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ログイン2004年6月15日
1.撤退の認可取得
撤退する場合、どれぐらいの資金、資産を日本に持ち帰ることができるかが成功と失敗を決める最大の基準と考えられがちですが、実務上はそれ以前の問題として、撤退申請が当局から認可されるかという最も基本的なハードルが待ち構えています。
以下の関連法規条文からも明らかなように、すべての場合において、外商投資企業は事前に当初認可機関から撤退の認可を取得しなければなりません。
「合弁企業に重大な欠損、契約及び定款に定める義務に対する一方の不履行、不可抗力等が生じたときは、合弁各当事者の協議による合意にもとづき、認可機関に申請し、認可を受け、かつ国の工商行政管理主管部門に登記したときは、契約を終了させることができる。もし契約違反により損害が生じたときは、契約に違反した一方が経済的責任を負わなければならない」(中外合弁企業法第13条)
「中国と外国の合作者は合作期間内に、協議の上合作企業契約の重大な変更について合意した場合には、審査・認可機関の認可を受けなければならず、変更が法にさだめる工商業登記、税務登記に及ぶ場合には、工商行政管理機関、税務機関で変更登記の手続きをしなければならない」(中外合作経営企業法第7条)
「外資企業はつぎに掲げる各号のいずれかに該当するときに終了する。
(1)経営期間満了
(2)経営が困難で、欠損が大きく、外国投資者が解散を判断したとき
(3)自然災害、戦争などの不可抗力により重大な損害を受け、経営を継続不可能なとき
(4)破産したとき
(5)中国の法律、法規に違反し、社会公共の利益を害して法により営業許可を取り消されたとき
(6)外資企業定款に定められた解散事由が発生したとき
外資企業は上記(2)、(3)、(4)に該当した場合、みずから終了申請書を提出し、認可機関の認可を受けなければならない。認可機関が認可した日を企業の終了日とする」(外資企業法実施細則第75条)
「設立契約、定款に(清算財産価額評価の)定めがないときは、中外の投資者が協議して(清算財産価額評価の)続きを決定し、かつ認可機関の承認を受ける」(外国投資企業清算規則第29条)
「出資者の出資持ち分変更においては、中国の法律、法規を遵守しなければならず、かつ本規定にもとづき、認可機関の認可を受け、登記機関で変更登記を行うものとする。認可機関の認可を得ていない出資持ち分の変更は無効とする」(外商投資企業出資者の出資持ち分変更に関する若干の規定)
「清算委員会は企業の財産を整理し、貸借対照表および財産明細表を作成した後に、清算計画をさだめ、株主総会または関係主管機関の確認を得なければならない」(公司法第195条)
「債務者は、その上級主管部門の同意を経たうえで、破産宣告を申請することができる」「…破産企業の上級主管部門が企業破産の主要な責任を負っている場合、当該の上級主管部門責任者の行政処分を行う」(破産法第8条、第42条)
以上のように、どのような方法をとろうとも、その前提として認可機関(当初企業設立の認可を受けた役所、市政府対外貿易委員会など)からの認可取得が前提の必須条件となります。
独資企業の場合や不可抗力などが原因の場合、撤退の認可取得はさほど困難ではありませんが、合弁や合作などのように中国側に共同経営パートナーが存在する場合、清算の合意を得ることは必ずしも容易ではありません。あるいは合弁会社で現地金融機関から借り入れがある場合など、銀行側の債権管理の都合上、外資撤退に反対されるケースもあります。また清算手続きに入った後でも、資産価格評価や弁済順位などをめぐって日中当事者間の利害が対立してしまい、会計士や弁護士等による適切な対処も功を奏さなければ、最終的な撤退認可が取得不可能になってしまうことも考えられます。
ちなみに有限会社形態では、撤退などの重要決議事項については董事一人一票の全員一致決議が義務付けられています。株式会社の場合は、持ち分一株一票で三分の二以上の決議と公司法で定められています。このような差異はあるものの、いずれの場合も、合弁であるかぎり中国側出資者の同意が得られなければ企業解散の認可申請すら難しい(注)ということです。独資形態の場合には、このような面倒は無く、自分たちだけで決議することができ、対当局の撤退申請作業は比較的スムースです。
