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政府機能の転換

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2006年9月15日

<政治・政策>

 

政府機能の転換

田中修

 

はじめに

 200613月期の成長率は10.3%、46月期は11.3%(16月期では10.9%)16月期の都市部固定資産投資は31.3%増と、経済は再び過熱傾向をみせている。他方で第115ヵ年計画の目標に基づき、2006年の省エネ目標は4%減とされていたが、16月期のGDP単位当たりのエネルギー消費は逆に0.8%伸びている。また化学酸素要求量は3.7%増、二酸化硫黄排出総量は4.2%増となっており(人民日報2006830日)、第115ヵ年計画は初年度から早くも躓きかけている。

このため、党・政府中央は投資の抑制・省エネに向けて政策を加速しているが、その根本には政府機能転換の問題が潜んでいる。以下、最近の政策動向を紹介していきたい。

 

1.金利引上げ

 

 人民銀行は819日、428日に引き続き基準金利を引き上げた。4月は、引上げの対象が貸出基準金利のみであった(1年物0.27%切上げ)のに対し、8月は預金・貸出基準金利共に切上げを行っている(1年物0.27%切上げ)。

 4月の段階では、人民銀行は預金金利を維持することにより、貸出量を減らしても銀行が利益を確保できるよう配慮していた。しかし、現実には銀行が極大利益を追求し、貸出を更に増やしたため人民銀行の思惑は完全にはずれることになった。このため、今回は預金基準金利も同時に引き上げ、低金利に不満をもつ預金者が資金を不動産投資に回すことの回避をも図っている。

 

2.省エネに関する国務院決定

 

2006824日、国務院は「省エネ活動強化に関する決定」を発表した。国家発展・改革委の責任者は次の6つの重要措置がこのポイントであるとしている(人民日報200691日)。

(1)省エネ型産業構造の構築を加速する

aサービス業の発展を加速し、国民経済の比重を高める。

b工業構造を積極的に調整し、ハイテク産業の発展を加速し、ハイテク技術・先進応用技術により伝統産業を改造することで、工業の全体水準を引き上げる。

cエネルギー高消費プロジェクトの新規着工を厳格に抑制し、エネルギー多消費業種の速すぎる成長を抑制する。

d企業の移転・改造について、エネルギー・資源管理の参入許可を厳格化する。

e有力な措置を断固として採用し、落伍した生産能力の淘汰を加速する。

f企業の連合・再編を推進し、産業集中度と規模の利益を高める。

(2)重点領域における省エネにしっかり力を入れる

 工業、建築、交通運輸、商業、民間用、農村、政府機構の省エネを強化する。

(3)省エネを推進する技術進歩に大いに力を入れる

(4)省エネの監督管理を強化する

a地域・業種ごとの省エネ計画を真剣に制定・実施する。

b省エネ目標の責任制と評価・審査システムを確立する。

省エネ指標を各地の経済社会発展の総合評価・年度審査システムに組み入れ、地方各クラスの人民政府の指導幹部の任期内における科学的発展観の貫徹を審査内容とし、国有大中型企業の責任者の経営業績審査の重要内容とし、省エネ活動の問責制を実行する。

c重点エネルギー消費企業の省エネ管理を強化する。

 エネルギー多消費企業1000社につき、1000社分の企業省エネ目標を1社ごとに分解して実施し、省エネ目標の責任・審査を強化する。電力の重要管理と調整管理を強化し、室内の空調設定温度を厳格化する。

(5)健全な省エネ保障メカニズムを確立する

 エネルギー価格改革を深化させ、重点を電力価格、石油・天然ガス・石炭エネルギー価格調整におき、省エネに有利な価格メカニズムを形成する。

(6)省エネ管理の隊伍建設・基礎工作を強化する

 国家省エネセンターを設立し、政府の省エネ活動に技術的支援を与える。エネルギー統計・計量管理を強化し、各地域のエネルギー消費水準、省エネ目標責任・評価審査制度を反映した省エネ統計体系を確立する。

 

3.土地規制の強化

 

2006年に入り、モルガン、メリル・リンチ、シティ、ゴールドマン・サックス、リーマン・ブラザーズ等の外資が不動産投資を活発化している(1−3月で2005年全年を上回る45億ドルとなっている。人民日報200689日)ことに対し、94日建設部、商務部、国家発展・改革委、人民銀行、工商総局、国家外貨管理局が連名で「不動産市場への外資参入許可・管理に関する意見」が施行され、国外機関・個人が自ら居住に用いない不動産に投資する場合は外資系投資企業を設立しなければならず、投資総額1000万ドル以上の外資系不動産企業の資本金は投資総額の50%を下回ってはならないとされた。

