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中国進出失敗・トラブル事例(6)人命の相場

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2005年3月14日

<投資環境>

中国進出失敗・トラブル事例(6)

筧武雄

大学受験に失敗した学生の不合格体験談ばかりを拾い集めても決して希望大学に合格することができないように、失敗談ばかりを拾い集めても、教訓となることはあっても決して成功に直接結びつくものにはならない。しかし、その反面で、多くのセミナーや雑誌等で依頼が多く、関心の高いテーマがその「失敗談」なのである。

おそらく多くの企業経営者が、自分が今考えていること、行動していることに失敗の要因がないかどうかを確かめておきたいという不安の心理を持っていることから来るものと思われるが、もし自分に心当たりがある場合は、できるだけ早く、勇気をもって路線変更を再考されることをお勧めするものである。

(6)人命の相場

ある大型国有企業で従業員が工場作業中に不慮の事故死を遂げた。遺族への生活補償金を含めて支払われた金額は2万元(1元は約13円)であった。

ある台湾系企業の台湾人社長が郊外ドライブ中に、歩行中の中国人をはねてしまった。降りて確認してみると即死状態である。その台湾人社長は怖くなって、車を置いたまま逃げ帰ってしまった。後日、公安警察がやってきて、7万5千元を支払えという。言われるがままに支払ったところ、無罪放免。その後何のお咎めもないという。

ある日系企業で従業員が作業中に倉庫で事故死した。責任を感じた日本人総経理が保険金を含めて示談金8万元を弁護士を通じて遺族に提示したところ、返ってきた返事は60万元、しかも弟を代わりに正社員として雇用せよという条件付であった。これらの事例は、ほぼ同じ年にほぼ同じ地域で発生した実例である。このように、中国では被害者ではなく、加害者の国籍によって補償金の相場が変動するようである。

日系A社のプラント工事中に墜落事故死が発生した。事故者は正社員ではなく、下請工事業者のしかも外地人臨時工であった。A社の日本人総経理が弁護士事務所に相談したところ、中国人労務者の事故死亡補償金は一般に7万元前後が相場と言われ、事故死亡者は直接の正社員でもなかったが、できる限りの誠意をもって交渉に臨むことにした。

示談交渉には家族だけでなく、その道のプロと思われる腕っぷしの強そうな大男二人が家族に付き添って田舎からやってきた。度重なる交渉の結果として、示談金は20万元の現金プラス遺族と示談屋二人の交通費宿泊費等諸費を加えて25万元を支払うことで決着した。

弁護士のアドバイスを遥かに超える大金を支払う羽目になった直接の原因は、現場交渉にあたっていた部下の工場長が相手方に監禁され、人質にとられてしまったことが直接の原因であるという。

解説)

中国における社会通念上の「人命の相場」とはいくらなのだろうか?

筆者は中国の国内線の航空券を買ったときについてくる人民保険公司の保険金額がそれに該当するのではないかと昔から思っている。その金額は一口2万元である。ただし、個人で一口2万元から十口20万元までかけることができる。このあたりが中国の人命相場の「伸縮性」を示すようで興味深い。

この合弁会社では、この事件発生後は日頃から現場で安全規則を守らない作業員から罰金を徴収することにし、それを労働災害保険基金として自分たち独自で積み立てることにしたという。

中国にはまだ公的な労災保険制度が存在して日が浅い。まだ全国的に普及もしていないため、各地でこのような状況が生まれているのではないだろうか。以下、中国の労災保険制度の概要についてまとめておこう。

1.労災保険

中国の労災保険は業務上の事由による従業員の負傷、疾病、傷害、または死亡について保険を給付するものとして、「労働法」、「企業従業員の労働災害保険試行規則」(1996年10月1日施行)が根拠法規である。

2.労災の認定要件

  1. その事業所の日常の生産、業務またはその事業所の責任者が臨時に指示する業務に従事していたとき、または緊急状態の元でその事業所の責任者の指示を得てはいないがその事業所の重大な利益に直接関わる業務に従事していたとき。
  2. その事業所の責任者が指示し、または同意し、その事業所が関わる科学的な試験、発明創造および技術改善業務に従事していたとき。
  3. 生産または業務の場において業務上の有害要素に触れ職業病にかかったとき。
  4. 生産または業務の時間内および区域内において、不安全な要素により予想外の負傷が生じたとき、または過重な業務により突然発病し死亡した若しくは最初の救急治療を受けた後に労働能力の全てを喪失したとき。
  5. 職責を履行し、身体に負傷を負ったとき。
  6. 業務により外出した期間または業務上の理由により、交通事故または他の予想外の事故により負傷し若しくは失踪し,または病気が突発し死亡した若しくは最初の救急治療を受けた後に労働能力の全てを喪失したとき。
  7. 通勤の際に所定の時間および所定の経路で、本人に責任がないまたは主要な責任が本人にない道路交通機動車両の事故が生じたとき。
3.労災の給付申請

企業および従業員本人または親族(または労働組合)は、労働災害事故が発生した日または職業病の診断が確定した日から15日以内(特段の事情がある場合には30日以内)に、その地の労働行政部門に労働災害報告を提出しなければならない。

労働行政部門が企業の労働災害報告または従業員の労働災害保険給付申請を受理した後に、労働災害保険運営機関に調査させ、および証明書類を入手させ、7日以内(特段の事情がある場合には30日以内)に労働災害と認定するか否かを決定しなければならない。

労働災害認定は、次の各号の資料に基づかなければならない。

  1. 従業員の労働災害保険給付申講書
  2. 指定病院または指定医療機関の労働災害による負傷の最初の治療での診断書および職業病診断書、軽症で病院に行く必要のないときは、企業の医師の業務による負傷の診断書
  3. 企業の労働災害報告書、または労働行政部門が従業員の申請に基づき調査した労働災害報告書
4.労災認定労働者の労働契約解除

医療期間中にあるときには、この間に労働契約期間が満了することがあっても労働契約を解除することはできない。医療期間が満了し、かつ元の業務に復帰できない場合には、労働法にもとづき労働契約期間の満了前でも労働契約を解除することができる。ただし、労働契約期間満了前の解除の場合は、退職時に経済補償金を支給する必要がある。

5.労災保険の臨時工への適用

上記事例のような臨時工にも正社員契約労働者と同様の労災保険制度が適用される。

6.派遣日本人社員の労災

中国の労災保険に派遣日本人社員が加入しても、補償金額が桁違いに小さく、かつ人民元支給であるため、ほとんど実質的意味がない。日本の厚生労働省は、日本から派遣されて海外支店、工場、現場、現地法人、海外提携先企業等で行われる事業に従事する労働者のため、日本で労災保険の「特別加入制度」を設けている。日本の労災保険が海外でも適用になるのだが、ただし、派遣先の個々の事業場が以下の「中小事業」規模の人数制限をクリアーしていなければならない。

業種 労働者数
金融業、保険業、不動産業、小売業 50人
卸売業、サービス業 100人
上記以外の業種 300人

(労災特別加入制度の詳細は最寄の労働基準監督署へ)

(次回へ続く)

(2005年3月記・2,686字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄
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