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「反日運動の危機管理(転ばぬ先の杖)」

中国ビジネスレポート 投資環境
筧 武雄

筧 武雄

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2005年4月19日

<投資環境>

「反日運動の危機管理(転ばぬ先の杖)」

筧武雄

 1989年の6・4事件、また2003年4月のSARS騒動など、中国では過去四〜五年のあいだに周期的に街頭暴力、社会動乱が発生しています。
 今回の政府レベル外相会談では反日運動の破壊活動に対する謝罪と補償についての歩み寄りも成らず、さらに全国的な広がりと長期化の様相すら見せつつあります。高まる反日運動のなかで、中国現地に進出し、企業活動を展開しておられる日本企業・駐在員の皆さんに、このような非常時の対応について、過去の経験の記録をもとに以下のポイントを参考としてまとめてみました。以下は、あくまでも最悪の事態を想定したものです。もちろん、まだそのような事態には至っていませんが、危機管理は平時の心がけと対応が大切なことは言うまでもありません。

 ご参考のひとつとしていいただければ幸いです。

1.生活と勤務の基本姿勢

(1) 日本人であることをみずから隠す必要はない

 今回の反日デモは日本にターゲットを絞ったものですが、まず、日本人、日本企業であることをみずから特に隠蔽する必要はありません。中国では外国人に対する暴行、傷害は基本的に罪が重く、このような動乱時はむしろ中国人一般と見分けのつかない服装で、流暢な中国語をしゃべり、一緒に行動することのほうが危険は大きいと言えるでしょう。万が一、そのような行動をとってスパイ容疑を課せられた場合、非常に煩雑なことになります。
 日本人、日本企業として平素と同様に、堂々と、かつ自然体にしていれば問題はありません。

(2)目立つことはしない

 平素から社用車や玄関ドア、看板などに日の丸を掲げている企業は少数と思われますが、このような時期に、自己主張を目的として、敢えてそのような態度を示したり、安易に歴史観や考え方の反論を人前で唱えることは極めて危険な行為です。また、中国人一般の尊厳や民族感情を傷つけるような言動は平素から厳に慎むべきですが、いわんやこのような状況では、絶対に許されません。目立つ遊びや娯楽イベントなども避けるべきです。先日、西安の大学祭で起きた悪ふざけ事件がその典型です。また、不要不急の視察、出張、旅行などは反日騒動が納まるまで延期すべきでしょう。
 みずから敢えて危険に近づくことは自殺行為です。北京の天安門事件では現場取材していた日本人カメラマン記者が犠牲になりましたが、今回の反日デモでもデモ隊を見物していた日本人がすでに暴行を受けています。

(3)単独行動しない

 このような状況下では、たとえば交通違反や立入制限地域に知らずに入ってしまうなど、何気ない、ささいな違反行為がとんでもない結果に発展してしまう危険があります。外出する際は、日本人の単独行動は絶対に避け、常に誰かと一緒に、そして自分の身分証明証を携帯しておくべきです。ただし、パスポートは盗難、紛失あるいは没収のリスクがありますから、安全な場所に確保しておいたほうが賢明と思われます。
 最悪の事態となっても危険を顧みず、敢えて一人で最後まで居残ろうとする日本人駐在責任者もいますが、その場合は信頼できる通訳、運転手など、下記に列挙したような危機管理・残留対策を十分とってください。

(4)在留届けの確認

 たとえ留学生など非企業人でも、日本大使館、領事館に在留邦人届けを出していない場合は、この機会に必ず提出しておきます。

2.情報の取り方

(1)全体情報は外国からとる

 有事に中国国内では情報が統制されます。事実、今回も正式な国内報道はなされず、日中外相会談でも、話題が破壊活動に対する謝罪と補償要求に入った途端に記者団は退席させられたといいます。
 中国国内よりも海外のほうが中国内情報には詳しいので、全体の客観的情勢については日本の本社、親戚、知人に尋ねるのがベストです。特に詳しい政治情勢分析などは、香港、台湾、シンガポールなどで流れる中国情報がよいでしょう。

