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ログイン2005年1月11日
大学受験に失敗した学生の不合格体験談ばかりを拾い集めても決して希望大学に合格することができないように、失敗談ばかりを拾い集めても、教訓となることはあっても決して成功に直接結びつくものにはならない。しかし、その反面で、多くのセミナーや雑誌等で依頼が多く、関心の高いテーマがその「失敗談」なのである。
おそらく多くの企業経営者が、自分が今考えていること、行動していることに失敗の要因がないかどうかを確かめておきたいという不安の心理を持っていることから来るものと思われるが、もし自分に心当たりがある場合は、できるだけ早く、勇気をもって路線変更を再考されることをお勧めするものである。
(4)密告
ある日中合弁会社社に二代目の日本人総経理として赴任したA氏は、赴任してまもなく、総務係の、少し日本語のできる女性担当者から一通の手紙を受け取った。その手紙は中国語で書かれたもので、「理科系大学卒の自分が庶務担当という処遇に強い不満を持っている」と綿々としたためてあった。
問題はそのあとで、総経理助理兼通訳の中国人B氏がいかに悪徳な人物であるか、弟の経理部長と結託して会社の経費を私事に使い込み、書類や図面を勝手に持ち出してアルバイトし、社内の女性にセクハラまでしていると書いてあった。彼女から密告されたA氏の片腕を務めるB氏はもともと日本本社で採用した優秀な中国人留学生であり、性格は明朗、日本語も堪能で、当初の合弁会社設立に携わった人物である。日本本社社長からの信頼が厚く、弟を経理部長として採用している。もともと中国語のできないA氏は、B氏に当面の社内の人事管理や通訳を事実上、頼りきっていた。
A氏は多少迷ったが、密告は良くないと判断して、その手紙を書いた本人を呼び出して注意した。
「なぜこのような手紙をこっそりと私に書いてよこすのか? Bに問題があるなら、直接彼に注意すれば良いではないか? 他人の誹謗中傷を手紙でこっそり私に密告して一体君に何の得があるのか? 今後いっさいこんなことはしてはならい。今回Bには私から話はしておくが、再びこんなことをしたら今度は君を処罰することにする。」
こう話した途端、彼女はこう言った。
「私は昨年入社したときから社内の管理体制がおかしいと思い、改善提案の報告書を何度か書きました。でもそれはいつもBのところで止められて、総経理までまわしてもらえないのです。Bには社内の取り巻き連中がいて、採用面接のときからいろいろな付け届けをし、平素もあからさまなお世辞ばかり言っています。前任の日本人総経理は社長室から出てこないで日本本社や日本企業との連絡、日本人の接待ばかりしていて、事務所内の中国人スタッフの管理はほとんどBに任せていました。そのお陰で、彼が社内の弱いものいじめをして実質的な職場のボスになっているのです。今度の総経理も何もわかっていない…。そんなことをしたらBが私をこの会社から追い出すだけです。」
1.日本人管理者の眼には見えない部分が大きい
中国の職場の人間関係がいかに執拗で煩雑なものか伺い知らされる話である。総務担当の彼女はB氏にいじめられている中国人職員の総意を代表して総経理に密告(直訴)の手紙を書いたという。それなりに真剣に思いつめていたのである。
B氏には当初からいろいろ世話になっており、彼は本社社長からもっとも厚い信頼を受けている中国人であるとしかA氏は前任者から聞いていなかった。たしかにA氏の指示にはいつも素直に応え、返事も良い。すぐ総経理の指示を担当者に伝えている。したがってA氏は顔しか知らない総務担当者からの密告文を読んだとき、反射的に彼女のほうを疑ったのである。
しかし、それからというものB氏の日頃の言動を注意して見ていると、たしかに親しい同僚と反目しているグループとがある様子で、時には非常に激しい口調で中国人社員を叱責していることもある。しかし、残念なことに中国語がわからないA氏には何の話なのか全く理解できない。また、日本本社社長から信頼を受けているとは言え、実弟を経理部長に据えていることにも問題があると感じ始めた。
2.密告は必ずしも悪意とはかぎらない
このような社内密告という習慣は文化大革命時代に生活習慣として定着したものである。現在でも、社内幹部や政府幹部の腐敗を密告したものは年収に相当する報酬が与えられ、中国社会で密告は奨励されている。文革時期のように、密告で吊るし上げられて自殺に追い込まれるようなことは現在ではもうあり得ないが、彼らはいまだに日常的密告の警戒感から完全に脱出しきれていないようにも見える。中国人社員がなかなか職場や人前で本心を明かしたり、外国人に対して自分の意見を明確に述べることが少ないのは、このような環境から培われた自己防衛の本能、警戒感からではないかと思っている。
密告は日本社会ではまず見られない社会習慣(制度)だけに、本ケースのA氏のように日本人管理者は密告した側を処罰しがちである。しかし一口に密告といっても様々なケースがあり、自分の不遇を訴えるもの、他人の誹謗中傷などであれば、要は日本人が居酒屋でストレス解消しているようなことが、中国では密告投書されるのだと考えて良いかもしれない。
そのような場合は中国人社員全員と時間をかけて個人面接をするなどして、組織に溜まったガス抜きをすることが効果的であろう。しかし中には社内犯罪など経営管理体制に深くかかわる真剣な内容の密告もある。このような密告があったときは、慎重に内偵調査し、事実を把握し、断固として適切な措置をとらないと、経営管理そのものが崩壊してしまう。本ケースにおいてはまず、A氏自身が中国語を学ぶことが重要である。
3.ガスを溜めさせるな
中国では日本人一名に対して中国人ワーカー千名という大工場も結構存在する。18歳にも満たない数千人の女子ワーカーを、24時間全寮制で管理する人事管理の苦労は、ましてや想像に難くない。
業務上のことだけではない。例えば社員食堂のご飯の盛り付け具合とか、有名歌手や映画スターをめぐる社員寮内でのファン同士のいがみあいだとか、町の不良とねんごろになって社内犯罪に手引きをする女子社員だとか、何が起きるかわからない。こういうところで飛び交う密告文書を日本人管理者がいちいち真面目に考えていたら大変なことになるのも事実である。こういった社内人間関係の問題を内容レベル別に整理し、それぞれ適切な対処をする管理マニュアルを作成しておくと効果的だろう。
A氏は大卒中心の少人数オフィスの総経理を務めているが、涙ながらに訴える庶務の女性に同情はしたものの、正直なところ心中は少々あきれ果てていた。まるで、自分は中学校の教諭のような立場である。仕事だけでも大変なのに、なぜこんな子供じみた人間関係に振り回されなければならないのか。日本の会社では仕事やお客様が最優先で、個人的な感情や友人関係、自分の都合で仕事に影響を及ぼすことは基本的にはありえないし許されない。しかし、中国では人間関係等のほうが優先で、仕事はそれに従うのだ。前任者が社長室に籠もって職場に出ようとしなかった心境もなんとなく判るような気がした。
しかし、中国においては、このように執拗で辛らつ、幼稚にも見える複雑な人間関係に管理者が振り回されて右往左往してはならない。強い意思をもって適切に是々非々をさばいていかなければ仕事は前に進まない。個人個人と面接してそれぞれの言い分を平等にじっくり聞いて、会議を開いてじっくり話し合って、ということではまず解決しない。むしろBのように管理者個人が強いリーダーシップをもって問題に対処して行かなければ組織は崩壊してしまうのである。そのためには、平素から現地人管理者たちとの風通しをよくして、社内の雰囲気に対して敏感になっておくことがまず大切なことである。
(次回へ続く)
(2004年1月記・3,226字)
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