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中国子会社の経営現地化が成功のカギ

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2004年4月13日

<投資環境>

中国子会社の経営現地化が成功のカギ

筧武雄

 

 中国進出日系企業の経営実態には共通したいくつかの特長が見られるように思う。

 まず、部品メーカーで、販売先が日本の客先もしくはその中国工場である場合、その取引関係には「コスト、品質、納期(継続性)」の日本文化がそのまま持ち込まれ、そのうえ客先側も中国のコスト状況に精通しているため購買条件は非常に厳しく、大きな受注金額で代金回収は確実でも、取引利益率は全般に高いとは言えない。さらに、現地に進出している台湾、韓国あるいは地場メーカーとの厳しいコスト競争にも勝てなければ、或いは、彼らがまだ追随することのできないような技術、設備を持ち込まない限り、中国進出部品メーカーの存立基盤は難しい状況になりつつある。

 コスト面から言えば、日系企業はもともと台湾、韓国、地場企業と比較して土地使用権の取得費、賃借料、あるいはその他諸経費が全般的に高くつき、コスト競争上不利である。そのうえ日本から管理者、技術者等の派遣を受け入れることで、駐在員人件費コストが極めて高く嵩み、さらには本社の部材調達コスト、図面代、利益配当などの負担も上乗せとなって、地元、台湾・韓国勢との競争には勝ち目が見込めない状況にありながら、日本本社は「中国だから安くできるはずだ」と問答無用の低コストオペレーションを強いている。結局、ローカル・オペレーター等の人件費をギリギリまで切り詰めざるを得なくなる。

 もしも、ここで「戦略的に」高度な技術を持ち込んで競争に勝ち残ろうとした場合、合弁形態や技術提携形態で進出すれば、今度は「組織」として対応してくる中方パートナーの模倣、ブーメラン効果に悩まされることになる。独資であっても、現実には高性能で高価な戦略的生産設備を持ち込んでも現地ではさほど利用機会がなく、前後のラインや生産量との整合性もなく、現地メンテナンスもできず、現地スタッフも使いこなせず、結局収益圧迫の無用の長物になってしまうケースも散見される。「負けたくないから」という気持だけでハイテクを持ち込む気持はわかるが、それだけでは決して戦略的とは言えず、逆に自分の首を絞めることにもなりかねない。

 つぎにセットメーカーの場合は、国内販売ルートの確保が喫緊の重要課題となっている。しかし、完成品の中国国内販売は依然として代金(売掛金)回収難、販売経路の確保難、廉価品との熾烈な価格競争等々、様々な問題を抱えているのが現状である。具体的には優秀な代理店の育成、アフターサービス網の確立、販売代金回収、コピー商品対策など様々なハードルが日系企業を待ち受けている。そのため、現時点では現地販売はマーケティングを主とした試験程度にして、もっぱら情報収集と経験ノウハウの蓄積、人材育成を主眼とし、利鞘は薄くても、日本や米国市場への輸出で利益を確保している日系企業がいまだに主流のように見える。しかし、最近では輸出市場にしても、台湾・韓国・地場メーカー等の追い上げが速く、厳しいコスト競争にさらされている。

 このような日系部品メーカー、セットメーカーの苦戦を尻目に、過去最高利益更新、投下資本利益率25%以上といった日系企業も現実に存在している。

その成功の原因は何だろうか?キーワードは「現地化」にある。

 すなわち、資材、部材調達の現地化、設備の現地化、営業ルートの現地化、人民元利益で再投資を重ねる資金調達の現地化など、「経営の現地化」の成功という側面で彼らは共通している。もちろん製品の業種分野の差、要求される品質精度の差、中国進出戦略の差、派遣されてきた日本人責任者の資質の差など根本的要因の差もあるが、成功と失敗の分水嶺はまさに、ここ(現地化)にあるといってよい。

 日本が明治維新以来、いまだに解決し得ていない大きな課題が、ここへきて中国ビジネスの分野で改めて浮き彫りになってきた。島国である日本は縄文・弥生の古代から、この課題を常に宿命として背負い続けてきたと言えるかも知れない。貧窮すればそれなりに、豊かになればそれなりに、日本人はいつの時代も海の向こうへと出て行かざるを得ない環境におかれてきたのである。

