こんにちわ、ゲストさん

ログイン

撤退(1)

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

無料

2004年5月20日

<投資環境>

撤退(1)

筧武雄

基本事項

 中国進出日系企業の経営実態には共通したいくつかの特長が見られるように思う。

—>  昨年は外資導入の商務部統計発表が契約ベース、実行ベースともに同時に過去最高実績を記録する未曾有の中国投資ブームとなった。全国各地で土地使用権売買、マンション分譲、株投資などのバブルが膨らみ、胡・温体制率いる中国経済は今や人民元利上げ、為替変動幅拡大など経済調整の局面に入ろうとしてる。
 このような中国投資ブームの集中豪雨が過ぎ去ったあとに、必ずやってくるのが撤退ブームである。寄せる波に返す波(フロー)があり、対岸の砂浜に蓄積された砂山(ストック)は確実に成長しているのだが、フローの側面から言えば、返す波は避けようが無い。すでに今年に入って、いくつかの撤退相談が筆者の元にも飛び込んでくるようになった。巷のセミナーも誘致だけでなく、法律事務所による撤退セミナーも始まったようである。80年代末、90年代末すでに何度か繰り返された道ではあるが、今回は6回連続で、中国事業撤退の戦略、戦術について整理しておく。

1.今後の教訓とすること

中国事業から撤退を検討するとき、もっとも重要なことは、撤退の原因が何であるのかを明確に整理し、今後の海外戦略の教訓として生かしていくことです。たとえば、失敗の原因が合弁形態の共同経営難にあったとすれば、今後はパートナー選びに慎重に時間を掛け、「一目ぼれ」や「熱烈歓迎」の迎合的な合弁は当面やめて、自分の体力と海外戦略を見つめなおし、継続するならば独資形態で再スタートを切る、といった具合です。
 発生した損失は「勉強代」として割り切る覚悟が必要、つまり逆に言えば、最初の進出の時点から投資金は「勉強代」(捨て金)の範囲からスタートするのが肝心ということです。

2.完全撤退か否か

つぎに重要なことは、今回の撤退で当社の中国戦略を今回で完全に清算してしまうかどうかという判断です。
今回はいったん撤退しても中国での事業は今後も継続する、という「部分撤退」もしくは「一時撤退」であれば、他の場所に別の会社を一社設立して事業を承継させるという方法もありますし、また、拠点は整理しても、中国人キーパーソンとの繋がりだけは残しておいて、今後の再展開に備えるという戦略も必要になるでしょう。
しかし、この戦略判断を明確にしない曖昧な撤退は禁物(危険)です。完全撤退するのであれば、原則として一度完全に縁を切り、法的にすべてを清算し、人間関係も完全に断ちきっておかなければ、「日本本社で採用してくれ」、「日本に留学したいから保証人になってくれ」、「家族が重病になったので治療費を貸してくれ」、「機械設備が運転できないので技術者だけ派遣してくれ」というような個人的な腐れ縁がいつまでも続くことになりかねません。きちんとした法的清算処理を怠り、個人的に感情的な恨みを買ったまま帰ってくるような場合は、報復という最悪の事態を招く危険すらあります。
 では、中国ビジネスから完全に撤退すべきかどうか判断する基準はどこにあるのでしょうか。基本的なポイントは失敗の原因が「自分の力と、パートナーの力だけでは解決できない問題」だったのかどうか、という点にあります。もともと中国の事業環境にはハード・ソフトの両面での制約事項が多く、本来的に民間企業だけの力では解決不可能な環境条件が少なからず存在しています。以下にいくつか撤退原因の代表例を挙げてみます。

A.中国マーケット販売で需要が無かった、価格が合わなかった
中国市場は国産品を中心に供給過剰で、売れ残り在庫がたまっており、輸入品であっても売れ筋商品でなければ高価格のものは売れない、代金が回収できない、「投げ売り」に近い激烈な値下げ競争に晒されたというケース。製造業に限らず飲食業などサービス業種での中国進出にも似た現象があります。生き残る対策としては、当社ブランドを維持しながらも、中国のマーケットニーズに合わせて低価格商品を開発する、現地調達原料で製造できるものを現地開発する、富裕層にターゲットを絞る、インドネシアやベトナム工場などから中国に供給するなどの低価格化が図れない限り、ただ中国のマーケット購買力の向上を待っていたのでは相当の時間が必要です。人口13億人、日本の26倍の国土を有する巨大国家がテイクオフするのは大変なことです。
売れ筋からはずれた商品の場合は、ただ中国マーケットの購買力成長に期待するだけで価格引き下げの対応ができないのであれば、ここは一度完全に撤退したほうが良いでしょう。特に従来存在しない商品、サービスについては、価格と必要性が浸透するまで時間がかかります。市場のニーズとタイミングを見ることが必要です。
 需要があり、製品は売れるのだが、中国で模倣被害にあって、模倣品にマーケットを奪われてしまった場合、あるいは模倣品により当社ブランドの信用に著して傷をつけられてしまった場合は、本社にとっても致命傷となる危険があります。これは撤退の問題ではなく、現状を放置せずに早急に手を打つ必要があります。

