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ログイン2006年9月21日
〜食品安全問題〜
2006年9月13日以来、上海およびその周辺で食品の安全を脅かす問題が頻発している。その中でも、ここ数日にわたって上海エリアで大きく報道され、300人以上の被害者を出した「痩肉精」問題について、これまでの情報を整理してみたい。
●中毒症状を訴える市民たち
上海のマスコミで大きく報道されだしたのは、9月14日。
上海市の中心エリアにある浦東新区花木の桜花路市場で販売されたとみられる豚肉を食べた市民が、手足の痺れや、心拍数がはやくなるなどの症状を訴えて患者が次々と上海市浦東の仁済医院の救急センターに運ばれてきたことが始まりだ。その数は55人にのぼり、いずれの住民も同じ市場で豚肉を購入しているため、痩肉精が原因であると考えられている。その後、浦東新区のある工場の食堂からも集団で痩肉精が原因と見られる中毒患者が続々と病院に運ばれてきた。
9月15日に上海市食品薬品監管局が公表したデータでは、今回の痩肉精中毒事件は、上海市内の浦東新区、普陀区、宝山区、松江区、嘉定区など9つの区に及び総数は300人を超えた。 そのうちもっとも被害者数が多かったのが浦東新区となっている。
まず、「痩肉精」とは何なのだろうか?
日本語ではクレンブテノール(英文:clenbuterol)と呼ばれ、非常に強力なベータ2作動薬であり、強力な興奮作用を持っている。豚の飼料に混ぜることにより、豚肉の脂肪が減り肉の値打ちがあがるというわけだ。しかし、クレンブテノールは豚の内臓(肺・肝・腎)に蓄積されるため、人間がこれら内臓を食すると、四肢が痙攣したり、心拍数が大幅に速くなったり、頭痛、心悸、嘔吐などの症状がみられる。重篤な場合は亡くなってしまう場合もある。厄介なのは、豚肉の外形から「痩肉精」が使われたが、使われなかったかわからない点で、今回の事件のように密かに使われていて、被害が拡大したということは中国全国でも度々発生している。
一般的に、脂肪分が少ない豚を育てるにはそれなりのコストがかかる。当然、その分豚肉が高く売れるわけだから、生産者側からすればなんとか簡単に脂肪分が少ない豚肉が生産できないものかと考えてしまうわけだ。そこで使われだしたのが「痩肉精」なのである。豚1頭あたり8元程度のコストで、しかも10〜20日間という短い時間で、普通の豚が、脂肪分の少ない付加価値の高い豚肉に変身してしまうのだ。
● 問題豚肉の流通経路の洗い出しが進む
これまでの上海関係機関の調査で、問題の豚肉や豚の内臓は、浙江省海塩県の畜産屠殺加工工場から、上海金山から上海に持ち込まれ、さらに上海市の卸売市場である農業産品中心の9009、9055番の店から、上海市内の66箇所の市場に売られていったことが明らかになった。もちろん、上海金山区に持ち込まれる際に、上海市が発行している合法的な検疫証明証も発行されていることもわかっている。
事件の拡大を重く見た上海市政府は、緊急命令を出し、上海の農産品中心の卸売市場の関係売り場の営業活動を一切禁止させ、製品の回収命令も出してた。また、上海市食品薬品監管部も、市場での肉製品の衛生検査を強化し、とくに肝臓・腎臓・肺に関しては、「痩肉精」の検査体制を強化することを明らかにしている。しかし、この検査は豚1頭に対して200元もかかり、上海に入ってくる豚肉をすべて検査するにはあまり現実的ではないという声もあるようだ。
さらに、『東方早報』は9月17日付けの新聞で報道された内容から、浙江省海塩での流通経路について、すでに浙江省嘉興市と上海の公安部門との調査が進められている。
その中で、問題の豚肉の屠殺工場の管理者と、問題の豚肉を卸売市場で売ったある売り場の管理者とが同じ人物であることがわかり、仮に豚や豚肉に問題があっても、市場に流れ出てしまう経路ができてしまっていた可能性があることも分かってきた。このように管理面でも不可解な問題が少なくない。
