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国際売買契約における損害賠償額の範囲について

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2003年8月10日

<法務>

国際売買契約における損害賠償額の範囲について

梶田幸雄

はじめに
 外国企業と中国企業との国際取引契約において、さまざまな紛争が生じている。貿易取引に関しては、品質問題がもっとも多く見られる紛争である。このとき契約不履行に伴う損害賠償額はどのように算定されるかという問題が生じる。中国において違約に伴う損害賠償額を算定する判断基準は、どのようなものであるのかについて検討する。検討する題材として、中国X公司とオランダY公司との間で品質にかかわり紛争が生じ、仲裁付託された事件があるので、これを取り上げる。この事件は、本誌4月号で「貿易紛争における国際条約の適用問題」について叙述する中で、1つのケースとして紹介したことがある。しかし、このときには中国が貿易紛争処理の判断基準として国際条約を適用するという視点から、この点のみを取り上げた。このとき、損害賠償額算定の基準についてどのような争点が主張され、仲裁委員会で取り上げられたのかについて詳しく知りたいという質問があったので、ここで国際売買契約における損害賠償額の範囲を算定する基準として何があるのかという視点から叙述することとしたい。


損害賠償額と契約金額との関係が争われた事件(中国X公司 v. オランダY公司事件)(注1)

<仲裁機関> 中国国際経済貿易仲裁委員会(以下、「CIETAC」という。)
<関係条文> The United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods (CISG、1980)(聯合国国際貨物鎖售合同公約)第74条
<当 事 者> 原 告:X公司(中国法人)  被 告:Y公司(オランダ法人)
<主  文> YはXに45万元を支払え。


1 事案の概要

(1) 事実関係
 1994年3月30日、中国X公司(以下、「X」という。)とオランダY公司(以下、「Y」という。)は、北京において国際売買契約を締結した。契約は、YがXに European Old Corrugated Carton をFOB価格で1トン当たり40ドル、合計500トンを2万ドルで売却し、エンド・ユーザーは中国Z公司とするというものであった。

 1994年6月13日に貨物は上海港に到着した。6月13日に当該貨物に対する品質検査が行なわれたところ、(1)貨物の重量不足、(2)品質不良が発見された。XはYに対してクレームを提出したが、Yは当該クレームを拒否した。そこで、Xは1995年1月に仲裁申立を行なった。

(2) 原告の主張
 Xは、Yの貨物の品質不良のため、Zに1トン当たり600元で貨物を売却した。Yは、Xに対して、このためにXが被った当該貨物の価格差損失として45万元を支払え。この理由は、以下のとおりである。

 第一に、損害賠償範囲については、XはZに対して1トン当たり1,500元で当該貨物を転売する契約をしていた。品質不良のために1トン当たり600元で売却したので、1トン当たり900元の損失を被った。

 第二に、損失の予見可能性については、XはYとの契約においてエンド・ユーザーはZであることを明記しており、Yはこの点からXの損失を予見できる。

 第三に、Yの違約によりXが損失を被ったことに対して、直接的な因果関係が認められる。

 第四に、損失を被った時点で損失拡大防止措置をとろうとしても、中国国内の交通事情が著しく悪いこと、および処理コストが非常にかさむことから、措置を講じることができなかった。

(3) 被告の主張
 Yが一定の賠償責任を負うとしても、この原則は以下によるべきである。

 第一に、当事者の一方の違約賠償責任は、もう一方当事者の被った損失に相当するものであるが、これは契約締結時に予見できた損失を上回ることはできない。

 第二に、契約法上の賠償原則は、契約の違約に対する賠償であり、懲罰的なものではなく、契約が履行されれば生じなかったであろう損失分のみを補填するものである。期待利益に関しては、損失を被った一方が、合理的な確定性および予見可能性を必ず証明しなければならない。

 第三に、損失を被った一方は、違約の一方の行為により損失を被ったとすることに対する直接因果関係を証明しなければならない。

 第四に、損失を被った一方であっても、自ら損失軽減を図るための合理的措置を講じる義務がある。

(4) 仲裁委員会の判断
 Yは、Xに45万元をXの損害賠償金として支払え。


2 判断の法律構成

 仲裁委員会は、どのような判断基準で上記の通りの結論に至ったのであろうか。

(1) 適用法
 適用法は、The United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods (CISG、1980)である。

