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中国における組織再編(1)経営者集中の関連規定と執行状況(3)2/4

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2010年7月5日

記事概要

<InBev N.V./S.A.によるAnheuser-Busch Companies Inc.の買収、三菱レイヨンによるLuciteの買収>企業が組織再編を行う際には、事前に商務部に対して申告し、更には競争制限効果を解消する条件を提出する必要が生ずる場合がある。本稿では、商務部が公告した実例を関連規定とともに紹介する。【2,423字】

3.制限的条件が付加された事例
(1)前提:「制限的条件の付加」に関する規制の概要
禁止をしない経営者集中について、集中により競争に対して生ずる不利な影響を減少させる制限的条件を付加する旨を決定することができると規定されている[1]。さらに、関連規定上、制限的条件に関する規定として、次に掲げるものがある。

(a) 集中参与経営者による制限的条件の提出
集中に参与する経営者は、審査過程において、経営者集中が有し、又は有するおそれがある、競争を排除・制限する効果を除去し、又は減少させるために、集中方案を調整する制限的条件を提出することができる[2]

(b) 制限的条件の種類
当該制限的条件の種類としては、次のようなものが掲げられている[3]

(1) 集中に参与する経営者の資産又は業務の一部を分離する等の構造的条件
(2) 集中に参与する経営者がそのネットワーク又はプラットフォーム等のインフラストラクチャーを開放し、基幹的技術(特許、ノウハウその他の知的財産権を含む。)を許諾し、排他的合意を終了させる等の行為的条件
(3) 構造的条件及び行為的条件を結合した総合的条件

(c) 制限的条件の内容及び修正
経営者が提出する制限的条件は、経営者集中が有し、又は有するおそれがある競争を排除・制限する効果を除去し、又は減少させることができ、かつ、現実的な実行可能性を有しなければならないとされている[4]。また、商務部及び集中に参与する経営者は、審査の過程において、制限的条件を修正する旨の意見及び提案を提出することができるとされている[5]

(2)InBev N.V./S.A.によるAnheuser-Busch Companies Inc.の買収[6]
ベルギーのビール会社InBevがBudweiserで有名なアメリカのビール会社Anheuser-Buschを買収するために経営者集中を申告した事例である。本件買収により世界最大のビール会社が誕生したと報道されている。本件経営者集中に対して付加された制限的条件は次の通りである。

(a) 付加された制限的条件
買収規模が巨大であり、買収後の新企業の市場シェアが比較的高く、競争力が明らかに強化されることに鑑み、将来の中国ビール市場の競争に対して生じうる不利な影響を減少させるため、商務部は、審査決定に制限的条件を付加し、InBevに対し次に掲げる義務を履行するよう要求している。

(i) Anheuser-Buschが青島ビールにおいて現在保有する持株比率を増加させてはならない。
(ii) InBevの支配株主又は支配株主の株主に変化が生じた場合には、遅滞なく商務部に報告する。
(iii) InBevが珠江ビールにおいて現在保有する持株比率を増加させてはならない。
(iv) 華潤雪花ビール及び北京燕京ビールの株式を取得しようとしてはならない。
いずれかの約束に違反する場合には、InBevは、事前に商務部に対して適時に申告を行わなければならず、商務部が認可するまで実施してはならないとされている。

(b) 検討
集中参与経営者の競争者に対する持株比率の引上げの禁止、集中参与経営者の支配株主等に変化が生じた場合の報告といった義務が課され、これらの約束に違反する場合における事前の申告が義務付けられている。いずれも集中参与経営者が将来的に市場構造を変化させることを制約するものであるといえる。

(3)三菱レイヨンによるLuciteの買収[7]
大手合成繊維・合成樹脂メーカーである三菱レイヨン株式会社(「三菱レイヨン」)がアクリル樹脂原料MMA(メタクリル酸メチル)の最大手であるイギリスのLucite Internationalを買収するために経営者集中の申告を行った事例であり、公告では、本件経営者集中の影響が及ぶ関連市場、本件経営者集中により生ずる競争上の問題についても言及されている。

(a) 関連市場
関連市場への言及があり、関連商品市場はMMA、SpMAs、PMMA粒子及びPMMA板材とされ、関連地域市場は中国市場であるとされている。

(b) 競争上の問題
水平方向については、中国のMMA市場の有効な競争構造に対してマイナスの影響を生じさせる可能性が高いとされている。買収後の市場シェアは64%に達し、第2位の吉林石化及び第3位の黒龍江龍新公司よりもはるかに高くなり、MMA市場において取得する支配的地位に依拠して、中国のMMA市場において競争相手を排除・制限する能力を有するようになるとされている。

垂直方向については、三菱レイヨンは、MMA及びその川下の2つの市場において業務を行っており、買収後、川上のMMA市場において取得した支配的地位により、その川下の競争者に対して閉鎖効果を生じさせる能力を有するようになるとされている。

(c) 制限的条件の付加に係る協議
商務部は、競争への影響につき集中双方が提出した救済方案により本件集中がもたらす不利な影響を減少させることができると判断している。

(d) 審査決定
所定の時間内に、集中双方が不利な影響を解消するに足りる解決方案を提出したことに鑑み、商務部は、集中双方が行った約束を受け入れ、制限的条件を付加して本件経営者集中を認可するとしている。具体的な制限的条件は次の通りである。

(i) Lucite中国は、今後5年間、生産能力の50%を分離して第三者に売却し、当該第三者に原価(生産コスト及び管理コスト)でMMAを購入する権利を与える(6ヶ月以内に完了しない場合には、全出資持分を第三者に売却する)こと。
(ii) 売却完了まで、Lucite中国と三菱レイヨンの中国MMA業務は独立に運営されること(具体的には、MMAを別々に販売すること、情報を交換してはならないことが定められている)。
(iii) 今後5年間、中国において、MMAモノマー等のメーカーの買収及びMMAモノマー等を生産する工場を新設しないこと。

(e) 検討
上記(d)(i)の生産能力の売却は、「競争者に対して当該商品の生産費用に相当する価格での引受権を設定する(長期的供給契約を締結する)こと」 に相当すると考えられる。また、当該生産能力の売却を中心に、その期限、期限までに完了しない場合の措置、完了までの過渡的措置(上記(d)(ii))についても条件が付されている。また、将来的な買収及び工場新設の禁止も定められている(上記(d)(iii))。

(2,423字)

[1]独禁法第29条

[2]経営者集中審査弁法第11条第1項

[3]経営者集中審査弁法第11条第2項

[4]経営者集中審査弁法第12条第1文

[5]経営者集中審査弁法第13条

[6]「中華人民共和国商務部公告[2008年]第95号」(商務部2008年11月18日発布)

[7]「中華人民共和国商務部公告[2009年]第28号」(商務部2009年4月24日発布)

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