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ログイン2004年7月20日
1.解散か破産か
外国投資企業清算規則(1996年7月9日公布・施行)第27条では「企業の財産が債務弁済に足りないことが明らかになった場合は、清算委員会は管轄の裁判所に破産宣告を請求しなければならない」と定められています。つまり破産法(試行、1986年12月2日公布、1988年11月1日施行)の適用となるわけです。破産法第2条では「本法は国有企業に適用される」とされていますが、この清算規則の定めにもとづき、外商投資企業にも破産が適用されるというわけです。
通常は、普通清算手続もしくは特別清算手続を進めるなかで、会社が債務超過にあることが判明した場合に、債務超過状態から脱しきれないと判断した董事会(清算委員会)がみずから住所所轄の人民法院に破産を申請することになります。そのほか、清算前後を問わず期限を経過しても債務を完済できない場合には、債権者サイドから人民法院に債務者の破産を申請することもできるとされています(同法第7条)。
破産法では「破産の責任が上級主管部門にある場合はその責任者の行政処分ならびに刑事責任追及が行われる」と定められています。同時に、裁判所では債務逃れ目的の偽装破産防止のために、国有企業破産申請に対しては大変厳しい審査があるようです。銀行も不良債権管理上、貸倒引当防止のためにも貸付先企業の破産にはなかなか同意しないようです。
これらもろもろの理由で事実上破産同然の状態にあるにもかかわらず破産できないでいる中国企業は相当数存在している様子で、そんなところに外商投資企業が破産申請したところで相当の時間とコストがかかることは間違いないでしょう。また、破産ということになると、日本親会社のブランド信用にも傷がつきかねません。
そこで、まずは親会社が子会社に対する売掛金等の債務を免除するなどの方法により、中国子会社を債務超過の状態から脱出させてリストラ再建を進め、それでも継続不可能な事態にたちいたった場合に、はじめて出資持ち分譲渡、合併や解散という方法によって、撤退の検討を開始することが現実の手順となります。安易に進出できたので、撤退も安易にできるとは限らないのです。
2.休眠か破産か
一般的には、債務超過状態からの脱出に失敗した場合、破産に伴うトラブルを避けるため意図的に休眠会社として経営期限まで存続させる方法もあります。
しかし、正当な理由なくして半年以上営業停止している企業は、毎年四月の年度検査で工商行政管理局から営業許可取り消し処分とされてしまう可能性もある(公司登記管理条例第62条)ため、休眠とはいっても規模を大幅に縮小して、細々と実際の営業を継続していかざるを得ないでしょう。この方法は金利負担を増大させ、問題を先送りするだけものであり、休眠は近々環境の変化が期待されるような場合を除いて、中国ではあまり有効な対処法とはいえません。
中国撤退戦略のフローチャート
3.債務超過からの脱出
「債務超過状態からの脱出」と言えば、たいていの場合、日本親会社はすぐに増資による支援を図るでしょう。しかし、赤字で再建目途のない、清算予定子会社に対する親会社からの増資、貸し付け行為は、日本親会社が株主訴訟を受ける可能性があります。
また、増資ののち清算までの過程において、リストラなど、親会社による再建の努力が認められなければ、親子間での意図的な所得移転(親会社の意図的な黒字減らし)とみなされ、親会社の増資・貸付金が日本の税務当局から課税されてしまう可能性もあります。いずれの場合も、合理的な理由がないのに安易に実施すべきことではありません。
もうひとつの方法として、別会社に譲渡、もしくは吸収合併させてしまうという方法もあります。この場合は、技術ノウハウや営業権を時価で金銭換算することが可能となりますので、場合によっては、この方法をとることで債務超過を脱出できる可能性もあります。
4.撤退の戦術
破産と休眠を除く最終的な撤退方法の代表的なものとして、会社清算と持ち分譲渡のふたつがあります。現実にはこのふたつの戦術のどちらを選択するかということになります。
持ち分譲渡を選択し、外国企業ではなく中国企業に持ち分を譲渡した場合、合弁企業は外資系企業ではなくなるため、外商投資企業批准証を返却し、企業登記しなおすことになります。(外商投資企業出資者の出資持分変更に関する規定第18条)