95日には「土地コントロール強化問題に関する国務院通知」が公表された。後者の通知は、a地方政府の土地規制に関する責任を明確化させるとともに、b農地収用補償・土地課税・最低土地転売価格の基準を引き上げることにより、土地使用コストを大幅に引き上げて投資を沈静化させようとするものである。国土資源部によれば、この措置により土地収用補償費と新規建設用地有償使用費が2倍に、都市部土地使用税が3倍になり、耕地占用税の基準も全体的に上昇するとしており、地価が50%近く上昇することになると予想している(新華社北京電2006910日)。

 

4.政府機能の転換

 

 94日、「政府自身の建設強化・政府管理革新の推進」テレビ電話会議が開催され、温家宝総理が重要講話を行った(概要は人民網200697日で公表)。この講話は、今回の投資過熱の本質を的確に指摘しており、その概要を紹介することとしたい。

 

(1)経済社会の発展中の深層の矛盾と際立った問題

 これには次のものが含まれる。

a経済構造調整と成長方式の転換が遅れている。

b投資の盲目的な拡張と重複建設が深刻である。

c耕地をみだりに占用し、鉱産資源を破壊する現象が禁じても止まない。

d土地収用、家屋立ち退き、企業制度の改正、環境汚染、安全生産等の面で大衆の利益に損害を与えている問題が、有効に解決されていない。

 これらの主要原因は、体制の不備であり、とりわけ行政管理体制改革の遅れである。

(2)政府機能を適切に転換し、行政権力を更に規範化する

A政府機能の転換は行政管理体制の改革であり、政府自身の建設強化の重点である。

 政府及びその部門は、依然多くの管理すべきでないもの、管理できないもの、管理がうまくいかないものを管理している。行政許認可が依然多すぎ、政府・企業の未分離問題が比較的際立っている。一部の地方政府・部門は、直接に企業のミクロ経済活動に干渉し、甚だしきは企業に替わって投資を勧誘し、投資の政策決定を行っている。一部の政府部門は権力に責任が伴わず、権力があるのに責任がない。問題が発生しても誰も責任をとらない。政府が管理すべき事柄が管理されず、管理がうまく行われていないために、市場の監督管理・社会の監督管理のシステムが不健全で、公共サービスが比較的薄弱である。

B政府・企業の分離を引き続き推進する。

 政府・企業の分離は、政府機能の転換のカギである。およそ企業が自主的に行使すべきである生産経営・投資決定権は、全て企業自身が決定し責任を負わなければならない。各クラスの政府及びその部門は、企業の投資決定を勝手に行ったり、企業の正常な生産経営活動に干渉してはならない。各クラスの政府が企業に替わって投資を勧誘することを断固として禁止しなければならない。

C行政許認可制度の改革を深化させる。

 とりわけ政府・国有企業の投資行為を規範化しなければならない。

D権力と責任を一致させる。

 権力は責任であり、権力をもつからには責任を尽くさなければならない。権力と責任は対等でなければならない。近年、一部の地方で重大な安全生産事故が頻発し、食品・薬品・環境保全等の安全面での潜在リスク要因が際立っており、人民大衆の生命財産に深刻な危害を与えている。これらの問題が発生する重要な原因は、責任制が実行されず、一部の政府部門及び工作人員の責任感が希薄であり、職務に怠慢であり、汚職を行っていることである。

E政府の職分を全面的に履行する。

 社会事業の発展と民生問題の解決に重点をおき、就業、就学、医療、社会保障、社会治安、安全生産、環境保全等の人民大衆が最も関心のある利益問題の解決に力を入れる。

(3)反腐敗・廉潔唱導を深く展開し、権力が濫用されないことを確保する

A腐敗の本質は、公権力の濫用である。

 公権力の濫用問題の発生は、個人の資質の問題であるが、制度の不備と権力に対する監督規制が欠乏していることとも直接関係している。改革を深化させ、制度を健全化し、反腐敗・廉潔唱導活動に力を入れ、根本から権力濫用問題を解決する必要がある。

B重点を際立たせ、商業上の賄賂を処分する専門工作をしっかりと展開する。

C制度を健全化させ、腐敗を根源から予防・処置する。

 制度があっても、カギは実行されることにあり、制度の執行をしっかり確保しなければならない。

D民主を発揚し、権力行使への監督を強化する。

 権力行使について、有効な監督・規制が欠乏していると、必然的に腐敗に至る。各クラスの政府は人代の監督・政協の民主監督を受け入れなければならない。社会的監督(人民大衆・世論・メディア)を強化し、各クラスの会計検査・監察は、職務に忠実でなければならない。

