社会安定等も考慮するのであり、こちらのウエイトが税制よりも大きい。更に重要なのは市場を見るべきだということである。中国はまさに世界で発展の最も速い市場なのだ。

(2)国家発展・改革委マクロ経済研究院 張燕生(2007年3月16日新華社北京電)

 中国の外貨準備は1兆ドルの大台を突破し、外貨・資本はもはや中国の経済発展のボトルネックではない。資金不足は、もはや外資を導入する主要目的ではない。

(3)全人代財経委員会委員 張生肖(2007年3月16日新華社北京電)

 企業所得税法が税率・優遇・控除を統一し、優遇を地域主体から産業主体に転換したことは、中国がハイテク・農業・環境保全・省エネ産業を発展させ、経済構造を調整することに巨大な役割を果たすものである。

(4)人民銀行総行研究局 張(女性、名は不明)(2007年3月16日人民政協報)

 2税合併後の最大の受益者は、金融企業とりわけ銀行業である。

 中国の銀行で最も不足しているのは、資産利益率・資本利益率が国際先進水準と大きな開きがあり、アジアの一部の銀行よりもかなり低いことである。新税法の調整後は、銀行の利益獲得能力向上と業績の改善に非常にプラスの働きをする。このほか、中小銀行を含む上場銀行は、市場において投資家の追加出資を引き続き受けることができるようになる。

 なぜなら、金融企業の所得税率は基本的に全て33%であり、これらの企業は元々国有ないし国有支配の性質が強く、彼らは財務上租税回避手段を一般的に用いることがなかった。わが国の金融企業の実現している利潤・税負担は金額が相対的に大きいので、減税の絶対額も非常に大きくなる。

(5)北京経済技術開発区管理委員会主任 張伯旭(2007年3月16日人民政協報)

 今年1月、北京経済技術開発区の外資投資額は前年同期比で3.6倍になった。これは、外資が中国の市場及び対中投資への関心を弱めているどころか、強めているということである。

(6)商務部研究院外資研究部主任研究員 金伯生(2007年3月16日人民政協報)

 2税の統一までに長い調整時間があり、広範に外資企業の意見を聴取したので、少なからぬ企業は既に対応・調整を行っており、シンドロームは発生しない。

 

 3.2 学者

(1)北京大学教授・全国政協委員 林毅夫(2007年3月16日新華社北京電)

 改革開放初期、中国の資金・外貨は不足し、市場体制は不健全であったので、外資に一定の超国民待遇を与えることは必要であった。外資に一定の優遇を与えることは、我々が更に多くの外資を中国に吸収し、資金不足を補い、輸出を増加し、外貨不足を補うことに資するからである。

(2)国務院発展研究センター対外経済研究部長 張小済(2007年3月16日新華社北京電)

 法律上からみて、今後ハイテク・環境保全型の産業は依然優遇があり、これは内資・外資同一であるが、この方面については多国籍企業が明らかに優位であり、競争によって彼らは更に容易に利益を受けることになる。

(3)中国政法大学法・経済研究センター教授 劉紀鵬(2007年3月16日人民政協報)

 総体的に見て、税率引下げにより国有企業、とりわけ国有金融業の実力は更に増強することになる。

 金融業は特許業種であり、地点の選択の自由がなく、長期にわたってわが国のその他業種が特区・中外合資を利用して得てきた所得税優遇を利用できなかった。したがって、2税統一後は、金融企業が大きな受益者となるのは道理である。

(4)江蘇省社会科学院長・全国政協委員 宋林飛(2007年3月16日人民政協報)

 税率引下げは、金融・不動産・資源・通信等の上場会社の利益獲得能力・利潤水準の向上に資することになろう。

(5)中国税務学会会長・全国政協委員 楊崇春(2007年3月16日人民政協報)

 企業の税負担は、世界の平均税率よりも低く、アジアの一部の国家・地域の平均水準よりも低いので、外資企業に対してはなお一定の吸引力がある。したがって、投資環境全体の整備に伴い、外資への吸引力は強まっても弱まることはない。

(6)社会科学院民営経済研究センター主任 劉迎秋(2007年3月16日人民政協報)