(注)清算委員会が董事会でみずから組成できない十分な事由が認可機関により認定されれば、特別清算という手続きをとることも法律上(外国投資企業清算弁法第3条)は可能です。
2.法を守る
認可機関から認可を取得するためだけでなく、清算処理の公正さを確保するため、という点からも最初の手続きから最後まで「法を守る」という至極当たり前のことが、中国からの撤退においては非常に重要なことです。
現地事情に通じた、経験豊富で実績のあるプロの弁護士を起用し、先方にも弁護士をたてさせて正々堂々と法にのっとって弁護士どうしで撤退の協議と具体的手続きを進めれば、たいていの障害は取り除くことができます。つまり、中国側当事者に中国法をきちんと守らせることさえできれば、撤退はなかば成功したも同然と言うことができるでしょう。逆に言えば、法を守らずに私人間で問題解決しようとする態度こそが、みずから相手に付け入るスキを与え、問題解決をさらに複雑に、難しくしてしまうのです。
「中国からの撤退が困難」とよくいわれる原因の多くは、逆に外資側の遵法意識の薄さと弁護士起用のコスト意識にもあるともいえるでしょう。目前の数百万円の弁護士費用を出し渋るがために数億円の資金回収を逃してしまうのです。同時に、いざというときのことを考えれば、常日頃から日本側が遵法意識をもってきちんとした経営に責任を持つことが必要です。外資側が常日頃から無意識に脱法行為、もしくは違法行為をずさんに繰り返しているようでは、いざ撤退、弁護士起用といっても、「身から出た錆」のために、うまくいくはずがありません。帳簿すら付けていなかったために、実際に清算すらできなかったという実例すらあります。ずさんな経営の企業は撤退すらできません。そのようなケースに限って、解散前に「ピストル強盗に入られた」、「夜中にごっそり会社資産を何者かに持ち去られた」、「帳簿類が紛失した」、「会社に爆弾を仕掛けられた」、「社宅を襲撃された」というような羽目に陥るのです。蛇足ながら、撤退のトラブルには、よく「外国人高級幹部の個人所得税脱税」という問題が伴うことがあります。つまり、撤退や清算の話が持ち上がった途端に、日本の留守宅手当などの税務申告漏れを何者かにより税務局に内部告発され、まず日本人が否応無く帰国せざるをえなくなるように仕組まれるのです。税務査察の事情でいったん帰国せざるを得なくなった日本人幹部は、再び訪中することはなかなか難しくなります。
3.資金回収は現実的に
中国で会社の資産を処分しても、実際に入ってくる金額は多くないでしょうし、ましてや人民元です。中国側に損害賠償請求して、たとえ勝てたとしても、一度で全額清算できるほど資金余裕のある中国企業は実際に多くはないものと考えられます。
筆者の経験では、清算金を払い戻すだけの人民元は手元にあるのだけれども、外貨に交換ができない、そこで市政府の外貨管理局、対外経済貿易委員会に正式に申請したところ、副主任から「申し訳ないが外貨交換はできない」と断られたという事例もあります。そんな場合に、法律(外貨管理法)にはできると書いてあるじゃないかと正論を通して、さらに上級の中央政府に上申することは賢明でしょうか。状況を見て、場合によっては人民元でもらえるときに回収してしまう、一括弁償が無理なら期日を決めて担保をとったうえで分割弁償を認める、現金送金が無理なら他の有効な手段も認める、という柔軟な対応をとったほうがむしろ現実的です。ただし、人民元現金で回収する場合には、いくつかの前提条件が必要であり、安易な妥協は厄介な問題を孕みます。その留意点については後述します。
また、さほどの大金でもないのに出し渋っている場合は、上級幹部個人に請求するという方法が有効なこともあります。幹部のなかには正式な手続きを経ずに、個人的な小遣い稼ぎや海外個人蓄財のために、外国企業との合弁、販売契約等に個人で投資している事例もあります(本来は無効)。このような場合、日本側から正式に弁護士を通じて賠償請求を提出されるとなると、政府内で違法な個人投資が発覚するだけでなく、不祥事として政治的に失脚してしまうこともあり得ます。それを恐れて即座に支払ってくることがあるわけです。この方法は、売掛金回収のテクニックのひとつとしても有効で、最近では代金回収を専門とする企業(成功報酬)も存在します。
(続く)
(2004年6月記・3,594字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄
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