現在、9月12日から13日にかけてこの卸売市場のある売り場の管理者の元で扱われた274頭の豚に関して、これまで嘉興市農業経済局が調査を行っている。このうち、250頭は、豚を飼育していた2軒の農家までの追跡が終わったが、残り24頭に関してはいまだにどこからきた豚肉かまだ分かっていない。
一般に、豚肉が生産農家から製品となるまでに、検疫部門によって繰り返し尿検査が行われ、「痩肉精」など有害物質が陰性でなければ、合格として検疫証明が発行されない。さらに、豚が処理される前にももう一回尿検査が行われることになっている。そのため、今回の事件では内部事情に詳しいものが関わっているものと見られている。
現在、上海市浦東の公安部門では、浙江省嘉興、海塩県、南湖区などの地域で調査を行っており、「痩肉精」販売にかかわった問題の洗い出しを行っている。また、上海市農業委員会では、上海市入り口の道路管理を強化して、浙江省海塩県で加工された豚肉の上海への流入を一切禁止にした。
学校や企業などの食堂で使われる肉に対しては、合法的な証明書のある肉の購入を求めるように食品安全予警通報を出し、今回のように集団で中毒事故が発生することを未然に防ぎたいとしている。
● 市民の自由市場離れ
上海人の食卓では豚肉が欠かせない。さらに、豚の肝臓の需要も多い。これら一連の事件を受けて、自由市場などで肉を買うことができないと訴える市民が増えている。また、消費者もこれまで需要の多かった赤みの多い肉から、脂肪の付いている肉を買う傾向が出始めているそうだ。 一方で、自由市場の肉売り場でも、売り上げの減少が見られているとかで、肉を買う市民が、流通経路の比較的しっかりしている大手スーパーに向かい始めている実態が反映されている。特に、市場周辺の路上で売られている肉類などはもってのほかということになる。
また、スーパーでも愛森や上豊上食のようにブランドとして上海人に定着している豚肉が人気を集めだした。カルフールや農工商などの大手スーパーでは、独自の流通経路や品質の管理システムを導入しており、安全度は高いといわれる。逆に、値段が極端に安い肉に関しては、それなりに理由があることが多く、中国の場合、手を出さないように消費者に呼びかけている。いずれにしろ、上海市民の市場離れがますます加速することは間違いない。
また、「痩肉精」の中毒の原因となりやすい豚の肝臓に関しては、今後今までのような裸売りは禁止され、上海市食品薬品監管局が中心となってすべて規定の検査を合格した袋詰め方式に変更されることが法制度化されることになった。
これまでは、一部小売業者が合格証明のない安い豚の肝臓を購入して、自由市場に高価な値段で売りさばくというような不法な流通経路が形成されていたのだ。
巨大人口を抱える上海市では、市民の食品に対する需要を、外の省からの救援がなければ、養っていくことは到底できない。上海市は全国でも始めてアメリカFDAをモデルに食品安全に関する流通での品質管理体制を導入してるが、一方で他の省では、そこまで体制の整備ができておらず、それが今回の「痩肉精」騒ぎのように、地方から持ち込まれた豚肉に問題が発生した。
また、縦割り行政の弊害も指摘されている。たとえば、薬品となる「痩肉精」は、薬品監督管理局、工商局が管理し、豚の飼料に関しては農業部の管轄となる。さらに、豚の飼育は農業部の管轄になる一方で、豚肉の屠殺に関しては経済貿易委員会の管轄となる。さらに、肉の販売に関しては質量監督検験検疫局と工商局が管轄する。そのため、根本的に「痩肉精」の流通を食い止めるには、それぞれの部門での管理体制を強化しなくてはならず、問題が少なくないといわれている。
9月19日夜には、上海市食品薬品監管局による上海農産品批発センター(卸売り市場)の豚肉の緊急調査が行われ、未明にかけて抜き打ちの豚肉の「痩肉精」検査も行われた。今回対象となった50頭の豚に関しては、すべて陰性という結果だった。
これから、上海市ではF1も含めて大規模なイベントが立て続けに行われる。食品の安全は人々の生命にかかわることだけに、市政府もかなり重要視していることがわかる。
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