 民営企業にとって2税統一の最大の意義は、「非国民待遇」問題が終了したことである。長期にわたり、種々の原因からわが国の企業税制において、外資・国有・民営企業は「3・6・9」の異なる税率制度を受けてきた。一部の地方・部門は政策を制定する際、往々にして民営企業の存在を粗略に扱ってきた。

 国家が2税を統一したことは、法形式により民営企業とその他所有制企業の権利平等と競争への参加を保証したものである。

 

 3.3 業界

(1)中国対外運輸(集団)公司・全国政協委員 苗耕書(2007年3月16日新華社北京電)

 中国がWTOに加盟して、これだけの年月が過ぎた。公平な競争環境を創造することは、WTOの基本要求であり、税制の統一は正に外資に国民待遇を与えるということである。

(2)安永会計士事務所北京税務・商務コンサル部主管パートナー 李展偉(2007年3月16日新華社北京電)

 企業所得税の統一は、外資の中国への投資熱を消滅させることはない。彼らは中国の巨大な市場潜在力を重視しており、たかが税制優遇政策に限定されるものではない。

(3)国有企業国際(集団)有限公司董事長・全人代代表 蔡鴻生(2007年3月16日人民政協報)

 33%から25%への税率引き下げは、国有企業にとって大きな利益である。内資・外資企業の所得税率が統一されたことにより、両者が同一のスタートラインで競争を開始できるようになる。

(4)中国兵器工業総公司財務部責任者 匿名(2007年3月16日人民政協報)

 国有企業は一部の政府職能を負担し、国家財政税収の主要ルートであったため、長期間税負担がその他の性質の企業より重かった。このことは、企業の経営規模を大きくすることに悪影響を及ぼし、実力の強化が困難となった。内外の税制が25%に合併されたことは、国有企業の税負担を数億元減少させることになると予想され、このことにより国有企業が更に多くの収益を再生産・研究開発に投入し、自身の実力を更に増強できるようになる。

(5)工商銀行北京分行責任者(2007年3月16日人民政協報)

 特に上場銀行の多くはかなり大きな銀行なので、利潤総額も比較的大きく、税率引下げによる利潤増の絶対額が非常に大きい。

(6)中国建設銀行董事長・全国政協委員 郭樹清(2007年3月16日人民政協報)

 2税統一後、建設銀行の税負担は4分の1減少する。経営状況が変わらない場合、どの程度利益が増加するかについては、確かに推計は行っているが、具体的数字を明らかにすることはできない。

(7)吉利持株会社董事長・全国政協委員 李書福(2007年3月16日人民政協報)

 2税統一により、中国の民営企業は自身の特色と優位性を結合し、「草の根経済」という独特の役割を発揮することになろう。

(8)通威集団董事長・全国政協委員 劉漢元(2007年3月16日人民政協報)

 これまでの内外区別、国有企業・民営企業の区別のやり方は、明らかに税制による差別であり、しかも給与が全額費用に算定されなかったことは民営企業に大変重い負担をもたらし、企業の人力資源コストへの投入と労働生産性の向上を大きく抑制し、民営企業従業員の仕事の創造性・積極性に悪影響を与えてきた。

(9)恒安集団董事局主席・全国政協委員 許連捷(2007年3月16日人民政協報)

 この法の提起は非公有制企業への大きな朗報であり、非公有制企業のため公平な競争の市場環境を創造することに資するものである。

(10)内資不動産上場会社の高級幹部(2007年3月20日上海証券報)

 2税合併が内資不動産企業に与える影響には差異がある。15%の優遇税率が実施されている深圳特区で大量の開発プロジェクトを抱えている内資不動産は、税率が25%になるので、開発コストは必ず増加する。

(11)電力業者(2007年3月20日上海証券報)

 電力業には外資が少ないので、2税統一の電力業に対する影響はかなり小さい。

(12)石炭業者(2007年3月20日上海証券報)

 採掘業への影響は大きくないが、現在興隆中の石炭化学工業には影響が出るだろう。

 