しかし経営破綻の場合は、現実的に中国側パートナーに日本側持ち分を正当な価格で買い取る資金力があるとは考えにくく、第三者への譲渡とならざるを得ません。したがって、経営難のために持ち分譲渡の方法により撤退するというアイデアは、外貨資金をもった有力な第三者の買い手が見つからないかぎり、非現実的と言わざるを得ません。つまり、日本側が中国側の持ち分を安く全額買い取って100%独資起業としたうえで、全損をかぶって撤退せざるを得なくなるという可能性が高いのです。
5.親会社の責任
清算あるいは破産に際して、親会社として果たすべき責任としては何があるでしょうか。
自己の出資損を計上すること、清算委員会に参画して清算の諸手続きを進めることは当然ですが、パートナーや外部の第三者に対して損害賠償などの責めはないのでしょうか。先進諸国では考えられないケースであっても、中国の場合はいくつか独特な事情が考えられます。
・損害賠償責任
「合弁各当事者はそれぞれの登録資本金の割合に応じて利益を分配し、リスクと欠損を分担する。」(旧中外合弁企業法第四条にあった条文)
・保証責任
親会社連帯保証債務
・代理行為/越権代表責任
「行為者が代理権なく、代理権の範囲を越え、または代理権終了後、被代理人の名義をもって締結した契約について、相手方が行為者に代理権があると信じる理由があるときは、当該代理行為は有効である。」(中国契約法第49条)「法人の法定代表者、責任者が権限を越えて締結した契約は、相手方がその権限のゆ越を知り、または知り得べき場合を除き、当該代表行為は有効である。」(同法第50条)
・経営責任
株主としての現地経営責任の追及と、みずからの株主に対する責任
まず、改正前の合弁企業法第4条に「合弁当事者は出資比率に応じて欠損を分担する。」という大原則がありました。字面どおりに解釈すれば、合弁企業の損失についてはそれぞれが出資比率に応じて資金負担する、というふうに読むことができます。
この条文は2001年に改正されましたが、ほとんどの既存の外商投資企業の契約書、定款には、このままの規定で残っていると思われます。この規定を素直に読めば、たとえば資本金500万円の合弁会社が2、000万円の損失を抱えていた場合、50%出資者は自己の出資金250万円を上回る1,000万円の損失を分担せよ、というふうに読めます。
このほかにも、たとえば親会社が合弁会社借入金の保証人となっていた場合はどうでしょう。これは待った無しで代位弁済ということになります。
ここで注意すべきことは、外債登記の有無です。広東省国際信託投資公司破綻の事例でも明らかになったように、中国では対外借り入れの場合は合法的債務から優先的に弁済されるわけですが、この合法的か否かという基準は「外債登記の有無」にほかなりません。つまり、外債登記されていなければ、海外の貸し手は現地から回収することができず、全額日本の親会社による弁済ということになるわけです。
また、平成11年10月に施行された中国契約法では、日本と同様に中国でも「表見代理」は法律で保護されることになりました。たとえば現地子会社が親会社の名前を使用して代理権なくして締結した契約についても、相手方が善意無過失な場合は親会社には履行責任があることになります。したがって、合弁会社による親会社の商標使用管理、親会社名での契約管理は厳格にルール化しておかなければなりません。
これらのほか、多額の出資損が出た場合の親会社の対株主責任、つまり経営責任です。合弁会社の董事、経営者は通常、親会社から派遣されますから、経営破綻の結果、親会社が甚大な損害を被った場合、親会社自身の株主から経営責任を問われることも考えられます。これに明確に対抗するためには、親会社としては現地経営者に対する経営責任追及を明確にするしかないでしょう。これを曖昧にすると共同責任を問われても仕方がありません。
最後に、董事会全員一致決議の問題があります。解散の決議は法的に全会一致でなければならないわけですが、中国側を含む董事全員が同意してくれなければなりません。あるいは、中国側に限らず少数の出資者、あるいは個人出資者が同意しなければ話がはじまりません。ここに少数株主を置くことのリスクが存在するわけです。「地主」、仲介者や現地社員に株を持たせ、安易に董事に登用するという行為は中国では避けたほうが賢明でしょう。
(続く)
(2004年7月記・4,117字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄
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