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中国ビジネス現場報告とアドバイス(1) 工場立地の選定

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2006年9月8日

現場の実態を見聞きし、現場からのアドバイスに耳を傾けることは何よりも貴重な参考書である。中国ビジネスの現場で、多くの困難、トラブルを克服してきた日本人ベテラン管理者からの貴重な報告とアドバイスをシリーズでテーマ別にご紹介しよう。

1.工場立地の選択

中国進出先を探すために、まず顧客との物流アクセス、必要なインフラ整備状況、人材資源の確保、諸コスト、外貨事情などを検討した結果、これから進出しようとする土地が見つかったら、その土地を管理する部門と具体的な内容について交渉することになる。最近では開発区そのものが外資(日本・台湾・香港など)との合弁によって造成され、進出企業の誘致も中外共同で行われるものもあり、省、市規模の大型の開発区の中には投資企業を求めて、日本に招致使節団を派遣してくるケースも多い。また、同じ市の中に 市、鎮の管轄する開発区や省、国家の管轄する開発区とが存在している事もある。このような場合、工場の建設に際して、特にインフラ関係の工事をする時など、行政の管轄が錯綜してしまい、工事遅れなどの障害が発生しないように、あらかじめ市や省などの関係部署との連絡調整をうまく図る十分な配慮が必要となる。窓口担当者を置く、毎月責任者を食事に招待して調整のための会話を深めるなどといった努力である。

開発区での土地使用権や建物建築の価格や使用条件はその都市、その地域によって異なっているが、外資優遇の目玉となる所謂公租公課に関わる部分については国の定める基準にほぼ統一されてきた。土地だけを貸すもの、一定規格の工場建屋を貸すもの、注文で工場を建設するもの等々 いろいろの使用形態に対応している。しかし、開発区がパンフレット等で謳っている建造物の公称価格などは、恐らく一般の中国人同士が取引している価格から比べたら相当に高いところに設定されているのが常である。たとえば溝を掘る土工の工賃や、レンガ積みの左官の工賃など一般に外資企業が見積り合わせをして、値切って随分安く発注したつもりでも中国企業同士の請負価格と比べるとまだまだ高い。日本企業はついつい自己の経験ないし日本国内の相場観から「安い」と判断してしまうが、“郷に入っては郷に従え”で、価値判断の基準は出来るだけ現地人の目に近づけて見る努力が必要ではないかと思う。たとえば書店に行けば、鋼材、鋼板、木材などの市場価格情報が原価積算資料として週刊誌でも売られている。

各地の開発区は玉石混交であり、インフラの整備も整わないままに海外からの企業誘致に熱を上げている。国、省と言った大きなレベルの開発区を取り巻くように隣接した鎮・村レベルのいわゆる衛星開発区も到る所に見受けられ、このような小さな開発区でも海外企業誘致の条件は国家レベルの条件と殆ど変わらず、各レベル毎に投資額について許認可権限の限度額なども決められていて、小規模の進出ならば却って小規模の開発区の方が融通が利きそうにも見える。しかし、これらの開発区を管轄する機構や、それに携わる人たちの所謂人脈の実態は一度や二度のご対面ではなかなか見えてこないものである。いきおい慎重にならざるを得ない。

名もない地方の小模開発区にも進出している外資企業が結構あって、私の見た中にも町工場のような感じの台湾資本の鋳物工場があるかと思えば、アパレル関係の縫製工場の誘致を目的としたものもあって、その村の中学校では在校生に工業ミシンの操作を教えて卒業時に誘致した企業に工員の確保を保障しているところもある。このような田舎の鎮・村級(レベル)の開発区を訪ねると応対に出てくる通訳は、決まったようにたどたどしい日本語をしゃべり、聞いてみるとラジオの通信講座で勉強していると言う。しかし、その通訳能力とは反対に外資導入の仕事に対する熱意は堂々としていて大変なものである。