(2) 損害賠償の範囲
 CISG第74条は、次の通り規定する。
「一方の当事者の契約違反に対する損害賠償は、得べかりし利益の喪失も含め、その違反の結果相手方が被った損失に等しい額とする。この損害賠償は、違反をした当事者が契約締結時に知り又は知るべきであった事実及び事項に照らし、契約違反から生じ得る結果として契約締結時に予見し又は予見すべきであった損失を超え得ないものとする。」

 CIETACは、XY間の契約においてエンド・ユーザーの企業名や所在地など具体的存在が定められていたので、YはXが貨物を輸入した後に、中国国内で転売し利益を得ることにつき理解していたと認める。

 損失を被った時点での損失拡大防止措置については、Xの主張を認容し、中国国内の交通事情が著しく悪いこと、および処理コストが非常にかさむことから、措置を講じることができなかったと認定する。

 以上から、損害賠償額の算定については、(1,500元/t−600元/t)×500t=45万人民元を相当とする。

3 判断の分析と検討

 CIETACは、Xの要求を認容した。Xの要求を認容したのは、上述の通りCISG第74条の要件に適用できると判断したからである。

 CIETACの判断は適切といえるか否か。このことを検討するには、(1)契約違反から生じ得る損失を違約方が契約締結時に予見し又は予見すべきであったといえるか否か、(2)この予見可能性の形成基準として、契約締結時に知り又は知るべきであった事実及び事項がどうでたったのかによる。

 この基準は、一般に Foreseeability Doctrine と呼ばれるものである。このForeseeability Doctrine の判断基準については、国際的にも争いがある(注2)。何を持って「予見し又は予見すべきであった」といえるのか。実務上は、多くの経験や先例に学ばざるを得ない(注3)。

 上記の意味で、CIETACの判断の適否について、筆者には判断しかねる。ただ、日本国内の取引実態からすると、得べかりし利益(期待利益)までの損害賠償が認められることは少ないのではないかといえ(注4)、日本企業としてはCIETACの判断を受け入れるには困難がありそうである。

 そこで、実務上において、かかる問題に対処するために、以下のとおりの課題を指摘することができよう。

 第一に、中国の判断基準を理解しておくことである。中国は、損害賠償額の算定基準は、国際条約としてのCISGによるとして、単に契約金額だけではなく相手方の予見可能な損失についても請求対象となることを認定するということである。上述の通り、この予見可能な損失の判断基準については、国際的にも争いがあるところ、中国は本件のとおりの仲裁事例から見られるとおりの判断基準があるのではないかと考えられる。

 第二に、中国に上述のとおりの判断基準があるとすれば、国際売買契約書を作成するときに何らかの注意を払う必要があるのではないかということである。この注意とは、売買契約書における損害賠償条項のなかで、損害賠償額について、契約金額を上限とすることを当初から規定することである。これは、例えば、請負契約における瑕疵担保責任にともなう損害賠償額についても同様のことがいえるであろう。

注1:陳建「交付劣質貨物時賠償額会高于合同金額吗」中国国際商会仲裁研究所編『典型国際経貿仲裁案例』法律出版社、1999年、73-80頁。

注2:例えば、JohnE. Murray, Jr. The Neglect of CISG:A Workable Solution, http://.cisg.law.pace.edu/cisg/wais/db/articles/murray.html

注3:Lajos Vekas, The Foreseeability Doctrine in Contractual Damage Cases, 43 Acta Juridica Hungaria (2002)Nos.1-2,pp. 145-174.

注4:例えば、請負契約の損害賠償額の基準について「交換価値減少分に制限した裁判例」(神戸地判昭63・5・30判時1297・109)がある。瑕疵修補の請求ができない場合に、注文者が請負人に対して請求しうる損害賠償の額は、一般的に言って、瑕疵を修補するために要する費用ということはできない。しかし、瑕疵修補の請求ができない場合の損害賠償の額は、目的物に瑕疵があるためにその物の客観的な交換価値が減

(03年8月10日記・3,246字)
日本経営システム研究所主幹研究員
梶田幸雄

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