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台湾企業との合弁で理想的な中国でのビジネス展開

中国ビジネスレポート 各業界事情
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2004年6月11日

<各業界事情>

台湾企業との合弁で理想的な中国でのビジネス展開
―光る荒川化学工業の効率的経営―

アジア・マーケット・レビュー 2004年6月1日号掲載記事)

台湾が中国本土に“移転”した街

 中国福建省の廈門(アモイ)と言う街は不思議な街である。街でタクシーに乗ると何度でも日本の演歌を聞く。それも、「だれか故郷を思わざる」、「時の流れに身をまかせ」、「ああ上野駅」などかなり古めの歌なのである。別に私が日本人だからカセットテープを流してくれている訳ではない。ラジオから流れているのである。いつも普段に日本の演歌の流れる街、これが廈門である。こんな国がもうひとつある。それは台湾である。台湾でも街のタクシーから自然に日本のそれも古い演歌が流れる。
 そうなのである。廈門とは、台湾が中国本土に移転したような街である。街を歩くと実に台湾の企業が多い。工場も、レストランも、スーパーマーケットも、台湾の企業がいろいろな形で展開している。いわゆる対岸ビジネスが一番自然に消化されている街である。
 中国人にとって親戚、同族とは特別な意味を持つ。「兄弟は他人の始まり」と、肉親が遠くなるところから成り立つ日本人とはかなり異なった価値観である。逆に言えば、他人や役所をあまり当てにしないとも言えるが、これが中国ピジネスでは効果を発揮している。
 日本企業の中で、このような台湾企業、香港企業と組み中国に進出している企業も多い。いわば打率の高いビジネスに一枚加っておこうと言うことである。印刷インキ、塗料用樹脂、粘着接着剤用樹脂、合成ゴム重合用乳化剤などの製紙用薬品を製造、販売する荒川化学工業(本社・大阪市中央区)もそんな企業のひとつである。
 同社は、1983年に台湾に進出し、合弁会社「台湾荒川化学工業」を設立した。そのときのパートナーが台湾の製紙用薬品メーカー天立化学工業である。資本の持分は日本側が60%、台湾側が40%である。この台湾荒川化学工業が95年に香港に進出し、翌96年に日本側、台湾側が台湾の合弁企業の同じ資本割合で福建省の廈門に進出している。だから、形式的には香港の会社が中国に出ていることになる。台湾と中国の特殊な関係から、台湾企業は香港やバージン諸島などを経由した形で中国に進出している。荒川化学もそんなかたちの進出と考えればよい。

巧妙な台湾、日本の連係プレイ

 この様な変則的な形の中国投資は効率が悪いように見えるがそうでもない。意外に効果的なのである。まず、日本側、台湾側とも直接投資した形ではなくなる。香港という格好の中継基地を持つと言う事は、貿易、資金管理、税金対策に大きく役立つことを意味する。香港で、余剰金、内部留保金の一部をドルやユーロ、元などで保管することでさえ、これだけ変化の大きい時代には大きく役立つ。中国企業が伸びて来て本格的な大競争時代が始まると、この香港に会社を置く、効率的経営は役に立って来る。
 さて、廈門荒川化学工業の台湾側、日本側の役割分担であるが、台湾側は、地元の政府との交渉、労務対策、工場設備の管理などを受け持ち、一方、日本側は技術指導、工場の生産管理、販売を受け持っている。出向者は、日本側が2人、台湾側が2人という体制である。現在同社は、製品を基本的には現地の台湾企業、日本企業に売っているが、最近需要が急激に伸び両社とも出向社員が増える傾向にある。
 それと言うのも、中国での工業化の進展で紙の需要が伸び、それに従い経営体制を大きく見直す段階に入っている。96年に中国に進出した当初は、現地の台湾企業に製品を供給するのが大きな仕事であった。この為に進出してきた。ところが、最近は王子製紙、日本製紙などの日本企業が大量に進出してきた。中国企業の需要も設立当初に比較しとにかく信じられないくらい増えてきた。当初の中国に進出した頃に比べ、まったく新しい展開となってきた。

