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ログイン2010年7月22日
2010年6月1日付け中国経済紙「21世紀経済報道」において、日本の某大手自動車会社の合弁会社である広州某汽車有限公司(以下、「Y社」という)が商標権侵害の主張を受けたとの報道がなされた。本件事実をインターネット等を通じて得られた情報を加え紹介する。【2,219字】
1. はじめに
最近の中国は、「創新(イノベーション)型国家の構築」という目標の下、知的財産権の保護に力を入れているが、関連法令の整備や啓発活動の甲斐もあって、中国の企業・個人の間では、自ら知的財産権を取得してそれを活用する意欲がますます高まっている。従来は、外国企業が中国のコピー商品に頭を悩ませるケースが圧倒的であったが、最近では、中国の企業・個人が、逆に外国企業を訴えるケースも目立つようになってきた。例えば、昨年12月、中国最高人民法院(日本の最高裁に相当)が日本の某環境設備会社に対し、特許権侵害を理由に共同被告と連帯して5000万人民元(約6億6000万円に相当)の損害賠償を支払うよう命じた事件は、まだ記憶に新しい。
そのような中、2010年6月1日付け中国経済紙「21世紀経済報道」において、日本の某大手自動車会社の合弁会社である広州某汽車有限公司(以下、「Y社」という)が商標権侵害の主張を受けたとの報道がなされた。この記事のほか、インターネット等を通じて得られた情報によると、本件事実は次のようなものであった。
会社員X氏は、2008年3月14日、①英語「FIRST-CALSS CABIN」、②簡体漢字「頭等艙」、③図形という3つの部分から構成される組合せ商標として、第4682862号商標(以下、「本件商標」という)の登録が認められた。同商標の区分は12類で、指定商品は、「陸、空、水又は鉄道用運搬器」、「オートバイ」、「船」などとされた。
X氏は、Y社が販売する某車種のフロントバンパーやウィンドウ、また、車体以外にもその販売資料、広告に、「頭等艙」の文字が使用されているのを発見した。これらの行為によって自己の本件商標が侵害されたと判断したX氏は、今年5月31日に、Y社とそのディーラー5社に対し弁護士を通じて書簡を発し、商標権侵害行為の停止や総額1.36億人民元(約18億円に相当)の損害賠償を要求した。
2. 若干の検討
Y社がその商品に「頭等艙」の文字を使用した正確な状況を把握していないゆえ、本件における商標権侵害の成否を判断することはできない。しかし、ここでは一般的な見地から、次のような簡単な分析をしてみたい。
本件における権利侵害の判断にあたり重要な論点となるのは、Y社が商標として「頭等艙」の文字を使用したのか、それとも商品の名称又は装飾として使用したのかという点である。
商品の名称又は装飾として「頭等艙」の文字を使用する行為は、「商標法実施条例」50条との関連において問題となる。同規定によると、同一又は類似の商品に、他人の登録商標と同一又は類似の表示を商品の名称又は装飾として使用し、公衆の誤認を生じさせると、登録商標専用権を侵害する行為として認定される。
これに関し、Y社の立場からいえば、「頭等艙」を商品名称又は装飾として使用しても、一個人であるX氏は何らの商品も生産・販売していないゆえ、公衆をしてその商品をX氏の商品だと誤認させるという事態は起こりえない。したがって、商品の名称又は装飾として、「頭等艙」という普通名詞を使用する行為について、商標権侵害は成立しないと考えられる。
他方、商標として「頭等艙」の文字を使用する行為は、中国商標法52条との関連において論じられる。同規定によると、商標登録権者の許諾がないにもかかわらず、同一又は類似の商品にその登録商標と同一又は類似の商標を使用すると、登録商標専用権を侵害する行為として認定される。これに関しては、Y社がその商品に標示した「頭等艙」の文字が本件商標と類似するか否かという点が重要となる。
本件が訴訟にまで発展した場合には、裁判所は、次の諸点を考慮して、これら2つの商標の類似性を判断するものと思われる。
①本件商標は、英語、漢字、図形の組合せであり、Y社が使用しているのは、「頭等艙」という文字のみであること。
②本件商標は、「陸、空、水又は鉄道用運搬器」を指定商品としているが、「頭等艙」というのは、空の運搬器である旅客機の客室の通用名称ともなっており、商標としての顕著な特徴を欠くため、そもそも登録されるべきでないこと。
③X氏は何らの商品も生産・販売していないゆえ、公衆が商品の由来を誤認することはないこと。
④自動車のような高額商品を購入するにあたっては、消費者の注意力がより高まるため、第三者の商標と誤認するおそれが小さくなること。
商標権侵害に関連する法令や司法解釈には、商標の類似性に関する判断方法の原則が定められているが、いざ訴訟になれば、2つの商標の類似性や消費者誤認の容易性に対する判断は、裁判官の心証に委ねられる部分も大きい。
3. おわりに
今のところ、本件に関する新たな情報は伝えられていないが、水面下では双方の攻防が繰り広げられているものと推測される。Y社がとれる行動としては、X氏の要求に対応するほかに、本件商標について、不正登録を理由として商標評審委員会に対し本件商標の取消を請求すること、あるいは、本件商標の登録から満3年が経過するのを待ち、この3年間にわたる登録商標の不使用を理由として、商標局にその取消を請求することなどが挙げられる。
いずれにせよ、Y社は、その商品に「頭等艙」の文字を表示する以前の段階で、まずは中国の弁理士に対し、同一・類似の商品に同一・類似の商標が登録されているか否かにかかる調査を依頼していれば、このような厄介な問題を抱えることはなかったといえるだろう。
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