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<連載>中国ビジネス入門ABC講座/第1回:広大な大陸国家、中国

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2008年1月19日

記事概要

今後の中国経済は、人件費の切り上げ、物価の上昇、さらには人民元為替レート切り上げ、金利引き上げも見込まれ、すでに中国進出している目系企業にとって、従来の「低コスト製造拠点」というステイタスから、今後は「新規市場開拓」へと経営戦略の切り替えが求められる環境にある。かかる意味から、筆者は今年を敢えて「日系企業の中国化元年」、「中国開拓元年」と位置付け、中国ビジネスの基本をあらためて見直し、わかりやすく解説を試みることにする。

今年は胡錦涛政権後半のスタート年にあたり、8月には念願の北京オリンピックが開催される。90年代からの急速な経済成長に伴い、中国政府の経済政策は「建設」から「発展」へ、「成長」から「調和」へと変質しつつある。外資導入政策も、従来の白猫黒猫論に代表される「外資誘致一辺倒」から、WTO加盟時公約でもあった「内外差別撤廃」、そして戦略的な「外資選別」へと変化しつつある。今後の外資導入は、①中国に先進的な技術革新をもたらすものか、②中国の産業高度化に寄与するものか、③中国の環境保護・省エネ政策に合致するものか、④中国東北・中西部の内陸部経済開発に寄与するものか、の四点が重要な審査ポイントとなっていくだろう。

今後の中国経済は、人件費の切り上げ、物価の上昇、さらには人民元為替レート切り上げ、金利引き上げも見込まれ、すでに中国進出している目系企業にとって、従来の「低コスト製造拠点」というステイタスから、今後は「新規市場開拓」へと経営戦略の切り替えが求められる環境にある。

かかる意味から、筆者は今年を敢えて「日系企業の中国化元年」、「中国開拓元年」と位置付け、中国ビジネスの基本をあらためて見直し、わかりやすく解説を試みることにする。

 

筆者が初めて中国を訪間したのは1984年初夏のことである。当時は銀行に勤務しており、バンク・オブ・チャイナが日本の各銀行に呼び掛けて中国留学生制度を実施していた時代で、20代の銀行員4人で北京大学中文系に留学させていただく機会にめぐりあえた。今考えれぱ、入社数年目、独身時代の中国留学経験であったが、日本語も英語も通用しない当時の北京での苦労経験は現在に至るまで非常に役立っている。やはり海外留学はできる限り20代に経験しておくべきことである。

はじめて北京の首都空港に降り立ち、当時完成したばかりの北京三環路(環状道路)を走る出迎えのマイクロバスの中で、バンク・オブ・チャイナの幹部から高話をいただいたことを、昨日の事のようによく憶えている。

「…皆さんは今日から中国に留学し、将来の日中ビジネスの架け橋となるにあたって、肝に銘じておいてもらいたい中国理解の3つのポイントがあります」という、その話が今回の連載冒頭で解説させていただく「中国広大、人口多、歴史悠久」(中国は国土が広く、人口が多く、歴史が長い)という三つのキーポイントである。

その後、現在に至るまで25年にわたって数多くの日中ビジネスに携わってきたが、数え切れないほど多くの、予期できない、複雑怪奇なトラブルに出くわすたびに、その原因がどこにあるのか、何度も繰り返しその背景や深みを考え、掘り下げて突き当たった結論が、結局はこの「初めの三点」にほかならない。実はこの「三つのキーポイント」は、いずれも非常に当たり前のことばかりで、一見何の変哲もない、中国の基本的特徴にすぎないのだが、島国に生まれ育つ日本人が中国という大陸国家で事業展開するうえで、「見えていても見えない」、「知っているようで知らない」、大切なキーポイントなのである。

 

言うまでもなく、中国は広大な大陸国家である。その国土面積は日本の26倍に相当する960万平方キロメートル。中国大陸の歴史は、この広い国土(中国語で「中原」という)をめぐる諸民族・諸国家の争いの歴史と言い換えることもできるだろう。現在の中国は、この国土に22省十5自治区十4直轄市(北京、天津、上海、重慶)が存在している。中国の国境線は2万kmを超えると言われ、多数の周辺諸国と国境を接している。この国境線を維持するだけでも大変な国力が必要である。国土の東端は東経135度で日本標準時(明石)と同じ、西端は西経72度でインドのムンバイ(ボンベイ)と同じ位置にある。すなわち、東西で実質的に4時間の時差が存在し、過去の一時期サマータイムが採用されたこともあったが、古くから時差は無視されて全国各地は北京時間に統一されている。北京時間で日本とは1時間の時差がある。

よくたとえられるが、四川省ひとつがほぼ日本と同じ国土面積と人口を抱えている。いくら貧しく、物流も未発達な西部、内陸部であっても、日本の大手スーパーがここに出店.して大成功を収めている理由を、「日本面積規模のテリトリーに、たつた一か店」と視点を変えれば、当然の成功のようにも思われてくる。要するに、分母があまりにも大きいために、中国市場は「平均」や「比率」で考えることができないのである。もちろん最初のパイはいくら大きくても、経済発展にしたがって、このような開拓者利益はいずれは失われていく運命にある。しかし、当初マーケットシェアを確立すれば、その後の販路拡大という大きな遺産を残すことができる。さらに、大陸国家にはいくつも第二、第三の国内マーケットが背後に控えている。80~90年代の北京、上海市場に進出して大きな利益を得ることのできた外資企業は、いずれもこの「開拓者利益」を享受したのである。今や北京、上海が世界有数の大都市に成長し、世界の有力企業がしのぎを削る激戦地となっても、これからはその背後に控える天津、大連、南京、重慶、寧波、杭州、武漢、成都、広州、珠海などといった伸び盛りの地方都市群が、かつての二大都市と同様に、惜しみない開拓利益を市場開拓者にもたらしてくれることだろう。

天安門事件の直後、上海の浦東開発が唱えられ始めた90年代当初、空席だらけの日中航空路の現実の前に浦東国際空港すら幻のように思われた時期もあった。それが現在では、貿易高や外貨準備高で中国はすでに日本を追い抜き、全国に無数の高速道路、光ファイバー網が敷設され、携帯電話規模でも中国は世界一となっている。最近では「和諸号」と名づけられた新幹線型の高速鉄道、リニアモーターカーが全国的に整備されつつあり、今後は沿海部から内陸部へと長期的な開発が進んでいくことだろう。

とにかく、中国は地域面積規模が日本とは比較にならないほど大きい。このような「大陸の奥行きの深さ」こそが中国ビジネスにおける最大の醍醐味であり、島国的視野で表面だけを一見するとコスト上の立地条件は悪化しているように見えても、実は「見えない懐」の奥に存在する無数の地方都市群が、急速な物流網整備とともにビジネス環境を整えつつある過程なのである。変化のダイナミズムを一時的、断片的に捉えていくら分析、評価しても、なかなか全体像は見えてこない。

今後の中国ビジネスは、「海外市場での現地生産」という至極当然の海外ビジネス環境がようやく中国にも本格的に育ってきた時期として評価されるべきであろう。(2008年1月記・2,723字)

 

以上

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