もはや海外、アジア、中国とビジネス取引をすることが難しいという時代ではない。明治維新時代のスピードと現代とでは比較のしようもない。すでに潤沢な資本力も高度な生産技術も持ち合わせている日本企業にとって、インターネットや衛星通信技術等の飛躍的進歩により、今やリアルタイムで多くの海外情報を得ることのできる環境も整っている。しかし、このような時代環境の進歩と経済成長、情報高速化が否応もなく日本企業に見せ付けたものは、百年前から変わらない「自分自身の非国際性の素顔」にほかならなかったのである。

 海外に進出している日系企業の現地化の遅れと日本企業本社の非国際性は表裏一体の関係にある。勿論「社会主義市場経済」という中国特有の面もあるが、日本人が中国で巻き起こしている文化摩擦、人間関係の軋轢、想い入れとすれ違い、優越感と劣等感、憧れと憎しみ、といった矛盾の多くは、多かれ少なかれ世界中の他国における企業経営にも共通したテーマである。日本人が海外に滞在するコストが最大のコストとなった今、いかにして日本人が「名誉ある撤退」の成功を図り得るか、現地の人々が日系企業であることをいかにして誇りに思うか、こういった課題が、避けようもなく日本企業の眼前につきつけられている。我々自身が、自分たちの固執してきた経営の常識、日本の高度成長期を通じて構築してきた最適のマネジメント手法について、海外では恥を恐れずに根本から考え直し、みずからの変革に大胆かつ着実に挑戦していかなければ、勝ち残ることのできない熾烈な大競争時代を迎えたのである。

 経営現地化を成功させるためには、日本本社からの指示をよく理解し、また現地から本社に対して的確かつ明確に意見を述べることのできる現地人材の育成が必要である。同時に現地スタッフをよくとりまとめ、かつ現地での経営実務に精通した、経営者としての本来的な資質も必要である。日本本社においても現地の事情をよく理解し、現地の声に耳を傾け、十分な議論を尽くすことのできる地盤がなければ経営現地化は不可能である。その主体となり得る中国人経営者を、腰を据えて計画的に育成することこそが「中国ビジネス成功の心得」である。経営現地化の成功と本社の国際化は表裏一体の関係にあり、人を育てることこそが企業を育てることなのである。

<中国人材育成の基本戦略>
(1) 事業実施場所の現地出身者であること
(2) 日本本社で採用・勤務し、日本本社の業務、体制、社風をよく理解すること
(3) 優れた日本人総経理との現地マン・ツー・マン体制で経験を積むこと
(4) 現地化した後には、本社との連絡体制をさらに強め、本社を国際化していくこと


 経営とは、我が身の修め方であり、人の治め方であるという。とすれば、異なる民族を育てよう、治めようなどということ自体、どだい不可能なことかもしれない。そこには民族、文化、言語、教育等の「壁」があり、異なる歴史、宗教と社会、そして生まれ育った個々人の様々な境遇があり、生々しい人間としての感情がある。机上の総論や作業マニュアル、知識、調査統計を超えた、人間の現実世界がそこにあるのである。それとどう向かい合えばよいのか?決して資金力や技術力だけで押さえつけることのできる生易しいものではないはずだ。
 そのポイントを一言で要約すれば、双方のみずからの「変革」に向けた努力に在ると感じる。国際化は、何ヶ国語話せる、世界中の隅々に行ったことがある、というような自信満々の華々しい海外遍歴から生まれ出るものではない。むしろ、何の変哲もない、日本国内でごく普通に働き、暮らしてきた日本人が突然外国に勤務することになり、あるいは生まれて一度も外国人と接触したことの無い普通の中国人が突然日本人経営者に接することになり、今までの働き方、暮らし方をやってみて、「このままでは駄目だ、なんとかしなくてはいけない」と双方が感じ始めた時、真の国際化がスタートするのではないかと思う。たとえ現場にいても、それを感じることができない人、また感じても自分を変革しようとしない人物に、国際化、現地化の実現は不可能であろう。
 「人はなんのために働くのか」、「なんのために会社はあるのか」、「なんのために自分はここにいるのか」、「どうすれば自分を変え、そして人を変えることができるだろうか」、彼我双方の根源的な意識変革と行動変革のキーワードは、まさに「恥を知るは勇に近し」という古典的な儒聖の言葉に帰結するように思える。

(2004年4月記・3,393字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄

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