しかし、その熱意と破格の誘致条件だけに一目ぼれして飛びつくのは大変危険で、そこに書かれている条件の実態を現実と良く見極めることが肝要である。電気、ガス、水道、蒸気などのインフラが果たしてその通りに供給されるのかどうか、土地使用権の開発や権利保全の関係はどうなっているのか、開発区計画そのものが未完成で開発費用の一部を工場が建設工程に入ってから負担させられるようなことがないか等に気を付けなければならない。ここではA社とは百万円で契約したがB社とは2百万円で契約したと言うような話や、C社が出来ないと思っていた契約条件をD社はうまく交渉して通した等と言う事は よくある話である。

また、中国の開発区ではよく法令・制度の更改や変更が突然行われるが、必ず何らかの事前兆候がある筈で、予見できるものについては、日ごろからアンテナを高くして徹底的に調べておく必要がある。例えば、私の経験で言えば、開発区内の電力供給について、当初は変電所から電柱を立てて空中ケーブルによる配電計画であったものが、いつの間にか地中ケーブルによる配電方式に変更されていて、しかもケーブルの地中埋設工事費を受益者に負担させる等といった、投資計画の一部を余儀なく変更させられて生産コストに小さくない影響を受けたことがあった。

さらに、気象、天候に関する配慮も欠かせない。比較的平坦な中国大陸の沿岸部等は一旦、台風や大雨に遭うと水害を受けやすい。自分の投資した工場が浸水の憂き目に遭うことのない様に、事前の調査は十分に行い対策を考慮しておく必要がある。一般に中国の建築物は火には強いが水には弱い。雨漏り対策も必要である。平野部での長江(揚子江)は天井川であり、しかも河口から二千キロメートル内陸に入っても落差はたった60メートルしかないと言われている。

2.開発区との交渉

交渉に当たっては、出来るだけ単独で一対一の交渉はしないことが肝要である。必ず第3者を入れた交渉を行い、両者対決の形の場合は双方複数メンバーで対応し、覚書をつくって署名を取っておくなど交渉の記録を取っておくこと。この文書記録原則は交渉契約が成立して日常的な業務に入ってからでも同じ事で、特別な場合を除いて“総経理があの時、だれそれとこんな話をしていた”という事をはっきりしておいて誤解を招くことのない様にしておかねばならない。「李下の冠、瓜田の沓」である。よしんば、それが日本人であれ、また中国人であれ、 自分の行動の正当性を証明する第三者(証人)を常に意識するぐらいの用心が必要である。

最近では中国の大抵の都市や地域では「外商投資サービスセンター」等という海外投資誘致機構があって、外資の投資についてあらゆる相談に乗ってくれる。サービスの内容も以前に比べてかなり充実してきていると思われる。このような機関を訪ねて情報を得たり、その土地にすでに進出している日本の企業を訪ねて土地の事情を聞くのも一つの手であろう。こうした「外商サービスセンター」では投資物件の紹介、投資相手の紹介、信用調査、諸手続きの代行、労働者の紹介など、その地に於ける海外進出に際してのあらゆる情報について対応してくれるが、あくまでも、それは情報として聞くことにしてその情報の是非についてはあくまでも自分の責任において判断しなければならない。

いったん資金を持ち込んで建物・機械・設備などに形を変えてしまったら、まず、それを元の形に戻して持ち帰れなくなると思わなければならない。「背水の陣」を強制されたようなものである。以下の心がけが必要である。

(1)必ず利益を上げて投資額に相当する以上のもの生み出す

(2)やむをえず撤退する場合でも、投資資産を引き継いでもらえる相手を探しだして事業を引き継いでもらう

(3)居直って、中国に骨をうずめる覚悟を決めて不退転の努力をする

それゆえ、絶対に事業を成功させると言う成算がない限り安易に中国進出はすべきでない。90年代には「2年で元が取れた」とか、「3年で投資額相当分を回収した」とかいう話が成功談としてよく聞かれたが、現在では海外、国産との競争も厳しくなり、状況は必ずしもそうではないようである。

投資にはリスクがつねに伴うものである。一旦進出を決めたら“郷に入っては郷に従え”で徹底的に中国の企業として中国で生き残る覚悟と努力をすべきである。日本国内で新規事業を起こすときと同じ不退転の決意が必要である。

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