B.生産しても不良品が多いため採算が合わなかった
経営形態が合弁事業や委託生産、委託加工方式、技術提携ではありませんか。製品の品質保証体制を組むためには、例え単純な縫製作業であっても、しっかり教育を受けた、意思の疎通した生産管理者による品質管理体制を組まなければ不可能です。同時に財務、人事、総務、営業全般にわたる経営管理のチェックとコントロールも必要です。そのような体制を支える基盤として、合弁方式から独資方式に経営形態を転換する場合は、必ずしも合弁会社を清算しなくても中国側の出資持ち分を買い取る、あるいは別に独資企業を設立して人材と機械設備を移転し、委託生産、加工、提携事業を実質的に承継させるという方法もあります。
パートナー、もしくはその上級管理部門が合弁経営に介入してくるために生産体制に問題はなくても企業経営が立ち行かない、あるいは中国企業に対する委託加工方式であるために経営コントロールがきかずなかなか品質保証体制が組めない、などのように経営形態に失敗の主要な原因がある場合は、完全撤退せずに独資形態での再試行を検討してみる価値はあります。

C.電力問題、労働力問題、原料調達などインフラが良くなく計画が実現できなかった
原因がインフラにあった場合は単純にインフラの良い場所に移転することも考えられますが、合弁であった場合、これも容易ではありません。上に述べた経営形態転換が先決課題(障害)となります。
しかし、たとえ経営形態を独資に転換し、場所も他の省などに変えたとしても生産効率がいまだ改善されない本質的な問題もまた存在します。たとえば現地原料、材料の品質、金型の加工精度、作業環境条件に問題がある場合など、もともと製品の生産技術、品質レベル要求が高く、材料比率が高くコスト低減もできないようなケースがあります。このような場合は、進出当初のフィジビリティ調査に問題があったとしか言いようが無く、生産拠点の立地、海外進出の是非そのものを見直すべきでしょう。

D.日本本社の資金的余裕
すでに述べたとおり、失敗損失は本来「勉強代」の範囲内で抑えられるべきものです。これが本社経営の土台を揺るがすものであってはなりません。すでに事業として成立する可能性が失われ、かつ勉強代の範囲を越える資金負担が予想される場合は、迷わず撤退すべきでしょう。
もっとわかりやすく言えば、「手元の余裕資金を投入してどれだけの期間経営の継続が可能か、そしてその期間内に問題が解決される可能性があるかどうか」考えてみてください。

3.当初の契約内容

撤退には以上に述べたほかにも、多数の原因があると思います。しかし、理由はどうあれ法的には、契約、定款の中途解約というかたちをとることになります。そうした場合に、当初の契約や定款で、中途解約の事由と手続きがどのように定められていたかが決定的に重要な事項となります。
契約の中には必ず持ち分譲渡、中途解約、損害賠償、仲裁の規定があります。撤退の判断を下す前に、今一度契約書、定款を読み直してください。中途解約条項のどの事由を適用するのか、また、相手方の契約違反を理由とする場合は、どの条項への違約を適用するかなどの確認です。
こうしてみると、当初の契約内容とは、半分は事業実施に向けた合意事項であると同時に、残り半分は事業解約に向けた約束事項であることがわかります。契約違反と中途解約という状況では、あまり前向きな議論は両者ともできなくなっているのが通常ですから、当初契約した内容がいかに重要なものかということがわかります。

 今回のテーマは日本側自身が「みずからに問いかけてみる」撤退の基本姿勢です。中国に事業パートナーが存在する場合、このレベル段階での連絡、相談は禁物であり、たとえ内心で撤退を決心したとしても、安易にパートナーに通告する愚は避けてください。
(来月に続く)

(2004年5月記・3,674字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