E政務公開を推進し、大衆が事をなし監督を行う便に資するようにする。

 人民大衆が関心をもつ事項、腐敗が発生しやすい領域を政務公開の重点とする。学校、病院、水道、電力、熱供給、ガス、環境保全、公共交通等の大衆の利益と密接に関わる公共部門・単位は、全面的に事務公開制度を推進しなければならない。

(4)行政の効率を高め、政府の執行力・信用力を高める

A政府の執行力・信用力を高めることは、行政管理体制改革を深化させる重要目標である。

 現在、一部の地方・部門では、2つの際立った問題が存在する。

a命令が滞り、執行に力が入っていない。

 ある地方・部門では、「上に政策あれば下に対策あり」で、意に沿えば執行し、意に沿わなければ執行しない。ただ一部の利益だけに配慮し、全局の利益に配慮せず、地方・部門で保護主義を行っている。

b法規に違反し、人民の信用を失っている。

 一部の政府機関・工作人員は、法に基づく行政を行うことができず、人民大衆の合法的な権益に損害を与えている。官僚主義・形式主義、虚偽をつくろう問題が存在する。派手を好み、豪勢にふるまい、ほしいままに国家の財産を湯水のように使い、奢侈浪費が深刻である。

B大局意識を増強し、命令が滞りなく行き渡ることを確保する。

 執行力は、政府活動の生命力である。各地域・各部門は、「全国が全体として1つにまとまる」という観念を確固として樹立し、中央の方針・政策を真剣に貫徹し、現地の実情から出発し、創造的に活動を展開しなければならない。しかし、政策執行上は手抜きをしてはならず、ましてや各人が思い思いの事をしてはならず、命令が行き届くことを確保し、中央の権威を擁護しなければならない。各地方・各部門は、科学的発展観を貫徹し、全局の利益と局部の利益、当面の発展と長期の発展の関係を正確に認識・処理し、中央のマクロ・コントロールに関する決定・手配を真剣に実施し、固定資産投資の規模とプロジェクト新規着工を厳格に抑制し、土地管理、資源・エネルギー節約、環境保護等の方面の要求を厳格に執行しなければならない。

C科学的・民主的な政策決定を堅持し、政策決定の水準を高める。

 政府の政策決定権限を合理的に画定し、重大事項に関する集団的決定、専門家への諮詢、パブリック・コメントの聴取、政策評価等の制度を更に健全化しなければならない。

D法に適切に基づいて行政を行い、社会の公正を維持する。

 政府に執行力・信用力があるかどうかで最も重要なことは、「法があれば必ずこれに基づき、法を執行するときは必ず厳格に行い、違法は必ず追及する」ことができるかどうかである。

E問責制度を確立し、業績・効果の評価を展開する。

 政府の業績・効果を評価する内容・指標体系を科学的に確定し、科学的発展観に適応した政治業績観の樹立を促進しなければならない。虚偽報告・誇張を行い、功を焦り利に近づくこと、人民を疲弊させ財を損なうイメージ作りのプロジェクトや政治業績作りのプロジェクトには断固反対しなければならない。

 

 

まとめ

 温家宝総理の重要講話にもあるように、現在の投資過熱の主要原因は行政管理体制改革の遅れにある。温総理の指摘を見ると、一部の地方政府や中央政府部門は企業の投資決定に不当に干渉し、問題が発生しても責任を負わず、公権力を濫用し、中央の命令を執行せず、違法な政治業績プロジェクトやイメージ作りプロジェクトを次々に立ち上げ、国有財産を消耗し、環境を悪化させ、国民の生命財産に損害を与えているのである。これを中央指導部が断固として抑制できぬところに問題の所在がある。

 今回の投資再過熱を契機に、北京の一部では温総理の地方政府に対する指導力に疑問符が付いているという声を聞く。代わりに、かつて朱鎔基と総理の座を争った呉邦国全人代常務委員長の株が急上昇しているともいう。確かに人民日報記事を見ると、8月以降呉委員長の動静が毎日のように報道され、特に8月末以降は写真入りで大々的に報道されている。これに比べ、温総理の記事の扱いは以前よりも小さくなっている。前述の重要講話はそのような中で行われたものであり、温総理の政治的危機感を強く反映したものといえよう。10月の党6中全会に向けた動きが注目されるところである。

 

 

(2006年9月記・5,543字)
財務省財務総合政策研究所客員研究員 田中修

 

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