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拡大する中国のバス需要―取り残される日本と攻勢に出る欧州―

中国ビジネスレポート 各業界事情
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2004年5月19日

<各業界事情>

拡大する中国のバス需要
―取り残される日本と攻勢に出る欧州―

アジア・マーケット・レビュー 2004年5月1日号掲載記事)

 日本では、バブル崩壊以降続いていた大型トラック不況が一息ついている。排ガス規制の強化に伴う代替需要が発生したためだ。しかし、将来的には再び厳しい需要見通しであり、国内の大型商用車メー力一4社体制が維持されるかどうかは予断を許さない状況にある。そして、大型トラック以上に厳しいのは中大型バスである。諸外国に比べ、日本国内のバス製造コストは極めて割高であるほか、中国その他のアジア諸国についてもその状況を引きずっている。世界的な大型商用車メーカー再編の動きは小康状態にあるものの、日本のバスが海外に販路を広げている例はあまり多くはない。逆に、中国では欧州系メーカーが大攻勢をかけ、韓国の現代自動車がそこに加わろうとしている。日本のバスに出番はあるのだろうか。

厳しさを増す競争入札

 08年の北京オリンピヅク開催に向けて中国政府は、道路など交通インフラ、公共サービス、観光誘致支援など10以上の分野について総投資規模1,350億元のプロジェクトを組んでいる。オリンピック会場となる都市では公共交通機関のシステム再構築が行われ、道路交通についてはバスの「より低公害な新車への代替」と「増車」が予定されている。
 この新規需要を獲得するため、中国進出している大型商用車メーカーが攻勢をかけている。たとえば、上海市では上海ボルボが市交通局との問で路線バス3,000台の納入契約を結んだ。関係者によれば、1台当たりの価格は「90万元を切る」という。欧州で生産・販売されている最新型のノンステップバスだ。床が低く、乗り込むに当たってステップを登らないで済むノンステップバスは、公共交通サービスの向上を目指す市交通局の要求でもある。
 上海ボルポは、00年に上海市とABポルボ(乗用車のポルポ・カーズ社とは別会社)が折半出資で設立した都市バス専門メーカー。その関係もあって上海市はボルボ・バスを採用するわけだが、現地に駐在する日本の大型商用車メーカーの関係者は「相当な安値であり、とても太刀打ちできない」と見ている。エアコン付きのノンステップ型高級路線バスは、地元の中国メーカー製でも80万元を割ることは希だ。 上海ポルポと競合した金龍汽車のノンステップバスは、エアコン付きで提示価格85万元だったという。同社は02年夏に廈門の新工場を完成させ、生産能力はそれまでの2倍になった。都市バス需要への食い込みを各地で進めているが、都市バスにはそれぞれの地方政府の思惑がからんでおり、地元以外での販売拡大は難しいという。よほど安い価格で商談をまとめないかぎり、オリンピック特需への参加も難しい。

ディーゼル代替燃料の導入

 中国の都市バスは、ほんの5年ほど前までは1台20-30万元が相場だった。旧式のボディに旧式のエンジンを積み、シートは板、床も板張りという仕様が当たり前だった。運賃は1-2元。しかし、現在ではエアコン付きで布張りの快適なシートを備えた豪華バスの乗客が増え、都市バス側もより充実した装備のバスを求めるようになった。中長距離路線バスを合わせると、エアコン普及率は99年の約5%から昨年は15%台に上昇した。今後、オリンピック開催都市では普及率が50%になるとも言われている。
 同時に、都市の大気汚染防止への配慮から排ガス規制が厳しくなり、ディーゼル・バスには欧州のユーロ2規制(将来的には欧州現行規制のユーロ3)が適用されるほか、第10次自動車5カ年計画では都市内を走る路線バスを軽油ディーゼルからCNG(圧縮天然ガス)とLPG(液化石油ガス)に転換するという方針が打ち出されている。これを受けて北京や上海など大都市でバス燃料の切り替えが始まっている。
 オリンピック開催に向けて車両の代替が加速されると同時に、旧型バスから近代的バスヘの車種転換が急速に進んでいる。「いまが都市バスの転換期であり、08年の北京オリンピックと10年の上海万博に向けて複数の需要ピークを迎える」というのが大型商用車メーカー各社の読みである。しかし、都市バスについて言えば、欧州勢が圧倒的に強く、日本のメーカーは苦戦を強いられている。
 ある日本のメーカーは「中国に新型都市バスを売り込むためのフィージビリティ・スタディ(FS)を行ったが、価格面でまったく採算が取れない」と語る。実際、広州市が行った競争入札に参加したメーカーもあるが1台70万元を切る地元の商用車メーカーに対しては、落札価格面でまったく歯が立たなかったのである。