中国内需向けに体制を強化

 そこで、同社では2003年に上海に駐在事務所を設置した。日本から進出した印刷会社に同社の製品を供給しようとする訳である。現在の同社の取引先は、80%が台湾系企業、20%が日系企業であるが、2010年までに30倍にマーケットが伸びる計算であるから、同社の体制も相当入れ替えねばならない。
 現在、同社の大きなプロジェクトは2つある。ひとつは、この上海駐在事務所を中心に今後中国でどの様に売っていくのかである。日本企業が中国にきたからといって、すぐに製品を買ってくれる訳ではない。当然厳しい競争が始まる。コスト設定がどうなるのか、ビジネスの新たなルールづくりが始まる。日本での取引をそのまま持ってこれるほど甘くはない。
 もうひとつは、それに伴う生産設備の整備である。現在、工場はフル操業であるが、生産増強に合わせて隣の敷地に4階建ての工場を建設している。 日本の本社から出向し、廈門荒川化学工業有限公司の総経理を務める中久芳氏は、「当初は、3ヵ月で完成させると言う元気のいいローカルの建設会社があったので、そこに頼んだら半年経つのにまだ出来ない」と苦笑する。「でも、1年では出来そうですからそれで良しとしましょう。それでも充分早いですから。日本だと2年はかかりますよ」と私が答えるとまんざらでもなさそうである。「日本人は出来ないことは言わないのだが」と、今だに中国人の商法が理解出来かねる風情であった。ただ、黙っていては工事は自然に遅くなるので、進捗状況を日々確認する。遅れているとその理由を確認する。「あきらめたら、あかん」、「待っていたら、あかん」、これが中総経理の口癖となっている。しばらくは、好きなゴルフは1回にして、工事を管理する日々が続きそうである。

異なる現地スタッフの使い方

 ところで、日台の合弁企業の日本人と台湾人の現地人スタッフの使い方、理解の仕方がおもしろい。基本的に日本人はなんでもかんでも現地のスタッフに任せようとする。これは、性善説、好意的というよりも、その方が断然コストが安いからである。
 一方、台湾人はこの逆である。なんでも、かんでもは教えない。パーツ、部分だけを教える。これは根底に任せきると裏切られるという思いがある。日本人の多くがそんな先のことまで考えないでコストに動かされるのとは対照的である。
 従って、廈門荒川化学工業では、日本側の担当する技術や中国国内の販売などは現地のスタッフにかなりのものは任せるものの、台湾側の担当する工場の管理や総務、経理関係は任せないことになる。特に、税金については台湾人は大変シビアで、いつも税務当局と交渉している。
 ここで、すごいこぼれ話を得る。中国には間接税で増値税がある。国内取引では、取引額の17%を支払うことになっている。これが、輸出の場合だと一度税務署に支払い、年度末に還付されることになっている。ところが、現実はなかなかそうはならない。還付金が遅れたり、70%になるなど減額されたりする。

確実に増値税が戻る訳

 ところが、同社では輸出分についてはきちんと年度末には還付されている。ただし、還付されるところが、地場のA銀行の同社の定期預金の口座である。増値税は還付されるかどうかが大事なので、これはまったく聞題がない。A銀行が税務署に働きかけ、きちんと同社には還付されるようにしている。台湾人の人脈、交渉力の面目躍如たる一面である。
 前出の中総経理は、「中国は税制がころころ変わる。この猫の目の税制の情報把握だが、日本人会などより台湾人の情報の方が早くて正確である。多くの日本人出向者は、真面目にこつこつやっている。何かをやると問題が起きるので余り動かない。だから、情報も自然と入らなくなる。廈門地域には台湾企業が2,500社進出していることもあるが、それを抜きにしてもすごい情報力です」と語る。
 最後に、中総経理に台湾人、現地スタッフの中国人との付き合い方をお聞きした。一番のポイントは、人間と人間、個人と個人の付き合いが出来るかどうかということであるという。何事も会社人間で会社で回している日本人には気をつけねばならないことである。

驚かない、言葉を大事にし、ゆっくり話す

 例えば、台湾人社員、中国人社員と飲みに行く、ごちそうする。中総経理が支払いの時、彼らはどこからお金を出すのか良く見ている。会社の金だと会社の付き合いである。個人の金を出した時、個人の付き合いとなる。彼らは陽気に飲むが、ここのところを実に良く見ている。今、一番付き合いの多い工事業者との関係も同様である。
 どちらかと言うと、会社の力、会社の名刺で動く日本人に比較し、個人の力、個人の人脈で動く中国人との差である。私は、当初中総経理を中国人だと思っていた。名前が三文字で中国人でもありそうな名前であったからだ。そして、全体の風貌、センスもまさに中国人のそれなのである。
 まず、何が起きても驚かない。動揺しない。淡々とこなす。言葉を大事にし、急がないでゆっくり話す。常に、一番悪く行った時を想定し、その対策を頭の中で練っておく。「山より大きな猪は出てこない。ピンチの時こそ笑顔をつくりゆっくりやるんです。なにしろ、毎日問題が出ますから、それにいつもピリピリしていたら、身体ももたないし、彼らの信用も出てこない」と語る。
 中総経理は、「定年後は中国で何かをしたい」と語る。これは中国でそれなりの人脈を築いたということでもあるし、自然と中国人の立居振舞いが自身でも出来る様になった。もはや中国人として免許皆伝なのである。

(産能大学経営学部教授増田辰弘)

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

アジア・マーケット・レヴューは企業活動という実践面からアジア地域の全産業をレポート。日本・アジア・世界の各視点から、種々のテーマにアプローチしたアジア地域専門の情報紙です。毎号中国関連記事も多数掲載されます。

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