(2)個別情報は現場でとる

 運転手、部下、取引先、お手伝いさんなど中国人の個人的に親しい友人に、「巷のうわさ」を聞くことがベストです。テレビ、新聞、タブロイド新聞、ラジオなど公共メディア情報は、あまりアテになりません。もし、親しい中国人の友人から一時避難、転居、帰国をアドバイスされた場合は、迷わずすぐに従うことをお勧めします。

3.企業での対処

(1)経営者は道理を語れ

 今回の事件は反日感情が原因です。日系企業の現地経営者がこれに何も反応せず、何も語ろうとしない態度は最悪の態度といえるでしょう。中国人社員から間違いなく内心の不信と反発を買います。なぜなら中国では、非難されているのに反論もせず黙りとおそうとする態度は、たとえその非難が間違えたものであっても、一般に自分の非を認めたとみなされてしまうからです。また問題を問われても黙っている態度は、経営者として失格とも評価されかねません。
 こちらから敢えて喧嘩を売る態度も厳禁です。日中双方の面子を絶対につぶすことなく、理路整然と経営者が会社の社訓、社是、考え方、そして自分の価値観を中国人社員にわかりやすく、正しく伝える絶好の機会とも言えます。
 逆に中国人社員に謝罪したり、迎合したり、臨時賞与を出して無理に理解を得ようとする必要もありません。「ビジネスと政治は別の問題」という価値観があれば、そう明確に経営者自身の信念として語るべきです。「当社経営は靖国参拝、教科書検定、釣魚島などの領土問題といった政治問題、歴史問題とはまったく関係ない」と朝礼などで明確に話すだけでも、ただ黙っている姿勢とは大きな違いです。企業経営者として「わが社だけには外部から被害は及ばせない」と社員を安心させ、同時に「社内での暴力、破壊行為はいっさい禁止する」ということも明確に言っておくべきでしょう。
 もし、当社が中国側の言う歴史問題などで具体的に非難されている場合は、明確かつ冷静に、事実をもって反論しておかないと、ローカル社員の不信を買うだけでは収まりません。社員の評価が噂となって市中に広まり、不買運動、さらには有能社員の退社まで始まりかねません。

(2)帰国後の施設管理

 日本人が一時退去したあとの留守宅、事務所、工場など施設の防犯、保守管理について中方パートナー、中国人社員、運転手、通訳などに委託し、出勤時間や日本への報告・連絡先など具体的な指示を出しておきます。
 不在時の保守管理マニュアルを整備し、管理委託書など書面で残しておくことも必要でしょう。

4.危機管理・残留対策

(1)資金確保

 最悪の場合は銀行窓口も閉鎖になります。できるあいだに手元資金(人民元現金と外貨トラベラーズチェック)を確保しておいてください。

(2)ガソリン確保

 自動車は、いつでも連絡がとれ、使用できる場所に格納し、ガソリンは常時満タンにしておきます。

(3)空港へのアクセス確保

 空港へのアクセス(裏道)情報を運転手に常時把握させておきます。

(4)一時転居

 帯同家族を帰国させたあとは、状況を見て日系航空会社事務所、大使館、領事館、あるいは空港近隣にある外資系ホテルに一時転居します。

(5)水、食料、燃料

 非常時用として数日分を手元にストックします。

(6)非常持ち出し荷物の整理と携帯

 現金、パスポート、オープン航空券、重要書類を手元に確保し、携帯します。

 多くの日本人が経験した89年の6・4事件では、日本航空は臨時便を多数飛ばして、在留邦人は現金、航空券、パスポートが無くても、無事帰国できました。当時、現地空港近くの外資ホテルには多数の在留邦人が身を寄せ合い、航空会社からの情報を頼りに行動していたといいます。最悪の場合の安全、医療、身元確認には、日本の航空会社が最後の頼みの綱となった記憶があります。 

 以上は、あくまでも最悪の事態を想定したものです。もちろん、まだそのような事態には至っていませんが、危機管理は平時の心がけと対応が大切です。
 今回の反日デモ騒動、破壊行為が一日も早く沈静化することを願ってやみません。

(2005年4月記・3,263字)
チャイナ・インフォメーション21
代表 筧武雄
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