日本で遅れている標準化

 その広州市では、広州駿威汽車がワンステップ(ノンステップではなく1段登った高さに床がある車両)バスを売り込んでシェアを拡大している。エアコン付き都市バスの代替計画は8,000台にも上るため、同社は量産効果でコスト回収する計画である。同市の都市バス入札では、上海ボルボのほかドイツのネオプラン社から技術導入している北京北方車両も敗退したという。「都市バスは地元メーカーが優位」というのは世界的な常識だが、地方政府の思惑もあって、中国ではさらに受注が難しいようだ。
 それでも、新商品の投入で巻き返しを図ろうとしている欧州メーカーは多い。ダイムラー・クライスラー(DCX)はその筆頭であり、欧州で広く売り込みに成功した新型ノンステップ都市バス「シターロ」を積極的に売り込んでいる。同モデルはDCXグループの世界戦略モデルでもあり、基本的な部分を世界統一仕様にすることでコストダウンをねらっている。「ある程度台数がまとまれば、耐久性の高さを武器に売り込める」と考えている。
 韓国の現代自動車もバスの売り込みに積極的だ。同社はDCXと共同で韓国に大規模なバス専用工場を建設中であり、中国生産を行う場合にも同工場が部品およびユニットの供給基地となる。現代自動車は徹底した車両標準化によってコストダウンを図っており、本格的に参入した場合は既存メーカーにとっても脅威となる。
 標準化で言えば、日本がもっとも遅れている。バス会社ごとに車両の仕様が違い、「バス会社の数だけ設計がある」と言われるほどだ。同じ部品を大量購買してコストダウンしている欧州と韓国のメーカーとは、最初から競争できるレベルにないのが現状。最近になってようやく「仕様の絞り込み」が進み、生産面ではいすゞと日野自動車がバス事業の協業化を行うなど新しい動きが出てきたが、それでも都市バスの価格は韓国の3倍と言われており、中国で需要が増えている中で、その恩恵にまったく預かれないでいる。

取り残された日本のバス

 一方、高速路線バスは欧州系各社と日本勢がともに苦戦している。昨年は広州いすゞ、日産ディーゼルと提携する東風杭州汽車、ドイツのMAN社と提携する陳西重型汽車、上海ポルポなどが販売台数で伸ぴ悩んだ。高速道路網の発達に伴い、中長距離高速バス路線の利用は伸ぴ、車両の調達も増えているが、「中国資本の独立系商用車メーカーが業者への売り込みに成功するケースが増えてきた」ためだ。中国企業の製造品質がレベルアップしたことが最大の要因と見られる。
 日本のメーカーでは、広州いすゞが豪華タイプのガーラを現地生産しており、当初は05年に年産1,000台に載せる計画だったが、これも苦戦している。最大の要因は1台約180万元という車両価格であり、高額な利用料を取れる豪華観光バス需要は別にして、高速路線だけでは数をはける状況にはない。
 そこで同社は、昨年10月にコストの低い現地製ボディを使った廉価版のガーラを投入し、需要確保を進めている。藤沢工場から完成シャシーを広州いすゞに送り、その上に豪華版ガーラとほぼ同じ形状のポディを架装するという方法で、一気に50万元の値下げを行った。豪華版ガーラはモノコック(応力外皮)ポディだが廉価版はフレーム方式。それでも安さが好評で、今年は250台の販売を見込んでいる。
 東風杭州汽車では、現地製のシャシーを使ってコストダウンしているが、広州いすゞ製ガーラが本来狙っている乗車時間6-18時間という都市問高速路線バスは、燃費や乗り心地、快適性への要求が次第に強まっている。オリンピヅクまでには路線網の整備がさらに進むため、同社ではビジネスチャンスが到来すると見ているが、現状では苦戦を強いられている。
 日本製バスは乗客の評価も高く、価格さえ引き下げられれば競争力はある。しかし、中国が求めているCNGバス、LPGバスに関して言えば、さらに価格的ハンディキャップを負っている。欧州ではディーゼル代替が進んでおり、通常のカタログ仕様としてCNG/LPG仕様が設定されているが、日本はそうではない。世界を見回すと、日本のバスだけが取り残されている現状を強く感じてしまう。

(ジャーナリスト・牧野茂雄)

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

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