 3.4 外資

 2005年1月、ゼネラルモーターズ、ゼネラルエレクトリック、デル、ペプシコーラ、ノキア等は55社連名で、国務院法制弁公室、財政部、商務部、国家税務総局に「中国に投資している多国籍企業の新企業所得税法に対する若干の見解」を提出し、その中で「外資企業への優遇策の取消しには5-10年の過渡期を設けるべきである」との意見を明確に示していた(2007年3月19日中国経営報)。しかし、今回の反応は比較的冷静なようである。

(1)カルフール中国地区総裁 羅国偉(2007年3月20日上海証券報)

 カルフールは、2税統一政策の提起に密接に注意を払ってきたが、この政策が中国におけるカルフールの投資の信念・力の入れ具合に影響を与えることはない。我々は企業の発展、市場秩序の規範化、投資環境の整備に資する関連政策及び法規の提案を歓迎し、かつ真剣に執行しなければならない。

(2)モトローラ(中国)電子有限公司総裁 高瑞彬(2007年3月16日人民政協報)

 多くのその他の要因が非常に重要だ。これには、安定した経済、政治環境、政府の外資による直接投資への政策的支援が含まれる。たった1つの税制の状況で方針決定をすることはない。

(3)ネスレ(中国)有限公司助理公共関係経理 何彤(2007年3月16日人民政協報)

 ネスレは、中国が市場ルールの整備に資する税率調整を行うことを支持する。税制優遇は外資が投資の是非を決定する唯一の要素ではない。社会の安定局面、経済発展の速度、対外開放の程度、総合的な投資環境、市場の容量、労働力コスト等の投資環境全体を総合的に考慮している。

(4)本田技研工業専務 兵後篤芳(2007年3月19日中国経営報)[6]

 中国政府が打ち出した税制政策の変化について、我々は正に考慮しているところであり、もし極端な状況が出現した場合には、我々も極端な対策を採用する。

(5)上海ゼネラルモーターズ公関経理 陳焔明(2007年3月19日中国経営報)

 我々は新税法を詳細に検討しているところであり、多方面の対応措置を制定し、これによるコスト増加を消化するつもりである。価格引上げ措置を採用するかどうかは、現在は言えない。

(6)フォード中国副総裁 許国禎(2007年3月19日中国経営報)

 フォードの利潤は、5年の過渡期があるので大きな影響を受けない。

(7)外資不動産業者(2007年3月20日上海証券報)

 2税合併の影響は、少し時間がたってから顕れるだろう。現在我々の最大関心事は、細則の制定である。

 

まとめ

 今改正が企業に与える影響は国務院による細則規定が発表されなければ、にわかには判断し難い。今のところ、内資で税制統合を強く歓迎しているのは銀行業・民営企業であり、国有企業も利潤増加を期待しているようである。これに対し、外資は5年の経過措置が採用されたことで、当面冷静さを保っており、むしろ今後の中国の投資環境全体の推移に注目している。中国政府自身は、自国の投資環境にやや過剰なまでの自信をもっているように見える。

 これまで外資が税制面で優遇されてきたことは確かであるが、その分外資は税制面での優遇を理由に地方政府からしばしば奉加帳形式で様々な費用を徴収されてきた。また、内資は様々な手段で利潤を低く見せかけ、課税を逃れてきた。したがって、実際の負担格差が10ポイントもあったかどうかは疑問なしとしない。

今回の改正でそのような地方政府の収奪行為が根絶されるのであれば、内資・外資は同じスタートラインに立ったともいえるが、それを判断するには今後の制度の実施状況を注目する必要があろう[7]。(4月4日記・13,179字)


 


[1]  2007年3月8日人民網をベースにしているが、読者の理解に資するため、適宜小見出しをつけ、簡略化している。
[2]  日本の政令指定都市に相当するもの。
[3]  わが国の施行令(政令)に相当する。
[4]  失業者や機関、企業・事業体の余剰人員を受け入れ、生産、販売事業を行う集団所有制の経済組織をいう(2007年3月8日共同通信解説)。
[5]  中央から地方への財政移転支出のうち、わが国の地方交付税に相当する部分。
[6]  記事には「日経社記者の取材を受けて」とあり、これは日本経済新聞社の取材を引用したもののようである。
[7]  企業所得税法の条文全文訳は、日本国際貿易促進協会「国際貿易」2007年4月2日号に掲載されている。

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